ぶるるん
出発予定日の午前。
「じゃあそのゴブリンキングは変異種だったってことか?!」
「確かにそれと戦った村人の証言でもそんなところだったな。それに..........この妙な武器、これがそのゴブリンキングが変異種だったっていう証拠になる」
「それを倒したのか.......この村の村人達は本当にパワフルだな.......」
調査隊の人達が例のゴブリンキングについて話している。
どうやらあのゴブリンキングは『変異種』と呼ばれる特殊個体だったらしい。
所で突然だが、
グリード・テン 男 29歳
【種族】人間 (ヒューム)
【状態】普通
【スキル】剣術 格闘術 火魔法 水魔法 調理
【オプション】無し
ティガ・ボロワ 男 32歳
【種族】人間 (ヒューム)
【状態】普通
【スキル】剣術 火魔法 風魔法 土魔法 調理
【オプション】無し
変なものが見えるようになった。
ステータスみたいに頭の中にふわっと浮かぶ感覚。
「なんだろ?これ」
【ステータスの確認をお勧めします】
システムメッセージさんが僕にステータスの確認を勧めてきた。
何か新しいスキルでも増えたのだろうか。
エドガー・ファーブル 男 16歳 召喚士
Lv.39
HP2600/2600
MP2890/2890
力2400
守1800
速2130
魔2300
器2900
スキル:召喚魔法Lv.2 槍術Lv.13 火魔法Lv.6
加護:勇気の証
特に変わったことは無いように感じるけど.............何か変なことでもあっただろうか?
【ステータスの確認をお勧めします】
同じことを繰り返すシステムメッセージ。
確認する............まさか、これかな?
エドガー・ファーブル 男 16歳
【種族】人間 (ハーフエルフ)
【状態】普通
【スキル】槍術 火魔法 召喚魔法
【オプション】付与不可能
【加護】勇気の証:【能力1:心眼】対象のステータスの一部とオプションを確認できる。オプションで与えられた力と運命に対抗出来る唯一の力。対象を確認することにより効果が発動し、オプションは一時発動不能状態になる。
「お、【オプション】??」
何故こんなものが見えるようになったのか、理由はわかったけど知らない単語が出てきた。
聞いたことのないステータスだ。
【スキル】や【固有能力】、【加護】【称号】なんかは聞いたことがあるけれど、【オプション】なんて初めて聞いた。
それに僕の【付与不可能】ってなんだろう?
もう一度ここをじっくりと調べてみよう。
【付与不可能】:オプションを付与することが出来ない。この能力はオプションでは無い。
オプションってやつじゃないらしい。
付与出来る人と出来ない人がいるのか。
でも.........オプションって誰が付与するんだ?
そもそもオプションって何だ?
「ますたぁ........どうしたの?」
『考え事をしているようだな』
「............システムメッセージさん?」
【その質問にはお答え出来ません】
答えられないと言われてしまった。
なんなんだ?オプションって。
人化したローチと足下をのしのし歩き回るジャックも確認してみた。
ローチ 女 1歳
【種族】蟲人
【状態】普通
【スキル】風魔法 忍術
【オプション】無し
【特殊】召喚特典:人間並みの知能が与えられる。言語の壁が無くなる。常に清潔が保たれる。チート能力を一つ与えられる。食事が人間のものでも大丈夫になる。一定まで強くなると人化or進化する。人化は人と虫、両方の姿を行き来可能。
ジャック 男 2歳
【種族】虫 (アマミノコギリクワガタ)
【状態】普通
【スキル】剣術 格闘術 土魔法 紳士の嗜み
【オプション】無し
【特殊】召喚特典:人間並みの知能が与えられる。言語の壁が無くなる。常に清潔が保たれる。チート能力を一つ与えられる。食事が人間のものでも大丈夫になる。一定まで強くなると人化or進化する。人化は人と虫、両方の姿を行き来可能。
「すごいな、色々出てきた」
ローチやジャック達が全然汚れたりしないのは【召喚特典】のお陰なんだな。
「それに、ローチ?虫にもなれるんだってな」
「え?そうなの?やってみるねー」
自分で虫と人の姿を行き来出来るのに気付いていなかったらしい。
「ふんっ!」と身体に力を入れてふんばりはじめる。
――カッ!
女の子のローチの身体が光り輝き、みるみる内に縮んでいく。
数秒もすれば、光の塊は小さなゴキブリの形になった。
『おお.........おおー!』
「ほんとに変化した.......!!」
『ローチ殿がゴキブリになった!??』
「ローチは元々ゴキブリだよ!??」
『おおー!』と叫びながらゴキブリの身体でカサカサ動き回るローチ。
数日ぶりのゴキブリの身体が楽しくてしょうがないらしい。
『すごい!ますたぁ!すごい速い!』
「大きさは小さくなっても速さは変わらないからねぇ」
人間の身体からゴキブリの身体になっても速さは変わらないままなので、体感速度は速くなるのだ。
「でも........まさか異世界の虫は人化出来るとは...........。やっぱり勇者の故郷は魔境だな」
通常、人化できる魔物は高位の魔物に限られる。
例えば、『ドラゴン』といった大型の魔物や、『フェンリル』や『フェアリースライム』なんていう伝説級の魔物などだ。
もし、異世界の虫達がみんな人化できるのなら............流石は勇者の故郷、魔境過ぎる。
『いやいや、向こうの虫は魔法使えないし人化もしないぞ』
そんなジャックの声もエドの耳には届かない。
まだ見ぬ勇者の故郷に思いを馳せているのだ。
「そんなすごい虫ばかりの世界なんて..........天国じゃないか..........」
『マスター殿、全然聞いてないな..........』
「ははは、僕の息子も大概病気だよねぇ」
伝説級の虫ばかりの夢の国なんて、虫好きにはたまらんのだ!
『む、戻るー』
『おお、ローチ殿。服は忘れずにな』
走ったり飛んだりするのに飽きたローチはカサカサと地面に落ちている服の下に入っていく。
―――カッ!
服の中身が輝いてむくむくと膨らんでいき、
「じゃーーん!」
「おおー!ローチちゃん凄いねぇ、そのまま着れるんだ」
『裸じゃないのが残念でござる』
「えへへへへ、変態は汚い口を閉じろー♪」
『ぐっはぁぁぁぁ! (ご褒美を貰った音)』
その場でくるくると回ってスカートをヒラヒラさせるローチ。
ご褒美を貰ったエロクワガタは天に召された。
「ねぇねぇ、ますたぁ見てた?見てた?」
「えっ?あっ、ごめん見てなかった.......」
「むー、ますたぁの馬鹿ぁ!」
「ごめんてローチ..........」
「ハハハ!なんだかアンリちゃんを思い出すなぁ。性格も見た目も全然違うのになんでだろうね........」
父さんの何気ない言葉に胸がズキリと痛む。
こめかみがぴくっと動いた。
「あっ..........ごめんね、エド。でも、本当に僕の見てた二人に似てたもんだから........」
「別に謝ること無いよ父さん。僕、もう諦めたからさ............。だから最後に一言だけ伝えてから前に進んで行こうと思う。すぐには立ち直れないだろうけど、時間がかかっても僕はちゃんと前に進んでいくよ。そう決めたから」
「そうか...........エドも、大人になったんだよな」
優しげな目を僕に向けてくる父さん。
いつもふざけた感じの父さんの癖に、そんな顔も出来るのかよ。
いきなりちゃんとした大人っぽくなりやがって。
ああもう........まだ僕も全然子供のまんまだよ.............。
「ローチは.........居なくならないよ?」
「ははは、そりゃ僕の使い魔だからな」
「ずっといっしょー♪」
にへら~、と笑うローチ。
ローチ幼さの残る可愛らしさはアンリの完成された美しさとは方向が違えど、似たような、安心するものがある。
どうしてかはわからないけど言われてみればアンリとローチは似ていないのに似ている。
なんでだろ?
「振り回されてるとこじゃない?」
「ローチはいい子ですー、ちゃんと言うこと聞いてくれますー」
「そのうち尻に敷かれそうだねww」
「使い魔の尻に敷かれる召喚士なんか居るわけないだろッッ!」
「あははは!ムキになるエドおもしれー!」
腹をかかえて笑う父さん。
前言撤回だ。
コイツはアホです。
脳味噌ガキのアホな父親です。
誰がアンリとローチの尻に敷かれるだ、僕は尻に敷かれてなんか無い!
アンリにはちょっと敷かれてたかもしれないけど、とりあえずローチは無い!
くいくい。
「ますたぁますたぁ」
袖を引っ張ってくるローチ。
「ん?なに?」
「ジャックおじさんがもぞもぞしてるー」
「えっ.........」
サーッ、と顔から血の気が引いていく。
くるっとジャックの方を振り返ると、
『む、むずむずするのだ..........』
「...........ジャック?」
『何かが.........出てきそうだ、マスター殿...........』
「なあ、嘘だよな?嘘だって言ってくれよ?」
『嘘じゃない........ッッ!ま、マスター殿!出る!出るでゴザルっっ!』
「わぁああああぁぁぁぁ!!服!服持ってきて!外で汚いモノ出させる訳にはいかないんだよぉおぉぉぉぉ!」
『んおおおおおおおお!!!』
大声で叫ぶジャック。
予想はしていた、予想は。
だけどこんなに早く来るなんて思わなかった!やめろよ!汚いもの見せるんじゃあ無い!
――ドンドコドンドコドンドコドンドコ♪
何故か太鼓の音が光り輝くジャックから鳴り響く!
外に出ているギルドの冒険者達や村人達は突然の発光に驚き、ジャックに注目が集まっている!!
「わぁぁぁぁぁ!やめろぉおぉぉぉ!皆も見るな!見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『んほぉぉおおおおおおお!』
――ドンドコドンドコドンドコドンドコ♪!!
ヒートアップする太鼓の音。
どんどん輝きを強めるジャックの身体。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『おおおおおおおお!.........ぉ゛お゛ッッ!!』
――カッ!!!
―――ドコドコドォォォォォン!!
村は、ジャックの放つ輝きに包まれた...........。




