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ゴ..........ザルぅ............


「ま、ますたぁ?」


「...........へっ?」


 気が付いたらローチが美少女になっていた。


 あ......ありのまま、今起こったことを話すぜ。

 クロゴキブリのローチが「むずむずする」と言って苦しそうにもぞもぞしていたと思ったら美少女になっていた。

 な.....何を言っているかわからねーと思うが(以下略


 とにかく!ローチが光って僕と同い年くらいの美少女になった。

 しかも全裸の。


「あ.......えと、ますたぁ。このかっこ、恥ずかしい.......」


 アンリ程ではないけどD近くありそうな大きな胸と股間を手で隠して恥ずかしそうに床にうずくまるローチ。

 褐色の滑らかな肌に白い髪。

 目は燃えるような赤い色で頭からは触角のようなアホ毛が二本、ぴょんと生えている。

 なにこれ可愛い。


「あ..........あ!母さん、服!服!」


『ゴ........ザルぅ...............』


「えっ!?あっ、はいはい!服ね!服!」


 慌てて服を取りに行く母さん。

 ジャックは澄んだ目をして触角の付け根から体液を流して褐色美少女になったローチをガン見している。

 コイツ.......なんて綺麗な目をしてやがるんだ........。


 って、そんなの許すわけないだろ!


「ちぇすとぉぉぉ!」


―――バキィィッ!


『ゴザルッっ!!』


 メリッ、と蹴った足はジャックの甲殻を粉砕して吹っ飛ばし、壁にめり込ませる。

 死んだか?

 いや、大丈夫だ。峰打ちでござる。


『あ、足には、峰も刃もないでゴザル...........ぐはっ』


 がっくりと倒れるエロクワガタ。

 悪はこうして滅んだのだ。


「う、うう........もうローチお嫁に行けない..........」


 顔を赤くしてぷるぷると恥辱に震えるローチ。

 そこへ母さんが服を持ってやってきた。


「ローチちゃん、隣の部屋で着替えるわよ~」


「ますたぁのおかーさんありがとう........」


「良いのよ~。ささ、すぐに着替えてきましょうね」


 隣の部屋に連れて行かれたローチ。

 さて、僕はこのエロクワガタの治療でもしますか。


『ぐ.........はっ..........。某だけ、扱いが酷いのでござる...........』


「HAHAHA☆

 節操無しのエロクワガタにはきちんとした制裁が必要だからな。発動『ヒール』」


『ぐっ、ふぅ.........。某は見るだけで手は出さない安心安全の紳士でござる!美女、美少女を眺めているだけで満足なのでござるよ!』


「はいはい、さいですか」


 「紳士、紳士」と力説するジャック。

 わざわざ護符一枚消費して回復させたけど、もっかいぶっ飛ばしてやろうか。

 

「所で、『次ローチを不快にさせたら二日間飯抜き』って言ってたよな?どうする?それでいいか?」


『なっ!はっ!か、借り一つ!借り一つ消費して今回は許して欲しいっ!飯抜きはきつい!きついのだ!』

  

 必死で懇願するジャック。 

 借り一つ消費か、まあ今回ばかりは許してやろう。 

 ちょっと突然過ぎたからな。


「良いだろう、許す。だけど後でローチに謝っておけ」


『ありがたき幸せにござるっッ!』


 ははぁー、と平伏するエロクワガタ。

 次からは本当、気を付けろよ。












 しばらくして、隣の部屋から服を着たローチとお母さんが出て来た。


「どうかしら?アンリちゃんの服のお下がりだけど..........サイズ敵にはぴったりだと思うわ」


 母さんの後ろでもじもじしているローチ。


「あ、あの.........ますたぁ、どうかな........??」


 母さんの後ろから現れたローチは、











 天使だった。












『ゴ..........ザルぅ.............』


「か、可愛いよローチ...........。驚いた.........」


 なんてことは無い。

 どこにでもある村人がよく着ている布の簡単で、地味なドレス。

 それがローチが着たことによってきらきらと輝いて見えた。

 楽に作るためだけの簡単な作りのそれは『地味』というよりもむしろ『シンプルで無駄が無く洗練された』というように感じられた。

 

 もうこの際どうしてローチが人間の女の子になったかなんて考えるのはやめよう。

 可愛い、それだけだ。

 可愛いは正義、ローチはジャスティス可愛い女の子になった。


 事実、あまりの可愛さにジャックは歓喜にうち震え、昇天しかけている。


「あうぅぅ..........」


 顔を赤くして俯くローチ。

 凄い破壊力だ、心臓に悪い。


『ゴ.........ザルぅ...........』


 鼻血?を垂らして昇天しているジャック。

 お前さっきから『ゴザル』しか言ってないぞ。

 

『おーいそのまま昇天する気か? 護符一枚無駄にさせたんだから死んだら承知しないぞー、殺しちゃうぞー』


『む、マスター殿、死んだら殺せないぞ』


『よっし反応した。ちゃんと生きてるな』


 のしのしと歩いて寄ってくるジャック。

 そこで僕は気付いてしまった。


「あれ........もしかしてジャック、お前も..........」


『む?どうしたのだ、マスターよ』


 近い将来、僕はおぞましいものを見ることになるであろうと確信した。

 やば、ちょっと想像しちゃったよ.........気持ち悪い.......。

 おええぇぇぇ........。


「ご飯に、しようか........」


「ますたぁ?!どうしたの、元気ないよ?」


「あらあら~?」 


 僕は力なく食卓についた。

 ローチが心配してくれてる。

 ゴキブリだったはずなのに、貴女は天使か、天使なのか。


 はぁ........今日は.......早く寝よう.........。

 



 






















 次の日。

 三人と一匹で朝食を食べていたときだった。

 

―――ドン!ドンドンドン!


 凄い勢いで家のドアが叩かれた。


「あら~?こんな朝早くからどなたかしら?」


 母さんが席を立ってドアを開けた。


「はい、どなたかし――」

「ただいま!マイスウィィィィトハニィイィィィィ!!」


 ドアが開くやいなや、いきなり母さんに抱きついてきた男。

 オリハルコン製の片手剣とアダマンタイト製のバックラーを腰から下げた黒髪の美丈夫だ。

 年齢は20代前半くらいに見える。


 はい、ウチの父親です。


 こんなアホみたいだけど一応冒険者ギルド最強クラスのSランク冒険者の父です。


「あ、あなた!??」

 

「やあハニー?貴女のアルト・ファーブルが帰ってきましたよ!

 ギルドからこの村の近くに調査隊を派遣するって聞いたからそれについてきたんだ!」


「は、はぁ」


 うん、馬鹿だよね。

 朝っぱらからハイテンションなアホな父親です。 流石にもうこんなのを100回以上見せられてると慣れてくるよね~。


『む、何奴っ!?』


「ますたぁ、変な人が入ってきたー」


「あれはね、僕のお父さんだよ」


 ああ認めたくない。あんなのが僕の父親だなんて。

 いや確かに父さんは見た目格好いいけどさぁ.........。


 ホント、馬鹿なんだよこの人。


「やあエド!そろそろ母さんを本気で愛せる(意味深)準備は出来たかな?」


「するわけないだろ父さん!僕はマザコンじゃない!」


「ちぇ、まだ安心できないかぁ」


 そう、この父親は僕にまで母さんを愛する(意味深)ことを勧めてくるのである。

 その理由は母さんにあって、実は母さんはエルフなんだ。耳は幻術でいつも普通の人間のものに見えるようにしているけれど。


 この国ではエルフは自由に暮らしている。

 エルフという種族は薬学や魔法等、様々な知識に精通して更に皆とんでもない美形ばかりだ。だからエルフを狙って襲う輩は後を絶たない。 

 父さんもそういった奴らに襲われていた母さんを助けてその時にお互い一目惚れしたらしい。 


 二人の間には一つだけ問題があったんだ。

 それは寿命の壁。

 人間の男性の平均寿命は約80年、そしてエルフの女性の平均寿命は約300年。

 父さんは自分が死んだ後も母さんのことを守り続ける夫が欲しいらしい。

 それで何をとち狂ったのか僕を母さんの次の夫にするべく何度もそんなことを言ってくる。

 僕が寝てる時に枕元で催眠術をかけてたことまであるらしい。


 確かに人間の父さんと母さんの間に生まれた僕はハーフエルフっていうくくりになる。

 見た目はほぼ普通の人間だけど半分はエルフが混ざっているから寿命はかなり長いだろう。

 父さんが僕を選んだのはそんなとこだろうか。


「ハハハ、エドは相変わらずつれないなぁ!ん?そこにいる女の子は誰だい?アンリちゃんは?」


「そこの女の子は『ローチ』っていって僕の使役魔物だよ。元はゴキブリだったのに何故かこうなった。アンリは............勇者の嫁になりに村を出てったよ」


「ありゃ.........そうだったのか。お前アンリちゃんのこと好きだったもんなぁ.........」


「わかってたんなら僕に母さんをすすめるのはやめてくれよ........」


「ははは、それはやめられないかな........。

 ところで、元はゴキブリだったってどういうこと?」


 僕と父さんはひょいっ、とローチの方を向く。

 いきなり二人に顔を見られたローチは不思議そうにこてん、と首を傾げた。


「んー?」


「いや.......普通にスルーされたと思ってたんだけど」


「だって.........気になるじゃん?」


「僕もなんでローチが人間になったのか全然わかんないんだけど.......」


「えー、気になるなぁ」


 やめろやめろ、べしべし僕の背中を叩くんじゃあない。

 ちょっ、痛いから父さん、痛い痛い。

 と、その時だった。


―――ガシィッ!


「あだっ!痛い!妻の愛の愛アンクローが痛い!

 妻の愛が痛くて幸せ!」


「エド?ご飯の続きにしましょうか」


「はい、母さん!」


 母さんのアイアンクローが父さんの頭にめり込んでミシミシ言っている。

 ウチの残念な父さんはとても幸せそうな笑顔を見せていた。僕は将来こんな変態にはなりたくないな。


『なんだか同志の匂いがするな』

 

「この人ほんとにますたぁのお父さんなのー?」


 父さんの頭を鷲掴みにしたまま食卓についた母さん。

 はぁ、帰りは父さんと一緒か...........精神的にきつそうだ........。


 調査が終わる予定なのは明後日の午前。

 明後日の午後には村を出て出発だ。

 ああ........やっと、アンリに会いに行ける.......。

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