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LEXRAD  作者: 磯ヶ谷 拓斗
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最終話 レクスラッド

 私は起きたときにその場所が全く分からなかった。ただ、周りがかなりじとじとした所だ。とにかく私は仰向けになった上半身を置き上げる。頭が少し痛かったが先ほどよりは気にならない。

 私は今度は立ち上がる。そして今の現状を判断するために周りを見回した。部屋は石で作られた紫色下部屋で、棚などは何もない扉が一つあるだけだ。電気もない。

 私は扉へと近づきドアのノブを回してみる。鍵はかかっておらず・・・と言うよりも鍵穴すらも見つからない。

 開けた先はアスカの廊下とほとんど似たような一直線な廊下だ。私はとりあえず今の状況から見て左側の位置を歩いた。

 やがて一つの扉が見える。扉には『管理室』と書かれている。私はゆっくりとその扉のノブを回す。カチャリという音と共に扉はききぃと開き始めた。ゆっくりと横目で中の様子を伺った。

 中では三つの機械らしきものが黒焦げの状態で倒れている。だがその姿も無残なものになっていることは言うまでも無い。

 私は中に入ると一直線に反対側の扉に向かう。そして一気にドアを開いた。私の目が一気に見開かれる。

「うわああああああああああああああ!!!!」

 血らだけに倒れる小百合・・・血だらけになった剣を持った青年・・・。そしてその横にいる2人の少年と女性。

『解放』砕けた心で言えた言葉はそれだけだった。それだけで持っていた赤竜は剣となり自分の力となる。私はその青年を見据えたが、自分の瞳の色が黄色いことに気づいている。

 私は一気にその足で駆け抜けた。目標はただ一つその青年だけだった。だが、左から来たけりに一気に直撃してしまう。私はその方向に顔を向けるとそこにはあの少年がいた。

 私はその少年を睨んだ。瞬間的に少年の姿は消え、右側に現れる。私は俊足赤竜双で一気にスピードに追いつく。そして一発殴ってやるとその反動で少年は壁に激突する。頭を思いっきりぶつけたようでそこから血が出ている。

 私はまた青年を見据える。青年はその状況にかなり驚いたようだ。私は一気に接近するが、女性が間に割り込んでくる。

 私は邪魔だと言わんばかりに女性を殴り飛ばした。女性も性根の隣にぶつかって気を失ってしまう。私はその場で立ち止まって青年の方向を更にみすえた。青年はこちらをにらみ返して嘲笑する。

 私は一気に接近して切りかかるが青年は持っていた剣でその攻撃を受け止めてしまった。私はその状態で一気に力をこめるが全く微動だにしない。いったん私は攻撃をやめて引く。そして待た赤竜を構えた。

「君は何のために戦うのかい・・・?」

 青年は不意に話しかけてくる。私はその話には耳を貸さずにただその青年を睨んでいるだけだ。

「クリスタルとは何だと思う・・・?私はそれを力だとは思わない。」

 私は少年が話している途中なのに赤竜閃で攻撃を仕掛ける。青年はそれを剣を持っているのとは反対の方向の手でその赤竜閃を弾いた。赤竜閃は変な方向に飛んでいって消えてしまう。私はその間に接近して切りかかる。

 それも剣で簡単にあしらわれてしまう。私は懲りずにまた飛び出しながら斬った。今度は足を上げてもいないのに一瞬にして横に動き回る。それだけで簡単に攻撃を避けられてしまった。

 私はそれを俊足赤竜双で追いつきながら攻撃をするがその速度よりも速い速度で青年はフットワークで一気に横に逃げる。それを赤竜で横切りにして青年を切り込むが切ったのは青年ではなく、青年の形をした影だった。

 瞬間に右側からのけりに私は吹き飛ばされる。反対側に飛んで行きその壁に背中をぶつけると口から少し血が流れる。下唇を少し噛んでしまったようだ。

 私は青年を睨む。青年はただ笑うだけで他の表情をしようとしないと言うよりもできないような雰囲気だ。

 赤竜を強く握って一気に接近して切りかけると青年は避けようとせずに持っている剣でその攻撃を防いだ。ジリジリといいながら赤竜と剣は微動だにしているが、やがて青年が少し一押しすると私は簡単に吹き飛ばされる。

 私は足をついて青年を見るとそこにあったのは残念そうに顔を落としている青年の姿だった。青年はこちらが言葉を返すとは思わずに会話を始めた。

「はぁ・・・残念だね。君のその『力』なら僕を楽しませてくれると思っていたのに・・・。全く持って残念だよ。」

 その会話をしている途中で私は奴に切りかかる。それも簡単に抑えられてしまうが、キレた私にはそんなことどうでも良かった。ただぐちゃぐちゃにしてやりたかったのだ。

 私はバックステップしてまた切りかかる。その時『ん?』と青年は呟いて私とはあさっての方向を向く。青年は珍しく大きく動いた。そこに一人の男性が槍で切りかかる。高野だ。

 高野はかわされた槍を返してもう一度青年に切りかかる。それは首をかするが、致命傷となるような大きなダメージには絶対にならない。とにかく高野は連続で翼天を回しながら攻撃しまくるが、その全ての攻撃を青年は避けた。

「お前・・・何者だ・・・!?その動き・・・只者じゃないな!?」

「私はウィルキス=ラグドンプ。3の守護レイシャドウの一人ラグドンプだ。君にはその意味・・・分かるよね?」

「ラグドンプ!?ならばお前らの『シュ』はどうした!?」

 私には良く分からない単語が良く出てきたがとにかくあんまりいいことではないことが分かる。とにかく私はその二人の行動を見続けていた。2人はただ睨み合っている。

 ただ話し合っているだけなのだ。

「お前ら・・・何が目的なんだ・・・!?」

「私たちはこの世界が嫌いなのだ。『シュ』と共に生きたいと言う思いもある。なので世界を征服すると言うことは大切なことなのだよ。邪魔はさせない。」

「そんなことさせない!!させてたまるか!!」

「なら止めてみるか?できるものならね。」

 不意にウィルキスは影となってその場から消えてしまう。気がついたときにウィルキスは私の目の前にいる。構えが少し解けていたので構えるがその格好をする前に私の動きは止まった。

 ウィルキスがこちらを物凄い形相で睨んでいるのだ。いつもとは違うその表情に私は怖気づいたかのように動きが止まってしまったのだ。

 私の額から汗が噴出した。

「フフフ・・・私の見つけた技術と力を魅してあげますよ。」

 不意に彼の手が私に伸びる。私はビクッとしたがその圧倒力でその場から動けない。彼は私の持っている赤竜をつかむ。するとそこから電気がほとばしる。

 その電気は私は痛くはないがウィルキスは少し顔を引きつらせるが私の赤竜を手からもぎ取った。

 パキッと言う音と共に赤竜は宝石に戻ってしまう。その時に『あっ!!』という赤竜の声が聞こえる。高野はウィルキスに翼天の先を突きつけた。

「その赤竜を返せ!!それは山城さんのものだ!!お前のものではない!!」

「ふっふっふ・・・何も知らないのだな・・・。このクリスタルはクリスタルの中でも特別で他のクリスタルを呼び集めることができるのだ。故にこのクリスタルは『収載者』とも呼ばれることがあるのだ。」

 ウィルキスは赤竜を高々と上げた。そこから白い光が回りに満ち溢れる。不意に高野の翼天の解放が切れてクリスタルへと戻ってしまいそのクリスタルはウィルキスの持っていた赤竜へと飛んでいく。

 小百合の持っていたほかのクリスタルまでもが全て赤竜の元へと集まっていく。その数約15個ほど。

 不意に光が一気に強くなるとクリスタルはくっついて一つとなる。その色は虹色に輝いている。それと同時に満ち溢れていた白い光が消える。

「ふっはっははは!!この伝説のクリスタルの力見せてやるよ!!」

 そのウィルキスは表情が変わっている。その表所はいつもの冷静な青年ではなくて、少し壊れた青年だ。完全に壊れていると言えるだろう。その口元には笑いがこもられていた。

 ウィルキスがそのクリスタルを握ろうとしたときにクリスタルから光が満ち溢れた。その光景を見て一番驚いていたのはウィルキス本人だったのだ。そのことに私は首をかしげた。

「バカな!?クリスタルが一つ足りないだと!?」

 その悲劇的な声が聞こえたのが最後で何も見えなくなるほど光が満ち溢れる。グブバァという変な音が聞こえると同時に光がまた消え始めた。

 

 僕はつぶってしまった目をゆっくりと開き始める。

「こんなはずでは・・・こんなはずではなかったのに・・・!!」

 その姿は見るに耐えないほどのひどい姿だった。顔は獣のように口が飛び出て牙が見えている。体は先ほどとは見違えるかのように筋肉モリモリの巨漢へと変貌してしまっている。それも獣のように。

 背中からは翼が1つずつついていて底に三本の骨がくっきりと見える。足はその大きな体を支えるように太く短い。

 あのウィルキスの面影は微塵にも見えない。

 僕が思うにはクリスタルを全て集めるはずの力が発動したが全て集まりきらずに合体してしまったせいでまたクリスタルが離れようとしたがウィルキスがそれを認めずにその未完成な合成物無理やりに取り込んだために変形してしまったんだと思う。

 彼の額からその未完成な合成クリスタルが浮き出た。

 不意にその怪物は羽を動かして飛ぼうとするとその大きな翼から風が吹き荒れた。僕は何の前置きもせずに先輩の元へと向かう。大きな風が吹けば倒れている先輩の体は切り刻まれてしまうだろう。さすがにそれはまずいのだ。

 僕は先輩の体を抱きかかえた。ちょうどお姫様抱っこのような形になってしまい僕は少し恥ずかしくなる。

 その時先輩から『う・・・』っと言う呻き声が聞こえる。先輩はまだ生きているのだ。僕は少し安堵した。

 だが、まだ先輩が死んでしまっていると誤解している山城さんの方を向く。そして生きていると言おうとした所で異変に気がつく。

 先輩は顔を上げる。僕はその光景を見て違和感の意味が完全に分かった。その山城さんの雰囲気が完全に危ない人に代わっている。中学時代はそっち系だったと言う話は聞いたことがあったが、そのレベルではないと言える。

 山城さんはずっと握り続けていた左手を前に伸ばして手の平を見せた。そこには真っ白で少し透明感のあるクリスタルがあった。それは僕の見たことの無いものだ。

「なぜだ!?何故貴様が最後のクリスタルを持っているのだ!?」

「・・・レクス・・・。」

『YES.』

「・・・解放・・。」

 その呟いた山城さんの手元には白いクリスタルのはまった短刀が二つほど両手に逆手で握られている。形は曲がったダガータイプでつばの部分は四角のようになっている。山城さんは逆手に握った『レクス』の先を怪物に向ける。

 怪物はその短剣を見るとすぐさま攻撃しに飛んで接近してくる。この部屋の天井の高さは異常で7m前後はあるだろうか・・・そこを飛び回っている怪物がそこにはいた。大きさは2メートルくらいの大きさなのでそこまできつくは無いようだ。

 山城さんは飛んでいる怪物に向けて一飛びすると一気に怪物の目の前にまで飛んでいく。怪物はその光景を見て目を丸くする。いきなり解放したクリスタルではあんまり戦いはできないのが普通なのだ。

 山城さんは左肩を怪物に向けて右手に持ったレクスで怪物に切りかかった。怪物はそれを右腕で受け止める。カキィンという金属の音が鳴り響いた。怪物の右腕は少しレクスが切り込まれている。そこから血が流れ出しているのだ。

 怪物は右手を振り払って山城さんを吹き飛ばした。

「・・・飛行・・・。」

 山城さんは空中で落下が止まる。僕のように風を利用したものではなくて普通に飛んでいるようだ。山城さんはそのまま猛スピードで怪物に近づいてそのレクスを振るう。

 その軌道は完全に怪物を捕らえており、避けることは困難だったがその攻撃を怪物は、解放して持っていた剣で防いだ。

『マスター・・・。その姿は・・・。』

「大丈夫だ山嵐やまあらし。俺はいける!!」

 怪物の持っている剣は山嵐と言うらしい。

 ギリギリと言う金属の触れ合う音がする中で怪物と山城さんはその武器に力をこめている。その途中で山城さんはもう片方のレクスで切りかけるがその寸前の所で怪物はバックステップして避けてしまう。

 不意に怪物の『ううう』と言う苦悶の声が響いた。山城さんは体を丸めて『はああぁぁ!!』と力をこめた。そして次の時には体を逆にそって痛そうにもがいていた。それが始まると同時に髪の生え際から髪の色が銀色へと変色していく。

 全て銀色になったと同時に二人の痛みの感じがなくなったかのように少しの間沈黙が流れた。それは数秒かもしれないし数分かもしれないが良く分からない。

 先に動き出したのは山城さんだった。山城さんはレクスを振るよりも先に全体から何かを出す。それは透明でよくは見えなかったが怪物は少し奥に吹き飛んだ。それはただ単に動きを少しとめるだけしかできない。

 そこに山城さんの一撃が怪物を襲った。

 その一撃は怪物の首に当たったがそれは首を通り抜けずに5㎜ほど食い込んだ後にそれよりも動かなくなってしまう。

 そこに怪物の一撃が山城さんを襲おうとするがもう一本のレクスでその攻撃は止められてしまう。それから二人は少しも動かずにただただにらみ合っているだけだった。

「はぁあ!!」と言う山城さんの声でその現状は変わりだす。

 2人はバックステップで距離を稼いだ。山城さんはすぐにレクスを振るう。その軌道からカマイタチのような鋭い風が怪物に向かって切り裂きだす。

 怪物はその攻撃を雄叫び一つで打ち消した。そして体制の崩れた山城さんを怪物は一気に接近して攻撃を仕掛ける。

 山城さんはその攻撃が直撃して吹き飛んだ。だが、空中で体制を元に戻すとレクス二つをカチンとぶつけ合わせた。するとレクスは鉄の銀色から真っ赤な赤色へと色が変わった。

『ブラッドソード。』

 山城さんはその真っ赤に染まったレクスで怪物に攻撃を仕掛ける。その攻撃は赤い軌道で敵を捕らえようとするも当たらない。

 怪物は左手を右手に持っている山嵐の刃の部分をなでた。そうすると刃は不快な音を立てて色が変色して行く。その色は完全な黒色と化していた。

「・・・これが最後の一撃・・・・。」

「・・・決める!!!」

 2人はそれぞれ近づきあってそれぞれの剣の刃を振るった。赤と黒の軌道がぶつかり合ってバチバチと音を鳴らし続ける。山城さんは一押しをするがそれは怪物にはなかなか届かない。

 二つの光が瞬いて自分にはかなりまぶしかった。そして次の瞬間!!

 ガジリン!!と赤の光が黒の光を飲み込んだ。その時の光は驚くほど煌いて自分は目を瞑ってしまった。

 ゆっくりと目を開けると2人ともまだ上空に飛んでいたが、二人とも一歩も動こうとしなかった。左記に動いたのはウィルキスのほうだった。急にグラットゆれると一気に地上に急降下し始めた。

 ドサリという音で怪物は地面につく。それと同時に山城さんも地上にゆっくりと降りてきた。

 山城さんは地上に足がつくと同時に膝をついて前屈みになり手を口に当てて咳き込んだ。山城さんはゆっくりとその手を自分の前に持ってきて確認した。それは僕からも見える位置でやっている。

「山城さん!!それ・・・!!」

 山城さん手は血でぐっしょりと濡れている。ウィルキスの返り血ではなくて自分の吐いた血だということは口の端からたれている血が物語っている。

 僕は山城さんに近づいたが「来ないで!!」と止められてしまう。僕はその言葉に従ってその場に止まった。

 山城さんは左手に持ったレクスを床において右手に持っていたレクスだけを逆手に構えてウィルキスに近づく。ウィルキスは薄く目を開けてただその光景を見ている。

 山城さんがウィルキスの目の前まで来ると逆手に握ったレクスを両手に握り替えて高らかに振り上げる。

「・・・最後に・・・言い残すことはない・・・?」

 その声には疲れやその他もろもろが多く含まれていることが分かる。

「・・・何もない・・・。ただ・・・。あの2人だけは・・・許してやってくれ・・・。」

 あの2人・・・レインとクリンのことだろうか・・・?そのことについては山城さんはこくんと一つ頷いてその後レクスを振り下ろした。その軌道にあるのはウィルキスの首だった。

 ズブァバと肉の切れる音がその室内に響きわたる。それと同時に突然吹き荒れた風が灰となったウィルキスは消えてなくなってしまう。灰は部屋の中を回って完全に消えてしまう。

 僕は安堵のため息をつくが山城さんが急に前のめりに倒れてしまった。僕は倒れる山城さんに急いで近づいく。

 倒れる瞬間に下にもぐりこみ山城さんのショックを吸収した。ドサリという音で僕の上に山城さんは倒れこんでくる。僕は彼女を仰向けにさせて膝に頭を乗せる。

「おい!!山城さん!!!大丈夫か!?」

「・・・たか・・・の・・・?」

 彼女の声は弱々しく力や破棄など微塵もない。握っていたレクスを落とすほどだった。

「しっかりしろ!!今助けてやるから!!」

「・・・私よりも・・・他の三人を・・・。」

 他のと言うことはレインとクリンと先輩のことだろうか?とにかく僕は彼女と会話をする。

「一体何がどうなっているんだ!?」

「・・・もう・・・時間が・・・ない・・・。」

 山城さんは自身の震える手を天井に向かって伸ばす。その後握っていた手を解くとそこから光が走り天井を突き破って空へと簡単に到達してしまう。その光の色は虹色だった。

 そして光がいっそう強くなりパリンという割れる音と共にクリスタルは各地へと飛び出していった。

 その飛び出してゆくクリスタルの一つが僕の手元に、また一つが先輩のもとに飛んでいく。山城さんのほうへは飛んでこなかったし、レクスはいつの間にか消えている。

 僕はゆっくりと目を閉じていく山城さんに気がついた。

「おい!!死ぬな!!山城さん!!」

「・・・死には・・・しないさ・・・。・・・いつかは・・・また・・・。」

 山城さんは動かなくなってしまった。心臓は動いているもののいくらゆすっても起きる気配は無かった。これが彼女の望んだ結末なのだ。僕はただ翼天を握りながらその光景を呆然と見続けていた。

 気づいたのは母さんの通信が入った時だった。それまでずっと同じ所で呆気にとられていた様だ。

 僕はこの終わり方に納得いかなかった。それにまだ『シュ』も見つかってはいない。この戦いは続くと思われる。

 

 

 あれからとりあえず2週間ほどたった。先輩も病院から開放されて今は自分の部屋にいるかと思われる。とにかくかなりの時間が経ったのだ。

 あの事件は通称『ウィルキスクリスタル事件』と称されて語り継がれることとなる。

 2週間たった今でもまだ山城さんは目を開けない。今は機関内の特別治療室で寝かされている。

 栄養等も特には与えていないようだがその見た目は全く衰えることを知らない感じだ。ずっと何も変わりも無く眠り続けている。本当に何も変わりが無く・・・。

 僕は毎日学校に行く前に山城さんの容態を見ていく。それが日課になってしまったのだ。

 それに・・・山城さんが目を開けたら謝りたかった。特に何をというわけではないが『ごめんなさい』と一言言いたかった。その為かどうかは分からずに僕は毎日ここに通い続けている。

 それでも山城さんは一度も起きない。僕は彼女の部屋の中でため息を一つつき、その部屋を後にする。

 扉の先で立っていたのは母さんだった。その背中には先輩も心配そうに少し開いた扉から山城さんの方向を見ている。

「まだ起きないのね・・・山城さん・・・。」

 母さんが少し落ち着いているが少しガラッとした声を放った。ここ最近仕事が忙しかったらしい。

「ああ・・・。」

 僕は簡単な答えを呟いて視線を自分の足元を見る。いや、見るというよりも視線を母さんから外したと言う感じだった。母さんはため息を一つついて山城さんをじっと見つめている先輩のほうを向いた。

 先輩は母さんの視線に気がつくとこくんと一つ頷いて制服のスカートのポケットに手を突っ込んだ。そこからきらりと光る宝石が出てきた。その宝石の色は血のように真っ赤に染まっている。

「これは・・・赤竜・・・・?」

「うん・・・。探すの苦労したんだ・・・。」

「貴方が彼女に渡しなさい。」

 母さんの声がはっきりとその廊下に響き渡った。その言葉は僕にしてみれば意味が良く分からないもので、何故僕が選ばれたのかさっぱり分からない。

 こういうのはやっぱり昔から友達だった、先輩がやることだと思うのは僕だけなのだろうか?

 とにかく今の気持ちを言葉にして母さんにぶつける。

「何故僕が?こういうのは先輩が一番似合っていると思うけど・・・。」

「彼女に謝りたいんでしょ?」

「!?」

 先輩のその一言で僕の何かが砕け散ってしまったようだ。下に下ろした左手をギュッと握り締めて右手で赤竜を受け取った。

 そしてまた部屋の扉を開けて、部屋の中へと足を踏み出した。今度はドアが完全に閉まってしまう。僕は山城さんに近づきながら遠ざかって行く足音を捕らえる。

 山城さんの近くの椅子に腰を下ろすと先ほどまで強く握っていた左手で山城さんの右手を握った。

 どくんどくんと心音の音がするがそれが僕のものなのか、山城さんのものなのかは区別がつかなかった。僕はなぜか緊張をしていたのだ。ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 山城さんの手を握っても山城さんは起きる気配がない。僕は少しガッカリしたかのように肩を落としながらため息を一つついた。そして左手を山城さんの右手からはずした。

 次に視線に入ったのは近くにあった花瓶の置いてある棚だった。僕はそこに赤竜を置いて今度こそ本当に部屋を出た。これから学校があるので遅くまでここに入られないのだ。

 誰もいなくなった一室で赤い宝石がきらりと一瞬輝いた。

 

 END


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