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許せねーだろ?


 何だあいつは?



 俺があの赤髪雑魚を蹴っ飛ばした後、蒼髪の少年が怒りの形相で此方へと走ってきた。

 俺の洗脳が外れてたか?いや、それとも新入生だろうか?

 

 まあそんなことどうでもいい。

 向かってくるならぶっとばす。それだけだ。


「クズ野郎がぁぁぁぁぁぁぁ!

 絶対テメェのチ○コもぎ取ってやらぁぁぁぁ!」


「随分と下品な奴だな」


 なんだ、この珍獣は。

 面白くなってきたぞ。これはいたぶりがいがありそうな猿だな。

 先程の様子からしてもなかなか強そうだし、楽しめそうじゃないか。


 剣を構えてあの珍獣を迎撃する。

 その時だった。



「うおおおおおおお、ってうおおおおおお!??」


「ストォォォォォォォォッップ!」


「ちょっ、何っうぎゃぁぁぁぁぁぁ??!!」



―――ズザザザザザザ


―――ズドォォォォン..............



「.........はっ?」


 目の前まで迫ってきていたはずの蒼髪珍獣が消えた。

 なんか絶叫したと思ったら目の前から消えた。


 声が消えていった自分から見て左側を見ると、砂煙がもくもくと立ちこめて何が起きているのかわからないことになっていた。


「紫苑、縛って!」


―――シュルルルルル......


「えっ、何これ。あっ、ちょっ、あひぃん♡」


「気持ち悪い声を出すんじゃあない!」


 うん...........理解不能だ。



 しばらくして煙が消えると中から黒髪金眼のイケメンと何やら白い糸でぐるぐる巻きになった先程の蒼髪珍獣が現れた。

 いや、蒼髪の方も顔は良いと思うんだが珍獣感がな。なんともいえない。


「オイ............これは何だ...........」


 なんだかイラっとした俺は黒髪の方に話しかけたが、


「いやぁぁぁ!連れが申し訳ありませんでした!

 会場で待ち合わせって言ってたのに会えなくて、そしたら何かいきなり勇者様につっかかってるもんなんで肝が冷えましたよ~。

 いやぁ、ホントすみませんね!此奴は僕が責任持ってちゃんと叱りつけとくんで!それじゃ!」


「オイ、話はまだ――」


―――ドヒュゥッ!


「ファッ!?」


 そして目の前から一瞬で消えた。


 あり得ない。この俺が目で追えない速度で走っただと?

 あの黒髪イケメンがいなくなった後にはあの珍獣も居なくなってもう何もない。

 あれだけのスピードを珍獣を抱えた状態で出したのか!?


「しかし、これは..........是非とも俺の手下にしたい所だな」


 俺に比肩する強さを持った男が遂に現れた。

 俺としては出来るなら女の方が良かったが、男でも優秀なやつなら是非とも将来の俺の側近として使いたいところだ。 

 今は俺の洗脳をかける暇が無かったが、今度会ったときは必ず洗脳をかけてやろう。  

 そうだな、よく働いてくれるようなら俺の女から何人かくれてやってもいいだろう。

 ふふふ.........捕らぬ狸の皮算用だな。

 焦ることなく落ち着いて、粛々と事を進めていこう。

 


「勇者様!無事でいらっしゃいますか!?」


「ああ...........黒髪の彼が止めてくれたおかげで無傷だよ。何も手は出されてない」


「そうですか........良かった!」


 安心したようにほぅっと息を吐き出す女生徒。

 こいつがあの赤髪イケメンの元婚約者のマリーだ。

 中々にそそる肉体をしているし顔も俺の好みだったので奪わせて貰った。

 今日の夜がこいつとの初めてになる予定だが実に楽しみだ。

 ふふふ..........ほかの男から寝取るのは初めてだから実に興奮するね。

 

 そして俺は、昂ぶる気持ちを抑えるようにマリーを抱きしめた。




















「はぁ......はぁ....はぁ.........」


「解けぇぇぇぇぇ!俺はあのクズをなんとしても殴らなきゃ気が済まないんだぁぁぁぁぁっ!」


 やばい.......全力で走ったせいで結構疲れた。

 しかも男一人抱えて走ったから疲れ方もいつもの比じゃない。


「話を聞けぇぇぇぇぇぇ!ほどけぇぇぇぇぇ!」


 びちびちと陸に揚げられた魚のように跳ねる蒼髪の少年。

 簀巻きにされてるのに随分と元気だ。

 というか凄く五月蠅い。


「五月蠅い黙れッッ!なんで勇者なんかに手を出した!?一歩間違えたら大罪だぞ!

 殺されるかもしれないんだぞ!わからないのか!」


「そんなんわかってるよ!でもよ、あんなの許せねーだろーがッ!

 それに俺は聞いたんだ!この耳で!

 どうやらあの野郎、赤髪イケメンの婚約者になんかしやがったっぽいってな!」


「...............何?」


 自分でも思ってたより低い声が出てしまった。


 あの勇者が、何かしただと?

 非常に気になる。教えろ。


「.........何?その話詳しく聞かせてよ」


「お.........?おう。なんかいきなり落ち着いた上に目が怖いぞお前。

 目からハイライトが消えてるぞ」


「紫苑、糸ほどいて。

 僕の名前は『エドガー・ファーブル』。確か『ライル・ニードル』だったっけ?試験では凄かったな」


 シュルシュルと音を立てて白く細い蜘蛛の糸が彼から離れていった。

 離れた糸は不思議なことにその場に残ることなく空気に溶けて消えていった。

 ゴーレム戦の時も感じたが、きっとこの糸は魔法なんかの一種なんだろう。


「『ニードル』じゃない。俺は『ライル・リーデル』だ、宜しくファーブル君」


「ああ、宜しく」


 お互いに手を差し出して握手をする。

 見た目よりもごつごつとした手だ。腕も後衛職の治癒師とは思えないくらい筋肉が付いている。

 ゴリじゃないけど。


「それで?その勇者が何かしたっていうのは?」


「いやぁ、俺居たの闘技場から近い場所だったし、俺自慢じゃないけど耳めっちゃいいからさ、勇者があのイケメンになんか言ったのが聞こえたんだよ。

 そしたらさ、あのイケメンの婚約者が裏切ったのが『普通じゃ』有り得ないよな?って勇者が言いやがったんだぜ?

 こんな事言うなんて怪しすぎだろ?俺それ聞いてプッツンしちゃってさぁ...........あんなのにフィーネ任せられるかよ...........」


「『普通じゃ』有り得ない、か。成る程............」


 最後の方、何かぼそっと言ったのは聞き取れなかったがだいたいわかった。


 確かにその台詞は怪しい。

 だけど『相手が普通のイケメンじゃなくて勇者でイケメンだった』っていうのも『普通じゃない』に入らないか?

 勇者そのものもかなり怪しいけど完全に疑ってかかるのも時期尚早というか.........正直あの勇者のイメージは良くないけど、普段の彼のことを知っているわけでも無いしな...........。

 ..............調べるか?


「皆、監視とか出来る?」


『私はあまり得意ではないな........』


『私は出来るわよ~』


『ローチも出来る!』


 ぴょんぴょんゴキブリが跳ねる。

 うん、ゴキブリなのに可愛いな。


「は....................虫?」


「よし、じゃあローチ頼んだ。あの勇者と件の婚約者って言うのを監視してくれ」


―――ぼふんっ


 僕がそう言うと肩に乗っていたローチはぴょんと飛び降りて人型になる。

 突然現れた美少女にライルは目を見開いて驚いた顔をしていた。


「えっ..............何?これ?」


「勇者はわかったけど婚約者ちゃんはー?名前わかる?

 えーと、れいる?」

 

「ライルです、ハイ。確かあのイケメンが『マリー』って言ってたと思う」


「わかったー、マリーね。『分身の術』」


――――ぼぼぼ、ぼふんっ!


 一気にローチが四人増えて五人になった。

 まるっきり同じ顔で同じ体型の女の子が五人も現れると流石にカオスだ。

 

「じゃあ分身四人にゴキブリの姿になって監視して貰うね。四人が見てる視界はローチを通ってますたぁにも繋げるから安心してね」


「ああ、了解した」


―――ぼふんっ!


 本物を除く四人のローチはゴキブリになると、カサカサという音を立てて凄まじい速度で走り始めた。

 勇者とマリーという女生徒の監視に行くのだ。

 ローチの職業は忍者。全員の中で一番隠密に優れた職業なのだから、きっと上手くやってくれることだろう。


「指示はまた適宜出していくから、ローチは僕に乗っかっておいて」


「うん!らじゃ!」


 ローチはそう言って、ぴょんっ!と飛び上がると空中でゴキブリに戻って僕の頭に乗っかった。

 

「お................おま..............」


「ん?どうした。ローチ達が人化したのそんなに驚いた?」


 驚いたのか口をぱくぱくさせて僕の方を指さすライル。

 まあ、虫がいきなり女の子になったらそりゃ驚くよね。


「お、おまっ..........まさかっ...........!」


「まさか.........?」


「転生者だなッッ!?」


「..............はい?」


 さっきまで驚きで口をぱくぱくさせてたのに今度は凄い目をキラキラと輝かせて嬉しそうに「転生者!転生者なんだろ!??」と言ってくる。

 テンセイシャってなんだ?

 転生という言葉自体は知ってるけど、転生者ってなんなんだ?

 

「...........ごめん。何のことを言ってるのかさっぱりわからない」


「えっ?でもそこに連れてるゴキブリ、ニホンのゴキブリだろ?違うのか?

 そこの蜘蛛だって、大雀蜂だってニホンの虫だぜ?」


「いや、まあそれは色々ありまして..............。それとクロゴキブリはニホン原産の種じゃないです。外来種ですよ」


「ホラ!そんなに詳しいなんてニホン人以外有り得ないぜ!

 さっきの有り得ない身体能力だって『転生者』だっていうなら説明が付く!それにそこのこの世界じゃあり得ない色のゴキブリだって!

 前世の記憶、持ってるんだろ?なぁ、教えてくれよ!」


 なんだか勝手に盛り上がっているようだが、僕はその転生者っていうのでは無いと思う。

 と、いうか転生者では無いと断言できる。


 だって前世の記憶なんて無いもの。

 それに、まさかそんな人間なんてあり得ない。 

 転生者なんて居るはずがない。

 電波ちゃんめ。


「あー...........その、勇者の故郷について詳しいのには理由がありまして..............。これを見ればわかるかなぁ、と」


 スッ.....とマジックバッグから昆虫図鑑を取り出して彼に見せる。

 きっとこれが何て書いてあるのか、彼にはわからないことだろう。


 なんたって異世界の本だもの。  

 そう思っていたら彼は目をさらに見開き、


「こ、昆虫図鑑だって!?なんで、それがこんな所にあるんだ!?」


「..............読めるの?」


「読めるも何も、俺の前世の故郷の言葉だぞ!」


 ふむ。前言撤回。

 こんなところに本物の転生者が居た。

 きっと彼の前世の故郷に居た虫を連れていたことで、僕のことを仲間だとおもってしまったんだろう。


「悪い、実は昔こんなことがあって―――」


 だから無理に希望を持たせるのもアレなのでちゃっちゃと本当の事を話さないと可哀想だ。


 と、いうわけで全部話した。





「へぁ..........?じゃ、じゃあほんとに転生者じゃないって言うのか............?」


「うん、だから最初っからそうだって言ってる」


「ま、まじかよ.........」


 oh.........と呟いてどさりと膝をついて倒れるライル。

 そんなに残念がるなよ。


「やっと.......仲間が出来たと思ったのによぉ.........」


 まぁ、そんな気持ちになるのも仕方ないよな。

 だから、彼の方に手を乗せてこう言った。


「独りぼっちは寂しいもんな」


「.............!!や、やっぱりお前転生者なんだろ!?

 そのネタ知ってるってことは転生者なんだろ?!

なぁ、なぁ!」


「..............はい?」


「うん.........自覚無しの場合もあり得る!きっとお前は転生者だ!」


 なんかわかんないけど喜ばれた。


 それともう勇者は良いのか?

 すごい話が脱線してるぞ。



エドは転生者じゃないです。

現地民です。

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