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ウチの息子は天才ですっ!

遅くなりました。

アルト(お父さん)視点です。


 ギルドの馬車が村を出てからもう二日目。

 もうすぐでやっと一つ目の街に着く頃だ。



――ガタガタガタ


 馬車は揺れる。

 それに乗ってる冒険者達も揺れる。

 俺の息子も揺れる。


 あ、下ネタじゃないぜ?

 本当の息子だ。

 自慢の息子。

 親馬鹿に聞こえるかもしれないがウチの息子は天才だ。




 その才能を初めて見せたのは三歳の時。

 小さい頃から虫をこよなく愛していた息子は村の外に出て昆虫採集に出ることも多かった。

 そういったときはいつも俺がついていって周りの魔物を倒して安全を保っていたのだけど、ある時息子は一人で村を出て行ってしまった。

 

 たった三歳のエドが一人で村の外に出て行ってしまったとのことで村は大騒ぎになった。

 もちろん俺は慌てて息子を捜しに出て行ったとも。

 だけど、そこで見たのは予想外の光景だった。


 無惨にも地面にまき散らされた臓物。

 木々や茂みに飛び散った血。

 そしてかなり苦しみもがいたと思われる白眼を剥いたゴブリンの死骸が二つ。


 その先の茂みに向かって息子はしゃがみ込んで何かを観察していた。

 返り血にまみれたまま。


 言葉が出なかった。

 信じられない。

 ステータスさえ貰っていない三歳の子供がゴブリンを2体も一方的に殺したなんて信じられるだろうか。

 しかしそのありえない真実を肯定するように息子の足下には血塗れのナイフが二本置かれていて、俺はその真実を信じざるを得なかった。

 いつの間に持ち出していたのだろう。

 あのナイフは二本とも俺の仕事道具だ。

 最近では使うことも少なくなって家の納戸にしまっていたのだがまさか息子が持っているとは思わなかった。

 ここまで証拠が揃っていては誰がこのゴブリン達を殺したのかなんて明白だった。

  

 ウチの息子は天才だ。

 

 息子は戦いの天才だった。

 これを喜ぶべきか喜ばないべきかは判断に困るところだが、自分の力で自分の身を守れるというのは非常に重要なことだ。

 今回ばかりはこの才能に喜ぶべきだろう。


 しかし、相手がゴブリンとはいえここまで残酷な殺し方が出来るものかと恐怖を通り越して最早感心した。

 ナイフというリーチの短い武器だったせいもあるだろうが、身体中を滅多刺しにされて腹の中身をぶちまけられたゴブリンの死体は見るに耐えないものだった。

 よくこの中で平然と昆虫採集に勤しめたものだ。

 

 そう、強さと同時に俺は息子に危うさを感じた。

 

 殺しへの忌避感が無いというのは戦いを生業とする者にとってはかなりのアドバンテージになるが、同時にそれは一つ間違えば殺人等の犯罪もあっさりと行ってしまうような人間に成りかねないということ。

 息子は優しい性格をしているが魔物には容赦がない。

 だから俺はそれからというもの、息子が道を踏み外すような大人にならないように気を付けて教育してきたつもりだ。


 今となっては杞憂であったとはっきりとわかったが。


 歴代勇者の言葉に『三つ子の魂百まで』というものがあるが、まさにこの通りだ。

 息子は心優しい青年に育ち、容赦ないのはやっぱり魔物にだけだった。

 好きな子にいつまでたってもちゃんと好きだと伝えられないようなヘタレになるのは予想外だったが。

 俺は今の妻には速攻でプロポーズしたからなぁ.............。


 はぁ..........イルミナたんかわゆ.................。


 っ!と。

 話が逸れたね。

 つまりウチの息子は天才だったわけだ。

 

 広めたら面倒なこともあるかと思ってそのことをわざわざ広めようとはしなかったが、一部の村人達は気付いていたようだった。しかし暗黙の了解で息子のことについては誰も外に向かって話してはいなかったみたいだ。

 そのお陰で俺の息子はどこにでも居る、普通の村人の少年として成長することが出来た。

 唯一違うことと言えば、Sランク冒険者の俺に戦い方を教えられていたことぐらいだろう。

 お陰で槍の腕前は一級品。

 今の息子であればBランク、いやAランク冒険者だって目ではないだろう。


 だって、つい先日だってサーベルウルフを素手でワンパンしてるんだぞ?

 意味わかんねぇよもう。

 そんなのAランクだってやらないぞ。


 『召喚士』としての才能も半端じゃなかった。

 まさかあんな化け物達をポンポン召喚するなんて思わなかった。

 召喚してから数日で人化することが出来るようになるような化け物を二匹、いや二人も召喚するとは。

 しかも二人とも高い知性を持っていてとてもフレンドリーだ。まあ片方は少々性格に残念なところがあるが。

 しかし........あの様子だとまだまだ召喚出来そうだな。

 いったいウチの息子は何処まで強くなれば気が済むのやら。

 その強さを自覚していないというのもタチが悪い。


 やっぱり、幼馴染みちゃんの事があるからだろうか。



 アンリ・オリヴィエ。

 彼女の両親は共働きだったから親同士、昔から仲の良かったウチで預かることになった女の子なのだがこれがまた可愛らしい。

 小さい頃もかなり顔の整った子だとは思っていたが、村娘だというのが信じられないレベルの美貌に成長した。(もちろん俺にとっての一番はいつだってイルミナだけどね)

 まあ、結局彼女は村娘に収まる器では無かったというのが証明されて『聖女』として勇者の花嫁になるべく村を出て行った。     

 しかしエドは彼女の事がずっと好きだったわけで、諦めようと思ってもなかなか踏ん切りの付くものでも無いのだ。

 俺としても両想いだった二人が結ばれることが無くなってしまったのはとても悲しい。


 ん?イルミナと結婚させたがっていたのはどうしたって?

 まあ、そっちは保険みたいなものだ。

 俺は俺でイルミナと同じだけ長い間生きていられるようにここ数年はずっと長寿の霊薬を作ることに走り回っている。

 いかんせん古いレシピなので上手く行くかはわからないのだが、素材はほとんど集まった。

 あとは古竜の角を粉にしたものと世界樹の種が必要なぐらいだ。

 成功すればエドを俺の後釜につける必要も無くなるから俺からすればそれが一番いいと考えている。


 エドもアンリちゃんと結婚できれば良かったんだが.............はぁ.......息子よ、何故アンリちゃんの処女を早いうちに奪っておかなかった。

 成人前でもそれぐらいするカップルなんてざらにいるし、お前の場合は思いっきり両想いだっただろうが。

 それさえしていれば『聖女』の職業など与えられなかったのに。

 へたれぇぇぇぇぇぇぇ......................。


 過ぎたことは仕方がないのだ。

 結局こうして息子はアンリちゃんともう一度、今度こそちゃんとした別れをするために馬車に揺られて王都へと向かっているわけだが...............息子の悲しい顔を見るのは親として辛いものがある。

 アンリちゃんの両親も、娘が『聖女』となったことに普通なら喜ぶだろうが二人とも悲しんでいた。

 向こうも俺の息子とアンリちゃんが結婚するのはもう決まったようなものだと考えていたらしい。

 エドは顔もなかなか整っていると思うし、少し子供っぽいところもあるが勉学においても、戦いにおいてもかなり優秀だ。向こうの両親にもかなり気に入られていたからこんなことになってしまったのはとても残念だ。


 何故。

 何故この世界はこんなにも残酷なのだと。


 何故神はこのような決まりを作ってしまったのだと。


 こんなこと、いくら考えても無駄なだけだ。

 

 エドのいる方向を見る。

 エドには白髪赤目の美少女といぶし銀の侍が優しく寄り添っている。

 彼等は息子にとっての救いだ。

 二人が居るから息子は平気でいられる。


 それに、アンリちゃんの代わりをつとめられるのはきっとこの彼女だ。

 エドにローチと名付けられた彼女は見た目も性格もアンリちゃんとはかなり違うが、纏っている雰囲気やエドとのやりとりはアンリちゃんを彷彿とさせるものがある。

 

 エド、がんばれよ。


 ここが正念場だ。


 過去の恋と決別したお前の先には新たな出会いと恋が待っている。

 お前の人生はまだまだ長いんだ。

 父さん応援してるからな!! 



「.........どしたの父さん?なんか凄い熱の籠もった目でこっち見てきて怖いんだけど........」


「うん..........うん!頑張るんだぞエド!」


「いや、なんでいきなり泣き出すよ..............。ほら父さん、ハンカチ」


「うっ、うっ、本当お前は母さんに似て優しい子だよぉぉ.............」


 揺れる車内で息子の優しさが心に滲みる。

 息子の方が傷ついてるはずなのに父さんは駄目だなぁ。


 涙を拭きながら感傷に浸っていた。

 その時だった。




「ん........?オイ!大変だ!

 皆、右前方を見ろ!貴族様の馬車が襲われてるぞ!」


 御者をしていた冒険者の一人が大声で叫んで皆に伝える。

 見れば目算800メートルほど先で何処かの貴族の家紋が入った馬車が魔物に襲われている。

 それもゴブリンやオーク程度の魔物ではない。


「な.......ワイバーンじゃねぇか............」


 ぼそり、と窓から顔を出した冒険者の一人がこぼす。

 正直俺もこれには驚いている。


 『ワイバーン』とはドラゴン種の魔物の中でも中の下ぐらいに位置する魔物だ。

 ドラゴンという種そのものが強いために中の下でも馬鹿にならない強さを持っている。

 本来ならこんな街道沿いの平原になんて出現しない筈なのだが、何故こんな所にとしか言うことが出来ない。


「ジャック、先鋒を任せる!空中戦で地面まで引きずり下ろすぞ!」


「御意!!」


 息子のかけ声と共にジャックが馬車から飛び出す。

 どういう仕組みかは不明だが、彼は人化している状態でも走りながらであれば空中を自在に動き回れるらしい。

 一気に前方の馬車へと向かって駆け出す息子とその使役魔物達。

 さて、冒険者でさえない息子が飛び出したのだからSランクの俺がゆったりとしている訳にもいかない。

 俺も竜退治に行くとしようか。




 そして、三人より少し遅れて一つの影が前方の馬車へと向かって飛び出していった。

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