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1DKの神様  作者: not Give
4/4

彼方と雑談

お久しぶりの投稿になります。not giveです。


不定期投稿になるので期待せず温かい目で見ていただけたら幸いです。

「じゃあいってきます」


いつもと変わらない朝、変わらない挨拶、違ったのは同居人の反応だけだった。


「ん…待って…」


いつも通りいってらっしゃいと言われるものだと思っていた彼方は引き止める同居人ーーー天王寺御神の方を向く。


「どうかしたの?」


そう尋ねる彼方に近づく御神。そして彼方の真正面まで来ると顔を近付け手を伸ばした。人形のように整った顔立ち、ふわりと香る女の子の匂いに彼方は顔を赤くする。しかしその目には若干、期待の光が宿っているのは彼方も男だという事だろう。


「ネクタイ…曲がってる」


「ああ、ありがとう」


正面から見る御神は神だということを除いても可愛らしく、照れた彼方の言葉も明後日のほうを向いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼方が登校するころには既に学校は朝練をする部活や同じように登校する生徒の声で活気づいていた。


帰宅部である彼方は我関せずとばかりに通り過ぎていく。今の彼方の頭にあるのは今朝の新婚のような(実際とは大きく異なる場合がございます)出来事だろう。


(可愛い可愛い可愛い可愛い、ちょー可愛い!!)

「なんだよあれ、反則だろ!」


言葉では怒りながらも表情は緩みきっている彼方は全く周りが見えていなかったらしい。


「何が反則なんだよカナタさん?」


「うわぉい!急に話しかけんなよ三成」


「いやだってなんかキモい顔しながら反則とかなんとか言ってるから何事かと思うよ」


「キモい顔っていうなよ…傷つくだろ」


「それはすまんね、んでカナタさんは何でそんな機嫌いいんだ?」


「ああそれはな!…」


とそこまで言いかけてようやく彼方は自分が致命的なミスを犯したことに気が付いた。


(やばい、御神のことは秘密だったぁああ)


しかも相手が悪い。この男、出雲三成はあの(・・)新聞部に所属しているのである。


この学校の新聞部というのがそれはそれは恐ろしく『面白そうな話題があれば次の日にはそれを全校生徒が知っている』と言われるほど広報能力が高い連中で構成されている。そのうちの一人にバレたとあればあっという間にゲームオーバーだ。

ましてやここは天下の男子校(仮)私立榊原学園。可愛い女の子と同居しているなんてオイシイことが知れたらマズイことになる。


頭の中でジョーズのテーマが流れながら彼方は頭をフル回転させた。


(なんだ…?反則的な何かがあって俺が喜ぶような要因…ひらめけ!俺の頭脳!)


コンマ数秒の思考のあと、彼方の頭に豆電球が灯ったのが見えたかもしれない。


「いっ、いや〜 今日の行く途中にそれはそれは可愛い猫に会ってね。やけに人懐っこくてその可愛さは反則だろぉー!みたいな…」


彼方は背中に冷や汗をかきながらモフモフするジェスチャーをした。


「ふーん、でも確かカナタさん猫は苦手だったよな」


「こ、克服したんだよ!今なら猫カフェだって余裕だね、なんなら今度行くか?」


ちなみに彼方は猫が苦手だし当然克服も出来ていない。それなのに進んで墓穴を掘っていくのは流石といったところだ。


「拒否する!何が悲しくて野郎二人で猫チャン愛でながらパンケーキ食べないといけないのだね」


三成は腕で大きくバツ印を作りながら苦い顔をする。猫カフェに行く男子高校生二人を想像したらしい。


「そっ、それもそうだなヤメようヤメよう」


彼方は墓穴を埋めてくれた三成に感謝をしつつなんとか次の話題を探す。


「そういえばもうすぐ学年末試験だろ?三成は大丈夫なのかよ」


「ふっふっふ、甘いぞカナタさん、新聞部である俺があろうことか試験の対策をしていないとでも?」


「いや、新聞部関係ないだろ…」


「いーや、あるね。俺は新聞部として生徒に有益な情報を提供する義務がある!」


「ほーん、それで?」


急に熱く語り出した三成にテキトーに相槌を打つ彼方。


「だから俺は授業が終わるたびに教師に媚びた。」


「なるほど、お前軽蔑するわ」


冷ややかな目で三成を見る彼方がいた。


「その結果、俺はテストに出る問題や傾向の多くを教師たちから吐き出させることに成功した!」


「なるほど、お前尊敬するわ」


キラキラした目で三成を見る彼方がいた。


「だけど結局その情報と新聞部で何の関係があるんだよ?まさか榊原新聞にでも載せるのか?」


そんなことしたら問題なんてすぐ差し替えられるだろう、と彼方が言うが


「載せるのはそっちじゃないぜ。裏新聞の方だ」


三成は急に彼方の耳元に顔を寄せひそひそ声で裏新聞の存在を伝えた。


「裏新聞?」


とおうむ返しに聞く彼方は何のことかと首をかしげる。


「シッ、声が大きい。」


「あっ、悪い。それで?」


秘密のことだったらこんな人がいる場所で言わなくてもいいんじゃないかというツッコみよりも今は裏新聞への好奇心が(まさ)った。


そして彼方も同じように三成の方に顔を寄せ言葉を待った。


「裏新聞っつうのは簡単に言うと特注の新聞なんだよ。新聞を買う生徒一人一人のニーズに応えて欲しい情報だけを記事にしていく。それこそ俺の調べたテスト対策とかな」


「なるほどな。ていうか買うってことは有料なのか…」


「購読者のためならたとえ火のなか水の中、あの子のスカートの中ってね。こちとら体張ってる訳なんだし然るべき報酬だぜ」


「スカートの中についてはツッコまないぞ。ツッコまないからな。」


「いやいやカナタさん、スカートの中にナニを突っ込むつもりさ!」


「一回くたばれ」


せっかく彼方が譲歩したのにも関わらずケラケラと笑いながら揚げ足をとる三成。

その後も部活の先輩がマドンナを口説こうとして親衛隊にボコられただの、今月に入って男子のパンツの落し物が10件を超えただのといった話を弾丸のように喋っていく。

彼方があまり社交的ではないのにもかかわらず世間話を知っているのはこの友人によるところが大きいだろう。

そんな毒にも薬にもならないような話をしているうちに彼方たちは教室に着いた。


「ウィーっす!」


「・・・・」


明るく調子の良い挨拶で教室に入る三成とは対照的に無言でそそくさと自分の席へと向かう彼方。

このように一見すると彼方がコミュ障なように見えるがそんなことはない。むしろ教室に入って全員に挨拶するほうが少数派だと言える。


自分の席へ座る彼方に力強い(野太いとも言う)声がかかった。


「おはよう!彼方」


「あっ、うんおはよう」


声がかかりそちらを向くとまず目に入ったのが生地が悲鳴をあげているのが聞こえてくるんじゃないとというレベルで伸びた制服の腕だった。

その巨腕の持ち主を鷹ノ宮千春と言う。“筋骨隆々”という熟語が服を着て歩いているような姿で数々の武勇伝も持っている。

時代が時代、場所が場所なら番長と呼ばれ親しまれていただろう。


しかし鷹ノ宮千春が履いているのはスカートだ。別に男子にスカートの着用が認められているわけではないし、もし認められていても履くのは一部の危ない人だろう。

ここまで言えばもう現実を直視せざるを得ないが鷹ノ宮千春は女である。


クラスの男子曰く“数学の抜き打ちテストがあることも、体育が急にマラソンに変わることもまだ納得出来るが鷹ノ宮千春が女であることは納得出来ない”らしい。


確かにあの盛り上がった筋肉を見ればそういった考えも浮かんでくる。

彼方もその筋肉に萎縮しながらも当たり障りのない会話を探す。


「あー、いい、天気だな」


「そうだね、今日は小春日和と父上が言っていたよ」


「そうなのかー、なるほどなるほど」


彼方の中では当たり障りのない会話=天気の話という等式が出来ているのか、やはり会話が途切れる会話をしていた。

この場合はそのほうが良かったのかもしれないが。


テストが近いからかクラスの生徒たちも心なしか真面目に授業を受けていた。

それにならうように彼方も眠気まなこを擦りつつノートをとっていたがやはりこうも退屈だと思考が勉強から脱線してしまう。


(暇だ…武装したテロリストが学校を占拠しねえかな?でもなんか俺は真っ先に殺されそうなんだよなぁ。みせしめだ!みたいな理由で)


一度考えた妄想は止まらない。当然授業も止まらない。


(死んだら悲しんでくれる人はどのくらいいるんだろうな。母さんだろ、多分妹も、それに三成も案外ボロ泣きしたりするかもなぁ)


そんな時ふっと思い浮かんだのは長い黒髪。

そして少し寂しそうな憂いを含んだ表情。

そしてその想像を彼方はすぐさま振り払った。


(やっぱ死ぬなんてぜってーやだな。御神を悲しませたくないし、俺だってもっと御神といちゃいちゃしたいんだよ!)


「・・つき、おい高月!」


「はい!まだ死にたくありません!」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ?」


額に青筋を浮かべた教師とクラスメイトに爆笑された彼方はやはり授業は真面目に受けるべきだと思い直す。


今日も榊原学園は平和だった。






ありがとうございました!

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