第一日目 魔王襲来
勇者の啓示を受けたはずの村娘ユーリアは
やる気のない勇者だった。だが、怠け者という訳ではない。
彼女は毎日畑仕事、皿洗い、掃除、洗濯、家畜の世話、
料理にいそしんでいるのだ。家事が大好きなのである。
村人の忠告も注意も何のその。実の両親の言うことさえも
スルーする勇者ユーリア。
魔王退治などする気のない彼女は今日も気ままに家事をこなし、
読書をし、ご飯を食べて過ごす。
これは、そんなやる気のない女勇者と、意欲は誰よりもあるのに
代替わりしたばかりでいまだチビッコの姿にしかなれないひ弱すぎる
魔王が村人を巻き込みながら巻き起こす大迷惑なお話である――。
ユーリアの気ままな一日は幼い怒声によって壊されようとしていた。
くわを振りあげた彼女は声をスルーして畑仕事に精を出す。
きらきらと日の光を浴びてきらめく金の髪と菫の花のような紫の瞳の
チビッコ魔王を勇者は一瞥もしなかった。
「ってコラ――!! 何無視してんだ勇者――!! 早く俺を倒しに来いよ
お前!! いつまで待たせるんだよ!!」
「永遠に待っててください。悪いですが、私忙しいので」
「何で勇者が畑仕事やってんだよ!? 勇者の仕事しろよてめえ!!」
チビッコ魔王は栗色の大きなぱっちりした瞳、同色の三つ編みに結われた
つやつやした髪、なかなかかわいらしい顔をした勇者に苛立ちをぶつける。
と、ようやく勇者が感情の籠らない瞳を魔王に向けた。
魔王はやる気になったのかと顔を輝かせたが、そうではなかった。
「うるさいです魔王」
……かけられたのはたったの一言。魔王はあまりのショックに口を
ぱくぱくさせてしまった。魔王の息子としてちやほやされていた彼は、
今まで無視されたり邪険にされた経験がない。
「ふっざけんなよ!! そっちがその気ならなあ!!」
「きゃっ!?」
魔王はセオリー通りの「村娘の誰かを誘拐する」という暴挙に出ようとした。
巨大な黒蝙蝠のような姿をした部下に命じたのである。
「うっわあ、たかーい!! 私空飛んでる~」
「ってオイ!! ちょっとは緊迫感持てよ村娘!!」
「だって空飛ぶの初めてなんだもーん」
村娘シーナは大人しいいい子だったが、天然すぎるのがたまに傷だった。
しかも、まだ幼いだけあって危機管理能力が低い。
「ま、まあいい。はーはっはっは、こいつはいただいてくぞ!! 勇者よ、返して
欲しかったら俺の城に……ぐべっ!?」
「魔王様ああああああああああっ!?」
魔王はセリフを言いかけたところで勇者のひざ蹴りの餌食となった。
涙目になり、無様に地面を転がる魔王の姿を見た村人たちが「うわ~
魔王弱え~」と思ったのも無理はない。
「シーナに手を出すな、殺すぞ」
「ユーリア姉つよーい!!」
ぎらぎらと栗色の瞳を輝かせて怒る勇者ユーリアに魔王はもはや
声もなかった。涙目どころか半べそ状態である。
彼にとって不幸だったのは、シーナはユーリアの愛妹だと
いう事と、勇者は畑仕事を毎日こなしているので普通の女性の腕力より
もかなり上なのに加え、勇者の力を手に入れている事だった。
「う……うわああああああん!!」
黒蝙蝠の臣下達が止めようとしたがあえなくユーリアに撃沈され、チビッコ魔王は
村人勇者に嫌というほど叩きのめされたのだった――。
こうしてやる気なし勇者とチビッコひ弱魔王の戦い(一日目)は、勇者の完全勝利で
幕を閉じたのだった。
だが、魔王はえぐえぐ泣きながら臣下になぐさめられつつも、全く諦めてはいなかった。
勇者は平和な一日を守り抜けるのか!? そして魔王はいつか勇者を本気にさせる事は出来る
のだろうか…… 一日目(完)
不憫な魔王と最強女勇者の物語です。
これ以降、他の作品も執筆を開始します。
見てくださっている方、長らくお待たせ
してしまってすみませんでした――。