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白薔薇の大商人

作者: ばにえ

スランプ解消にさらっと書いたものです。

内容は薄め、短めですが、ご了承ください。

あまりの出来事に、シュナは呆然としていた。


周りは高級ホテルも敵わないくらいの豪奢な部屋。目の前には美男と評判の隣国の王子。

そして自分は、無駄に美しく包装された箱の中から頭をのぞかせている。


どうしてこんなことになったのか。

箱に詰められる前に王女に言われた一言を頭の中で反芻する。


「もう、この国にはいらなくなったからごめんなさい☆ 」


彼女は、もうこの国にお金は必要ないのだと。だから、シュナの存在も要らないのだと告げた。

そして、あろうことか最も敬愛する王女は、シュナを箱に閉じ込めて包装し贈り物と称して幼馴染の王子に贈ってしまったのだ。


そう、自分は売られたのだ。最も信頼し、仕えてきた王女の手によって。






王子は、長時間堅い木箱に箱詰めにされて体が動かないシュナを抱き上げ、箱の中から出してソファに座らせた。埃だらけなのに、わざわざ申し訳ない。


「お前、名は? 」

「シュナ・フォーリと申します」

「………まさか、『白薔薇の商人』か?」


王子が驚いた様子でこちらに視線を向けた。


王子が驚くのも無理はなかった。


ほおり 珠那 19歳。

12歳の時異世界に飛ばされ、2年間孤児院にお世話になる。その後孤児院に恩返しするため、商人として働き始めた。セレリス国を本拠地とし、遠い異国から仕入れた物珍しい商品を売りさばき、今では大商人と呼ばれるほどになっている。

国が発展したことでセレリス王家にはそれはそれは感謝され、国の発展に大きく寄与した者に贈られるという白薔薇の徽章まで頂いたのだ。ちなみにこれを贈られたのはシュナが初めてらしく、国外でも大きな話題になった。

うぬぼれではないが、自分は王家にとって大きな存在だという確信を抱いていた。だからこそ、王女に捨てられたという今の状況が理解できないのだ。


「何で人が箱詰めにされて送られてくるんだ…………………ん? 何だ、これは? 」


王子は、シュナが入っていた箱の中に、一枚の封筒を見つける。

そこにはセレリス王家の紋章がついている。封筒を開くと、一枚の手紙が入っていた。





親愛なるルーへ



この前の戦争の時は軍隊貸してくれてありがとう。さすが王太子サマね~。

お礼と言っては何だけど、それをあげるわ。………そんなので申し訳ないけれど、私の感謝の気持ちとして受け取って。

教育はきちんとしてあるから、もし気に入ったならルーのお嫁さんにしても構わないのよ?



あなたの永遠の友、リーちゃんより(はぁと)





「……………………」


王子から受け取って手紙を読んだシュナは、手紙を握り締める手をぷるぷると震わせていた。

そもそも、あの戦争はシュナだって大いに協力した。敵の物資の供給源を絶ったうえに本拠地を壊滅させたのは、他でもなく(商人であるはずなのに王女の命令によって激戦地に送り込まれた)自分だ。

なんで、軍隊貸した彼には(嬉しいかは果たして不明だが)プレゼントがあって、自分には国外追放という仕打ちなんだ!!


「リーリア王女は理由もなくこんなことをする奴じゃない。お前……何でこうなったか、心当たりはあるのか?」


―――――――――実は、ある。認めたくなかっただけで。

シュナは渋々語りだした。


「セレリスの国が、最近受け入れた組織をご存知ですか?」

「魔法使い協会のことか?」

「はい。魔法使い協会を受け入れた国には、“魔法使い法”が適用されます。そして、その法律の一節には、こうあります。“魔法使い協会登録者以外の者は、魔法を使った商売を行ってはならない”と」


馬車での移動費や旅費が馬鹿にならないからと転移魔法を使い、護衛を雇うのが勿体ないからと攻撃魔法で敵を蹴散らして商売を行ってきたシュナにとって、この法律は致命的だった。


「あの法律は俺も好かん。あれは、魔法使い協会が仕事を独占するために作った法律だ」

「そうですね。でも、軍事力はそこそこあるものの、他国に比べて魔法使いの数が圧倒的に足りていないセレリスには、魔法使い協会の存在が必要だった」


分かっていた。王女もこの組織を受け入れるか悩んだのだと。

それでも彼女は、国民の未来を思い、この国を守れるだけの力を手に入れたかったのだ。


シュナの目には、じわりと涙が浮かぶ。


セレリスの王家の者たちともう会えないと思うと、寂しく思う。

特に、王女にはとてもお世話になったのだ。身分の差を超えて姉妹同然に過ごすことを許された。

王女は、たくさんのことを教えてくれた。貴族に商品を売り込めるようにと、自分を社交界に出せるまでに教育してくれたのは、他でもない王女だった。彼女は、貴族の前で恥をかいてはいけないからと、礼儀作法から一般教養まですべて叩き込んでくれたのだ。


そうして、感傷に浸っていると――――――。


「おい、追放された訳ではないようだぞ?」


王子が、封筒の中からもう一枚の紙を発見し、シュナに差し出した。

まだ、自分は見捨てられていないのだという期待。

シュナは思わずその紙に手を伸ばした。


王子が見せてくれたのは、先ほどの手紙とは比にならないくらい衝撃的な内容だった。





シュナ・フォーリ殿


彼女のセレリス国発展への功績を称え、商人シュナ・フォーリを国王アルグレイ・セレリスの養女として迎え、シュレイナ・フォーリ・セレリスとして王家に名を連ねることを許す。


セレリス国王 アルグレイ・セレリス





「……何これ?」


てか、シュレイナ・フォーリ・セレリスって誰よ、名前長いし。そういえば、王族の名前の文字数は何字以上だとか決まっていたような…………。


「お前が王族になったという証明だな」


あまりのことに敬語を忘れたシュナを咎めるでもなく、王子は楽しそうにシュナと会話を交わす。


「これって……国外追放より酷くない?だって……」


シュナは魔法使いになるつもりはない。しかし王族となった今は、魔法使い協会登録者でもないのに強力な魔法を使えるシュナは、セレリス国内にいる限り危険分子となりうる。

つまり、協会法の届かない他国に王族として永久滞在できる場所が必要ということは、それはつまり――――――。


「――――――嫁ぐしかないな」


隣から王子が耳元に囁いて来た。

国外追放だけならまだ選択肢があるが、王族という立場になればこれしか方法はないだろう。

たぶん、シュナを養女にした国王に悪気はない。これを画策したのは……間違いなく王女だ。姉妹同然になったシュナを本当の家族にして欲しいとか何とか言って国王に泣きついたに違いない。彼女の小悪魔のような笑みが目に浮かぶ。


「私は……商人を続けたかっただけなのに……」

「魔法使いではだめなのか?」


王子の言葉に、シュナはそちらを振り返った。


「お金儲けがしたいなら、魔法使いでも構わないはずだ。ましてや、王族になれるなんて願ってもない話のはずだろう?」


そうだ。孤児院にお金を渡せるなら、どんな職業でもよかったはずだ。なのに、なぜシュナは商人という職業に固執するのか?


「お前は、商人として、何がやりたかったんだ?」

――――――商人という立場なら、叶えられる何かがあったのだろう?


王子に言われて初めて気づく。シュナは、魔法使いになりたくないのではなく、王女になりたくないのではなく、商人を続けたかったのだ。


「私は……すべての人が、豊かになれる国を目指したいと願っていました。商人なら、それができると思ったのです」


商人なら、あらゆる場所に物を、お金を流通させることが出来る。貧しい土地があれば、鉱脈を探り鉱山開発のためと人を雇ったり、珍しい名産品を買い取ったりした。店を作り、子供や女性が働く場所を提供した。塩や魚介など流通しにくいものも、なるべく安値で定期的に流通させることができた。そんな風に、すべての人が豊かになっていくのが、幸せになっていくのが嬉しかった。

お金があれば、大商人シュナ・フォーリという立場があれば、いつでも、どんなときにも手を差し伸べることができた。


「そうか……それなら、王太子妃をやってみないか?」


王子は、口角を上げてにやりと笑う。


「……………………は?」


意味が分からなかった。さっきの今で、何でこの発言が出てくる?


「王太子妃になれば権限をいくらかやる。王妃になれば、さらに大きな力を手に入れられる」

「私は先ほど商人をしたいと…………」

―――――――言ったではないか。

そんなシュナの心の叫びは最後まで言葉にならない。


「俺はお前を気に入った。民を思う気持ち、商人としての実力……どちらも素晴らしい。政治にも詳しいようだし、立ち居振る舞いも完璧。どうやら王太子妃としても遜色なく振る舞えそうだ」

「いえ、お断……」

「言っておくが、贈り物として俺の所有物になった今のお前に拒否権はない」


王子はシュナの艶やかな黒髪を手に取り、口づけを落とした。




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