第4話 イサーラ村族長との謁見
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二人で家を出るとイルマが家に鍵を掛けて一呼吸置いてから振り向きミールと一緒に高台を下り中央地区の族長邸に向かって歩き始めた。
中央地区まで続いている西地区の大通りを歩いて暫くすると2人を見つけるとニタニタとやらしい笑いをしたかと思うとワザとらしくザワ付き始めた。
村人全員イルマとミールそしてミールの腕に抱かれている赤ちゃんを交互に見比べてから色々と下衆な話し合いをその場に全員でクスクスと二人に聞こえるくらいの声で話し笑い合っている。
昼食後であり雲一つない青空の清々しい場所に相応しくない会話が続けられていた。
「おい、みんな見てみろ、ミールの腕の中の赤ん坊」
「イルマの赤ん坊じゃないの?」
「いや、最近生まれたのは、イルマが抱いている女の子の方だろ?」
「うん、そうよね」
「本当は、双子たっだとか?」
「そんなはずないわ、私は、エストが生まれた後すぐに挨拶に行きましたけど一人しかいませんでしたよ!」
「まさか、旦那さんの隠し子?」
「いや、イルマの隠し子?」
「え……まさか? イルマが浮気した子? いくら旦那さんが王都から半年にに一度しか帰って来ないからって」
エストを産んですぐに生まれるはずがない事を知っているのに言いたい放題言っている村人に腹が立ってきたが言い返す事が出来ないので我慢をするしかなかった。
「旦那さんかわいそう……クスッ」
「流石にそれは、リキドに悪いだろ……ははははは」
「赤ん坊の髪の色見て……この村にはいない黒髪よ!」
「では、村の外の男が……たしか、イルマ王都に行っていた時期があったよなぁ!」
「その時の子供って事……?」
「リキドは1年の殆んどは王都に居るし浮気のしたい放題だしな!」
「イルマの浮気にしても、リキドの浮気にしてもミールがかわいそうね……クスクス」
事情を知らない村人たちは言いたい放題言いながら笑っている。
イルマとミールが村人に嫌われているわけではなく娯楽の無いこの村では噂話に花を咲かせているだけである事はイルマも知っているので気にしない素振りをしているが3才のミールにはまだ知らない素振りをするのは無理であり目には、涙を浮かべて泣きそうになっている。
子供のいる前で大人達が喋っているから子供達も二人を馬鹿にしたように笑っているとその中の三人の子供がミールの傍に走ってきて話し始めた。
「なぁ、ミールその子は誰だ? どこの子?」
「お母さんがお父さんの隠し子?」
「お父さん浮気したの? それともお母さん?」
「なんで何も喋らないだよ」
「何が言えよ」
「泣いてないで何が喋ろよ」
子供は気になる事は本人に直接聞くから大人より残酷であり大人たちはその光景を見て笑っていたが子供の親達の顔は血の気が引き青くなってきていた。
ミールに話し掛けている子供達を見ていた役人が走って来るのを見た子供の親達は、自分の子供を慌てて呼びよせ「今のあの二人に話しかけたらダメ」っと言っている。
子供達は知らなかったみたいたがイルマとミールは無視していた訳ではなく、今この場所では母娘でしか喋る事を許されていないからであり、その事を知っている親達は慌てて子供を呼び寄せだ訳である。
話しかけていけない訳はイルマとミールの衣装にある。
村人達は、旅人風、剣士風、魔術師風等色々な服装をしているのに対して二人の着ている服装は族長と特別な話をする為の民族衣装(上着は女性のうなじを美しくみせるように内襟と外襟が織り成すV字形の線や自然な丸みを帯びた袖下の曲線は温和な美しさを表し、スカートは靴を隠し地面に付く程のロングスカートは優雅で可憐な雰囲気を漂わせている)を着ている時は、族長との謁見をするため話しかけないようにと意思表示であり、あまり悪質に話しかける人は、処罰される。
族長への謁見前に同じ民族衣装を着ている人同士喋ってはいけないしきたりがあり、話しかけた人、話しかけられた事への返事をした方も処罰される。
厳しいが何百年、何千年と続いてきた神聖なしきたりでもある。
泣きそうなミールを見てイルマは、「ミール大丈夫?」と話し掛けた。
「……はい、我慢できます……でも、知らない赤ちゃんを抱っこしている事って、そんなに悪い事なんですか?」
「……ミール……無理かもしれないけど気にしては駄目よ……大人は、本気ではなく楽しんでいるだけ……子供は、大人の話を訳も分からず笑っているだけだから」
「…………」
少しの沈黙の後にイルマの顔を見て頷いた。
村人達が二人の道を歩く姿を見かけると少し距離を取り全員笑いながら話をしながら付いて来た。
暫く歩くと中央地区時計塔に着きそこから村の北の方を向くと村一番の大きい邸宅が見えるとイルマはあそこが族長の邸宅と教えた。
「ミール……覚悟はいい?」
「はい」
「きちんと挨拶をするのよ?」
「はい、わかりました」
「では、行きましょう」
「はい」
二人は邸宅の門に歩き始め邸宅の門の前には、民族衣装を着た執事が立っておりイルマとミールは、挨拶をし族長に取次ぎを頼み門を開けて貰い玄関に向かって歩き始めた。
「こんにちは」
「オブリーさん、こんにちは……族長様への謁見のために参りました。お取次ぎをお願いいたします。
「こんにちは、イルマ様、ミール様、お待ちしておりました……では、こちらにどうぞ」
一緒に中に入ろうとしている村人たちを睨みオブリーは一言。
「あなた方は、中に入る事を許されていませんのでご遠慮を」
中に入ろうとしていた村人たちは、しぶしぶ門の所で待つことにした。
玄関を開けた貰い屋敷の中に入ると族長が待っている謁見室へと通された。
謁見室へ向かい歩いている途中にオブリーは、2人に話し掛けた。
「イルマ様、大変でしたね?」
「はい、お心使いありがとうございます」
「ミール様、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
ニッコリ頷き歩き始めると謁見室の前に到着した。
「準備はよろしいですか?」
イルマとミールは顔を見合わせて頷き答える。
「はい、よろしくお願い致します」
オブリーは、頷きドアをノックする。
部屋の中から声がして、
「お入り下さい」
「失礼致します」
中に入るとイルマは、内心驚いだそこには、族長、村長、東西南北4地区長、イサーラ村を取り仕切る6人の姿があった。。
イルマは部屋に入り下げ左膝を付いて右膝を立てて頭を胸まで軽くて
「族長様、村長様、4地区長様この度は、私事に耳を傾けて頂き誠にありがとうございます。赤ん坊を抱いているので正式なご挨拶が出来ない事お許し下さい」
ミールも続いて同じ様に左膝を付いて右膝を立てて頭を胸まで軽く頭を下げて挨拶をした。
「族長様、村長様、4地区長様、この度は、誠にありがとうごさいます」
6人は、二人の姿を見て頷いて族長が答える。
「よく参られた。二人とも此方の席に座りなさい」
「はい、失礼致します」
「はい」
席に着くのを見計らって村長が言葉を掛ける。
「イルマ……赤ん坊を生んだ後、体調を崩したと聞きましたがもう大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。もう大丈夫です」
「イルマは、3才でしたね? 大きくなりました」
「はい、ありがとうございます」
族長が話を進めた。
「挨拶はこれくらいにして本題に入ろう……今日は、その黒髪の赤ん坊の話でよろしいかな?」
「はい……夜中にミールが西地区の門を出た森で赤ん坊を拾って来ました」
「うむ……ミール詳しい話を出来るかな?」
「はい、出来ます」
「では、ゆっくりでいいので、嘘偽りなく話をする事を宣誓して話をしなさい。みんなは話が終わるまで口を挟まないように」
「はい、私ミールは、嘘偽りなくお話をいたします。
お話は、今日の夜中の事です。寝ていると夢に綺麗な女の人が悲しい顔で聞いた事のない優しい声で起きて、お願い誰が起きてっと言う声で目を覚ましました。最初は夢だと思っていましたが次の瞬間に私の頭の中に直接語り掛けてきました。「私の声が聞こえるあなた! 村の西門まで来て!」と言っていたので怖い感じは無かったので家を出で村の西門までいきました。不思議だったのは、西門まで誰にも会いませんでしたし門には門番も居ませんでした。西門から村の外に出た瞬間に森の中から眩しい光が見えたので森の中に入りました。光の傍まで行くとこの子が居ました。抱っこをしようとしたらまるで私が来るのを待っていたかのように両手をあげて笑っていました。赤ちゃんを抱っこして森を抜けた瞬間に光が収まり馬車の音がしたので、音のする方を見ると見た事の無い馬車が走り去って行きました。そして、家に戻りお母さんに赤ちゃんを拾った事を説明しました。赤ちゃんを連れて西門から村に入り暫くすると村の人達が急に現れた感じがしました。……お話は以上です……」
その場にいるイルマも含めて全員がミールの説明に驚いている。
族長も驚いてはいるが感心もしているようだ。
「ミール……君は、3才でしたよね? ゆっくりとは言えそこまで説明できるとは、流石はリキドとイルマの子だ!」
「ありがとうございます」
「今の話に嘘偽りは無いのだね?」
「はい」
「……二人は、その子をどうしたいと思っているのかな?」
「ミールとも話し合いましたが、私達は……この子を育てたいと思っています」
「……数十年前のコンキスタの剣の強奪事件からイサーラ村出身者以外は国王印の持つ者以外村に入れない事は知っていますよね?」
{はい、知っています」
「では、無理な事は分かりますね?」
「……」
イルマは黙ってしまったがミールが反論する。
「この子が何をするっていうんですか? まだ赤ちゃんですよ?」
「今は赤ん坊だが、その子も大人になるその時また村の宝が盗まれるかもしれない」
「かも?……かもでこの子を育てるのに反対するのですか?」
「かもで十分なのです。そもそも村の掟ですので」
「掟と言っても盗まれた後に出来たものですよね?」
「確かにそうですが掟は掟です。そしてミール、あなたの説明にも不審な点があります。優しい女性の声? 村の西門に誘う声? 森が光っていて入って見たら赤ん坊がいた? 最後に赤ちゃんを連れて帰る途中まで人に遭わなかった? 朝方イルマから少し報告を聞いたので、調べさせたがあの辺りに馬車が走った痕跡は無かった。不思議なのは確かに夜中あの辺りを歩いていた村人はいなかった事と門番が偶々《たまたま》出掛けていたようだ!」
「では、私が嘘を言っていると?」
「そうは言わないが夢ではなかったのか? 赤ちゃんが居るのだから拾ったのは本当だとは思うが」
「……全部……本当の事です……」
「話が本当でも嘘でもその子を村で育てるのは無理だ!」
「……村で育てるのが無理なら私達がイサーラ村を出ます」
イルマはやっと口を挟む。
その言葉に全員ザワつき始めた。
村長が話をする。
「何バカなことを言っているのですか? あなたは、西地区の学校の責任者ですよ? 任期は10年、その為、任期終了まで村から出ることは許されていないことを知っているでしょ?」
「知っていますけど……それなら責任者資格を剥奪して下さい」
「剥奪?……剥奪できないのも知っていますよね?」
「なら……どうすればいいんですか!?」
「その子は、諦めなさい……」
「えっ……!?」
「諦めなさいと言いました……今ならまだ諦めても傷が浅く済むでしょう」
「諦めたとして……この子はどうするのですか?」
「……村から追い出す。奴隷商人に売り渡す。後は……」
「…………!?」
{…………!?」
イルマとミールは驚愕の顔をした。
「族長様……いいえ、お父様、ご自分が何を言っているのが分っていますが? それに、私はもうこの子は自分の子供だと思っています」
「村から追い出すのも奴隷にするのは反対するのだな?」
族長は、オブリーに目配りするとミールの腕から赤ん坊を取りあげて部屋を出て行った。
「お父様、何のつもりですが?」
{……首を刎ねて殺す……最初っから居なかった事にする」
「「……え!?」」
2人は一瞬何を言っているのが分らなかったが、すぐに正気に戻りオブリーを追いかけようとして扉を開けようとするが開がない。
「お父様、やめて下さい。此処を開けてください」
「おじい様、やめて」
族長は何も答えない。するとイルマが詠唱を始めた。
「火よ汝の力を我に……」
すると族長がイルマに対し
「イルマ無駄だ、いくらお主でもこの部屋で魔術を使えないのは知っておるだろ!」
「……!」
イルマとミールは泣き始めたが気にせずに泣きながら叫んだ。
「お父様やめて下さい、お願いします。ここを開けて下さい」
「おじい様、お願いします」
何をしても扉は開かない……しかし、いきなり扉が開いた。開くと同時にイルマとミールは部屋から飛び出し追い掛けた。
部屋に取り残された6人は驚いていたが「馬鹿ななぜ開く」と言った後、二人を追い掛け始めた。
族長邸の地下には、現在使われていなかったが拷問部屋が在るのを知っていたイルマは地下にある剛毛室を目指して急いた。
やっとの思いで拷問部屋の前に到着し扉を開けて中に入ると今まさに赤ちゃんの首めがけて剣が振り下ろされる所だった。
「やめてぇ――――――――――――――」
イルマは叫びながら両の掌で目を覆うと後ろに族長達が来た。
暫く経っても誰も口を開かない中ミールが口を開く。
「……お母さん、お母さん……見て……あれ……赤ちゃんは無事だよ!」
「……えっ! ……ミール何を言っているの? ……だって剣が振り……!?」
イルマが見るとオブリーの剣が振り下ろされているが真ん中から折れていた。
剣が折れていたのにも驚いていたが、一番驚いていたのは、赤ちゃんが神々しく輝いていたからである。
「……………………」
その場にいた全員が言葉を失い固まっていた。
暫くすると落ち着いたミールが駆け寄り赤ちゃんを取り戻した。
イルマも駆け寄り族長たちに右手を向け詠唱準備をして対峙する。
「もう、この子に手出しさせません。本気でいきます」
族長達はまだ、固まっていたが。
暫くして落ち着いた族長が深呼吸をしてから何とか口を開いた。
「わかった……もう一度……話し合おう」
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