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しましま


―――ズズズズ...........


 最早見慣れた感じの動きで魔法陣からせり上がってくる二匹の虫。

 

 うおっ、すごっ。

 まさかこんなに大きい虫だったとは..........。


 虫型の魔物だと大きいのなんていくらでも居るけど、ただの虫でこんなに大きいのなんて中々お目にかかれない。

 外国とかだと大きい虫もたくさん居たりするらしいけど、僕の住んでるこの国に居るのは小さい虫ばかりだ。

 はぁ........外国で虫取りしたい............。


【大雀蜂の召喚に成功しました】

【黄金蜘蛛の召喚に成功しました】

【大雀蜂を使役魔物に登録します】

【黄金蜘蛛を使役魔物に登録します】

【使役枠が残り0になりました】

【次のスキルレベルアップにはLv.50

の条件が付いています】

【大雀蜂に名前を付けますか?】

【黄金蜘蛛に名前を付けますか?】


 頭の中に響く声ですらすらと喋るシステムメッセージさん。

 黄色と黒、オレンジと黒の警告色の二匹の虫は、魔法陣が消滅すると同時に念話をしてきた。


『む...........成る程。私を呼びだした主殿は貴方か』


『あらあら~?貴方が私のご主人様なの?うふふふ、可愛い男の子じゃない!』


『おい、いきなり主殿に向かって可愛いなどと失礼だぞ。えーと、黄金蜘蛛?』


『そう言う貴女は大雀蜂よね?これは同期ってことでいいのかしらぁ?』


『あ、えーと........二人とも、宜しく?』


『何故疑問系なのだ............まぁ、宜しく頼むよ。主殿』 

『宜しくねぇ~♪』


 キリッとした声で、少しジャックと侍っぽい雰囲気が被ってるかんじの方が大雀蜂さん。

 ゆったりとした話し方で、色っぽい声の方が黄金蜘蛛さんだ。

 

『あら?そこに居る子は先輩ちゃんってことでいいのかしらぁ?』


『ああ、元クロゴキブリで現在蟲人になってるローチだ。仮にも元捕食者だったわけだからあんまり怖がらせないで欲しいな』


『わかったわぁ~』


『うむ、心得た。ところで我等に名前を付けたりとかしないのか?一応召喚されたら名前を付けられるのが普通だと召喚されたときに頭に流れ込んできたのだが』


『うん、それは今から付けようと思ってたとこなんだけど.............何かこういうのが良いなぁっていうのはある?名前思いつかなくて.........』


『特にどういった名前がいいというのは無いが..........そうだな、元々私の住んでいた巣があったのが桜の木の根もとだったのだがそういうのはどうだろうか?』


 大雀蜂は地中に巣を作ることが多く、森の中なんかだと大抵木の根元なんかに作られているそうだ。

 彼女の巣もその例に漏れなかったということだろう。


『桜.......桜か。じゃあ【桜花(おうか)】にしよう』


『そのまんまだな主殿よ』


『え、あ、違うのがいい?』


『ふふっ、いや、気に入ったは気に入ったのだが結構安易な名前に落ち着くのだなと思ってな』


『良かった、僕あんまりネーミングセンスないからさぁ』


 僕には昔っからネーミングセンスが無い。

 これでもだいぶマシになった方だ。

 小さい頃なんて、自作した昆虫採集用トラップに『虫捕まえルンルン君三号』とか『虫蒸しタルタロス』、『オサムシポイポイmark-Ⅱ』とか今思い出しても悶えられるくらいの恥ずかしい名前を付けていたものだ。

 それも大真面目に。


 だから安易な名前でもおかしくなければ良いのだ。

 だって無理に捻って変な名前付けたくないし............。

 そうだなぁ.........小さい頃のノリでローチに名前を付けるなら『黒き流星』になるかな。

 最早名前じゃないよね。二つ名だよね。


『って、黄金蜘蛛さんの方も付けないとね』


『あらー?私もう名前付いてるのよー?』


『えっ?名前付いてることってあるの?』


 今まで召喚した虫には名前が付いていないのが普通だった。

 他の召喚士でも、召喚したばかりの魔物には名前が付いていることは基本的にあり得ないとも聞いていたし。

 黄金蜘蛛さん、何者?


『えと、じゃあ名前を教えて貰っても?』


『【絡新婦(じょろうぐも)】の【紫苑(しおん)】よ』


『えっ?黄金蜘蛛じゃないの?黄金蜘蛛を召喚した筈だったんだけど..........』


『うふふ、別にその【女郎蜘蛛】とは別の【絡新婦】よ?

 蜘蛛の妖怪なんだけど、別に女郎蜘蛛じゃなくても絡新婦になったりするのよ。

 あっ、二人とも【妖怪】って知ってるかしら?』


『いえ、知らないです........』


『ローチ知ってるよ。こっちの世界での魔物に似た生き物だよね?

 ローチ向こうで天狗さんに会ったことあるもん』


 どうやらローチの方は知っていたらしい。

 天狗っていうのは知らないけど。

 向こうにも魔物が居るのか..........って、ちょっと待て?

 虫でこれだけの強さなのに向こうの魔物なんて...........ガチの化け物じゃないか...........。

 僕とんでもないのを召喚しちゃったかもしれない.............やっちまった........。


『別に怖がる事なんて無いわよぉ?妖怪は魔物と違って知性の高い者が多いもの。昔は人を食べる妖怪も居たそうだけど今はそんな妖怪いないわ。

 それに今は貴方の使役魔物だもの。あなたの事を守りこそすれ、危害を加えるなんてこと無いわ』


『.........ごめん、召喚したの僕の方だもんな。勝手に召喚して勝手に怖がってごめん........』


「全然気にしてないわよ?正直向こうの暮らしは退屈してたもの」


 ぽふっ、と頭にやわらかく手が置かれる。









 .............手?










 おそるおそる顔を上げると...........。


「うふふふふ♡」


「って、ええええええええ!??

 なんっ、なんで!?なんでもう人型に!??」


 美しい黒髪の女性がにっこりと笑って僕の頭を撫でていた。

 さっきまで其処に居たはずの黄金蜘蛛の紫苑さんは居ないし、この女性が【妖怪】の【絡新婦】さんで紫苑さんだということは間違いないだろう。

 

「私これでも結構強い妖怪なのよぉ?人型にぐらい普通に化けられるわぁ」


「黄金蜘蛛を召喚した筈なのに.........わ、訳が分からない............」


「あらー?黄金蜘蛛なのは間違いないわよ?

 ただちょっぴり特殊な黄金蜘蛛だったってところかしらねぇ」


「ローチどうしよう、頭が追いつかない」


「そういうものだと思うしかないよ、ますたぁ」


 ローチはけっこう平気そうだ。

 むしろ妖怪だって知って安心してるみたいだし。


『あー、ところで主殿。混乱してるところ悪いのだが私も此方に召喚されたせいか身体に変化が起きてしまったようでな。紫苑殿、済まないが服を作っては貰えないか?』


「体型がわからないから人化と同時に作ってもいいかしらぁ?」


『ああ、それで頼む』


「..........はっ?」


 いきなり服を作って欲しいと言い出した桜花。

 今、『人化』って言った?言ったよね?

  

 まだ召喚したばっかりの筈なんだけど.............ちょっと意味が分からないぞ?

 ローチもジャックもある程度鍛えられてから人化出来るようになったのに、召喚した直後から人化出来るって?

 召喚士が召喚した魔物はごく稀に召喚と同時に進化することがあるらしいけどそういうことなのか?

 でもそれが二体同時になんてちょっと信じられないっていうか..............あれ?でも紫苑さんは元から人に化けられる力を持ってたって言うし進化したのは桜花だけなのか。

 いやいやいや、おかしいおかしい。人化出来る魔物は相当強い魔物だ。ローチとジャックは蟲人っていう知らない種族だし虫か魔物かも怪しくなってきたしうん?それなら桜花も蟲人っていうのになったってことで良いのか?


『どうやら私の種族名は【クインビー・ジェネラル】というらしいな。【クインビー】という種の【ジェネラル】級ということらしい。大雀蜂としての能力に合わせた魔物に進化したということか?』


「........くいん、びー?」


 オイ、それ魔王城周辺の危険地帯にしか出現しないやつだよ。

 【ジェネラル】級とかその中でも飛び抜けて強い種じゃないか。


『ハハハ、前の只の働き蜂だった頃から一気に出世した感じだな!』


「桜花ちゃんおめでとぉ~」


「よくわかんないけどすごーい!」


 パチパチ手を叩くローチと紫苑さん。

 

 大雀蜂の働き蜂は全員が【クインビー】の【ジェネラル】級だって..........!?

 こ、怖ぇ..........。

 勇者の故郷が魔境過ぎる。 

 魔王とかもう敵じゃねーじゃん。


「あは..........あはは...............ハハ.................」


 もう駄目だ...........召喚したの自分なのに頭が追いつかないや............。

 

『おい、主殿がおかしなことになってしまっているぞ』


「現状を受け止め切れてないのねぇ」


「あっ、そろそろルゥ入れなきゃ」


『ローチ殿、先程からいい匂いがしていたのだが、私も食べてもいいだろうか?』


「沢山あるし食べてもだいじょぶだよ」


「じゃあ私も頂こうかしらぁ。ささ、桜花ちゃんも早く人型になっちゃいましょ?」


『うむ、そうしよう』


 

 その日はどうやって寝るまで過ごしていたか、どうやって寝たか全く覚えていなかった。

 完全に無心だった。

























「『影分身の術』」


――ぼふんっ、ぼふんっ!


 ローチがそう唱えると四人のローチがローチの周りに現れる。


「このお手紙、村のニーアちゃんに宜しくね」


「らじゃー!」

 

―ぼふんっ!


 四人のローチは瞬時にゴキブリに変化するとそのうちの一匹が体にその手紙を括り付けた。

 一匹のローチが手紙を運ぶ役で、残りの三匹が護衛ということだ。


「たぶんまた増えそうだからね。ニーアちゃんにもちゃんと伝えておかないとね」


「「いってきまーす!」」


 同じ声で行ってきますと言う四匹のゴキブリが割とホラーだ。

 声は可愛いけど。 


 手紙を出し終えたローチは森の中からキャンプまで何事も無かったかのように戻っていくのだった。

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