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第8話 初めての魔術

 今朝も毎日の日課であるイサーラ村の村壁の外周を走るようになって12ヶ月この頃になると毎朝夕に2周づつ走るようになっていた。

 イサーラ村の一周は、約5キロメートルありミールは、1周を30分ほどで走り体力で言えば7才の男の子と同じくらいで走っていたので村のみんなは、一様に驚いではいたがさすがはリキドとイルマの子供だったのだと褒め称えていた。

 しかし、なぜミールがここまで頑張って走る様になった理由は、12ヶ月前の最初の剣術の授業で村1周を走ることになった。

 学校に通っている3才~5才までのクラス50人で走ることになった。

 5歳クラスは全員余裕で走り4才クラスも全員走り抜き。3才クラスは当然だが走り抜くのは無理だった。歩いたり、休憩しながらも一周を走る事が出来たがミールは、半分ほどで立ち止まり吐いてしまった為にそこで走るのは中止になってしまった。

 みんながいる所に戻ると5才クラスは優しい声を掛けてくれたが、3才、4才クラスは笑いながら

 「1周も出来ないなんで」

 「女の子が人のいる所で吐くなんで」

 「一周ぐらい歩いでもいいから廻ってこい」

 「フォルティス家の出来損ない」

 5才クラスの子はみんなで止めていたがミールは恥ずかしいやら情けないやら悔しいやら泣きそうになりすぐにでもその場を逃げ出したい気持ちになったが踏み止り決心する『今日から走り込み絶対見返してやる』と心の中で誓った。

 その努力の成果はすぐに現れた。1ヶ月で3才クラスを2ヶ月で4才クラスを3ヶ月で5才クラスを追い抜き4ヶ月では3,4,5才クラスでは、ミールに誰も追いつけなくなり今では、7才クラスの男の子といい勝負が出来るようになっていた。


 今朝も西地区の門から始めて一周を走った時には朝が早かった為に誰にも会わなかったが、二周目を走る時には畑仕事をしている村人達に出会った。

 ミールが二周目の東地区の門の入口に差掛った時、畑仕事している人と会い挨拶をしたり話をしてると、馬に乗る三人の人影が見えた。イサーラ村では村人以外の人物を入れない決まりがある為ミールは、東門の門番と頷き合い畑仕事をしていた村人の1人に応援を呼びに行って貰う事にした。

 「すみません……役人さんを連れて来て頂けませんか?」

 「あぁ……分かった」

 「皆さんは、一応警戒をお願い致します」

 「わ、分かった」

 暫くすると役人が走って来てミールの横に立つと、馬に乗った三人の男達も近くまで来ていた。

 

 近づいてきた男達は、フードを被り顔を鼻まで隠し口元しか見えない為に性別がはっきりと分からず怪しい雰囲気がありその場にいた全員が緊張し始めた。

 周囲を確認すると役人でさえ言葉を発するのを忘れているみたいなので、自分が代表として話そうと思い笑顔で言葉を発した。

 「おはようごさいます。ようこそイサーラ村へ……何用でこの村へお越しになられたのでしょうか?]

 [ふん……特に用は無い」

 「用が無いのならお帰り頂けますでしょうか? 村人以外の村への出入りは禁止しておりますので」

 「ふん……知っている」

 「知っておられるのに参られたのでしょうか?」

 「そうだ!」

 その言葉を合図に三人は、腰に付けた剣の柄に手を掛けると全員にさらなる緊張が奔る中ミールだけは、反応し自分の剣の柄に手を掛けようとするが剣が無かった。走り込みの最中だった事を思い出して舌打ちをした。。

 「ちっ……」

 「ふふふ。剣を待たないのに強気だな……ミール」

 「…………えっ!?」

 「ふふふ」

 「はははは」

 「…………」

 その場にいたフードの三人以外全て者が呆けていると、先頭の男がフードを脱ぎながらミールに言った。

 「まだ、分からないのか? 俺だ俺」

 「…………!? お父さん?」

 「そう、お父さんだよ!」

 自分の父だと分かると駆け出した。それを見たリキドは膝をついて待ち受けた。

 「おとうさーん」

 「ミ――――ル」

 「おとうさーん……なに馬鹿な事しているんですか!」

 と言うと父の頬にビンタをする」

 「……!? ミール……何をする」

 「何をするは、此方のセリフです。いったい何のつもりですか?」

 「えーと……ちょっと驚かそうとして……」

 「やっていい事と悪い事があります。みんなに謝って下さい」

 「は、はい……皆さん申し訳ありませんでした」

 「ははは、隊長カッコ悪い」

 「本当、カッコ悪いですよ」

 残りの二人が笑っているとミールが怒鳴った。

 「何を笑っていますが、御二方も同罪です」

 「いえ、私たちは無理やり」

 「ど・う・ざ・い・です」

 「「わ、分かりました。皆さん申し訳ありませんでした」」

 「ミ、ミールちゃん……それくらいで、許してあげよ? ね?」

 「うん、うん」

 「分かりました。皆さんがそう言うのであれば」

 「ミール……さすがイルマの娘……怒ると怖い」

 「た、隊長! 駄目です」

 「お父さん。反省していませんね? 帰ったらお母さんに言います」

 「わ―――ごめん、ごめんなさい、イルマには内緒でお願いします」

 「……反省していますか?」

 「反省しています」

 「……分かりました。信用しましょう……では、お父さん貸し一つです」

 「ミール……君は本当に3才かい?」

 暫くその場に笑いが起きた。

 「お父さん、すぐお家に帰りますか?」

 「あぁ、一度、家に帰るが何故だ?」

 「走り込みの最中でしたので、最後まで走ってから帰ろうかと」

 「では、西地区の入口で待っているから一緒に家に帰ろう」

 「はい、分かりました。皆さんお先に失礼します」

 「……暫く見ないうちに、すっかりイルマに似てしまった……何があったんですか?」

 「まぁ、色々とあったから急に大人になったような気はするかな?」

 「色々? それはいったい」

 「家に帰れは分かる」

 「早く帰れ!」

 「家に帰ったらびっくりするぞ」

 「家? とりあえず帰るか……じゃあ皆、本当に申し訳なかった」

 「気にするな」

 リキドが西門に向い馬を歩かせて到着するとそこには息切れ一つしないミールが待っていた。

 「…………ミール早いな? もう走って来たのか?」

 「……? はい、二周走り終わりました」

 「え!? 2周? 朝二周走ってんの?」

 「ええ、1ヶ月前から朝二周、夜二周走ってます」

 「1日四周? 毎日? ミールまだ3才でしょ……どういう体力してんの?」 

 「努力しましたから」

 「そ、そう……とりあえず家に帰るか?」

 「はい、帰りましょう」

 「なぁ、ミール、あそこにいた皆が家に帰ったらびっくりするって言うんだけど、びっくりする事って何?」

 「………………」

 「何故黙る?」 

 「…………」

 「…………」

 リキドの言葉にまったく返事をしないミールは、家に着くまで無言を通した。

 家に着くとリキドはゆっくりと玄関の扉を開けて中に入り食堂まで行くと子供にご飯を食べさせているイルマを見つけた。

 「イルマただいまー、エストただい……ま!? えーと、あれ……エストが2人? いや、双子だったか? いやいや……えーと……どういう事、イルマ、ミール! その子誰の子?」

 「お父さん、混乱しないで、きちんと話すから」

 「ん、ああ」

 イルマとミールは、エストが生まれてリキドが王都に戻ってからの12ヶ月間にあった事を全て話した。

 「そんな事が! ……なぜ教えてくれなかった? 手紙で教えてくれでもいいだろ?」

 「そんなの決まっているでしょ? 驚かせるためよ」

 「そ、そうか……しかし、俺が反対すると思わなかったのかい?」

 「反対なんですか? 反対なら私も覚悟してますけど」

 「覚悟!? って何?」

 「あなたと別れます」

 「ええぇ―――――――――!? 反対しない、反対しない」

 「フフフ……冗談ですよ。あなたが反対するとは思っていませんから」

 「本当!? ならよかった」

 「あなたの息子として認めてくれますね?」

 「はい」

 「なら、抱っこして名前を呼んでください」

 「名前は?」

 「ソティアス・フォルティス、ソティです」

 「……ソティ!……お父さんですよ」

 リキドは、ソティアスを抱っこして名前を呼ぶとニコニコ反応するので、可愛くなり何度も名前を呼んだり腕を伸ばして高い高いをしているとソティアスも嬉しいのがきゃっきゃ喜んでいる。

 「イルマ、ミール、ソティ君可愛いなぁ」

 「でしょ? でもお父さん、男の子が欲しかったんだね。そんなに喜んじゃって」

 「男の子欲しくなかったと言えば嘘になるけど、ミールもエストも生まれてきたときは嬉しかったし、今も嬉しいよ」

 「エストとソティ何処まで成長してる?」

 「二人共、とことこっと歩けるし、言葉もママとかミーとか話せるよ」

 「……パパは?」

 「無理かな? 教えてないし」

 「酷くない?」

 「自分で話し掛けて教えて下さい」

 「分かった……2人の今日の予定は?」

 「私は、午前も午後も魔術の授業」

 「私は、午前中に魔術、午後から剣術、終わってから自分の鍛練です」

 「だから、ミールとソティ君のことよろしくね」

 「わかった、1日でパパと教え込むから」

 「「がんばって、お父さん」」


 昼になる少し前にリキドは、2人の子供達になんとかパパと呼ばせることに成功した。パパと呼ばせることに安心したのが王都からの帰還の為がうとうとと眠ってしまった。

 一瞬のうたた寝だったのだが2人の姿が部屋にはなかった。

 「やばい! ……どこ行った? 探さないと」

 リキドは、家中、一階はもちろん二階も探したが見つからない。どこ行ったが分からなく顔がみるみる青くなりながら二階から降りて来て廊下の奥の方の扉が少し開いているのに気が付き「まさか、学校の方に行ったのか?」と思い学校の方を探し始める。

 ここフォルティス家は、自宅と学校が隣り合わせで扉一枚で別けられていた。

 リキドが学校の教室を一つ一つ探していると魔術教室の一つからイルマの悲鳴が聞えてくる。

 悲鳴が聞こえた教室を開けるとそこには、ソティアスを抱きしめたイルマの姿があった。

 

 何があったのか……時間をリキドがうたた寝中に遡る。


 リキドがうたた寝を始めるとソティアスとエストは部屋を抜け出し廊下の先の扉が開いてるのを見つけるとそこから学校の方へ行ってしまった。

 廊下を歩いているとイルマとミールの声が聞えて来たので、声のする方へと歩いて行くと扉があったが押すと簡単に開いたので二人が中に入るとミールを見つけるとその場に座り込みニコニコ笑っていると目が合った。

 ミールがたまたま扉の方を見るとソティアスとエストと目が合い驚いたが二人の方へ行こうとしたら先生であるイルマに怒られてしまった。

 「ミール集中しなさい」

 「は、はい、すいません。でも、お母……いいえ、先生……うしろ」

 「いいから、集中しなさい。次は、左から”ウォーター”を詠唱し下にあるバケツに入れてみてください。

 「「「「「はい」」」」」

 「水の精霊よ汝の力の一部を我に貸し与えたまえ……ウォーター」

 「はい、いいわよ次々唱えて」

 全員、唱えていき成功していきミールの番になったがソティアスとエストの二人の事が気になり集中出来なかった為に失敗した。すると先生が「集中しないから失敗するんです。もう一回やりなさい」と言いながらミールの前まで来た瞬間、イルマの頭の上に水の塊ができあがり割れると頭から足元までびじょびじょに濡れてしまった。

 「…………誰ですが! 先生にぶつけたのは?」

 全員血の気が引いたような青い顔して首を横に一生懸命振って、否定する。

 「ミール……あなたですか?」 

 ミールも首を振る。そして全員で先生の後ろを指さす。

 イルマが後ろを振り向くとソティアスとエストがいた。二人がいたことには驚いたがミールに向き直り

 「ミール? 後ろにはソティ君とエストしかいませんよ?」

 「お母さん、本当にソティ君です。ソティ君が水を出したんです。ね! ね!」

 隣の人にも同意を求めると教室にいた全員が頷く。

 「本当に?」

 「「「「「はい、本当です」」」」」

 イルマは全員で言うので、一応確認の為ソティアスに声を掛ける事にした。

 「ソティ君、今のもう一度出してくれないかな?」

 優しく声を掛けて頼むとソティアスは掌をイルマに向けた瞬間、水が飛び出したので驚いてしまった。

 ミールとその他の子供達も目を開き、口をパクパクさせてお互いに見つめ合っていたが固まっていたイルマが元に戻り、目を二度程瞬きすると悲鳴を上げてソティアスを力任せに抱き付き始めた。

 「キャ――――――――――――――なに? なに? ソティ君、魔術使えるの? 1才にもならないのに? すごい、すごい、ソティ君すごいわ」

 イルマがソティに抱き付いていると扉からリキドが飛び込んできた。

 「どうした、何があったのか?」

 リキドが教室に飛び込んできても誰も反応しなかった。リキドも皆の反応がおかしいのに気がづき教室中を確認するとミールがいたので声をかけて聞いてみた。

 「ミール……ミール、何があったんだ?」

 「え!? お父さん? い、いいえ、ちょっと……あ! お母さん離して、ソティ君苦しんでるから離して!」

 「え!? あ! ご、ごめんね……ソティ君大丈夫?」

 ソティアスは、にこにこ笑っているので大丈夫そうであったので全員安心した。

 「それで、何があったんだ?」

 「ソティ君が魔術を使ったのよ。水を二度も出したのよ」

 「ウソだろ? まだ1才にもなっていないのに」

 「本当なのよ……ね? みんな」

 「う、うん、たしかにソティ君が魔術を使う所を見ました」

 「お母さん、たしかに魔術を使ったのも驚きですけど……本当に驚く所はそこじゃないです」

 {……?」

 「魔術を使うのに詠唱が必要ですよね?」

 「え!? ええ、まあ、基本的には」 

 「ソティ君……詠唱無しで水を出していましたよ?」

 「そう言われてみたら……」

 「詠唱無しで、魔術を唱えることなんで出来るのですか?」

 「世界に何人いるが分からないけど……神の加護を受けた者なら詠唱無しで魔術を唱える事が出来るみたいよ」

 「……神の加護? 天才児って事ですか?」

 「……天才とは違うかな……詠唱無しでも魔術の訓練と努力をしなければ魔力と魔術の威力は上がらないし、詠唱ありでも訓練と努力で詠唱を縮めることが出来るから天才と呼ぶならこっちだと思うわ!」 

 「努力した人で詠唱無しの人って皆すごいですか?」

 「お母……先生の知っている限りでは、最低限努力すれば全員魔術ランクB以上ね」

 「それじゃ、ソティ君もBランク以上って事?」

 「一応、下位魔術の下級4属性を無詠唱で唱える事が出来ればBランクだけど……どうして?」

 「ソティ君、魔術の才能あるんだね。私、お姉ちゃんなのにもう負けているみたいで情けなくって……」

 「ミールには、魔術の才能無いかもしれないけど……剣術の才能があるでしょ? オールドー先生も言ってたけどリキドより才能有るって言ってたわよ」

 「う、うん……でも……ソティ君に剣術でも負けたら」

 「馬鹿ね、今からそんな心配しても仕方が無いでしょ? それともソティ君の才能に嫉妬して嫌いになる?」

 「ううん、嫌いにはならないけど」 

 「なら、剣術をさらに頑張って、エストとソティ君を剣で守れるようになりなさい」

 「はい」

 「イルマ、ミール、皆見ているからそこまでにしたら?」

 「「え!?」」

 リキドに言われて周りを見ると皆、注目していた。

 「あ! 皆、ごめんね」

 「いいえ、大丈夫ですけど……この後の授業どうしましょうか?」

 「少し早いけど、今日は、終わりにしましょうか。昼からの剣術の授業に備えてね」

 「分かりました。ありがとうございました」

 「はい、ありがとうございました。それと今日の事は、暫く内緒でお願いします」

 「はい」

 生徒が教室を出た後に残ったのは、フォルティス家の5人。

 魔術教室の周りに誰もいないのを確認するとイルマはソティアスの目の前で下位4属性魔術の残り3属性の土、火、風の下級をやってみせると簡単にやってしまった。全て無詠唱で。

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「流石にちょっと言葉に困るわね?」

 「ああ」

 「はい」

 「無詠唱で魔術を使えるから才能は有ると思っていたけど……1才にもなっていないのにここまで魔術を使えるなんで……」

 「この才能を潰さないように大事に育てないと」

 「そうですね」

 三人でそう決意した。


 2年と12ヶ月後、

 ソティアス・フォルティスとエスト・フォルティスは、3才となり学校に通う年齢になった。

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