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私、勇者の嫁になるそうです


―――ガタガタガタガタガタガタガタガタ


 馬車が小刻みに揺れる。

 窓から外を覗けば王都が見えてきた。

 私がこれから住む場所だ。


「はぁ.........」


 私は、後悔していた。

 あんな別れ方なんてしなくたって........よかったじゃない.......。

 あれから一言も話さずに終わっちゃうなんて........。


 ううん!エドが悪いのよ!

 私の気持ちも考えないであんなこと言うんだから!

 私は!........私は........................あなたじゃなきゃ嫌だったのに............。




 彼と最初に話したのは五歳の時。

 両親の都合でエドの家に預けられるようになったその日に彼と初めてまともに話した。

 きっと私は慣れない環境で少し元気がなかったんだろう。そんな私にエドは元気づけようと彼の作った虫の標本を見せてきた。

 馬鹿だよね、エドって。

 女の子が虫の標本なんか見て喜ぶわけないのに。

 それに気付いた彼の慌てっぷりに私は思わず笑ってしまった。

 変な子。

 仲は良くなったけど、最初はそんな印象だったんだ。


 彼のことを好きになったのは私が6歳の時。

 私は薬草を摘みに村の外に出ていたの。

 どうして薬草が必要だったのかは覚えてない。だけど、その時はどうしても薬草が必要で私は村の外に急いで取りに行ったんだ。


 その時だった。

 いつの間にか私はゴブリンの群れに囲まれていて、確か四匹は居た。

 六歳の子供がゴブリンなんて倒せるわけがない。

 一匹だって無理なのにそれが四匹だ。私はそこで死んだと思ったの。でも、そうはならなかった。


『アンリ!』


 声がしたと思ったら、虫取り網片手に此方に走ってくるエド。

 駄目だ、来ちゃ駄目。

 エドが死んじゃう!


『ゴブッ、ゴブゥゥ!』


 二匹を私の周りに残してエドに襲いかかる二匹のゴブリン。

 私は残酷なものが見たくなくて目をぎゅっとつぶった。

 だけど、聞こえてきたのは彼の悲鳴ではなく、


『ゴブェェェェ!!』


『ぜっ!はぁっ!』


―――ザシュッ!ザクンッ!


 目を開けたら全部が終わっていた。

 虫取り網だった筈のものは槍に変わり、まわりには死んだゴブリンとその肉片。


 血塗れになった彼は地面にへたり込む私に手を伸ばしてきた。

 絶体絶命の窮地を救ってくれたのは白馬の王子様でも異界の勇者様でもなく、平凡な虫取り少年のエドだった。

 前から彼のことは少なからず思っていたけれど.........そこで、私は完全に落ちてしまったんだ。

 



「好きだよ........エド............勇者のお嫁さんになんてなりなくない...........」

 

 ぼそりと漏らした言葉。

 護衛の騎士はそんな言葉も聞き逃さない。


「聖女様、そのような言動は慎んでいただきたい。もし他の誰かに聞かれでもすれば極刑とまではいかなくとも重罪は免れませんぞ」


「貴方に私の何がわかるっていうのよ........」


「..........とにかく、その男性のことはお忘れ下さい。貴方は既に婚約者のいる身です。それも王族に並ぶほどの地位をもつお方ですよ」


「黙ってて......五月蠅い............」


「............畏まりました」


 どんなに勇者がいい男でも。

 どんなに勇者が偉い男でも。

 どんなに勇者が優しくしても、私はきっとエドのことが好きなまま。


 結婚してもずっと彼の顔が頭の中にちらついたまま一生過ごしていくのだ。

 もし村に帰れることがあっても、きっとエドは村の誰かと結婚してる。

 自分じゃない、誰かと並んで幸せそうにしているエドの姿なんて見たくない。

 相手は誰?ニーアちゃんあたりかな。あの子絶対エドのことが好きだったし。

 エド........虫好きの馬鹿だけど顔は良いからね..............顔は。

 ...............................嘘、中身だって良いよ。



 こんな苦しい人生なら死んで楽になってしまいたい。

 でもこれだけの監視の中で自殺なんて出来るわけがない。


「手紙出したら、読んでくれるかな..........」


 ―――ガタガタガタ


 馬車は揺れる。

 王都の門が見えてきた。























 王都につくと、すぐに私は王城まで連れて行かれた。


「おお!お主が聖女であるか!

 ほっほっほっ、これで三人の乙女が揃った。勇者も既に城の一室で待機しているからすぐに会わせてやろう!」


 玉座の上で機嫌良さそうににぺちゃくちゃと早口で喋る国王。

 顔には出さないけど虫酸が走る。

 「会わせてやる」って?私たちが勇者に会いたがってるみたいじゃない!

 ふざけないで!こんな所になんて来たくなかったのに!




 


 謁見が終わった私たちは王城の一室に集められた。

 私の他に二人。

 各地から集められた女の子が一緒に来ていた。


 一人は【剣聖】の女の子。

 名前はフィーネ・リオン。

 青い髪の可愛い女の子だ。


「村に帰りたい.............ライルに会いたいよ............」


「フィーネちゃん..........」


 私もその気持ちは痛いぐらいにわかる。

 彼女にはお互いに大切に想いあっている婚約者が居たそうだ。

 小さい頃からの幼なじみで、向こうからプロポーズしてきたらしい............羨ましいな、そんなの。

 でも、【剣聖】なんて職業貰っちゃったせいでその婚約者との結婚はもう絶対に出来ない。

 私はまだエドとそんな関係じゃなかったし............彼女の方がずっと苦しい思いをしているのだろう。


「私は、婚約者は居たのですけれど政略結婚でしたので.............」


 そう言ったのはほんのり紫色がかった色の銀髪の女の子。

 【賢者】の職業のラスティナ・グリアモール様だ。

 グリアモール伯爵令嬢の彼女にも政略結婚という形で婚約者が居たらしいが、それも今回の勇者召喚によって破談になったそうだ。

 

 なんで魔王を倒すためだけにこんな迷惑な勇者召喚なんかするのだろう。

 勇者じゃなければ倒せないのだろうか?

 勇者はそんなに強いのか?


 それに、勇者の嫁になるというのも【聖女】【剣聖】【賢者】の三人が勇者の側に居ることで勇者が強くなるというそれだけの理由なので、それで婚約者との仲を引き裂かれるなんて我慢ならない。

 どうして神様はこんなルールを作ったのだろう。


「私が好きなのは、エドだけだもん..........」


 勇者が強いのならエドだって強い。

 子供で職業も持ってないのに魔物をあっさりと倒してたエドだもん、勇者なんかより強いに決まってる。


 ――そうだね、強いよ?彼は。


「ッ!??」


 突然頭に声が響いた。

 男の人の声だ。

 でも、これはまるで――


 ――うん、これは【神託】だからね。つまり僕は神様なんだ。ちなみにもう一人、僕のお嫁さんも神様をしてるよ。


「なんで..........なんでよ!」

 

 ――うおっ!?


「あ、アンリちゃん!??」


「突然どうしましたの!?」


 大きな声を出してしまった。

 フィーネちゃんとラスティナ様が驚いた声を出す。 

 彼女たちには聞こえていないのだろうか。


「なんで........何でこんなルール作ったのよ!ふざけないで!」


 ――ああ.......そのことだね。それは先代の神がやったことだから、僕たちは今それを直しているところなんだ。そのルールもすぐに変えるように女神の方から神託が降りるはずだよ。


「へっ.........?」


 ――だから、これから会う勇者には気を付けて。アレには先代の息がかかってる。見たところ色欲の塊だし、何かしらの方法で君達を手込めにしようとしてくるだろうから、絶対に気を抜かないで。


「は、はい..........」


「アンリ......ちゃん?」


「アンリ様がおかしくなってしまわれましたわ........」

 

 ――それと最後に。【勇者】は強いけど誰も最強だなんて言ってないよ?人間達は【勇者】は絶対に負けないと思ってるみたいだけど............ただの虫好きの村人に負けてちゃあねぇ.........?


「え........エド!!」


 ――じゃあ、二人にもこの事はしっかり伝えておくんだよ?絶対に勇者なんかに負けちゃ駄目だからね。


「は......はい!!」


 気付けば目から涙が溢れていた。

 私.......まだ終わってないんだ........!

 ううん、私だけじゃない。

 フィーネちゃんもまたライル君に会えるかもしれない。

 

「あ、アンリちゃん?」


「フィーネちゃん、ラスティナ様!勇者には絶対に負けちゃ駄目だからね!

 そうすれば婚約者達とまた結ばれるって!!」


「「........へっ?」」


 ポカン、とした表情になる二人。

 大丈夫、二人も私が守ってみせる。


 エドにもう一度会いたい。

 好きって伝えたい。

 ぎゅって抱き締めたい。

 ぼんやりしてるエドのほっぺをぐにぃって引っ張ってやりたい。

 エドの為にまた料理を作りたい。

 エドと沢山お喋りしたい。

 あの綺麗な黒髪をくしゃくしゃになるまで撫で回してやりたい。



「皆様、【勇者】様がご到着しました」


―――ガチャリ


 ドアが開かれる。

 入ってきたのは王城勤めの執事二人と茶髪の青年。


「やあ!君達がボクのお嫁さんだね!」


 顔そのままの軽薄そうな声。

 いやらしい目つきで舐め回すように私達の身体を見てくる。

 非常に不快だ。


「ボクの名前は――」

「そこまでで結構よ、○○○○(ピー)野郎。貴方の名前なんて聞きたくないわ」


「ッッ!??」


「あ、アンリ様!?」


 驚いた表情になる勇者の男。

 執事達は私の突然の暴言に慌てる。


「私たち全員、貴方のことなんて永遠に好きになったりなんてしないから」


 にいっ、と笑顔になってみせる。


 エドが待ってる、だから私は絶対に負けない。

 私の、勇者への宣戦布告だ。



???「はあぁぁー、とりあえず信じてくれたかなぁ。彼女、聖女だしそこらへんのカンは良いはずだよね。

 さて、彼はどうしてるかなー....................あっ、そろそろあっちも成る頃だね。そうなると能力にも目覚める頃か、じゃあ今度は...........あ、いやまずは向こうの彼からかな。えーと?【転生者】で【テンプレ】【寝取られ】【ざまぁ】のオプションね。成る程、あの女神最近の流行に乗ってネット小説でも書こうとしてた所かな。削除、削除っっと..........」





第一部に『設定とかあれこれ』を割り込み投稿しました。

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