ポルタ村の騒がしい夜
虫取り坊主のエドがゴブリンキングを倒した。
小さな村では噂というものは一気に広がる。
その日、村では盛大に宴が開かれた。
村人総出でのお祝いである。
ゴブリンの巣が駆除されただけでもお祝いにはなるけれど、何より今日の主役は彼だ。
「さあさあ今日の主役のお出ましだぁ!『小鬼殺し』のエド!ここまで出て来いッッ!!」
木箱を並べて作った壇上の上に立ったゴリアテさんが僕を呼んでいる。
僕は呼ばれるままに壇上へと歩いていった。
「あのエド君がねぇ........」
「冒険者達でも倒すのが大変なんだろ?エド君は凄いなぁ」
「将来有望ねぇ!うちの子がもう少し早く産まれてたら是非ともお相手に推したのだけど。惜しいわぁ」
「ひゅーっ!いいぞエドーっ!」
わいわいと騒ぐ村人達。
「え、エドおにいちゃん、凄いんだね///」
少し恥ずかしそうな顔のニーアちゃん。
「エドにーちゃんかっけー!すげー!」
興奮しすぎて語彙力が落ちてるコトル君。
彼も僕より二歳年下の近所の幼なじみ君だ。
そして、少し遠くを見ればお母さんが。
ほっとしたような、それでいて嬉しそうな顔で此方を見ている。
目があったらひらひらと手を振ってきた。
皆エドの事を心から祝福してくれているのだ。
いち早いゴブリンの巣の発見に貢献したこと。
危険なゴブリンの巣からほぼ無傷で帰ってきたこと。
ゴブリンキングを彼が倒したこと。
正直エドからすればゴブリンキングに関してはローチの手柄だと思っているので、ちょっぴり後ろめたい気持ちもあるのだけど。
『ローチだけの手柄じゃないよ?ますたぁが相手の意識を注目させ続けてくれたおかげで勝てたの!』
そんな彼女?の言葉が彼の背中を押してくれた。
壇上へと向かっている今もローチは肩の上に乗っかって、嬉しそうに触角をひょいひょい揺らしている。
「ほれ!お前からも挨拶だ!」
「えっ!あっ、うえぇっ!?」
ゴリアテさんからひょいっとマイクを投げられる。
このマイクには魔石を加工したものが内蔵されていて、これに声を送ると声量を大きくしてくれる。
「あー、皆さん、今日はこんな沢山お集まり頂きありがとうございます」
緊張でカッチコチである。
「ハハハ!固いぞエド~!」
「緊張しちゃって~、可愛らしいわね~」
「ゆるーくでいいぞ!ゆるーくで!」
聞いてくれている皆が声援を送ってくれる。
優しい世界だ.........。
「今回のゴブリン討伐。僕が持ち上げられていますけど、僕は猟師の皆さん全員がこの宴の主役だと思っています。皆さんが居なければあれだけ大量のゴブリン達とは戦えませんでしたし、ゴブリンキングの居るところまでたどり着くことすら出来なかったと思います。
それに、ゴブリンキング戦の一番の功労者は僕では無いんです!」
ざわざわと聞いていた人々がざわめく。
『ローチ、良いよね?』
『みんなにローチのこと、紹介してくれるの?』
『うん、どうかな?』
『ローチはいいよー!』
肩に乗っていたローチを手の甲に乗り移らせる。
そして、それを掲げて、
「皆さん、見て下さい!彼女こそゴブリンキングに止めを刺した一番の功労者であるゴキブリ、僕の使役魔物である『ローチ』です!」
「「「ええええええええ!?」」」
「エド君?流石にそりゃ冗談でしょー?」
「ゴキブリに手柄を押し付けるとはねー、エド君らしいわ~」
「それにしても見たこと無いゴキブリだなぁ。ゴキブリってあんな黒かったっけ?俺の知ってるゴキブリは緑色だったぞ?」
驚いたり呆れたり、昆虫好きのエドらしい手柄の押し付け方だと解釈してみたりする村人の面々。
でも本当にローチは強いのだ。
なんたって勇者と同じ世界の出身なのだから!
「みんな信じられないと思いますが、ローチは本当に強いんです!とっても賢くて【念話】でもかなりハッキリと喋れるんですよ!」
手の甲に乗っけたローチは嬉しそうにふるふると羽を震わせた。
「ローチ、風魔法を見せて!」
『りょーかい!旋風!』
ローチが魔法を唱えると、ビュービューと音を立てて緑色のつむじ風が空中に現れる。
魔法を使ったからこそ起きた現象だ。
僕が魔法を使っていないのは皆聞いているからわかっているはず。
神父さんは僕が風魔法を使えないこともわかっているはずだからすぐに誰が唱えたのか気づいた筈だ。
「「「おおおおおおお!??」」」
驚く村人たち。
ゴキブリが魔法を使ったという事態に大きなどよめきが起きる。
「ローチは新しい僕の家族です!皆さん宜しくお願いします!」
『よろしくねー!』
ひょいっ、と上体を起こしたローチはパタパタと羽根を震わせて村の皆に挨拶する。
「ま、マジか........」
「本当にあのゴキブリがとどめ刺したのか......」
「ゴキブリってこええー」
「俺、『魔物使い』だから今度色違いゴキブリ見つけたらテイムしとこ........」
「ゴキブリなのに........そこはかとない可愛さを感じるわ..........」
「はっ......!? 一瞬エドの隣に褐色美少女が見えた気がっ!?」
「お前頭大丈夫か!?明日、町の病院行こうな?な?」
みんなもローチのことはわかってくれたらしい。
これでポルタ村はもうクロゴキブリに優しい村だ。
『えへへー♪ローチだよー♪』
手の甲に乗っかったローチを指の先でうりうり撫でる。
村の皆に知って貰えて、中々にご機嫌だ。
「今日は猟師の皆さんやローチ、全員が主役です!楽しい夜にしましょう!」
「「「おおおおおおお!」」」
皆の手に持たれた飲み物の注がれたコップが掲げられる。
村の騒がしい夜の始まりだ。
「おつかれさん、エド!」
「わ、わっ!」
ゴリアテさんがわしゃわしゃと頭を撫でてくる。
既にお酒が入っているんだろうか、なんだか上機嫌だし凄く息が酒臭い。
「かーっ!お前の親父さんは勿体ねぇなぁ、この場に居れないなんて!」
「出稼ぎで忙しいですからねぇ。父さん、今何処で何してるんでしょうかね」
「お前の親父さん、確かSランク冒険者だろ?意外ともう村の近くまで来てるかもしんねぇぞ?」
ガハハハ!と大きく笑って僕の背中をバンバン叩くと上機嫌なゴリアテさんは飲み仲間の所まで歩いていった。
「あっ、エドお兄ちゃん........」
今度はなんだかほわほわした感じのニーアちゃんが話しかけてきた。
顔をほんのり赤くして、目をとろんとさせて.............ってこれお酒の匂い?
ニーアちゃんまだ未成年だよ!?
誰が飲ませたの!??
キョロキョロとあたりを見回して犯人らしき村人を捜す。
『ますたぁ!あぶない!』
「へっ?えっ、うおっ!?」
「えへへー、エドおにーちゃんだぁ♡」
「に、ニーアちゃん?!」
むぎゅうううう、と抱きついてくるニーアちゃん。
ちょうど僕のお腹の上のあたりに彼女の小さいながらも柔らかい双丘が...........って駄目でしょ!落ち着いてよ!
『あちゃー...........』
「ニーアちゃん?ちょっと落ち着こうか?」
「なんだかふわふわするのー。おにーちゃんの匂い良い匂いなのー」
「ああもう!誰だよホント!お酒なんて飲ませるなんて!」
わたわたしていたらコトル君がやってきた。
「エドにいちゃん、ニーアちゃん見てな―――え?」
「あっ」
「ふにぃぃぃぃぃ♡」
ニーアちゃんを捜していたらしき彼と目が合ってしまった。
二人ともカチン、と固まる。
ニーアちゃんだけ僕の肩口に顔をすりすりしている。
何コレ、気まずい。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
「待って!待ってってコトル君!これニーアちゃん酔っぱらっちゃってるだけだからっ!お酒入っておかしくなってるだけだからっ!」
彼は最近ぐっと大人っぽく成長したニーアちゃんの事が気になっていたのだろう。
最近の彼の様子を見ていればわかった。だからこそこれはとても気まずい、弁明しなければならなかった。
だけど手を伸ばして呼び止めようとするも遅かった。
彼は叫びながら何処かへと走って行ってしまった.........。
「ニーアちゃんもそろそろ離れてよぉぉぉぉぉ!」
「嫌ぁぁぁぁ♡ずっとこーしてたいのー♪」
『完全に頭のネジが外れちゃってるの。ますたぁが責任を取るしかないの。鈍感はやっぱりギルティだったの』
「何言ってるかわかんないよ!?」
くすくすくす。
「?!!」
今誰か笑った?笑ったよね!?
くすくす。
やっぱり!
その声の方へ顔を向けると、
「ニーアちゃんのお母さん!?」
ニーアちゃんのお母さんとそのママ友が並んでニヤニヤしている!
「くすくす。まあまああの子ったら甘えちゃって可愛いわねぇ、くすくす」
「あらあら、そう仕向けたのは何処の誰なのかしら~?」
「「うふふふふふ♪」」
「犯人は貴女達かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふへへへへ、しあわせー♪」
このあと全てを理解したコトル君の協力を得てなんとかニーアちゃんを身体からはがすことに成功。
ニーアちゃんのお母さん達に年下からではあるが、お説教をしに行こうとしたらのらりくらりとかわされて結局逃げられた。
非常に騒がしい村の夜だった。
読んで下さりありがとうございます!
日間ハイファンタジーにランクインしてました!
読んでくれている皆様、ありがとうございます!
これからもゆったり更新していきますので宜しくお願いします!