断ち切れ銘刀!!虎徹さん!
書きたいから書いた!SOREDAKE!
「拙者は虎徹と申すもの!そこの女子、拙者と契約してくれぬか!?」
「きゃあおばけぇ!!!」
「うぼぉ!??」
はっ!本棚から本を抜いたらいきなりちっちゃいおっさんが出てきたのでつい本を戻してしまいました!
しかもかなり勢いよく!
手になんか潰れたような感触がありました!
「…………うん。きっと成仏してくれましたよね。」
「待てぇぇい!まだ拙者は死んでおらぬぅぅ!!」
あ、生きて……たようです?
本の向こう側からまだ声が聞こえます。
「お願いです!後でお墓でも何でも作るので成仏してくださいぃぃ!!」
「拙者は霊魂の類では御座らぬぅぅ!だからその本を押すのを止めよぉぉぉ!!」
何だか必死に訴えてくるので力を込めるのを止めてあげました。
幽霊だったら呪われるかもしれないですが違うならいいでしょう。
「考えるのはそこなのか……この時代の女子の考えることは読めぬ……」
自分の体長よりも大きい本を押し出しながら這い出してくるちっちゃいおっさん?
江戸時代とかそのくらいに居そうな……俗に言う武士みたいな服装をしてます。
けど髪型はまげというわけじゃなくて、ただ短く無造作に切られていて白髪が混ざっている。
侍とかそんな感じの雰囲気なせいで刀を差してないのが逆に違和感。
「それで……あの…あなたはどういう種類の幻覚ですか?
目の疲れから?精神の異常?もしくは脳の方なのでしょうか?」
「幽霊扱いの次は幻覚扱い!?
最初から幻と決めつけないでくれぬか!?
……最初に名乗ったとおり拙者の名は虎徹と申す。
この度は拙者の主として契約してもらいに参った。」
なるほど、わからん。
「大変ですね!じゃあ私はこれで!」
「待て待て待て待て待て何即座に去ろうとしておるのだ!
もっと詳しく話を聞くとかあるじゃろ!」
「えっ……はい。分かりました簡単に説明して下さい。」
「今露骨に嫌な顔しおったな、この女子……!
まぁ良い、つまりだな…かくかくしかじか。」
「まるまるうまうま……なるほどそういうわけですか。」
つまりこの小さなおじさん……虎徹さん曰く、
この世界でスーパー聖剣&魔剣大戦が始まり、この戦いに勝ち抜くと聖剣もしくは魔剣の所有者の願いをなんでも一つ叶えてもらえる……らしい。
それぞれの所有者……もとい契約者は決まっている……らしく、
私はこの虎徹さんの契約者に選ばれてしまった……らしい。
何故全て〈らしい〉で締めるのかは私自身が信じてないからです。
こんな突拍子もないような話をはいそうですかとすぐさに信じられるほど私は単純な性格はしてません……と思います。
とても胡散臭い、けどこんなのが目の前にいる以上は信じることに前向きで行こうと思いますよ。
「というわけで理解してくれたかのう?」
「理解はしましたけど契約はちょっと……」
「何故じゃ!?なんでも願いが叶うんじゃぞ!?」
信じる事にするのと関わっていくのは違うことです。
これは大事なことですから。
前向き?私の往く方向が前です。
「まず①にリスクに対する説明が無いですし……
戦いというには怪我することもあるんですよね。
そこまでして叶えたい願いが浮かびません……!
②に私の運動神経は何もないところで躓くレベル、体力なんて駅の階段登って息が切れるほどですよ……!
そんな私が戦いなんてやってることが自分で想像すらできません……!
言ってて悲しくなってきました!」
クラスではどんくさいことで有名な私では絶対に無理です、
ドジじゃないんです、足が予想以上に上がらなかっただけなんです。ドジじゃないんです!(強調)
「だ、大丈夫じゃ!確かに怪我することもあるかもしれぬが拙者がサポートするし、さらに契約者はその剣を持っていると身体能力が急上昇する。それ故運動神経の心配は要らんぞ!」
「だ、だからって私が契約する理由にはならないじゃないですか!関わらないことが私にとっての最善です!」
そもそも一人が大好きで図書委員に立候補し、放課後のこの安らぎの時間を手に入れているのにそんな厄介事に自分から首を突っ込むなんてまっぴらです!
「この度はご縁がなかったということで!それでは!」
「ちょっ、まだ大事なことが……」
「何ですか!?まだこれ以上あるんですか!?」
「実は倒す主は契約の前後関係なくてのう、つまりお主は今の状態でも十分狙われる可能性があるんじゃ。」
「かなり大事な事じゃないですか!!
ていうか、それはその話をすることがフラグです!!」
私がそれを言い切るや否や勢い良く図書室のドアが開かれる音が聞こえました。
「ほらやっぱり、言わなきゃ来なかったかもしれないのに!この虎徹さん!」
「えぇ!?これ儂のせいなのか!ていうか儂の名を悪口みたいに呼ばんでくれんか!」
そう言ってる間にもその来訪者の足取りはこちらに向かってきています。
本当に最悪です、厄介事しか呼びませんこの似非侍モドキ。
そしてその足音は私達の話す本棚の角まできて止まりました、いや違いますね間違いなく向かってきてます。
そしてその足音の主は姿を見せるとこう言葉を発しました。
「おう近野、もういい時間だからそろそろ帰れよ〜」
「あっはい。もう帰ります。」
なんてことはありません。ただの先生が残っている私を注意しにきただけでした。
フラグなんてなかったんですね。
ちなみに近野は私の苗字です。
「やっぱり、儂は関係なかったではないか、だがいつ敵が現れるか分からん。
だから儂と契約を……」
何だか虎徹さん(仮)がまだ何か言っているようですが無視して先生が言っていた通り図書室の戸締まりをして帰ります。
元々帰る間際だったので荷物を持って扉に鍵をかけて、
後はこの鍵を職員室に返すだけです。
人生平穏が1番、山や谷なんていらないのです!
……しかしギリギリまで粘って本を読んでいたのに加えて、あの未確認生物さんに絡まれてしまっせいですっかり遅くなってしまいました。
夕日が沈みかけて校舎の中も何だか薄暗くなっています。
これは確かに先生も心配して帰りを促しに来ますね、納得ですよ。
……いえ、別に薄暗くて怖いなとか思ってるわけじゃないんですよ?
雰囲気あるとかは思いますけど「ガタッ」ひぃ!?
…………なんだ、ゴミ箱が風で倒れただけですか。
ちゃんと窓を閉めておいてほしいものですね、不用心です。
放っておいても見回りの先生が閉めてくれるとは思いますが気になったので閉めてしまいます。
ガラガラピシャッと。
うん、これで良「ガタンッ」ひにゃあ!?
今度は何!?って何だ、黒板消しが落ちただけかぁ。
ちょっと過敏になってるみたいですね、そんなにすぐ何かイベントが発生するなんてこと無いですものね、うん。
黒板消しを元に戻してっと良し。
…………だからさっきからこちらに視線を向けて剣を逆手に構えてる人も関係ないですよね……!!
なんか黒いコート着てマスクで顔隠すとかスゴク不審者っぽい格好ですけど……!
あきらかに外から窓開けて入ってきたっぽいですけど……!
「あぁ?お前も選ばれたクチかぁ?
契約してねぇってなら好都合だぁ。
俺様のために死んでくれやぁ……」
はいアウトーー。
完全に私がターゲットになりましたー。
即座に教室から飛び出して廊下を駆けます。
今ばかりは校則なんて細かいことはいいんですよ!!
「やっぱり来たのう、ほらはよ契約せんとえらいことになるぞい。」
いつの間にか隣を和服UMAが並走してます、ていうか浮いてます。
なんで他人事みたいに言ってるんですかね!
誰のせいだと思ってるんですか!?
「もうっ、余裕がっ、無いですがっ、はっ、いちおっ、聞きますっ、契約っせずに乗り切るっ、方法はっ!?」
「廊下を少し走ったくらいでもう息が上がってるお主じゃまず無理じゃろうなぁ。
というか息切れるの早すぎじゃろ!?」
うるさいです!
一般的よりすこし体力がないだけです!
私はその場で振り返りながら立ち止まります。
少し先には先ほどの男が余裕そうに立っていました。
暑くないんでしょうか、とてもうざったいカッコです。
男のくせに長髪とかそのうっとおしく垂れた前髪を毟りたいですね。
…………ここまできたらしょうがないんでしょう。
大人しく観念するとしますか。
「…………分かりました。」
「おぅ!?遂に拙者と契約する覚悟ができたのじゃな!」
「あぁん?契約する気かぁ……良いじゃねぇか。
その顔をぐちゃぐちゃに歪めてやんよ……!」
なんか思った以上にサイコさんな人ですが大丈夫ですかねぇ……
私は顔の周りを小躍りしてる虎なんとかさんを片手でわしづかむと、襲撃者に向けてこう言います。
「これを差し上げますから私には一切手を出さないでください。」
「「はぁ!?!?」」
「ちょ、お主よ!本気で言っておるのか!?」
手の中でバタバタと暴れていますが知ったこっちゃないです。こうすれば私は何も変わりなく平穏を保てるのです。
「当たり前です。元々関わるつもりもなかったのですから。
そこの変し……男の人も良いですよね。」
「……っまぁ良いだろう、さっさとそいつをこっちに寄越せぇ」
見かけの割に話が通じる人で良かったです。
ではさっさとコレを渡して……
『流石だな、我がマスターよ、抵抗出来なくなった女子高生をいたぶろうとは。』
……はい?思わず足が止まりました。
その間にも変質者さんの持っている剣から声が響きます。
「馬っ鹿、おま!?」
『精霊を奪い取り抵抗する術を一切失った女子高生に対して口には出せないようなあんなことやこんなことをするつもりとは……我がマスターながら感服するぞ。』
私はすっかり動きを止めてその声に耳を傾けます。
先ほどまで手の中で、暴れていた小おっさんさんもフリーズしてます。
その様子に気づいたのか剣から、こちらに顔を向けた変質者さんは笑顔で、
「ソンナコトシナイヨー(棒)」
この時だけは人生で一番早く動けた気がします。
即、方向転換して真後ろにダッシュします。
ふざけないでください、どうしてこんな目に合わないといけないんですか!!
と思ったらいつの間にか、走る先にあの変質者が立っています。
速すぎます!……そういえば契約者は身体能力が上がるんでしたっけ!
もう万策尽きたようです観念するしかないです。
私は握りしめたまま走ったせいでぐったりとしているヒトガタに呼びかけます。
「こうなった以上はしょうがないです。
絶対にやりたくはなかったのですが、契約、してあげます。」
その言葉に力が抜けたようになっていたのに水を得た魚のように活き活きとし始めました。
「よっしゃ任せておくが良い!この虎徹。我が銘にかけてお主を勝たせてやろう!」
そう言うが否や虎徹さんは光を放ち、その光は私を包み込みます。
眩しさに目が眩み、次に目を開けた時には私の手には一本の刀がにぎられていました。
「契約したかぁ……まあいい。
そんなど素人に俺様が負けるわけゃねぇんだからなぁ……
思う存分甚振ってやるよ……」
『結局やることは変わりがないな我がマスターよ!』
「……やっぱり、趣味が悪いです。最初からこんなのが相手なんて最悪です。」
『どんな相手だろうと拙者達の相手では御座らんだろう。』
不思議なことにとても心地の良い力が溢れてきます。
これが契約したということなんでしょう。
右手の甲には不思議な紋様が浮き出ていました。
「それで……虎徹さんは何が出来るんですか?
ビームとか出るんですか?斬撃を飛ばしたりとか?」
『いんや、ただ振れば切れるだけじゃよ?』
「使えな……!?」
『使えな!?拙者が使えないと!?確かに他の聖剣とかとは違い付加効果はないがの!切れ味だけはすごいのじゃぞ!』
私の契約した刀は弱小だったようです。
まあ直ぐに負けることができそうですから良かったのでしょうかね。
『拙者のサビになりたければかかってくるが良い!
まとめてたたっ斬ってくれよう!』
スゴイ自信満々ですね、どこからそんな自身が出ているんでしょうか。
『なめるなよ!我がマスターと契約せしこの力を!
なんと触れ合ったものを剣だろうが溶かすことが出きるのだ!』
「何さらっとバラしてんだテメェェェ!」
……虎徹さんの動きが止まりましたね。
元々動いては無いですけどピタッと何も言わなくなりました。
「虎徹さん虎徹さん、たたっ斬れます?」
『…………ちょっとまっとれ、今違う作戦を考えとる。』
無理でした。残念、この私近野依紗の冒険はここで終わってしまったようです。
『……しょうがない奥の手をこんな初戦から使いたくはなかったのじゃが。』
そう言うと虎徹さんは刀から普通の人と同じくらいの大きさのおじさんに光とともに変化しましたって……
「なんでお姫様抱っこなんですぅぅぅぅ!?」
「三十六計逃げるに敷かずじゃァぁぁぁ!!」
「『逃げたぁ!?』」
ちょっと待って逃げるにしてもそっち窓って、待って待って待って。
「漢は度胸じゃぁー!!」
私は女ですぅぅぅぅぅ!!
「さぁ拙者を地面に引き摺りながらひたすら走れぃ!』
校庭に着地して早々に虎徹さんは刀になってそう言って来ます何をする気か知りませんが乗るしかないです!!
いいでしょうやってやりますよ!(ヤケ)
流石に三階から飛び降りるのは勇気が足りなかったのか相手は飛び降りては来なかったようで、階段を使ってるみたいです。今のうちに私は言われたように校庭をダッシュします。
みるみるうちに少し前でさえも見えなくなるくらいの砂煙が校庭を包み込みました。
『もういいじゃろう。」
虎徹さんはそう言うと人型になって手から離れます。
「巫山戯た真似を…出てこいやぁ!!」
ようやく降りてきたのか煙の向こうから変人の声が届きます。
一体虎徹さんはどうするつもりなんでしょうか?
「拙者もあまりやりたくは無かったのじゃが……」
苦虫を噛み潰したかのような声で虎徹さんは呟きました。
その瞬間に少しの風が吹き私の目からも虎徹さんは見えなくなります。
しかしそれもほんの数秒のこと、すぐさま砂煙は晴れて遮るものはなくなっていきま……!?
はあ!?
「ようやく出てきやがったかぁ……!?」
「知っておるかのう?
【虎徹】というのは一本の刀の名前ではない。」
「「【虎徹】というのは江戸時代のとある刀工の作った刀剣のこと、その総称を指して【虎徹】と言うのじゃ。」」
私も相手も言葉が出てきません。
煙が消え去った時そこには、
「「「つまり、【虎徹】とは一振りの刀に非ず。
転じて、虎徹は一人に非ず。」」」
周囲を覆い尽くすほどの人達が、
虎徹さんによく似た服装の人達が出現していたのですから。
「確かにその剣、触れるものを溶かすほどのの剣など拙者と主では中々苦戦するであろう。
主らが素人であることを考えたなら負けることのほうが想像すること容易い。
主に怪我一つなく、その上で貴様勝つ、それを達成することが前提であるとき。
ならばどうするか。」
「主を前に出さず、数で押し切れば良いのだ。」
いつの間にか、私の隣に立った元々の虎徹さんがそう言い放ちます。
そして、およそ半分の同じような服装の虎徹さんモドキが光に包まれて刀と化して残った半数の虎徹さんモドキがそれを手に持ち構えます。
それだけでも50人以上はいるのではないでしょうか。
可哀想にも変質者の方は呆然としたまま動きませんね。
「「「さぁ今宵の虎徹は、血に飢えておるぞ……!!」」」
その後どうなったかって?
数の暴力ってすごいですね……
そういうことです。
△▼△▼△▼△▼
「あの手は武士道に反するからの。
使いたくは無いのじゃ。
基本的に一対一にこそ美学があると思うのだ。」
「嬉々としてリンチにして良く言いますね」
「!?あれは主に怪我なく勝てるようにと考えた末に仕方なくやったのじゃぞ!
褒められはせずとして非難されるのは心外じゃ!」
「その割にはノリノリでしたよね。」
虚しい戦いが終わって私はいまやっと家に帰っています。
なんだかんだ言ってもこれで完全に巻き込まれてしまいましたからね。
それにしても夜遅くに女子一人では無用心な!と言って人間大の大きさになって歩いている虎徹さんですけどは傍から見たらただのコスプレにしか見えませんね(笑)
「まぁ安心するが良い。主にはこの虎徹が必ずや外敵から守ることを誓おう。」
「特に期待せずにしてます。」
「辛辣じゃのう!?」
……まぁ期待はしませんが、少しは頼りにしても良いでしょう。
こうして私と虎徹さんの戦いは始まってしまいました。
ーーーーしかしそのあと、この聖剣&魔剣ワールドグランプリにおいて、刀に出場資格が無いのではないかとひと悶着あるのですが、それはまた後日。