第12話 ミール旅から帰る
イストリア国王都イプハールに行っているミール達6人が帰って来るはずだった日の翌朝、ソティアスとエストは毎日の日課である村の子供達と走りながら姉ミールが帰って来ない事に心配していた。
「ミール姉さん、帰って来なかったね?」
「そうだね……何かあったのかな」
「何かって?」
「依頼に失敗とか……もしかしてだけど……いや、やめておくよ」
「もしかして……何?」
「いや、気にしないで」
「気になる」
「……盗賊に……出会ったとか」
「ソティ!」
「ごめん、可能性の1つとして」
「そんな可能性……考えたくない」
「うん、ごめん」
二人の話を聞いていた後ろの子供達も盗賊が出るのを知っていたので心配していた。
村の清掃が終わり全員でこの後どうするが話し合いそれぞれの練習場所に向かって行った。
「ソティはどうする?」
「僕は、教会に行くよ。エストは?」
「私は、もう少し走ってから剣術道場に行くよ」
「じゃあ、夜に此処で」
「うん、分かった。まだ後で」
ソティアスが教会に歩き始めるのを確認してからエストも西門へ歩き始めて入口に到着するとそこにはミナが待っていた。
「ミナちゃんおはよ! どうしたの?」
「おはよ! エストちゃん……今日、学校休みだから私も一緒に走っていいかな? 何をやっていいか分からないの」
「いいけど……大丈夫?」
「まだ、一周は無理だけど半周なら……」
「それなら、ゆっくり、途中歩いてもいいから一周走ってから剣術道場に行って素振りをして昼から魔術の練習しない?」
「いいの? 私に付き合ってくれて?」
「いいよ! 最初はゆっくりでいいから一周走ってみようよ? 一周走ることが出来れば自信がつくとおもうよ!」
「うん、ありがとう」
エストとミナがゆっくりと走り東地区の入口に来た時、村の警備隊に話し掛けられて暫く話し込んでいると、東の空に砂煙が立ち昇るのが見えた。
エストと警備隊が何事かと暫く見ていると、1台の馬車が勢いよく此方に向かってきているのが見えた。
馬車の御者台に乗っている人が見える位置に来た時に警備隊の1人が口を開き「隊長、あれ、今朝早くに王都に向かった雑貨屋のノックスじゃないですか?」「ああ、忘れ物が?」「その割には焦っているように見えます」警備隊が話している横で、エストは、先程ソティアスが言っていた盗賊の二文字が浮かび不安な気持ちになりながらも馬車が来るのを待った。
村の入口まで馬車に乗っていた雑貨屋のノックスが少し怒鳴ったように叫んだ。
「其処を通して下さい。一刻を争います」
「何があった?」
「教会に急いでます。詳しくは教会で話します」
「わ、分かった。先に行け」
「エスト、ミナお前達も教会に来い。あと、警備隊の方……イルマとミールと一緒に行った子供達の家族を教会に呼んで下さい。私は先に教会に行ってます」
「分かった……おい、家族を呼んで来い」
「了解です」
「二人共、我々は教会に」
「「!? ……はい」」
ミナはよく分かっていなかったが、エストは、さらに不安になり教会に向かって走り始めた。
雑貨屋のノックスは、教会に着くと中にシスターを呼びに走り込んだ。
「シスター、シスターお願いします」
「! ノックスさんどうしました?」
「シスター! 一刻を争います。重傷人が三人います。早く治療しないと間に合わない! 」
「重傷人が三人! 回復薬は?」
「使いましたが、傷はそんなに深くないのに何故が三人共効かないんです」
「!? とりあえず中へ」
「はい」
シスターは応援を呼び中に運び込むために外の馬車へ向かい荷台に乗っている患者を見て驚き絶句してしまった。
そこに寝かされていたのは、3人の子供……ミールとミールと共に王都に行った女の子1人男の子1人の3人であった。
「シスター早く運ばないと」
「! あ、はい、皆さんで中に運びましょう」
「「「「はい」」」」
「! ミール姉さん!」
「おねえちゃん」
「ミール姉さん、どうしたの?」
「…………」
「エストさん、落ち着いて下さい。早く中へ運ばないと」
「! はい、すいません」
中へ運んだ三人に教会にある回復薬全てを飲ませたが一向に傷口が塞がらない。そこにイルマと家族全員がやって来て今の状況をシスターから聞きある者は泣き崩れ、ある者は言葉もなく立ち尽く中、イルマは、家から持ってきた自家製回復薬を飲ませた。すると一瞬だか傷が塞かり掛けたが傷口が開いてしまった。
「おそらく回復の速さが追いつかないのでしょう! 傷は多いけど致命傷は無いのに……毒だと思い解毒薬を使っても効き目が無いし……原因が全く分かりません」
「お母さんの回復薬でもダメなんで……ミール姉さんどうなるの?」
「! そう言えばソティ君はどこ? ソティ君の”治癒魔術”ならもしかして効くかも」
「ソティは、教会に行くって言ってたけど」
「ソティアスさんは、一度教会に来ましたが今はいません」
「何処へ行ったんですか?」
「森の池の奥にある滝へ……滝行をしに」
「滝に? エスト走って呼びに行って来て!」
「はい!」
「エストさん、ソティアスさんは、一度瞑想に入ったら声を掛けても聞こえません」
「声を掛けても?」
「はい、ソティアスさんが言うには、瞑想中は神様との対話中と言っていました」
「神様との対話? よく分かりませんけど……滝へ行ってきます」
「エストお願いね。此方でもやれるだけやって見るわ」
「はい」
エストは、全力で走りソティアスのいる滝に着いた。ソティアスは、滝に打たれながら瞑想をしていた。エストは、ソティアスを呼んでも全く反応しないので傍まで行って叫びながら呼んだ。
「ソティ――――ミール姉さんが姉さんが!」
「…………」
「ソティ――目を開けて、お姉さんが大変なの」
「…………」
「お願いソティ目を開けて……」
「…………」
「……ソティ……お願い……お姉さんが……死……ん……」
「……エスト! どうしたの?」
「ソティ! ミール姉さんが大変なの早く……治療しないと……回復薬が……全然……効かないの」
「分かった、急いで戻ろう」
「でも、ここから走っても」
「大丈夫……こっちに来て」
「え!?」
「エスト、ちゃんと掴まっていて」
「え!?」
ソティアスは、エストを置いてあった板の上に乗せて風魔術”風”を唱えると板こと空高く飛び上がるとエストは悲鳴をあけたが板は前方へ進み教会の上まで勢いよく飛び地面に降りた。
降りると教会の中に皆が居る治療室まで走った。
「母様! ミール姉様の容体は?」
「ソティ! ……三人共……なんとか息があるけど……今にも止まりそうでかなり危ないわ!」
「僕に任せて下さい。みなさん!三人の傍から離れて下さい」
「わかったわ」
ソティアスは一番重傷に見えるミールの傍により”治癒魔術”を唱えると傷が塞がっていくが塞がる寸前でまだ開いてしまった。
「ダメが!」
「母様……遅行性の毒です。新しい毒の為に解毒薬が効かなかったみたいです」
「!?……新種の毒? どうすればいいの?」
皆が諦めかけた時にソティアスが”解毒”を唱えると傷口から毒が抜けていった。毒が抜けてから”中級治癒魔術”を唱えるとミールの傷口が完全に塞がるのを確認すると残りの二人にも同じ治療を施した。
「母様、何とか傷口が塞がりましたが……失った血液と体力は戻りませんので危険なのは変わりません」
「ええ、シスター、皆さん、交代しながら看ていきましょう」
「はい」
「はい、わかりました」
「ああ」
「それより、ソティ……いつのまに”解毒”と”中級治癒”を?」
「はい、先程の瞑想で覚えました。必要になると思ったので」
「! こうなると思っていたの?」
「はい、何となくですけど」
「ソティ君が”解毒”と”中級治癒”を覚えていなければ、おそらく三人共駄目だったわね」
「お母さん、今は、ミール姉さん達が助かった事を喜びましょう」
「あのー……三人が助かったのは、喜ばしいのですが、うちの娘はどうなったのでしょうか?」
「「うちの息子もだ」」
「ノックスさん?」
「私が見つけたのは、この三人だけです。一応周りを探しましたが他には……」
「三人が目を覚ましたら聞いてみましょう」
7日後……ミール達が目を覚ました。