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VS ゴブリンキング&ゴブリンソルジャーズ


「グゲッ!ゴブゥゥゥゥ!」


 近衛兵隊長らしきゴブリンソルジャーが剣を掲げて大きな声で叫ぶ。  

 仲間たちを鼓舞しているのだろうか。


「殺レ!猟師ノ男ドモハ皆殺シダッッ!」


「「「ゴブッ!ゴブゴブゥゥ!」」」


 ゴブリンキングの命令を受けたゴブリンの近衛兵達が数匹を王の側に残して突撃してくる。

 よく統率された動きに、彼等の実力が他のゴブリンとは一段も二段も違うのだと思い知らされる。


「『火属性付加(エンチャントファイア)』!」


『風刃!』


【火属性付加】は【火魔法】がLv.2になったことで使えるようになった魔法だ。

 武器や肉体そのもの等に火の属性を付加し、強化することが出来る。

 他にもLv.2になったことで覚えた魔法がいくつかある。


「せいっ!はっ!」


 飛びかかってきた7匹のゴブリンの内、二匹をまずは相手にする。

 五匹は後ろの二人に任せよう。


「ふっ!どらぁぁぁっ!」


 ビュンビュンと槍を薙刀のように使って二匹のゴブリンの命を確実に削っていく。

 鎧を着込んでいるせいで刃が通りにくくてやりづらいが、高い器用さのおかげで隙間という隙間から攻撃を入れていく。


「ガッ!ゴブッ!」


「だらっしゃぁぁぁぁぁ!」


 槍の柄の部分を使ってゴブリンの顎の部分から打ち上げる。

 兜が吹っ飛んだ。


「変異種っっ!??」


 中から現れたのは緑ではなく赤いゴブリン。

 ゴブリンの変異種というのは稀に、本当に稀に1万匹に一匹の割合で現れるのだが、その戦闘力はゴブリンと比較すると比べものにならない。


 名前は【餓鬼(がき)】と言う。

 子供のガキとは違う。やせ細った身体に尽きぬ食欲、見た目に反した凄まじいパワー。

 自分はこんな化け物と戦っていたのか。


 まさかこの護衛達全てが【餓鬼】なのか!?

 兜を失った餓鬼にローチが風魔法でトドメを刺し、もう一方の鎧のゴブリンにもアッパーを喰らわす。

 そして、後ろを見れば、


「がっ、クソっっ!何でこんな強いんだよコイツらっ!?」


「鎧も半端じゃねぇ性能だ、銃弾がまるで通らねぇ!」


「グギャ!グギャギャギャギャ!」

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 完全に押されている。

 恐らくコイツ等は全員が【ゴブリンソルジャー】ではなく【餓鬼】っっ!

 いったいこの巣穴はなんなんだ!?

 いくら何でも強いゴブリンが集まり過ぎている。


「ゲビャァァァァァ!!」


「ぜぁぁぁぁぁぁ!!!」


 後ろから飛びかかってきた餓鬼の脳天を一突きし、絶命させる。

 ブン、と槍を振ってその死体をピートとエジドの二人が戦っている方のゴブリン?へと投げつける。

 ゴブリン?達は突然降ってきた仲間の死体を避けきれずに下敷きになった。


「今です!二人とも!」


「了解、エド君!」

「わかってるよ!!」


 鎧の中から出てきたのはやはり【餓鬼】。

 大きな隙が出来た餓鬼達にトドメを刺す二人。 

 それでもまだ三匹残っている。

 気を抜くことは出来ない。


「レベル上げに来ただけだったんだけどなぁ.........」


 ゴブリンの生態は未だ不明な部分が多い。

 このような入り口の小さな巣穴には、小さな弱いコロニーしか存在しない筈だった。

 なのにこの巣穴にはキングどころか大量の餓鬼まで居る。

 流石に何万匹もこの巣穴には入れそうにもないので何故ここまで餓鬼が沢山居るのかは不明である。


「クソガキガ.........絶対ニブッ殺シテヤル.........」


「お前はなんだか色々喋るしさぁ.........」


 人語を解するゴブリンなんてキングでも居たり居なかったりと分かれる。

 大量の餓鬼とゴブリンの上位種、そして人語を解するゴブリンキングなんてとんでもない組み合わせだ。

 いつの間にこんな危険な巣穴が村の近くに出来てしまっていたのだろう、全身に悪寒が走る。


「オ前ハ俺ノ幸セヲブチ壊ス邪魔ナ存在ダ。ダカラオ前ハ殺ス。モウ俺ノ幸セヲ奪ワレル訳ニハイカナイ」


 ゴブリンキングが巨体を揺らして此方を向いた。

 彼の幸せ、ゴブリンとしての幸せがどんなものなのかは知らないが、人間とゴブリンは基本相容れない存在だ。

 ここで彼に同情して退いてしまっては村の人々が酷い目に遭わされる。

 母さんも、ニーアちゃんも、他の幼なじみ達も皆僕の大切な存在だ。

 だから僕は守るために退くわけにはいかない。

 先に攻撃を始めたのが此方側からだったとしてもゴブリンは倒さねばならない魔物であることには変わりないのだ。


「嫌な感じだな」


『ますたぁ.......??』


「ううん、やるよローチ。絶対にここで倒そう」


『わかったよますたぁ。ローチも全力で頑張る』

 

 ローチはそう言うと僕の肩からするすると降りた。

 ローチの持ち味はそのスピードとスタミナにある。

 防御には些か不安があるが、当たらなければどうということは無い。

 時速170キロ、瞬間的なスピードであれば時速300キロなんていう化け物じみた速度で走るのだ。

 魔物を倒してレベルが上昇しているはずだし、既にその域はこえている筈だ。


「やるぞ.......やるぞ、もう一度アンリに会うんだ」


 ふぅーっ、と息を吐いて槍を構え直す。

 今、ゴブリンキングが僕のことを見て少し驚いたような顔をしたけれど気のせいだろう。 


「僕は強くなるんだ!!」


 そして、ゴブリンキング達に向かって駈けだした。













◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆














「もう一度、アンリに会うんだ」


 その言葉とそいつの目を見て俺は一瞬固まってしまった。

 先程まで「俺の幸せを奪う奴は皆殺しにしてやる」と意気込んでいたのに。

 ソイツの姿に前世の俺の姿が重なる。


「僕は強くなるんだ!」


 そう言ってソイツは槍を構えて突っ込んできた。

 この男、いや少年は覚悟を決めたらしい。 


 俺は転生チートで『無限武器作成』と『異世界の歩き方』というスキルを持っている。

 『無限武器作成』は何もない所からMPを消費して武器を作成することが出来る。レベルがあがれば上がるほど強い武器を作成できるようになり、現在レベル3の俺だと、よく鍛えられた鉄の武器まで作れるようになった。


 そして、『異世界の歩き方』。

 これがとても重要だった。

 このチートは鑑定の上位互換みたいなものだと思ってくれればいい。異世界に関しての辞書みたいなスキルだ。気になることがあれば、この辞書に聞けば大抵のことは教えてくれる。

 もちろん俺自身についても調べた。

 俺は『ゴブリンキング』という魔物らしい。

 ちょっと前までただのゴブリンだったのに、出世したもんだ。

 それはさておきこの『ゴブリンキング』。

 人里に近い場所で生息する魔物の中ではかなり強い魔物らしく、冒険者でもある程度の手練れでなければ挑もうとはしないのだ。

 ゴブリンという魔物自体、人間にはかなり危険視されていて抹殺推奨らしいが。


 さて、そんな危険生物な俺に向かってこの少年は真っ向からぶつかってきたのだ。

 俺の周りには餓鬼が二匹も居るとわかっているのに。

 守る覚悟を決めた人間は強い。

 俺自身、人間と戦った経験は殆ど無いがそれぐらいは理解している。

 そして、この少年は覚悟を決めた目をしていた。

 

 


 




 そして、あの日の俺も同じ目をしていた。

 全てを壊すと決めたその日に。






 そうか、此奴も俺と同じか。

 いや、同じだけれど此奴は違う。

 此奴は俺のように手遅れになる前に自分から動くという決意をしたのだろう。

 「レベル上げに来た」という言葉からも此奴が強くなろうとしていたのはわかる。

  

 ある時、この世界の【勇者】が気になって調べてみたことがある。

 アレは随分と理不尽なルールだ。  

 三人の決められた嫁を娶るとはあるが、見方によってはその女の子に想い人が居た、又はその女の子を想っている人が居た場合、強制的な寝取りにしか見えない。

 きっと此奴の言っていた『アンリ』ってやつはそれに引っかかってしまったんだろう。


「(あのクソ兄貴を思い出すから嫌だな)」


 寝取り寝取られはもう沢山だ。

 ゴブリンになって苗床ハーレムしようとしていたお前が何を言っているんだってか? 

 そんなものはゴブリンという種の営みだろう?

 それを人間にとやかく言われる筋合いは無い。

 俺はもうゴブリンとして生きているのだから。

 おっと、話が逸れたな。


 あ、護衛が一人殺された。

 殺ったのゴキブリかよ。本当にゴキブリ強いんだな。

 あの少年もかなり強い。

 手練れという程では無いけれど溢れる戦いの才能を感じる。

 ゴブリンになったせいか、そこのところの野性的なカンはかなりいいのだ。


「ぜやぁぁぁぁっ!」

 

 ―――ガキィィィィン!


 護衛が全滅して俺一人になった。

 少年の突き出してきた槍を【無限武器作成】によって作り出した剣で防ぐ。

 驚いた顔をしてるな。

 まあわからなくもない、俺のはなんたってチートだからな。


「『火球』!ふっ!はぁっ!」

 

 『火球』を三個同時に飛ばしてからの連続攻撃か、中々良いな。

 此方もただでやられる気は無いから普通にやり返すが。


「フンッッ!」


 今度はバスターソードを作り出して彼に向けて投擲する。

 俺の筋力は人間よりもずっと強い。

 人間には持てないような物でも軽々と持てるのだ。

 って、何だ此奴!?普通につかんで投げ返してきたぞ!??

 こんな強い村人が居てたまるかッッ!


「死ネッ!コノクズガッ!」 


 前世の俺に似てたからって容赦はしない。

 俺はこいつを殺す。

 俺の幸せを奪うやつは皆殺しにしてやるんだ。

 コイツがどんな人間だろうと俺の幸せを奪ってしまうのは避けられない事実。

 だから俺は此奴を殺―――  


「ガッ!?..........ア?」


 首筋に一瞬激しい痛みが走る。 

 あれ?なんで視界がどんどん下がってきて。








 あ、俺の身体だ。

    







 首から上が無くなった俺の身体が見える。

 その肩の上にゴキブリが乗っていた。 

 成る程、あの少年は囮だったのか。

 

 

  

 俺の最期、ゴキブリに殺されたってか。

 はぁ、結局前世も今世も俺はみじめな運命だったってか。

 ムカつく。



 なぁ。俺、瑞希と上手く行ってたらどうなってたんだろうな。

  



 そこで、俺の第二の生涯は幕を閉じた。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「はぁ、はぁ、二人とも、やりましたよ」


 肩で息をして地面に倒れ込む。

 突然何もない空間から武器を作り出したりとんでもないゴブリンだった。

 規格外にも程がある。

 ローチが居なければどうなっていたことか。


「ああ、はぁはぁ、倒せたな」


「すげえ、な、エド。サイコーだわ、お前」


 餓鬼達を倒し終えた二人もサムズアップして応える。

 彼らが居てくれたことも大きい。

 彼等がいなければ餓鬼の群れに苦戦し続けて、ゴブリンキングどころではなかっただろう。


『ますたぁ、ローチ、やったよー』


『ありがとうローチ。ローチは僕の自慢の使い魔だよ』


『えへへー♪ありがとーますたぁ!』


 カサカサと音を立ててローチが僕の肩に乗る。

 今回は本当にローチに感謝だな。

 使役魔物っていうのは食事が必要らしいし、異世界のゴキブリがどんなものを食べるのかはわからないけれど、家に帰ったらいいものを沢山食べさせてあげよう。


「おーい!エド!そっちは片づいたかっ、てうおおっ!?」


 ゴリアテさんが猟師達を連れてこっちへとやってきた。

 どうやら向こうも片付いたらしい。

 ここまで大事になったのだし、町の冒険者ギルドまで連絡が行くだろう。

 近い内に調査隊がやってくる筈だ。


「ま、マジか、すげぇぞエド!ゴブリンキングを倒すなんて手練れの冒険者でも難しいってのに!

 は、ハハハ!今日は帰ったら皆でご馳走だなぁ!お前等!お祝いだお祝い!エドが男として一皮剥けやがった!」


「よーやったのぅエド坊!もう一人前の漢じゃのぅ!」

「酒だ酒!帰ったら酒呑むぞ!エドはついこの前成人したばっかだから酒はまだ飲んだことねぇよな!」

「こんなでけぇモン倒しちまうなんて、流石は『戦う昆虫博士』のエド坊だぜ」

「なんだその異名?!聞いたことねぇぞ?」

「えっ?知らないのか?エド坊は三歳の頃から魔物殺して廻ってるんだぜ?大人の何人かは知ってるぜ」

「ま、マジか。それならこれもわかるわぁ」


 まだ魔物の巣の中だっていうのにわいわいと賑やかになり始める。

 皆僕の大切な村の仲間だ。

 この村に産まれて本当に良かった。


 だけど、もう僕の隣に彼女が居ない。

 それだけがとても大きく、心にぽっかりと穴を開けたようだった。


























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











―――ジリリリリリリリ!!!


 バンッ!


 目覚まし時計を叩いて二度寝に入る。

 暖かな日差しがカーテンの隙間から入り込む。


 ゆっさゆっさ。


「ユウくん!起きて!朝だよ~!」


 身体が揺さぶられる。

 おかしいな?俺はあそこで死んで.........、また転生したのか?

 いや、違うこれは..........


「ユウ君!遅刻しちゃうよ!今日から高校じゃない!」


「えっ!?」


「わっ!いきなり飛び起きないでよ、驚いたじゃない!」


 目の前にはぷんすかと怒って頬を膨らませる幼馴染みの瑞希が。

 そして見覚えのある部屋。

 俺の実家の部屋だ.........。


「私が毎日起こしにきてあげてるんだから、ちゃんと起きなさいよね!」


「ああ、悪い。なあ、本当にお前は瑞希なんだよな?」


「な、何よ。私以外の何だって言うの?」


 訝しそうな顔を向ける幼馴染み。

 そうか、俺は.........戻ってきたのか。


「何でもないよ。いつも有り難う瑞希」


 そういって笑顔で彼女に応えると彼女は顔を赤くしてもじもじし始める。


「ま、まあ幼馴染み、だから..........ね」


 恥ずかしくなると髪の毛をくりくりといじり始める。

 彼女の昔からの癖だ。


「って、そんなことより早く!早く!遅刻しちゃうよ!」


「あ、ああ!急いで着替える!」


「あああああ!もう!私が居るんだからいきなりここで脱ぎ始めないでよ!」


「っ!ゴメン!.........それと、瑞希。後で話があるんだ」


「..........話?」


「うん、話」


「ふーん..........何だか知らないけど、玄関で待ってるからね!」


 そう言って彼女はパタパタと部屋を出て階段を下りていった。

 俺も急いで新しい制服に着替える。

 懐かしい、俺の高校時代の制服だ。

 苛められた記憶が思い出されて前世では捨てたが、まだ入学当初の今なのだからあって当然だろう。


 寝癖を整えて、歯磨きをして、朝食は...........牛乳だけにしとこ.........。

 うがいをして、荷物を持って外に出る。


「ん、結構速かったじゃない。感心感心」


 なんだかご機嫌な瑞希。

 高校の制服。

 ブレザーにミニスカートの姿が眩しく見える。

 俺、此奴のこと好きだったんだな...........幼馴染みでずっと一緒だったから全然気付かなかった。


「瑞希、言いたいことがあるんだ」


「何?」


 一世一代の大勝負だ。




「俺..........俺、実はお前の事が―――!」










 






 俺はもう失敗しない。

 幸せは奪われるものじゃない、自分から掴み取りに行くんだ。

 前世のあの少年が教えてくれた。

 大切なものは自分から取り返しに行くんだって。

 だから俺は負けない。

 クソ兄貴にも、これから俺を苛めてくる奴らにも、両親にも。

 俺を裏切った親友は.........まあ好きな人がもう違うのだから許してやろう。


 

 俺は、今、最高に幸せだ。

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