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残念クワガタ


【アマミノコギリクワガタの召喚に成功しました】

【召喚魔法がLv.3になりました】

【使役魔物の残り枠はあと2です】

【アマミノコギリクワガタに名前を付けますか?】



 のし、のしのし。


 重さを感じさせる力強い歩きで彼は足下に近づいてきた。


『うむ。マスター殿これから宜しく頼む』


『うん、宜しく。ところで今ゴザル抜けたけど良いの?』


『気にしたら負けでゴザル』


『あ、そうなの』


 意外とこの『ゴザル』って語尾はどうでもいいらしい。

 

『なんかさ、語尾とか大切にしてる人いるから貴方もそうなのかと』


『ほう、例えば?』


『うちの村によく来る商人の女の人なんだけどね。猫の獣人の人で語尾に「にゃ」って付けるんだ。「猫耳としての矜持」とか「信念」とか言ってたよ』


『是非.......生で見てみたいものだな.........』


『どしたの.......?大丈夫?』


『大丈夫だ、問題ない』


 そう言いながらも触角の付け根から器用にたらりと体液を垂らすアマミノコギリクワガタの彼。


 ホントに大丈夫か?病気とかじゃないの、これ?


 肩の上でローチがブルッ、と震えた。


『おじさんきもちわるいー』


『ちょっ、ローチ、初対面でそれは酷いと思うよ!謝りなって!』


『えー、でもこの人なんだか近寄りたくない雰囲気を感じるよ?』


 いきなり彼?に向かって毒を吐いたローチを抑える。

 流石に初対面でいきなり罵倒は酷いと思う。

 しかし、


『マスター殿、マスター殿』


『あ、ローチがごめんね』


『某は気にしないでござる』


『そうなの?でもホントに辛かったら――』






『安心して下され、むしろご褒美でござる!』







『『..................』』


 ぐいっ、と大アゴを天に突き上げて胸を張るようなポーズをとる侍モドキな彼。

 どうやらテンションが上がってくると語尾が「ゴザル」になるみたいだ。

 ハハハ、可愛いやつめ。




 はぁ.......変なのを召喚してしまった...........。



『そ、そうですか。じゃあ名前つけるけどいいかな?』


 無理矢理な話の切り替え。

 この類の会話を続けるとヤバいと踏んだエドの逃げの一手である。


『そうだな、某にも名前が無いとマスター殿も呼びにくかろう。是非とも宜しく頼む』


 話の切り替えについてきてくれた事に安堵する。

 さっさと名前を決めて早くレベル上げに取り組まなければ。


『よし..........じゃあ「ジャック」ってのはどうだろ?』


『「ジャック」.........「ジャック」.............うむ、なんとなくしっくり来た。ではこれから某はジャックと名乗ることにしよう』


【アマミノコギリクワガタの名前に『ジャック』を設定しました】


 よし、これで彼にも名前がついた。

 ステータスも変化しているはずだ。



ジャック 男 2歳

Lv.1

HP130/130

MP40/40

力140

守130

速90

魔30

器60

スキル:剣術Lv.1 格闘術Lv.1 土魔法Lv.1 紳士の嗜みLv.1




「おお.......流石はニホンの化け物集団.........」


 一つだけスキル欄に燦然と輝く五文字が非常に気になるが、とりあえずLv.1でこれは中々に強い。

 強くなる目的だけを考えたら彼を召喚したことは正解だっただろう。


『おおー!これがすてーたすというものか!

 おおっ!おお!げぇむのようで面白いぞ!』


 はしゃぐ良い声のおっさんクワガタ。


「この、【紳士の嗜み】ってなんだ?」


『む、むむ!これは凄いでござる!』


「凄いのか!どんな能力なんだ!?」


 気になるぞ。

 これだけの強いステータスを持っているジャックのスキルが弱いはずがない。

 システムメッセージさんも言っていたが、異世界から召喚した虫には【召喚特典】として強いスキルが貰えるらしい。

 それならこの【紳士の嗜み】とかいう変な名前の見たことも聞いたこともない変なスキルもきっと強い筈だ。


『マスターよ!聞いて下さい!』


「おお!どんなのなんだ?!」








『このスキル、「壁を透視」して絶対にバレない完璧な覗きが出来るでござる!』










「えっ..........それだけ?」


『大丈夫、安心してほしいでござる。ちゃんとマスター殿と視覚共有もできるでござるよ』

 

 うん、期待した僕が馬鹿だったんだな。

 彼の性格とかも考えて予想するべきだった。


「ジャック..........」


『ん?マスター殿、どうかしたか?』


「そのスキル。僕が命令した時以外は使用禁止ね?もし破ったら..........」


 ピッ、と親指を下に向けて首をかっ切るジェスチャーをする。


『そんなご無体なぁぁぁぁぁぁ!!』


 崩れ落ちるクワガタムシ。

 何処が紳士だよ何処が。


『ますたぁ、やっぱりこのおじさんきもちわるい。ローチ近寄りたくない.......』


 はぁ........召喚するやつ間違えたかも............。



















―――シュウウウウウゥゥ


 煙を上げて地面に半身をめり込ませているクワガタムシが一匹。


「さて、冗談もほどほどにしてそろそろ魔物狩りを始めようか。時間は有限、限られてるからね、こんな茶番につきあってる暇は無いんだよ」


『ぐ、ふぅ..........某のマスターは恐ろしい...............。覗きは、男の夢であるというのに...........』


『戯れ言も大概にするのー』


『ぐっ!ふぅ!ふっ!ローチ殿からご褒美でゴザルっっ!!

 元気がもりもりと湧いてきたでござるぅぅぅぅ!』


『うえぇぇ........気持ち悪い.......。ますたぁ助けて........』


『フハハハ!覗き許可が下りてもローチ殿から罵倒されてもどちらもご褒美でござるッッ!』


 どちらに転んでもジャックさん大勝利。

 元気になった彼は、めり込んだ身体をのしのし動かして這い出てくる。


「そうだね。次ローチを不快にさせたら二日間メシ抜きだからな。覚えておけよ」


『むおっ!それならば気をつけるとしよう』


 ジャックはぶるぶると犬のように器用に身体を震わせて土をとばす。

 全く、こんな変態紳士だったとは。

 素のスペックは高いのだから勿体ない限りだ。


「はぁ........それじゃあ魔物を倒しに行こうか」


 肩にローチを乗っけて歩き始める。

 ジャックはブブブブと羽を羽ばたかせて飛び上がる。

 このまま飛んでついてくるみたいだ。


 昨日のゴブリン掃討戦でこの辺りのゴブリンは殆ど狩り尽くしてしまったらしく、ゴブリンは全く見あたらない。


 だとするとこの近くで狙えるのは『フォレストボア』『ポイズンスネーク』あたりだが、これら二体はあまり経験値が貰えない。

 だからもう少し森の奥へと入ることにした。




「今日狙うのは『サーベルウルフ』だよ。群れで動いてるから魔法で一気に潰す」


『りょーかいますたぁ!』


『うむ、某はあまり魔法は得意では無いようだがどうだろうか?』


『確かジャックは【力】が高かったな。じゃあ討ち漏らしを頼むよ。僕も相手が近くに来たらやるけどね』


『うむ、承った』


 レベルが低く、自分のステータスの偏りを理解した上でハッキリとした受け答えをしてくれるジャック。

 普段からこうならいいのに...........。


 



 そろそろ『サーベルウルフ』が棲息する地帯に入る。

 警戒を強めていつでも戦闘に入れるように槍を構えながら歩く。


 『サーベルウルフ』はこの辺りの森にしか棲息していない魔物だ。

 村の猟師達が狙うのは基本的に『フォレストボア』や『アビスボア』などの肉が美味い魔物なので狙う相手も村の猟師達とは被らずに済む。

 この魔物と戦うのは初めてだが、今の僕たちなら倒せるはずだ。


『ますたぁ、あれかな..........?』


 ローチが何か見つけたらしい。

 あれは.........


「そうだねローチ。サーベルウルフだ......」


 フォレストボアを群れで追い回す灰色の狼。

 その狼の前脚からは一本ずつぎらりと光る鉄の刃が生えている。

 名前の由縁となるこの魔物の特徴だ。


「ブオッ!ブッボォッボッボッ!」


「ギャウ!ギャウウウ!」

「ガッガッ!ガウ!」

「オオオオォォォン!ウオオォォォン!」

「グアウウウウウウ!」


 先行した二頭がフォレストボアの前方に回り、一頭は真後ろから追いかける。

 そして残りの三頭が囲むように少し離れたところを走って追いかける。 


『あのフォレストボアがやられてサーベルウルフが集まってきたところで一気に攻める。準備しておいて』


『うん!』

『御意』 


 静かに、息を殺してサーベルウルフ達の後を追いかける。

 足音も立てぬように気を張り続けた。


「ウォオオオォォォォン!」


「ガウッ!ガウガウガウ!」

「ウオオォォォン!」

「ガゥゥゥ!」


 群れのリーダーらしき狼が吠えて群れに命令を出した。

 フォレストボアの体力も殆ど尽きかけているようでスピードがかなり落ち始めている。

 狼達はどうやらトドメを刺しに行くらしい。


 先行していた二頭が前方に立ちふさがり、三頭が横方向を塞ぐ、そして最後に真後ろから追いかけていた一頭が追いつき、


「ギャァァァァウゥッッ!」


「ブゴオォォォォォォッ!」


 フォレストボアに群がるサーベルウルフ達。

 決着がついたのだ。

 そして、


「行くぞ!」


 草藪の陰から飛び出すエド達。

 狼はいきなり現れたエド達に驚き、そして敵意を剥き出しにする。


「ガァァァウッ!」

「ガゥガウッ!」


「『火球(ファイアボール)』!」


追い風(フォローウィンド)! 旋風!』


 空中に火球を8個出して群れへと向けて飛ばす。

 ローチのフォローウィンドによって勢いを増したそれは狼達の居る場所を焼き尽くした。

 そして更に生き残りを旋風が切り刻む。

 後に残ったのは黒こげでボロボロになった狼らしき形をしたモノと猪らしき形をしたもの。


 僅か数秒の出来事だった。


「意外と、あっさり終わったな」


 いきなり強くなったせいもあって気が抜けていたのかもしれない。

 気付かなかった。


『マスター!後ろだ!』


「ガウッ!!」


 一頭群れから離れていたのが居たらしい。

 そいつが僕の真後ろまで来ていた。


『破ッッ!』


 が、唯一近くの警戒をしていたジャックが応戦。


「ガアッ!ガウッ、ギャイン!」


 なんとか攻撃を止めた。

 だが流石にまだLvは1とあってそいつを止めるだけにとどまる。


『マスター!某では倒せぬ、トドメを!』


「ありがとうジャック!はぁッッ!!」


―――ドスッ!


 槍を一閃。

 大きく口を開いた狼のその口の中に槍は吸い込まれるように入っていき、そのまま脳天を突き破って貫通した。


「『火属性付与(エンチャントファイア)』!」


 ゴウッ、と槍が火を纏い、その火は刺し貫いたサーベルウルフの体表を這うように伝って広がっていく。


「ガギャ!?ギャゥゥゥ!!」


 体内まで直接焼かれて苦しみ悶えるサーベルウルフ。

 数秒とたたずにサーベルウルフは黒こげになって地面に転がった。


【サーベルウルフの群れを討伐しました】

【経験値を700獲得しました】

【レベルが1上昇しました】

【Lv.31→Lv.32】


『マスター殿、危なかったな』


「ありがとうジャック。助かったよ」


『ますたぁが危なくてひやひやしたぁ。じゃっくさんありがとう!』


 いくらレベルが高くて、ステータスが高いといえども、不意打ちでは危険な目にあう場合もあると猟師の村人達からよく聞く。

 今の不意打ちを受けていたらどれぐらいかは想像出来ないが、大きなダメージは受けていただろう。


『ふふふ、一つ借りでござるな』


「うん、そうなるね」


『それではここで一つ借りを消費しても良いかな?』


「どうしてだろう。嫌な予感しかしない」


 ジャックはぐいっ、と頭を上に反らして胸を張ったようなポーズをとった。








『今日一日【紳士の嗜み】を使わせて欲しいでござるッッ!!!』


「却下で。」


『ゴザルぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!』


 崩れ落ちたエロクワガタ。

 頼れる男の頭の中身はいつだって青春時代なんだ。

 非常に残念だった。

読んで下さりありがとうございます!

日間8位になっててびっくりしました。読者の皆様には本当に感謝です。


ところでなんですけど.........実は気付いたらこの作品、アンリが村を出てからまだ一日と少ししか経ってません。つまりエド君が後悔してから追っかけるまで超早いです。

まだアンリも王都に向かってる途中なんです.......。

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