安心して下さい、紳士ですよ
ごめんなさい、投稿おくれました。
光り輝き、むくむくと大きくなるジャックに驚き集まってくる冒険者と村人達。
光の塊となったジャックはみるみる内に人間の形になって、光はおさまっていった。
「ふ、ぉぉぉぉ............」
実に気持ちよさそうな顔をした一人の男が現れる。
もちろん、全裸の。
しかしその股間など、見苦しい部分は見えていない。
なぜなら、
「な、なんだあの光は............」
「すごい不自然だぞ..........」
「み、見えてない.........」
冒険者達と村人達が次々にそう呟いた。
そう、ジャックの腰から膝上までにかけて、もの凄く不自然な光の塊が帯のように巻き付いて見苦しいモノを隠していたのだ。
「ジャ、ジャック.........それはいったい.........?」
「む、マスター殿。これは『ナゾノ ヒカリ』でござる」
「『ナゾノ ヒカリ』」
「某の『紳士の嗜み』によって作り出した絶対の防御結界にして『円盤』では外れる仕様のアレでござるよ」
「え、円盤.........?アレ.............?」
「知らなくてもいいことですぞ、マスター殿」
「は、はぁ」
ドヤ顔で説明する半裸?の男。
人化したジャックは180センチ近くはあるだろう長身の男性で身体は『ゴリ』とまでは行かないけれどかなり筋肉質だ、歳は30代くらいに見える。
頭髪は長めの黒色のくせっ毛で、焦げ茶色の瞳に渋めのダンディな顔。
いかにも『侍』といった感じの見た目だ。
格好以外は。
「とにかく、某もちゃんと見苦しいモノは見せぬように配慮したぞ。クワガタムシであった時は必要無かったが、人間となった今はこういったモノもしっかり隠さないとならないからな」
うんうん、と頷いて「某、偉い」とか言っているジャック。
いやいや、まずは外で人化すること自体間違ってるだろ...........。
我慢できなかったなら仕方ないけど。
とにかく早く服を着てくれ、光が付いててもどうしてもブルルンしてるのを想像してしまって吐きそうになるから早く服を着てくれ。
「しかし........外で全裸とは人に見られて開放感がすさまじ――」
「チェストォォォォ!!」
「おっほぁぁッッ!!」
変態極まりないことを口走り始めたジャックの股間を一気に蹴り上げた後に、身体が宙に浮いたジャックの腹に回し蹴りを叩き込む。
こんな観衆の目の前で露出狂発言なんてさせるわけにはいかないのだ。
モロに蹴りを喰らったジャックは股間への一撃で悶絶し、腹への一撃で僕の家の前まで吹っ飛んで転がった。
変態、ダメ、ゼッタイ。
僕は露出狂の犯罪者なんて召喚した覚えは無いのだ。
いいかげんまともになってくれ.........。
「ジャックおじさん気持ち悪いぃ..........」
「あ、エド!服持ってきた.........って、これ何............?」
ふるふると気持ち悪さに震えるローチ。
家から男物の服を持ってきて出て来た父さんは、家の前で転がっているジャックを踏みつけてびくっ、としている。
「父さん、ソレです。ソレがウチのジャックです。犯罪者になりかけたのでデストロイしました」
「えっ?あっ...........そうなの」
父さんは一瞬困惑した表情になると、股間への一撃のショックで気絶したジャックを小脇に抱えて家に入っていった。
僕はあんな汚いモノを躊躇せずに抱えて持って行った父さんに生まれて初めて尊敬の念を抱いたのだった。
「マスター殿。本当に申し訳ない..........」
僕に向かって土下座する見た目だけダンディーなおっさん。
あれから数十分後に目覚めた彼は精神も落ち着いたらしく、賢者モードに入っている。
長めのくせっ毛は一つにくくられてポニーテールのようになり、髭も綺麗に整えられた。
着ている服は父さんの持っている服の一着だ。
いや、『服』というよりも『装備』と言った方が近いかもしれない。
上半身に着た藍色の服はぴったりと身体にフィットして、シルエットがハッキリとわかるようになっている。
下半身は黄土色の袴を履いていて、その袴の下には黒のレギンスを履き、そして靴は黒色のブーツ。
確か、上下併せて『森羅万象』という名のとても貴重な装備だったはずだ。
薄手ながらあらゆる斬撃を通さない上の服、そして装備者の足運びを隠し、更に身体能力の補助をする魔法がかけられている下の袴。
本当ならこんな変態クワガタおっさんに着せていいようなものじゃないのだ。
「まあ........あの場でああいった判断を取ったのはわかる。それだけなら人化するのも我慢とか出来そうになかったし許せた。
だけどな?最後の発言は.............無いよなぁ?」
「ひっ.......ま、マスター殿。その、某も人化したばかりで心が大きくなっていたというかぁ、その.........テンションが上がりすぎたというかぁ.........」
顔を青くして冷や汗をダラダラ流して必死に言い訳をするおっさん。
彼へのローチの視線がいつも通り冷たい。
完全に軽蔑しているのだ。
ヒドい。
「はぁ、まあ今日はこれから忙しいし許してやるよ。いいかげんその変な性格なおせ。次は無いからな」
「ははあぁーーーっ!」
深々と土下座するジャック。
椅子に座っている母さんの髪を櫛でとかしている父さんもジャックに悲しい目を向けている。
僕だってこんなの召喚するつもり無かったんだ..........。嗚呼、どうしてこうなった。
「ちょっと..........荷物整理してくる.............」
「ローチも手伝うよー」
そうして、がっくりと肩を下げた僕は家を出てギルドの馬車まで向かった。
村の門の近くに並べられている何台もの馬車。
ここにエドが持ち出す道具が乗せられているのだ。
昨日のうちにちゃんと纏めておいたが、直前にも確認しておこう。
「えーと。僕とローチの服に........ああ、ジャックのも足さなきゃ。武器も予備の槍合わせて計3本。まあ、虫取り槍があんなんだし........まず壊れないよな」
僕の虫取り槍は特別製だ。
父さんが僕が小さい頃にとある町でドワーフの腕利きの職人に作って貰った槍なんだそうだ。
それで僕の誕生日にプレゼントされたと。
槍の先は最高硬度の龍鉄 (龍の体内で精製される金属らしい。アダマンタイトより硬くて軽い。ただし加工が難しい) で出来ていて、柄の部分はアダマンタイトを芯にして月光樹 (中央大陸の中心部にそびえ立つ世界樹の亜種だと言われている木。月の出ている夜に輝く。理由は不明。木でありながら燃えにくく、燃料には向かないが建材や武具などに使われる。切り出した木材は堅くて水に強く、燃えにくい) を使っている。
非常に手に馴染みやすく、これを五歳の誕生日に貰ってからは昆虫採集の邪魔をする魔物を倒すのもかなり楽になった。
「..............あ」
思い出した。
これがあったから..........僕はアンリをあの時助けられたんだ。
そう、丁度僕が6歳のとき。
アンリは村の外に出ていてゴブリンの群れに襲われた。
まだ積極的に人間を襲うことのない『フォレストボア』や『グリーンラビット』『ポイズンスネーク』などならまだ逃げる余裕があっただろう。
でも相手は人間を積極的に襲う、特に人間の女性なら子供でも襲って巣にさらっていくゴブリンだ。
それに囲まれてしまったアンリは動けなかった。
でもその時にいつも通り昆虫採集に勤しんでいた僕がアンリが襲われているのを見つけてゴブリン達を皆殺しにしたんだ。
アンリを傷つける奴は許さない。
ああ..........アンリ、大丈夫かな。
馴れない王都で体調を崩していたりしないだろうか。
結婚相手の勇者はいい人だろうか。
聖女だけど元は只の村人だからと苛められていたりしないだろうか。
「ますたぁ........?」
「あ........ごめん。続きしようか」
ローチがくるっと僕の前に回って顔をのぞき込んできた。
すごく近い。少し動いたらキスしてしまいそうで思わず顔が赤くなる。
ローチはそんなこと全然気にしていないみたいだけど。
「ええと、次はお金と..........標本セットに、魔法の教科書、図鑑、護符に薬草袋.............」
「ますたぁますたぁ」
「ん?何、ローチ?」
「ローチの武器はー?ローチ武器持ってないよー?」
「ありゃ、虫の時は普通にゴブリンの首とか切れてたけどそういえば全部魔法でやってたもんな」
「ローチはナイフが良いー」
「何だか物騒な会話してるよねぇ。あ、ジャックもか?」
「ジャックおじさんは要らないよ?」
「そうなのか?意地悪で言ってるとかじゃなくて?」
「無論、某は人化した後は大アゴの代わりに強さに対応した刀を召喚できるのだ」
「わっ!?いきなり出て来るなよ変態!!」
「ぐっほぉぁっ!??」
いきなり後ろに飛び出してきた我らが変態に振り向きざまアッパーを喰らわしてしまった。
ジャックは口を切ったらしく口から血を流しながら、綺麗な放物線を描いて後方に吹っ飛んでいく。
ゴメン.........ごめんよジャック。ここ何日かの変態発言、覗き未遂とかのツッコミで条件反射的に拳が飛び出すんだ.............。
「あ、ゴメン...........大丈夫か?」
「お、男であるマスターに罵られても............気持ち良くならないで、ござ..........る...............」
ガクッ、とそのまま白眼を剥いて気絶したいぶし銀の侍。
人化したジャックは見目麗しい訳では無いけれどそれなりに整った顔をしているので、あんな残念な中身が本当に勿体ない。
黙っていれば結構格好いいと思ったんだけど。
ごめんって言ったのやっぱり前言撤回。
「気絶したよ.......?」
「減らず口が叩けるぐらいなら問題ないだろ。さ、荷物整理の続きしようか」
気絶したジャックを放ったまま作業を続けることにした。
周りを歩く冒険者達が白眼を剥いて気絶しているジャックを見てぎょっ、とした顔をしているけれど気にしない。
気にしないったら気にしないのだ。
ところで、人化したローチ達のことについて冒険者達や村人達が何も言わないのはSランク冒険者である父さんが皆に説明してくれたからだ。
人化してるところを見られて面倒なことにならないように事前に伝えておくことにした、というわけだ。
Sランク冒険者の力はとても強い。
父さんが皆に気にしないように言ったのだから特にギルドに報告するようなことも無ければ騒ぐことも無いだろう。
一部では『化け物のSランク冒険者の息子はやっぱり化け物だった』なんて言われているらしい。
僕は化け物なんかじゃないと思うけどなぁ。
この前のゴブリンキングだって倒せたのたまたまだし。
「あの..........エド、お兄ちゃん?」
作業を続けようとしたらニーアちゃんが来ていた。
体調は大丈夫なのだろうか。
少し、顔が赤いように見えるけれど。
「どうしたの?ニーアちゃん」
そう聞き返した僕にニーアちゃんは少し悲しそうな顔をして俯いてから、顔を上げた。
「お兄ちゃん。村を出るって本当なの..........?」
「あれ、知らなかったのか?なんかみんな知ってるみたいだからニーアちゃんも知ってるんだと.......」
「お母さん..........私に黙ってたもん...............」
悲しそうな顔をしてまた俯くニーアちゃん。
ニーアちゃん、知らなかったのか。知ってると思ってた。
「その........アンリお姉ちゃん、でしょ?」
「まあ、ね。でも別に勇者様から取り返そうとも思ってないし、そもそもアンリとはそんな関係じゃなかった。もう諦めるつもりだけど、最後に一言だけ気持ちをちゃんと伝えてから今度こそお別れしたいんだ。だから村を一度出て王立魔導学院に行く、それだけのことだよ」
「嘘だよ。お兄ちゃん..........全然諦めてないもん...............」
「別に、嘘じゃ..........無い」
一瞬頭の中を最後に見たアンリの顔が過ぎった。
なんで.........そんな悲しそうな顔をするんだよ............。
アンリが自分から喜んで行ったならまだしも、嫌がってたじゃないか...........。
クソ、やめろ。こんなこと考えるな。
僕はもう諦めたんだ。
大丈夫、一言伝えてしまえばもう未練なんて残らない。
これで終わり。そう、終わりだ。
「どうして...........どうして私じゃ駄目なの!? なんでアンリお姉ちゃんばっかりなの!私だって...........私だって、ずっとエドお兄ちゃんに好かれたくて頑張ってきたんだもん!どうしたらお兄ちゃんに気にして貰えるかなんて考えて、それでゴリアテさんの奥さんにも色々聞いて、エドお兄ちゃんのことを避けてみるようしてみたのに................全然お兄ちゃんは振り向いてくれなくて!なんで!どうしてそんなにアンリお姉ちゃんじゃなきゃ駄目なの!?
私だってお兄ちゃんのことが好きだもん!何でさ............なんで村を出てったお姉ちゃんの方ばっかり向いてるの............?」
ぎゅっ、とスカートの裾を握りしめてそう言い切ったニーアちゃんの目からは涙がボロボロとこぼれる。
僕だって、ニーアちゃんは嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
でも、今の僕じゃ駄目なんだ。
今ニーアちゃんと恋人同士になったとしても、それは何処かアンリとの決別の為の道具のように思えてしまってそんなの許せない。
童貞臭いかもしれないけど、女の子には真剣に、誠実に向き合いたいんだ。
だから、
「ニーアちゃん。今の僕はニーアちゃんの恋人にはなれない」
「ほら..........やっぱり...............」
「付き合うならちゃんと誠実に向かい合いたい。今の僕だとニーアちゃんだけじゃなく、どの女性とも付き合ってもそれはアンリと決別する為の言い訳にしか見えないんだ。だからちゃんとお別れしてくる。
僕はすぐに戻ってくる。アンリに想いを伝えて、それでちゃんとお別れの言葉を言ってくる。
ニーアちゃんの事は嫌いじゃない、むしろ好きだよ。
だから、もし僕が帰ってきたとき。もし、ニーアちゃんが僕のことをまだ好きだって言ってくれるなら僕は貴女という女性にちゃんと向き合いたい。それでも、良いかな?」
「え、エドお兄ちゃん........?」
「信じて、貰えたかな?」
「うん..........うん!」
ダッ!とその場から跳ぶように僕に抱きついてきたニーアちゃん。
柔らかい彼女の身体はとても軽くて、飛びつかれても僕は微動だにしなかった。
彼女の髪を撫でる。
ふわっといい香りが広がった。彼女がいつも摘んだり、育てている花のような香り。
彼女は涙をふき取ってにっこりと笑って此方を見上げる。
花が咲いたような、とても可愛らしい笑顔だった。
ニーアちゃんはあれから暫く僕に抱きつき続けて、満足したら「私、待ってるからね」と言って帰って行った。
「ますたぁ、あの子を選ぶの?」
「................」
ローチがひょいひょい僕の周りをくるくる回りながらそう話しかけてくる。
僕は最低な男だ。
彼が僕達を見ているのに気付いたからあんなことを言った。
「エドにいちゃん..........あの返事は、なんだよ...........」
「コトル君.........」
建物の陰から歩いてきたコトル君。
彼は先ほどのアレを最初から見ていた。
だから僕はわざとあんな答えをニーアちゃんに言った。
時間を稼ぐために。
僕じゃない誰かを好きになって貰うために。
「ローチ........先に家に帰ってて.............」
「?..........はーい」
ローチを家に帰してコトル君と二人きりになる。
ローチの姿が見えなくなったのを確認して、僕は彼に言った。
「僕が居ない間。いや、これから先、ニーアちゃんを頼んだよ.........」
「ふざけんなよ.........あんなの、あんなの俺が認めるとでも思ってるのかよ!!」
コトル君は激昂した。
当たり前だ。
自分の好きな子が、その意中の相手にあんな言い方されたんだ。
僕だってアンリが彼女の意中の人がもし居たとして、そいつにあんな応え方されたらキレる。
アンリの何処がいけないんだ。
なんでそんな僕に上から目線なんだと。
「俺に、俺にッッ!わかった上で押し付けるつもりだったんだろ!? ふざけんなよ!エドにいちゃんだってわかるだろ!??
こんなの、こんなの認められる訳ないだろ!」
「だけど僕は彼女に誠実に向き合える自信は無い。どうしても心の何処かにアンリが居るんだ。だからさっきのは嘘じゃない。アンリとは決別するために一度村を出るだけだ。コトル君もわかってくれないかな..........僕が今どんな気持ちでニーアちゃんに答えなきゃいけなかったか.......」
「ッッ!!.............わかってるよ.......俺だってそんなの、辛すぎる............。無理だ。エド兄ちゃんはそんな割り切れてすげぇよ.........。俺があいつを好きになったのだってまだ最近だし...............もし俺がエドにいちゃんだったら発狂する。
でもさ...........でもよぉ.............好きな女の子の幸せを願っちゃ駄目かよ.........?あいつはホントに小さい時からにいちゃんのことが好きなんだぜ?だからよ...........俺は無理だ。俺はニーアのことはもう好きじゃない。ちゃんとさっきの言葉の責任は取れ。にいちゃんがアンリ姉ちゃんを諦めるより先に俺はニーアを諦めた。だからあいつの相手はにいちゃんしかいない、頼むのはこっちだよにいちゃん.............ちゃんと、答えてやれないのかよ...........」
そう言ってうなだれるコトル君。
想いの重さであれば、年数を重ねた僕のアンリへの想いと、つい最近好きになったばかりのコトル君のニーアちゃんへの想いでは差が有りすぎる。
でも一人の女の子に恋をした僕たちの気持ちは殆どなんら変わらない。
好きなあの子の幸せを願って何が悪い?
別れるならちゃんと別れたい。
どちらの気持ちも正しい。
両方僕には痛いぐらいにその気持ちがわかるから、この言葉は聞きたくなかった。
「僕には........コトル君だって大切なんだ。ニーアちゃんがコトル君のことを好きになればそれで皆幸せなんだって思ってた」
「もし...........そうなったとして.............。にいちゃんはどうなるんだよ?アンリねえちゃんはもう居ないんだぜ..........?」
「幸せな弟分と妹分を見てれば僕は幸せだよ........」
「馬鹿だよ..........本当。馬鹿すぎるよにいちゃんは。そんなんだからアンリねえちゃんに逃げられるんだぜ..........?.........バッカじゃねぇの?」
「そうだな、僕は馬鹿だよ。ほんとに」
「あいつの事。絶対に頼んだからな。男に二言は無いよな?にいちゃん」
「わかったよ.........折れる。後からやっぱり無しだって言っても遅いからな?」
「ったりまえだ!男に二言は無いからな!」
胸を張って答えるコトル君。
でも、少しその顔は苦しそうだ。
僕は、コトル君のことも大事なんだよ?
大切な幼馴染みの一人なんだから.............。
「じゃあこれで決定だな。試合開始だ」
「うんうん.........って、はっ?試合開始って何言ってんだにいちゃん............?」
「だってこういうことだろ?『僕が帰ってくるその時までずっとニーアちゃんが僕のことを好きだったら僕は彼女の気持ちに応える。だけどそれまでニーアちゃんが僕じゃない誰かを好きになってたら僕は何もしないのだから、コトル君は僕が居ない間ニーアちゃんの気を引くために手を出しても良い。つまり僕とコルト君のニーアちゃんを賭けた戦い』ってことだろ?男に二言は無いもんなぁ?」
「あっ..........そういやそんなニュアンスだったかも............って、ずりーよエドにいちゃん!いつものエドにいちゃんみたいに単純じゃねぇっ!」
「男に二言は?」
「無いよバカヤロー!!」
コルト君はそのまま走り去ってしまった。
でも、少し口元が緩んでいたように見えたのはきっと気のせいじゃないだろう。
「エド~!村出る前に昼飯だー!愛しい母さんの手料理が食べられる今回の帰宅最後の機会だぞぉぉぉぉっ!!」
「今帰るよ!」
父さんが家から僕を呼びにきた。
村で食べる最後の昼食。
しばらく食べられなくなる母さんの料理を存分に楽しもうと、エドは気絶したジャックを肩に担いで家へと歩いていった。




