警告色コンビ
「なんっ........!これ、なんだこれ!」
一枚の紙を見てぷるぷる震える男が一人。
ダンッ!とデスクに拳を叩きつけても虚しいだけで何も変わらない。
その紙にはこう書かれていた。
霧島 夕
半転生者。
おそらく以前転生したことで世界と世界との強いパスが出来てしまったことが今回の事態の原因と思われる。
とまぁここまで真面目っぽく書いてみたわけで、現在魂の輪廻の輪の修復を行おうと思ったけどやっぱめんどくなったので放置することにしました。
てへぺろ☆
アマテラスより
「あんのロリババア――――――ッッ!!」
頭の中を『てへぺろ☆』と言って頭をコテンとしているあのロリババアの顔が過ぎる。
あののじゃロリババアはちょっとしたことで拗ねて働かなくなったり面倒くさがって働かなかったり働かなかったり働かないでとにかく働かない。
以前転生者関連の話を向こうにしに行ったとき『今日はド○クエ11の発売日だからやっぱ時間開けられないのじゃ~』と言って追い返されそうになったのにはブチ切れてアマテラスのゲーム棚を燃やそうとした。
結局のじゃロリが『やめてくれなのじゃぁぁぁぁ!』と大泣きして土下座したのでちゃんと話を終わらせてからドラ○エ11をすることになったが。
本当、彼女にはしっかりしてほしい所だ。
そもそもこんなめんどくさいことになったのは下位の神だったここの女神のしていたことをめんどくさがってアマテラスが見逃していたのも原因だ。
彼女ほどの力の持ち主なら転生させないことぐらい余裕で出来ただろうに。
と、いうかあの世界は大量に神様居るだろうが。
サボってないでマジで仕事しろ。
「どうすんだよこの子..........」
『霧島 夕』。
以前、特異点の少年と戦って倒されたゴブリンキングの転生元だ。
妻の趣味によって幸せな人生を手にすることが出来たはずの彼だが、またゴブリンになってしまうとは。
ひたすら転生しまくる呪いでもかけられてるんじゃないかと思って調べてみたけど何もない。
そういう運命の星の下に産まれてしまったのだと思うしかないようだ。
どうするべきか頭を抱えていたら、隣で女神様のお仕事をしていたセシリアが話しかけてきた。
「んー、とりあえずキリのいいタイミングで魂の置き換えをして戻すってのはどうかなぁ?」
「キリのいいタイミング?」
「んー、ゴブリン君がさよならしても自然なタイミング?」
「どんなタイミングだよそれ..........」
そうは言ったもののそれぐらいしか方法は無いだろう。
アマテラスも動くつもりがないらしいし、ゼウスにも連絡をとってみたけどゼウスじゃなくて病んだかんじの声のヘラが出た。
きっとまたゼウスが他の女性に手を出していたのだろう。
よくあんなのが神様なんてやってられるなぁと思うとため息が出る。
オーディンは引きこもりになってるし...........。
シヴァはシヴァでパールヴァティと世界創造(意味深)で忙しいらしい。
少しは自重してくれ...........。
「ま...........様子見ってとこなのかな...........」
水晶球の中を覗く。
そこには一人の少年が少女と二人で野宿の準備をしているところが写っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―――ガコッ
「ふぅ.........こんなもんかな?」
目の前には石で組んだ簡単な竈と森から集めてきた木材が並んでいる。
テントも立てて野宿の準備をやっと整えたところだ。
「ローチおなかすいたぁ」
「そうだね。簡単なものでも良いかな?」
「いいよー。ローチも手伝う!」
「ふふっ、ありがとうねローチ」
マジックバッグから鍋を取り出して簡易竈に乗っける。
鍋には近くの川から汲んできた水をたっぷりと入れてある。
木材をひょいひょいとその下に入れると魔法を使って火を付けた。
「なに作るのー?」
「シチューでも作ろうかなって。ローチは野菜を切って貰ってもいいかな?」
「いいよー」
まな板を二枚取り出して、更に食料の中からじゃがいもとニンジン、玉葱、ブロッコリーにフォレストボアの肉を出す。
ローチにはジャガイモとニンジンを任せて、僕は玉葱とブロッコリー、フォレストボアの肉を切る。
ちなみにルウは持ち運びの出来る物があるから大丈夫だ。
「ローチ、包丁..........」
「おおーー!!」
――ざくざくざくざく.........
包丁を渡そうとしたら既に食材を切り分けられた後だった。
そういやローチは風魔法で切ることも出来たんだな。
綺麗に皮を剥かれてサイズも揃っている野菜達がまな板の上に並んでいた。
風魔法って便利だなぁ。
「ますたぁ!もっと出来るよ?」
「あー.........じゃあ玉葱よろしくね?」
「うん!」
――ざくざくざくざく............
うん、僕もさっさと終わらせちゃおう。
ブロッコリーと肉を食べやすい大きさにカットしていく。
ステータスを貰ったことで野菜や肉を切ることぐらいなら余裕だ。
面白いぐらいスパスパ切れていく。
「ん、沸騰してきたな」
「野菜入れるよー」
「ジャガイモとニンジン、玉葱からだな」
玉葱がとろとろになってるぐらいが僕の好みだからここで入れてしまうのだ。
カレーでもおんなじです。
――ぐつぐつぐつ.........
「はぁ、それにしても思ったより進めなかったな........」
「二人だと魔物倒すスピードがあんまり上がらないからねぇ」
今日は思っていたよりも進めなかった。
走る速さだけなら馬車よりもずっと速いし、小回りも利く。
しかし少し魔物に遭遇しすぎてしまったように感じる。
二人で魔物を倒すのも手数が足りないせいで少し時間がかかってしまった。
やはり、そろそろ追加の使役魔物が要る頃なんだろうか。
「なぁ、ローチ。あと使役魔物の枠が二つ残ってるんだけどさ、ローチはどんな味方が欲しい?」
「うーん.........やっぱり純粋に強いひとかなぁ。攻撃力が高いひとがいいかな」
「ジャックみたいにフロントを任せられるような強いのかぁ...............もう一枠は?」
「.................妨害系の力も使える強い人?」
「強い人は必須なのか。それじゃあどうしたもんかな...........」
パラパラと図鑑をめくり始める。
「どうせなら二人とも『パワー』プラス何かを使えるのにした方が良いよなぁ」
妨害、弱体。
図鑑をめくると危険な虫には×マークが付いていて、その危険についての説明がされていたりする。
今まではちゃんと制御できるか心配で考えてこなかったが、そろそろこういった危険な虫を召喚するのもいいだろう。
「そうだな..........じゃあ一匹目は『オオスズメバチ』でいこうか」
オオスズメバチ。
勇者の故郷、『ニホン』原産の蜂の仲間だ。
ニホンにおける野生生物による死亡例の大半を占める非常に危険な蜂で、なによりその強みは何度でも毒針を刺して毒を注入することができるところにある。
一般的なミツバチ等の蜂は一度毒針を使ってしまうと、針を抜くと同時にその内臓が針と一緒に身体から離れてしまい死んでしまうので、一生に一度しか使えない奥の手になるが、オオスズメバチにはそれが無い。
それだけでなく、オオスズメバチは毒液を針から噴射することも出来るので、目などの弱点を狙えば刺す必要さえなく大きなダメージを与えられる。
「それとあと一匹は..........」
パラパラと図鑑の後ろの方をめくった。
大抵、『昆虫図鑑』とつけられているものには後ろの方に『昆虫』ではないが一般に虫として扱われている虫たちが載っていることが多い。
いわゆる、『蜘蛛』や『百足』、『ヤスデ』なんかのような『節足動物』と呼ばれるものだ。
サソリなんかもこの中に分類されていて、×マークの付いている危険な虫を探すにはうってつけだ。
さて、それじゃあ×マークの虫を――
「ん?なんだこれ?」
目に入ったのは『蜘蛛合戦』の文字。
更に下を読むとその説明が書いてあった。
『蜘蛛合戦』とはカブトムシやクワガタムシなんかを戦わせて楽しむのと同じように、蜘蛛同士を戦わせる遊びらしい。
「『コガネグモ』、か」
黄色と黒の縞模様の大型の蜘蛛(大型なのはメスだけで、オスは地味な茶色の小さい蜘蛛だそうだ)。
毒性は人間に効くようなものは持っていないらしいが、虫相手になら効く毒を持っているのではないかと言われているらしい。
此方の世界に連れてきて鍛えさせれば、毒も使い物になるかもしれない。
糸を出すことの出来るタイプの蜘蛛だということもあって、妨害もできるだろう。
攻撃的で、その性質を使って蜘蛛合戦が行われているらしい。
―――ぐつぐつぐつ.......
「っと、そろそろ肉とかも入れないとな」
だいぶ煮えてきた鍋の中に肉とブロッコリーをひょいっと入れた。
赤かった肉がみるみるうちに白っぽくなっていく。
灰汁も出て来ていたのでひょいひょいと取っておいた。
「じゃ、『オオスズメバチ』と『コガネグモ』にするかな」
「ひゃぁぁ、前の世界で会ってたらエサとしか見られなかったよ。ちょっと怖いなぁ」
「大丈夫だって。召喚したらちゃんと味方になってくれるから。それにどうなってるのかわかんないけど食べるものとか変わってるしな」
「正確には『もともと食べられる物プラス人間が食べられる物』だけどねぇ」
「........人型でいれば、多分、大丈夫だよ」
「そうだね............ローチがんばるよ.............」
ローチは少し顔が青くなってる。
元・捕食者の天敵二匹に会うのはやっぱり怖いらしい。
可哀想になってきたので「大丈夫、大丈夫だよ」と頭を撫でたら「うん......ますたぁが居れば大丈夫だよね!」と言ってにへぇ、と笑ってきた。
うん、ローチはやっぱり元気でないとな。
少し竈の中に木材を足してから、原っぱの方を向く。
パタン、と図鑑を閉じてマジックバッグにしまった。
さあ、召喚の時間だ。
「二重召喚『大雀蜂』『黄金蜘蛛』!」
目の前の地面に二つの魔法陣がぱぁっ、と浮かび上がった。




