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アレが、勇者だって?


「学院内の案内をやらせて頂きます、三年のフルス・アトレーです。

 エドガー君、宜しくね」


「ええ、宜しくお願いします」


 差し出された手を此方も握り返す。

 これから彼に学院内の施設の案内をして貰うところだ。


 あれから僕たちはまず合格証明のタグを事務室に提出すると、学生寮の鍵と学院の制服を受け取って部屋へと案内された。

 学生寮は男女で別れており、一部屋につき二人ずつだそうだ。ローチ達には悪いが、部屋に居るときは虫の方の姿で居て貰おう。

 同じ部屋の学生は既に荷物を置いて学院の案内に行ったらしく、僕達が部屋に入ったときはもう居なかった。

 後で顔合わせになる。気の合いそうな人だと良いな。


 それで僕たちは部屋に荷物を纏めた後、こうして担当の三年生を紹介されて学院の案内をして貰うところだというわけだ。

 ちなみに三年生というのは入学してからの経過年であって、そういう区切りがあるわけでは無い。

 案内に三年生が選ばれるのは、三年間学院で生活してだいぶ学院について理解しているのと、学院の生徒で一番人数が多いのが三年生だからだ。

 いつ卒業するかは個人の自由。

 でも一応学院に居られる上限はあって、最高で15年間まで学院で生徒として生活できるそうだ。

 とは言っても10年以上学院にいる生徒なんて、国家魔導師志望か学院の教師になりたい人ぐらいのものだそうだ。

 僕はそこまでやろうとは思っていないので、一番多くの人が卒業する四年で卒業しようと考えている。


 一番の目的はすぐに終わってしまうからね。



「こっちが魔術実験室だよ。此処では教師も生徒も自由に器材を扱って魔法の研究が出来るんだ。

 過去には生徒が新しい回復魔法を発見してこの国の医療に大きく貢献したこともあるんだよ。ちなみにその生徒はその功績が認められて報奨金として7000万ゼルと国家魔導師の地位が与えられたんだ。

 そういうこともあって此処で夢を追いかける生徒も沢山居るよ。ほら、あそこのメガネのお兄さんとかね、彼もう9年目なんだけどずっと此処で実験してるんだ」


 フルスさんが指さした先には無精髭でひょろっと背の高い眼鏡の男性が居た。

 ちゃんと寝てるんだろうか?目の下がくまで真っ黒になっている。


「む、フルスか。相変わらず本性隠していい子ちゃんごっこか?

 教師希望は大変だなぁ」


「そう言うクザンさんは相変わらず失敗ばかりのようですねぇ?

 夢を追いかけるのも大概にしては如何ですか?国家魔導師なんて才能がなきゃ目指したって無駄ですよ」


「なんだぁ、テメェ。半殺しにされないと気が済まねぇみたいだな。

 良いだろう、その喧嘩買ってやんよ。つい先週良いかんじの攻撃魔法が出来たばっかでなぁ、試し撃ちする相手が欲しかったんだよ」


「へぇぇ?先輩のヘボ魔法ですか。いったい何発でゴブリン一匹殺せますかねぇ?」


「え、わ、わわ、えと、その」


「「あっ」」


 完全に僕の事を忘れてたらしい。

 僕があたふたし始めたところで二人はやっと僕の存在を思い出したようだ。

 

 それにしても仲悪すぎでしょこの二人。

 案内中に会わせちゃ駄目だって。


「あー、なんだ?とりあえず今日は見逃してやる」


「いいでしょう。先輩の虚勢に免じてここは引いてあげますよ」


「えっ、ちょっ先輩それは..........」


「なっ、てめぇぇぇ.........」


「良いんですかぁ?新入生居ますよぉ?」


 またにらみ合い始めた二人。

 もうやめてくれ。


「あの.........先輩、二人とも...........」


「やっぱテメェは見逃せねぇみてぇだなぁ?」


「ええぇぇ?本当に良いんですかぁ?流れ弾なんかで新入生に怪我なんてさせたら退学になっちゃうかもですよぉ?」


「あの...........」


「歯ぁ食いしばれやこのカマ野郎」


「汚物先輩には言われたくないですねぇ」


「..................『獄炎槍』二連」


 ―――ボウッ


「........えっ?」


「アッ.........やば...........」


 空中に極太の炎の槍を二本出現させる。

 先輩とはいえこのザマではお仕置きが必要だと思うんだが、良いよね?


「これ以上続けるなら今から此奴を先輩方のケツにぶち込みます。それでも宜しいですか?」


「ごめんなさい。もうしません」


「え、あ、なんだ。ごめん」

 

「クザン先輩?ちゃんと謝るのなら其処のカマ野郎みたいに謝りましょうね?

 今時三歳の子供でもちゃんと謝れますよ?先輩には出来ないんですか?」


「ごめんなさい。もうしないです」


 ぐっ、と頭を下げて謝る先輩二人。

 この学院ほんとに大丈夫か?

 

「さ、フルス先輩とクザン先輩もお互いに謝りましょうね?元はといえばお互いに挑発しあうからいけないんですよ?」


「えと.........フルス、本性隠してとかカマ野郎とか言ってすまない」


「その、此方こそ先輩の夢を馬鹿にしたり調子に乗って煽ってごめん」


 うんうん、ちゃんと二人とも謝れたな。

 いい子、いい子だぞ。



「うぅぅ.........やべぇ、今年の新入生やべぇよ............あんなぶっとい獄炎槍見たこと無いよ.........」


 次の目的地へ向かう途中、フルス先輩が青い顔をしてなんかぶつぶつ呟いてた。

 風邪かな?大丈夫かな?

























「と、いうわけでここまでが案内でした。だいたいわかったかな?」


「ええ、ありがとうございます。でも先輩あんまり人を小馬鹿にする態度は良くないですよ」


「ハイ、申し訳ないです。もうしません」


 案内が終わって僕達は学院の中央校舎の一階ロビーまで来ていた。

 なんだか人が少ない。

 今日はなんかイベントでもあるのだろうか。


「ところで先輩。今日はずいぶん人が少ないみたいですけどどうしたんですか?」


「ああ、それはね、勇者様がある男子生徒と決闘することになったからだよ。それが見たくてみんな会場に行ってるのさ」


「決闘?」


「うん、決闘っていうのはね―――」


 フルス先輩が教えてくれた『決闘』というのは、この学院でのルールの一つだそうだ。

 二人以上の生徒でいざこざがあった場合、決闘を行い、それに勝利した方が好きなようにその場を納めることができるというルールだ。

 つまりは完全な実力主義。

 強い者が弱い者を淘汰していく、弱肉強食のルールなのだ。


 だが、今回決闘を行ったのは勇者。

 勇者は魔王を倒すことが出来る唯一の存在なのだから世界で最も強い職業だ。

 そんな勇者と決闘をしようなんて、相手にはなにが起きたんだ?


「ん?今回賭けられたのは対戦相手の婚約者らしいぞ?勇者様は勇者としての地位を賭けたそうだけどね。正直勇者様が勇者としての王族並の地位を捨てたところでその能力だけで十分に影響力あるし勇者様は負けたところで何も損しないよねぇ。

 まあ勇者様が負けるなんて有り得ないけどね。なんたってあの勇者様は素晴らしいお方。『真の勇者』であり誰にでも親切にして下さるし容姿も素晴らしい。少々女好きなところはあるようだけれど英雄色を好むと言うしね。さらに―――――ってあれ?ちょっ、まだ話してる途中だよーっ!?」


 




























「どういう事だよ........クソッ..........」


 ひたすらに決闘場に向かって走り続ける。

 魔法によってその内部の形を変えるという決闘場からは沢山の歓声が聞こえてきていた。


 意味が分からない。

 他人に婚約者を賭けさせたのか?

 何がどうなったらそんな馬鹿馬鹿しいことになる。

 アンリは?他にも二人勇者には婚約者として差し出される少女が居たはずだ。

 少々女好きなところがある?正直なところ「少々」だなんて信じられないぞ?

 既に婚約者が居ながら他人の婚約者に手を出すなんて、酷いと片っ端から女の子に手を付けるような男かもしれない。

 

 もしかして...........もう、アンリも............?


 何考えてるんだよ僕は..........。

 ああ.........クソ。(はらわた)が煮えくり返りそうだ。

 アンリはもう勇者の花嫁になったんだって、もう吹っ切れたはずなのに。

 駄目だ、頭がこんがらがって何も考えられない。


「うっ...........ぐっ............」


 馬鹿だよ...........本当.................。

 なんでだろ、涙が出て来て止まらない。

 頭じゃ理解したはずなのに心がそれを受け付けないんだ。

 

『ますたぁ、泣いてるの?』


「..........泣いてないよ。ただ自分がどれだけ馬鹿だったか噛みしめてるだけだよ.........」


 なんで好きだって伝えられなかったのか。

 どうしてあんな態度で突き放してしまったのか。


 こんなことならあの時無理矢理にでも彼女をさらって何処かへ行ってしまいたかった。


 ...............なんてね。冗談だよ。

 流石に僕にそんな度胸なんて...................。





『勇者!勇者!勇者!』


 会場へ入ると割れんばかりの勇者コールが襲ってきた。

 馬鹿馬鹿しい。こんなの対戦相手がアウェー過ぎるじゃないか。

 そんなに皆から嫌われるような人だったのだろうか。

 そんなに勇者とは素晴らしい人間なのだろうか。


「どんな........人なんだろうな」


『なんだか..........ここの空気いやー...........』


『確かに......ローチ殿の言うとおり、なんだか臭いな.........』


「臭くは無いと思うけどな........」


『言葉通りの意味では無いよ、主殿』


 入り口から階段を上がって周りを見回すと、学院の制服を着たたくさんの人々が興奮した様子で『勇者!勇者!』と歓声を上げていた。

 円形闘技場になっているステージの真ん中では、勇者らしき黄金の剣を持った少年が赤髪の少年を片足で踏んで立っている。

 その様子に、虫酸が走った。


「アレが...........勇者だって?」


 僕が小さい頃出会った勇者とは似ても似つかない。

 見た目はどうでもいい。

 チャラそうな見た目だからといって、中身がどうしようも無いやつだとは限らない。

 だけどアレは駄目だ。

 本当にアレは人類の希望たる勇者だって言うのか?

 反吐が出る。


『敗者を辱めるような男が、勇者などとは驚きだな。あれが人類の希望では世も末だ』


『...........お子様、ね』


「僕は.............あんなのに...................?」


 眩しい笑顔を歓声を上げる生徒達に向ける勇者。

 赤髪の少年は凄まじい怒気を放って足の下から勇者を睨みつける。

 いったい、何が彼等の間であったのだろうか。


「あっ」


 勇者が屈んで赤髪の少年に何か耳打ちした。


 そして、みるみるうちに只でさえ怒りの形相だった少年の顔が更に怒りに染まり――――



「貴様ァァァァッッ!っ、ぐっ!ふぅがぁぁッッ!」





――――バキャッ








「.............は?」








『勇者!勇者!勇者!』


 勇者コールが降り注ぐ中。僕はただ呆然とすることしか出来なかった。

 いったい勇者は彼に何を言ったんだ?

 その上既に満身創痍だった彼を蹴飛ばして壁に激突させるなんて...........。


 吹っ飛ばされた生徒は壁に激突した衝撃で片腕がおかしな方向に曲がり、血を流してぐったりと気絶してしまった。


 勇者は何事もなかったかのように笑って観客席に手を振っている。



「(狂っている)」



 勇者も。学院の生徒も。


 思わず握りしめた手に力が入る。

 その時だった。



「オイ、貴様何をしているッッ!って、ぐはぁっ!」


「あんのクズ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 制止しようとした一人の生徒が一撃で吹っ飛ばされる。

 ざわざわと騒ぐ人の波をかき分けるというよりも勢いだけで押し退けて進む影。



「.........あ、あいつって......!」


  

 試験会場で見たあの少年が、闘技場に居る勇者に向かって走り出していた。



おまけ


エドから見たキャラクター達のイメージ



アンリ→ずっと片思いしている幼馴染み。


ローチ→可愛い妹


ニーア→妹みたいなものだと思ってたのに最近妙に色気が出てきて怖い


ゴリアテ→頼れるハーレムおっさん


イルミナ→基本おだやかな優しいお母さん


アルト→やる気のON、OFFが激しい年齢不詳な父親


ジャック→発情期の犬。又は思春期真っ盛りの少年。ただしおっさん


紫苑→姉御


桜花→ちょっと年上の頼れるお姉さん


リリ→ジャックキラー。箱入り娘?


使役魔物のゴブリンさん→めっちゃ喋る


コトル→年下の幼なじみ君。最近わんこっぽい










コルト君の名前をコトル君に変えました。

ルとコを入れ替えただけです。

アルトお父さんと一文字違いでなんか似てたので変えました。

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