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僕の戦争

作者: 青野菜穂

こちらは作者の妄想で出来上がっているので、矛盾点やありえないことが多々あります。ご了承くださいませ。

 何かを願うことも望むことも祈ることも、僕は何もしなかった。

 だからそれが始まったとき特に何も思わなかった、思えなかった。

 だから僕は士官学校に入ることにした。



※※※



 ついてけねえ。

 心の中で呟く。最近の僕の口癖だ。いや、口には出していないから、心癖という方が正しいか。どうでもいいことだけど。

 どうも、澤野(さわの)(まもる)といいます。性別は男。年齢は16くらい。容姿は平凡で黒髪黒目。中身はちょっと変な奴。以後よろしく。

 いきなり自己紹介してどうした? と思ったそこの貴方。上記のものは自分の頭の中を整理するために行ったことで、自己紹介ではない。自己紹介風にしたのは、そっちの方が解りやすくなるからである。ちなみに解りやすくなったかどうかは自己判断である。

 一体僕は何に言い訳してるんだろう。


「澤野! ぼけっとするな!」

「あ、はい」

「全く、しっかりしろ!」


 意識を飛ばしていると、教官に怒られた。周りの奴らは僕を無視して、再び始まった座学を聞いている。

 当たり前である。ここで頑張らないと命に関わるのだから。

 僕が生きている国は現在戦争中だ。まだ小競り合いの範囲だが、これから激しさを増すだろう……と教官が言っていた。詳しくは知らない。戦争の原因とか、お偉い方々の考えとか、興味もない。

 そして、僕たちが講義を受けているここは兵士になるための学校ーーー士官学校である。ここにいるのは、国や自分の家族を守るため、合法的に人殺ししたいからとか理由は様々だが、戦う決意をしている奴らばかりだ。だからほとんどの奴が熱心に教官の言うことを聞いている。とはいえ、僕はそのほとんどに入らないのだが。


「澤野!」

「うえっ、はい!!」


 いきなり大声で呼ばれて変な声を出してしまった。皆の視線が僕に集まる。少し恥ずかしい。


「戦争に勝つためには何が必要だ!」

「兵隊や武器です」

「確かに兵も武器も必要だが、もっと大事なものがある。それは、強い心だ!」

「……」

「愛国心、家族を守りたい、まだ死にたくない、敵を殺したいでも、何でもいい。強い心があれば、人間というものは強くなる!」

「……」

「いいか、お前らははっきり言ってまだまだ弱い! 前線に出れば戦場の雰囲気に飲まれて撃ち殺される! だが! 強く心を持っていれば、飲まれることなく! 敵を撃ち殺せる!」

「……」

「お前らぁ! この戦争に負けなくないだろう! まだ死にたくないだろう!」

「「「「はい!!」」」」

「なら! 強い心を持て!!」

「「「「はい! 教官!!」」」」


 いつの間にか演説を始めていた教官に、目をらんらんと輝かす奴ら。この瞬間、奴らの心は一つになったのだ。これぞ、士官学校だという光景だ。ほぼ毎日のように繰り返されている。正直見飽きてきた。


 ついてけねえよ。


 毎日毎日、このノリについていけない。教官もこいつらも意味がわからない。別に、国や自分、家族の命を守るために戦うことを否定するわけじゃない。でも、国も自分も家族も大事だと思えない僕には理解できない。

 家族は僕をまだ幼いうちに捨てた。どんな理由か知らないけど、まともな理由じゃないことは確かだ。少しでも子供に愛情があるなら、生きていてほしいなら、捨てる場所は教会のはずだ。ああいう場所は内に入れた者を大事にするから大人になるまでは育ててくれる。でも、僕が捨てられたのは路地。死んでもよかったんだろう。しぶとく生き残ってはいるが。

 国は、捨て子だった僕を救ってはくれなかった。孤児院なんていうものは子供のためじゃなくて大人のために存在しているだけだ。一度行ってみたが、あそこはただの監獄だった。唯一、僕を孤児院に捨てなかったことだけは親に感謝している。

 そして、誰からも求められなかった自分をそんなに大事に思えない。家族は僕が要らないから捨てた。少しだけ面倒を見てくれた人がいたこともあったが、結局僕は要らなかった。周りにいた他の浮浪児は自分のことに精一杯で、皆が皆他人で敵だった。この士官学校に来たのも、どこかで野たれ死ぬより戦場で死んだ方がマシだから。

 でも、やっぱり来るんじゃなかった。教官と奴らを冷めた目で見ながら、バレないようにため息をついた。



※※※



「ああやっぱりここに来てよかった」


 食堂のご飯を食べてあっさり考えを変える。この士官学校は国が全て運営しているから学費なんてものは存在しない。校舎も訓練所も食堂、寮も全てタダで利用できる。多分、日々の生活も苦しい貧乏人や僕みたいな浮浪児を集めるためだろう。戦争しているのだから、兵がたくさんいて困ることはない。ちなみにだが、金持ちの奴らはまた違う学校がある。兵になる未来しかない僕らと違うのだ。きっと輝かしい未来が待っているのだろう。どうぞ、勝手にしてほしい。

 そして、食堂のご飯は美味しい。周りの奴らはちょっと物足りないみたいだが、僕にとってはご馳走だ。僕はこれまでまともな食事なんて数えられるくらいしかしてない。舌が痩せ細っているのだ。それに周りと比べると身体も小さく胃も小さいから、量はむしろ多いほどだ。僕はここのご飯を食べる度に生きててよかったと思う。生徒が逃げないようにするためだとわかってはいるが、うまいものはうまい。うまいは正義である。

 温かいご飯ってなんて素晴らしい。


 夕食後入浴して、ホクホクした顔で寮の部屋に戻る。清潔なことも大事である。できる限り身綺麗にしていたが、路上生活ではどうしたって汚い。それが今や身体から石鹸の匂いがするようになったのだ。戦争様様だ。こんなことを思っているなんて知られたら、懲罰ものだろうけど。

 寮の部屋は四人部屋で、二段ベットが二つあるだけでほとんど埋まっている。プライベート空間はベットの中だけだが、ホームレスな僕には十分なものだ。


「毎日布団と寝れるなんて、なんて素晴らしい」

「大袈裟だな、澤野は。布団くらいなら俺の家にもあるぞ」

「路上生活してから言えよ」

「ああ?」

「さーせんした」


 強い者には逆らうな。今までの生活を踏まえた僕の教訓だ。自分を大事に思わないとは言ったが、命は大事だ。戦争とか病気とかどうしようもない理由で死ぬのは別に良い。でも、それ以外の理由で死ぬのは嫌だ。さっきの会話みたいな、どうでもいいことが原因で死にたくない。

 だけど、僕は弱い。強者に逆らって、弱者の僕は生き残れない。だから僕は生きるためならプライドでも何でも捨ててやると決めたのだ。こいつが本気で怒っていないっていうのは関係ない。こんなところで火種を作るくらいなら、頭を下げてぺこぺこしてる方がいい。とは言ったが、謝罪は口だけだ。あっちが本気で怒ってないなら、こっちも本気で謝らない。

 結局はそんなものだ。


「おい、消灯時間だ。消すぞ」


 消灯時間は夜九時。同部屋の奴らは早いと言っていたが、規則正しい生活をしてきた僕には早くない時間だ。家も金も持ってない僕は仕事をするだけだった。だから、夜遅くまで起きていてもすることが無い。周りが暗くなったら寝る、明るくなったら起きる、が僕のこれまでの生活だ。たまに仕事で夜中まで働いていることもあったが、大体がそんな生活だった。

 というわけで、おやすみなさい。



※※※



 どうも、おはようございます。澤野守です。今現在朝の七時くらい。朝日が眩しいですね。

 そうそう、今日の朝ご飯もすごく美味しかったんですよ。バランスの良い食事。幸せでした。それが逆流しそうじゃなければ、もっと幸せなんですが。


「おいそこ! 腕下がってっぞ!」

「「はいっ!」」


 今の僕らは、ヘルメットに防弾チョッキを着用している。さらに銃を手に持ち、救急セットや食料、水が入っている鞄、予備の弾に手榴弾とか色々重いものを身体中につけて、訓練所を走っている。士官学校に来たばかりの最初は体力作りでただ走るだけだったが、ある程度体力ができると、筋力トレーニングやら射撃訓練やら、いろいろ始まり、今は本番さながらの重装備で走っている。そのうち、実戦を想定した訓練もするそうだ。教官は鬼である。

 頭がふらふらして気持ち悪い。吐きそうだ。列から一人バケツに走っていった。吐いたら吐いたで、体力使うから辛いのだ。それに教官からの有難い叱責が待っている。ご愁傷様と横目で見ながら走る。

 教官の号令がかかるまで走って、結局僕もバケツに走った。終わってから吐いた方が色々楽だと、これまでの経験から知っているのである。誇れることかはわからないが。



※※※



 体力を根こそぎ奪う訓練が終われば、次は座学。この座学は戦争に必要なこと以外にも文字の読み書き、簡単な計算も教えてくれる。読み書きも計算もできない僕には有難いことだ。もし教えてもらえてなかったら、講義の半分もわからなかっただろう。

 僕に真面目に聞く気はないけど。


 だって僕は死ぬのだ。戦場で。


 僕がここに来たのは死に場所を求めたからだ。路地で死にたくないという僕の小さなプライドでここに入った。温かい家族も家もいらない。ただ死ぬときに自分に少しでも価値があったと思いたいだけ。戦争に出れば何か残せるんじゃないかって、士官学校の話を聞いて思った。

 生き残った方が良いかもしれないって一度は考えた。戦争で生き残れば、良い生活を送れるかもしれない、自分を大事に思えるかもしれない。でも、だから、だからなんだっていうんだろうか。僕は、自分に少しも期待していない。今更どうにかなるものでもない。


 キーンコーンカーンコーン…


「もう時間か。じゃあ、今日はここまで。号令!」

「起立。礼! 有り難うございました!」

「「「有り難うございましたぁ!!」」」


「あー、疲れた」

 やっと終わった。ぐーっと体を伸ばして頭をすっきりさせる。座学は長いから嫌なんだ。皆やけに熱心に聞いていて、その熱気で眠たくて仕方ないのに寝られない。それにずっと座っているのも案外辛いものだ。

 さあ、ご飯食べに行こう。うまいものは食べられるときに、だ。



※※※



「おいっ! 弾はまだあるか! 補給は!」

「弾はもうあんま無い! 補給はまだ!」

「ちっ、早く来いよ!」


 どうも、澤野守です。今、前線に出てます。

 少し説明すると、僕らは卒業してすぐ戦場(ここ)に来た。それ以外特に何もなかった。無事に卒業できて、誰一人欠けることなく皆戦争に来た。そういえば、上官からの激励があったかな。けど、どうでもいい感じのだからなんだっていうので、あんまり記憶に残ってない。上官、さーせん。

 というわけで戦争。小競り合いの時期は終わって本格的に始まったらしい。きっと僕らの卒業はこれに合わせたものだったんだろう。僕らは命令通りにどんどん攻めた。そして、今は敵から奪った拠点で防衛中。補給が来なくて押し負けそうな状態。


 バババッダーンドーンッ


 音を文字にすると何だか迫力が無くなったが、こんな感じだ。ひたすらにうるさい。むせかえる火薬の匂い、怒号が飛び、銃が唸る。土埃が舞い、敵の姿は見えない。いや、見えたら駄目だ。見えたときにはヘルメットに弾が埋まってる。ヘルメットは頑丈だから一応死なないけど、脳震盪くらいは起こす。そうなると、味方に引きずられて交代。後ろに下がり過ぎると逆に弾に当たるから足下に転がしておく。

 そんなこんなしてるうちに、敵の攻撃が止まった。敵だって休憩するし、補給しないといけないから、何度か静かになる時間がある。確か戦争の約束事でちゃんと決まってたと思うけど、上官の話を聞いてなかったから覚えてない。覚えてたからってどうにもならないが。

 この間に負傷者を手当したり、弾を補充したり。いや、もう少ないのか。詰んだ。とうとう僕も終わるのか。少しだけ、いや結構怖いかもしれない。

 僕は、ついに死ぬのだ。



※※※



「では、勝利を祝して! 乾杯!!」

「「乾杯!!!」」


 どうも、澤野守です。今、祝賀会が始まったところです。

 全く意味がわからない。

 死にそうだったのに生きていて、今もどうしてこうなったのかわからない。残り少ない弾を撃ってたら、いきなり敵からの攻撃が止んで、撤退していったのだ。そして降伏してきた。僕ら皆は死を覚悟してたから、喜ぶよりぽかんとしてた。

 どうも、補給しに来た隊が敵の後ろへ回り、補給の物資を使って攻撃を仕掛けたらしい。敵は本陣を討たれ、降伏したんだとか。ちなみに、その作戦を立てた奴は僕の同級生だった。一番目をらんらんとさせてた奴だから記憶に残ってる。上官の命令に逆らったが、勝利に繋がったからお咎め無し。いや、凄い。本当に凄い。血に飢えたような危ない奴だけど。


 祝賀会は飲めや歌えの大騒ぎだ。どうやらこの拠点は結構重要な場所だったらしく、こっちの陣に取り込めたことは大きいそうだ。しがない一兵卒は知らないけど。というわけで、戦争自体は終わってないけど、やったね! 生き残れてよかったね! みたいな感じでこの騒ぎ。あんまり気分が乗らなかった僕はそっと抜け出し、少し離れたところで一息ついていた。

 何であんなに騒げるんだろう。やっぱりついていけない。喜ぶのはわかる。死ぬと決めている僕だって、いざ死を目の前にして怖くなった。助かったとわかったときは安心した。でも、この場で生き延びても結局は死ぬのである。なら、特に騒ぐことも無い。皆、生きたい死にたくないと足掻いて、うやましいくらいだ。

 僕は早く死んで、楽になりたい。今、敵が奇襲してこないだろうか。新型兵器が飛んで来たり、密通者が殺戮を始めたりしたらいいのに。今日は皆浮かれて気が緩んでいるから絶好の機会だ。一思いにやってほしい。

 なんて、現実には起こらないと僕は知っている。気が緩んでいるのは末端の兵士だけで、上官や例の同級生は緊張感を保ったままだ。奇襲に備えてちゃんとした兵士に交代で見張らせていて、密通者は少し前に一掃されているからいるわけもない。

 どうやら、こっちが優勢らしい。残念なことだ。もう一つため息をついて、僕は祝賀会に戻った。せめて料理だけでも楽しもう。戦場じゃうまいものは食べられない。うまいものは正義。食べられるときに食べなければ。

 全く、うまいものを食べさせてくれる戦争には頭が上がらない。ありがたや。



※※※



「時間が無えんだ、早くしろ!」


 どうも、澤野守です。路上生活のときから思っていたけど、僕はしぶといようです。まだ生きています。その分、戦っているのだけど。

 戦争はまだ続いている。優勢だったのは最初だけで、その後は膠着状態になり、どんどん泥沼化していた。お偉い方々は早く終わらせようとしていたが、敵との力は拮抗していたようだ。終わりは全く見えず、そして多くの人が死んだ。こちらも敵の方も、疲れ切っていた。

 僕も何度も死にそうになった。でも、その度に生き延びて、身体中に傷はあるが五体満足に生きている。少し左腕が動かし辛いくらいだ。医者によると、神経がどうの筋肉がどうのらしい。無理しない程度に動かせと言われた。


「そこの! 早く持ってこい!」

「すいません! 今行きます!」


 回想していたら、怒鳴り声が聞こえた。急いで荷物を担いで走る。とてつもなく重い。

 さて。僕が今何をしているのかというと、次の戦闘準備である。皆あっちこっち走り回っている。僕も汗水垂らして働いて、さらに戦場に行く。少しだけ路上生活が恋しい。路上で生きるのも大変だったが、ここまでじゃない。仕事は汚いものばかりだがこんなに身体を酷使したことはない。それに、いい加減にしていても許されたのにここでは許されない。武器を扱っているから、仕方ないと言えばそうなのだが。

 今持っている荷物も中身は銃弾。重くて倒れそうなほど一杯に詰め込まれている。しかし、こんなにあっても一回の戦闘で無くなってしまう。戦争というのは呆れるほど金がかかるものだ。少しは路上生活者に回してほしい。金持ちよりよっぽど良い使い方をするのに。僕だったら、温かいご飯に使う。うまいものをたらふく食べて、それからぐっすり寝て、そのまま目が覚めなければいい。家とかは今更欲しくないから、それくらいだ。

 幸せな未来を想像して改めて死にたくなったところで、やっと準備が終わった。これから楽しい楽しい戦争の時間だ。

 さあ、死にに行こう。



※※※



 とうとう終わりを迎えた。僕の命ではなく、戦争が。あれから数年、未だに僕は生きている。

 戦争は、勝った負けたで言うとこちらが勝った。あちらは国の中がてんやわんやで、もう戦争をしている余裕は無かったらしい。疲弊しきっていた。こちらも同じだ。一応、こちらが勝利国だが、そんな雰囲気はどこにも無い。祝杯を上げたのはお偉い方々のみ。皆疲れて、不満が溜まっていた。


「であるからして君たちが人々の生活を守るという誇り高い役目に志願したことに感謝の念が尽きず愛国心正義心に溢れた国民がここに集まったこと感無量であり先の戦争において生き残り活躍をしてきた君たちがいれば百人力であり不安がっている国民の力強い味方となってくれるだろうことにどんな言葉でも言い表せないほどの安心感そして誇らしさが溢れ我々の国が優れていることを改めて実感し君たちの貢献するに値する国であり続ける所存でありましておりましてきみたちにはこれからもかわらずわがくににみをささげ」


 舞台の上で長ったらしくて馬鹿らしい話を舌を噛まずに言うお偉い方にどうしようもなく尊敬の念が溢れてきております、澤野守です。途中から眠たくなってきて、欠伸をかみ殺すのにも疲れてきた。だんだん話を文字に変換できなくなって、このままだと立ったまま夢の世界へ旅立ちそうだ。

 眠気覚ましに状況説明をしよう。今、僕がいるのは軍の入隊式。戦争に出ていた兵士は皆、軍に入ることになったのだ。とっくの前から軍にいたのではと思ったが、少し違っていた。どうやら、時間がもったいないから早く戦争に行ってほしかったらしい。座学を聞いていた皆はとっくに承知していた。座学なんて、役に立つ予定ではなかったから驚きだ。何事も予定どおりにはいかないものである。

 というわけで、今までの僕らはただの兵士で、軍人ではなかった。どこがどう違うのかはあまりわかっていないが、多分正規で雇われているかいないかだと思う。使い捨ての駒がちゃんとした駒になったのだ。そして、僕らは愛国心溢れる英雄で、崇高な意思の元に自ら軍人になることにしたらしい。僕らは国のためならこの命を喜んで捧げ、国のために命を落とすのが本望らしい。本当に驚きである。お偉い方々の考えは素晴らしくて欠伸が出てしまう。士官学校に入ったのはご飯と寝床と死に場所目当てだったのに。

 横目で周りの奴らを見る。皆、数が減ってしまったものだ。士官学校にはこの倍以上、いや、もっといたはずなのに姿は見えない。少し悲しいような気がする。一緒に戦った顔見知りが消えるのは、この僕でも堪えるものがあった。そして、皆の目は死んでいた。あの頃のらんらんとした目はどこにも無い。鋭い目つきに消えない隈、傷跡が痛々しい奴ばかりだ。きっと僕も似たような顔つきだろう。ぐっすりと眠ることはできず、右のこめかみから頰にかけて大きい傷跡がある。見えないところにはまだまだ多くの傷がある。左腕は動かし辛いままだ。悪化することも良くなることも無いと医者が喜んでいた。曰く、僕の身体は中々丈夫で、何より心が折れていないのが素晴らしい、僕はまだ戦えるとのこと。全然嬉しくない。


「であるからしてきみたちにはきたいしているのであります。これからもわがくにが強く素晴らしい国であれるよう一丸となることを願って私からの話を以上とさせていただきますご静聴ありがとうございます」


 割れんばかりの拍手が起こり、やっと演説が終わった。これであとは代表がお偉い方に宣誓書とかいうものを渡せば終わりだ。代表として舞台へと歩くのは、同級生のあいつだった。奇襲かけて僕らを助けた、目を一番らんらんとさせていた奴。こいつの目は昔と変わらず元気に輝いていて、少し安心した。相変わらず危ない奴だけど。

 最後に全然覚えていない国歌を歌って、入隊式は終わった。式場から退場しながら、これからについて考えてみる。僕の死に場所になるはずだった戦争は終わってしまった。でも、きっとすぐに戦争は始まるだろう。国の中にも外にも不満は溜まっているのだ。爆発するのは時間の問題だろう。なら、何も心配はいらない。僕はきっと戦場で、僕の思うように死ぬはずだ。

 何だか思っていたのと違うような気もするが、僕は僕のまま、生きて戦って死んでいく。それでいい。それだけでいいのだ。

 僕の戦争は死ぬまで続く。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この話について少しだけ。

冷めた考えの子を書きたいと思ったのが始まりでした。死にたいけど自殺は嫌だし、戦場で死のうなんて考える子の戦争の話を書こうとして、早数年。

やっと書きあがりました。

時間がかかった割に、設定はぼんやりとしています。戦争の背景とか国の人口とか経済状況なんて知りません。士官学校も戦争も、ほとんど私の妄想とノリでできています。

書き始めてから時間が経っているので、僕の性格や文体が一定しておりません。できる限り揃えましたが、違和感があったかもです。すみません。

改善できるところはしていくつもりです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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