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オマケシナリオ:7月下旬、木曜日。

最終話の少し後、前期の文化祭が終わり、キョウの周りにちょっとした変化が起こる。


今回は主人公のカズマではなく、キョウの視点でお楽しみください。



 前期の文化祭を終え、夏休みが間近に迫った、ある日の放課後。

 俺……放送部の2年生である守口もりぐちきょうは、部室に向かって歩いていた。

 A組の担任はやたらと帰りのホームルームをあっさり終わらせるため、教室を出て少しの間は独りだ。

 まぁもっとも、あと3分もすれば妹のめいが追いついてくるのだが。

 何一つ変わらない、いつも通りの光景だった。

 ただ、一つ。

 俺の鞄に入っている……一通の手紙を除いては。



 その手紙は、帰りのホームルームが始まる直前くらいに、クラスメートから渡された。

 なんでも、隣のクラスの生徒から受け取ったものらしい。

 隣のクラス……と聞くと思い浮かぶのはやっぱりメイのことだった。

 産まれてからずっとそばにいる、俺の双子の妹。

 俺同様に肉がつきにくい体質らしく体つきは細身で、見ようによってはやや貧相に感じる。

 しかし顔立ちは充分に整っていると思う。

 ……思ってはいるのだが、その割には未だにメイから浮いた話を聞いたことがない。

 兄としてはちょっと不安なんだが……もしかしたら、身内贔屓に見すぎているのだろうか。

 ……とまあそんなことを考えながら手紙を開くと、それは妹からの手紙ではなく。

 そこには2枚の紙が入っていた。

 1枚はとある用紙で、もう一枚が手紙だった。

 その手紙には……俺に軽音部に入って欲しい、ということが本人の几帳面さが分かる丁寧な字で書かれていた。

 そう、もう一枚の用紙とはつまるところ、軽音部への入部届けである。

 まあ実際、軽音部にあんまり興味も無かったので無視して放送部の部室へと向かっているのだが。

「あ、キョウー! 会いたかったよ、キョウー♪」

 そんなことを考えている間に、メイが俺に抱きついてきた。

「ってこら、メイ。恥ずかしいから学校で抱きつくなって、いつも言ってるだろう」

 俺がそう注意しながらたしなめると、メイはえへへ、と照れたように笑って俺から離れる。

「いいじゃない、兄妹なんだし。別におかしいことないでしょ?」

 さらにさも当然のようにそう言い放っている。

「まぁ、いいけど……でも、あんまり俺とベタベタしすぎると、他の男が寄ってこなくなるぞ?」

「いいの。メイは、キョウのことが好きなんだから」

「いい加減、兄離れしてくれ……」

 笑顔でそう言い切る妹に辟易しながら、俺はそう呟く。

「えへへ。それよりさー、聞いてよキョウー」

 だがメイはそれを笑って聞き流し、いつもの他愛ない話を始めた。

 なんだかんだ言っても、俺にとってメイは可愛い妹だ。

 高校生にもなって若干ブラコンの気があるのは少々不安だったりするのだが、それをどこかで心地よいとも思っていたりする。

 メイにもいずれ恋人を作って俺から離れてくる日が来るとは思う。

 でも、その日までは……この心地よさを堪能しよう――メイが笑って話しかけてくれるたびに、俺はそんなことを思うのだ。

 メイの話に相槌を打ちながらそんなことを考えているうちに、部室にたどり着く。

 中からは話し声が聴こえてくる。どうやら既に、誰か来ているようだ。

「お疲れっす」「こんにちはー」

 そんなわけで、普通に扉を開けて挨拶をする。メイもほとんど同じタイミングだった。

「あ、キョウくんにメイちゃん。こんにちはー」

 俺たちにいち早く気付き、部長こと門真かどままどか先輩が挨拶を返してくれる。

 門真かどままどか

 放送部の部長で3年生。

 ……なのだが、童顔な上にかなり未発達な体つきの少女で、初めて見たときは本気で飛び級してきた年下の子、と信じて疑わなかった。

 まあ胸元についているネクタイの色は3年生のそれだから疑いようも無いのだが。

「お、守口兄妹。いらっしゃいー」

 部長からワンテンポ遅れて、ヒロコさんも俺たちに挨拶を返してくれる。

 桜ノさくらのみや広子ひろこ

 放送部の副部長で、こっちも3年生。

 ヒロコさんも外見は部長同様に年齢不相応、と評していいだろう。

 ただしその"不相応さ"は部長とは真逆である。

 すらっと整った頭身にグラマラスという表現を使うのが相応しい、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる、女性としては一つの理想と言ってよさそうな体つきをしていた。

 部長が幼く見える別の要因として、よく隣に大人っぽすぎるヒロコさんがいることも挙げていいと思う。

「何話してたんですか?」

 そんなことを考えながら席に着くと、メイが2人にそんなことを話しかけていた。

 今日は別に何か会議がある日ではない。

 ならなぜ来ているかというと……ぶっちゃけ暇つぶしである。俺もメイも。

 なんだかんだ言っても、部室は居心地がいいのだ。

「んー、しいて言うなら放送劇の脚本について、かな。後編、予定通りにいくかちょっと改良するかを話してた」

 メイの問いに、部長が考える仕草のまま答えてくれる。

「あぁ。前編は結構好評でしたよね」

 俺が相槌を打つと、ヒロコさんが口を開く。

「うん。でもそれで後編こうなるんじゃ、って予想をしてくる子が多くてね。で、けっこうみんな正解を言い当ててたから……オチ変えたほうがいいんじゃないかって」

「なるほど……確かに、後編は今のところ、結構ベタな感じですしね」

「うんうん。だからさぁ、いっそのこと頑張って推理しようとした人が怒るくらいに理不尽なラストとかどうだろ? って話し合ってたの!」

 今度は部長が嬉しそうに答えた。

「……さすがにそれはやりすぎでは?」

 この2人に『頑張って推理しようとした人が怒るくらい理不尽なラスト』を考えさせたら、どれだけ支離滅裂なものになるかわかったものじゃない。

 まぁカズマが巧くコントロールしてくれれば何とかなりそうだが……ん?

「そういえば、カズマたちは?」

 俺は姿が見えない残りの放送部員の所在を何気なく訊ねた。

「む」

 そう訊ねた俺をメイが不機嫌そうな顔で見る……メイはなぜか、カズマが嫌いなようである。

 あいつは良いヤツだと思うんだけどな……俺にとっては可愛い後輩だし、いつもそのことを言って聞かせてるってのに。

「いや、確か先に図書館寄るって言ってたから……そろそろ来るんじゃないかな」

 部長がそう言い終えたのとほぼ同時くらいに。

 こんこん、とドアをノックする音が部室に響く。

「お、噂をすればなんとやら?」

 その音に真っ先に反応したのは部長だ。

「待って。カズマたちならノックなんかしないって」

 しかし、ヒロコさんがそれに突っ込みを入れつつ、来訪者に対応しようとドアまで歩いていく。

 とほぼ同時に、扉が開いた。

「失礼します。私、2年生で軽音部副部長の九条くじょうと申します」

 そこにいたのは、最近俺を軽音部に誘ってきている軽音部の副部長だった。

「おや、いらっしゃい。んー、軽音部の人が、ウチに何の用?」

 ヒロコさんは心当たりが無いらしく、やや怪訝な顔でそう訊ねた。

「はい……えっと、部長さんはどなたですか?」

「えっと、私だけど?」

 九条の問いかけに、部長が手を挙げて応える。

「…………」

 九条は一瞬、怪訝な顔で部長を見た。

 しかしネクタイの色で3年生であることを確認したのか、すぐに真面目な顔に戻って口を開く。

「……それでは部長さん。本日はお願いがあって参りました」

「んー? 後期の文化祭の話?」

 ついさっきまでその話をしていたせいか、部長がぱっと思いつくのはそれくらいだったようだ。

「いいえ」

 案の定、九条は部長の推測を否定する。

 俺もそれは違う、と思っていた。

 軽音部の人間である九条がわざわざ頼みにくること。

 それに、俺には一つだけ心当たりがあったからだ。

「そちらの部員である守口響を、我が軽音部に移籍させて欲しいのですが」

 何の迷いも無く、九条は俺が予想していたことを言い切る。

 断言、という表現が多分一番しっくりくる、堂々とした物言いだった。

「え……キョウくんを?」

 部長にとってはいきなりのことだったらしく、何が何だかわからない……そんな反応をしている。

「守口響の演奏技術、前期の文化祭で拝聴させていただきました。それで軽音部一同は、ぜひ彼に我が部に来てほしいと思っているんです」

「え? え? ええ?」

 ……ってか部長、テンパり過ぎです。

「んー、それは困るかな」

 そんな部長に代わって、ヒロコさんが九条の前に出た。

「キョウはウチの部にとっても必要、ってか必須な存在だから。移籍させて欲しい、って言われてもはいどうぞ、って渡すわけにゃいかないな」

 そしてきっぱりと言い切ってくれる。なんだかんだで、ヒロコさんはここぞという時に頼りになるのだ。

「…………」

 気付くとメイも、無言で九条を睨んでいた。

 そして部長もようやく話が飲み込めたのか、「駄目だよ! キョウくんがいなかったら、うろおぼ演奏のコーナーがなくなっちゃう!」と2人を後押ししている。

 3人から否定のまなざしを向けられ、九条は一瞬気圧された。

 しかしすぐにまた気丈な態度に戻ると「それでいいと思ってるんですか?」と3人に問いかけてきた。

「守口響には間違いなく、ギターの才能があります。でも、ここにいたらそれを殺してしまうことになる。ここには楽器で守口響と切磋琢磨できる人がいませんから。でも……軽音部ならいくらでもそれがいるんです。彼のことを考えるなら……彼を移籍させてやってほしいんです」

 そして、少し落ち着いた……だが有無を言わさないトーンで。

 九条はそう言い切っていた。

「…………」

 反論が思いつかないのか、部長は黙り込んでしまっている。

 確かに、九条の言うことも間違ってはいないからだろう。

 メイもちょっと不安そうな感じで俺に視線を向けていた。そこには確かに、俺を気遣うような光が宿っている。

「……アンタの言うことも、まあもっともだな」

 ため息交じりにヒロコさんがそう答える。

「じゃあ?」

 それに気を良くしたのか、九条は嬉しそうに食いつく。

「んー……」

 ヒロコさんはちょっと迷った感じで部長と顔を合わせる。

 それに部長は、黙って頷いていた。

 多分、この件をヒロコさんが受け持っていいかの確認をしたのだろう。

 俺の推測を肯定するように、ヒロコさんが言葉を続ける。

「アンタの言い分は分かった。放送部としては、キョウが軽音部に行くことに関しては依存は無い」

「ええぇー!?」

 ヒロコさんの発言に、メイが非難の声を挙げた。

 俺もヒロコさんを見た。

 正直、止めてくれるものだと思っていたからだ。

「感謝します。話の分かる方々で助かりました」

 達成感に満ちた微笑を浮かべつつ、九条はそう言った。

 しかし。

「放送部としては、ね」

 まだ、ヒロコさんの話は終わっていなかったようだ。

 一度そこで言葉を止めてから、ヒロコさんは俺を見ていた。

「キョウ」

「はい」

 名前を呼ばれて、俺は返事をする。

「アンタはどうしたい? アンタがもし軽音部にいってギターの腕を磨きたいって言うんなら、アタシたちは止めない」

 俺の勧誘をしようとしていた九条と同じくらい、真面目な声で。

 ヒロコさんは俺にそう言った。

「確かにアンタがいなかったら、コーナーが一つ無くなっちゃうんだけどね。でもそれは部長であるマドカと、副部長のアタシでなんとかするべきことだから。放送部にいるか、軽音部に行くかは。アンタの好きにしていいよ、キョウ」

 そこまで言ってから、ヒロコさんは満足げに目を閉じる。

 言いたいことは言い切った、そんな感じだった。

「ヒロコさん……」

 ヒロコさんの目は、慈愛に満ちているように感じた。

 いつもはセクハラが服着て歩いてるような人だが、やっぱり決めるところはきっちり決めてくれる。

 つくづく、この先輩には敵わない。

「えっと、九条」

 だから俺も、それに答えることにした。

「悪いけど……俺は軽音部には入らない」

 はっきりと。

 俺は九条に向かってそう告げる。

「どうして!?」

 信じられない、そんな顔で、九条は俺を見る。

「うちの軽音部の規模は知っているでしょう? 部長は、それを差し置いて貴方を即戦力として採用したいって言ってるの。ここで頷けば、貴方は一気に100人以上の上に立てるのよ!?」

 ……軽音部、そんなに人いたんだ。某アニメの影響もあるんだろうか。

「ああ、それでも俺は放送部を選ぶよ」

「軽音部に入れば、絶対に貴方は上達できるのよ? こっちには、切磋琢磨すべき仲間がいっぱいいるんだから!」

 ややヒステリックに九条は叫ぶ。

 でも俺はそれに気圧されることなく、言ってやる。

「放送部にだって、かけがえの無い仲間がいるんだ。そいつらに囲まれて、くすぶるわけも無いさ」

「……でも、技術はこっちの方が上よ?」

 念を押すように、九条はそう訊ねてくる。

「技術だって、なんとかなるさ。ウチには優秀なブレインがいるからな」

 それすらも否定するために、俺はきっぱりと言ってやった。

 ちなみにブレインとは、他ならぬカズマのことだ。

 鞄に常時本を入れているだけあってか、アイツはそういう資料を探すのは得意だ。

 何か分からないことがあれば、とりあえずカズマに聞いておけば1時間くらいで調べ上げてくれる。

「…………わかったわ、今日のところはこれで帰りましょう。でも、覚えてなさい。私は諦めないから」

 遂に観念したのか、九条はそんな捨て台詞を吐いて部室を去っていった。

 それを見送ってみんなが席に着いた直後に、ようやく部長の弟で部のブレインの地位を獲得してきている門真一馬かずま、ヒロコさんの妹で最近カズマの恋人となった桜ノさくらのみや静音しずねが部室に到着する。

「おつかれさまです」「お姉ちゃん、来たよー」

 2人がほとんど同時に、違う言葉で挨拶していた。

 なんだか俺とメイみたいでちょっと微笑ましくなる。

 そしてカズマは席に着くやいなや、口を開いた。

「さっき、見かけない人が部室から出てきましたけど。何かあったんですか?」

 俺は少し、考えてから。

「そうだな……いや、何もないよ。いつも通り、さ」

 そう答えて、はぐらかすことにした。

 何の事件も起こらず、平穏無事で楽しい日々――それがきっと。俺たちの望んだ、日常なのだから。



Fin.

そんな感じでハッピーエンド。

門真一馬の愛すべき日常、これでひとまずは完結です。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

来週からはまったく別の、新シリーズを書いていくつもりです。

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