第五話 来戦
その真っ暗な部屋のベットで二人の少年少女が横たわっていた。少女の年は10歳くらいの少女だ。なので今はレインと一緒に寝ていた。中ではレインが一番歳が近いのだ。
髪の長い女は少女を起こさずにレインだけを起こした。だが、一緒にその少女も起きてしまったのだ。
「どこか行くの・・・?」
まだ時間は昼少し過ぎ・・・お昼を食べた後のお昼寝をさせていたのだが・・・
女はとりあえず「散歩に・・・」とだけ言ってレインという少年と共にその部屋を出た。
最後に残ったのは「気をつけてね」と言ったひとりの少女だけが残っていた。その光景を青年は見つめていた・・・。
僕の転送された先は街の中だった。周りにはビルなどが多く立ち上っている。このような所でティガイスが出れば大問題である。僕は少し歯噛みした。
とりあえず周りを見渡すがティガイスの反応は何も無かった。僕はとりあえず安堵して胸をなでおろす。
多くの人々が行きかっているが、知った顔は一つもない。それに言語も日本語ではないようだった。
不意に背景が灰色に変わった。ビルも人も何もかもがである。僕は周りを見渡すが完全に全体が灰色になっていた。僕はこの状態が何か知っている。
頭の中に『封印』と言う二文字がグルグルと回っているがそれを考えているうちに一つの声が響いた。
『あっはっはっはっは!!』
「誰だ!?」
そこまで言ってやっと気づく。
この封印の中では封印を張った者と精神力の高い者しか入れないのである。他には精神力の高い人がいるようには見えなかった。と言うことはこの声の主が封印を張ったのだ。
僕はとりあえず声がしたと思われるほうを向く。そこにはビルしか建っていないが、一番近くに合ったビルのてっぺんを見てみるとそこには髪の長い金髪の女の人が立っていた。
服とズボンで普通の私服を着ているが、ティガイスであると判断した。なぜなら・・・
「久しぶりだな・・・クリン・・・?」
『ええ・・・。あの日以来かしら・・・。うれしかったわ・・・』
「その誤解を招くようなへんな言い方をするな!!僕はお前と出会えてうれしいなんて思えないぞ!?」
『あっはっはっはっは。』
クリンの笑い声が響いた。彼女は自分のズボンのポケットに右手を突っ込むとすぐに何かを取り出した。それは少し青い緑色のクリスタルだった。
彼女は少し笑いながら『解放』と唱える。その途端に光が満ち溢れた。僕は不意に目を閉じた。すぐに目を開けたとき手には杖を持っていた。杖は黄色く先のほうが少し曲がっていてそこには針がたくさん付いている。
僕はそれを見ると肩からかけているクリスタルを手に取った。
「いくよ翼天・・・!!」
『はいマスター。』
「解放!!」
それを言うとよく点の形が見る見るうちに変わって行ったそれは槍となり敵を切り裂く一陣となった。僕はそれを持ち敵を威嚇するために構える。それを見たクリンは完全に笑った。
次に杖の先をこちらに向けてきた。その先に白い玉ができている。その見慣れた魔法を見て僕は思った。そういえばクリンは魔法使いだったなぁ・・・と。
『レイ』と言うクリンという声がするとその白い玉から光の矢が降り注いだ。僕は唇をかんで対決の始まりを予感した。
「天上防空波!!」
そういうと目の前に青い盾が出てきた。レイはその盾にあたるとひとりでに爆発する。レイの発射が終わると同時に僕は盾を消した。そのままクリンに攻撃しかける。
翼天でクリンを切ったがそれは影となり簡単にかわされてしまった。僕が悔しがってビルの頂上にいると真横から声がしてきた。
「まだまだだね・・・ボウヤ・・・。」
「僕は・・・ボウヤじゃない!!」
僕は右を向きながらいきなり切りかかる。だが、それも外れて僕の体制が崩れただけだった。『エクスプロージョン』と後ろから声がした。それと同時にビルが爆発した。爆発系の魔法だ。
僕はその爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。背中をビルに思いっきりぶつけた。そこは窓で中に突っ込んでしまう。パリィンという割れた音が響いた。まだ終わってはいない・・・。
私が転送された所は何もないただの草原だった。よく見れば山が薄く見える。とりあえず外国だろうか・・・?モンゴルか何かだろう。草原の草は少し長めに伸びている。
私はとりあえずため息をついた。そこに声がかかった。
『なーんだ。僕の相手はこの前のあの人じゃないのか・・・.』
その幼い声は少し残念そうに語っていた。私は後ろを振り返るとそこにはハンチング帽子を被った金色の瞳をした少年が立っていた。その少年の手には二つの金色のクリスタルが握られていた。
『解放』
金色の光とともに少年の手には二発の拳銃が握られていた。その二つの拳銃の銃口はこちらに向いていた。少年は少し微笑んでこちらをじっと見つめてくる。
私はギュッとサンハートを握った。そして『解放』とつぶやくと光とともにクリスタルが本と代わっていった。本の表紙には黒めの青いクリスタルがはまっている。
「・・・あなた誰・・・?」
私は好きの内容に構えながら名前を尋ねた。その少年は先ほどから微笑んでばかりで何もしていない。ただ、それでも銃口をこちらに向けている所がすごい。
少年は微笑んだ口を少し普通の無口状態に戻して答えた。
「あははは。僕・・・?僕はレイン。この蓮草と共にこの場所に存在してるんだ。うれしいよ。」
「・・・蓮草・・・?・・・クリスタル名・・・か・・・。」
私はとりあえず思考を働かせる。この少年からはティガイスの反応がするのだ。つまりこの少年がティガイスであることは間違いない。戦わなければならないのだろう。
「もういい?」
レインは笑顔でたずねてくる。その表情には少し黒い部分があるような気がした。
私はウンと頷いた。それと同時にレインの拳銃が火を噴く。二つの拳銃からそれぞれ弾が飛び出したがそれは私の頬をかすめて後ろの草原の草に当たる。少し煙が舞い上がるが私は気にしない。
私はスピードの面では自信がないので拳銃を避けにくい。私はとりあえず『フライ』を使った。背中に羽が生えて空を飛べるようになる。とりあえず『ジャンプ』で一気に空へと飛ぶ。それを拳銃で撃って来たが空中では当たりにくい。
私は空中から右の人差し指を伸ばす。その先に光の玉が集まる。そしてすぐにその玉から光の矢が何本も放たれる。それは全てレインを貫いたように見えたが簡単に避けられる。そのまま私はレインを見失う。
すぐ草原の周りを見渡すがレインの姿はどこにもない。次のとき私は背中に痛みを感じて地上に落ちた。グラングランする視線に映ったのは空中でちょうどサッカーボールを蹴った後のようなポーズのレインだった。
蹴られたのだと判断した。
僕が背中を打ち付けてゆれる頭で目を開けた。
気づいたときにクリンは目の前までフライで飛んできた。既にすぐ数メートルの所まで来ている。そして近づきながら杖を振るうとそこからレイが数本出てきた。僕はそれを強く歯をかみ締めながら近くのビルに移って避ける。
クリンの放ったレイは先ほど僕のいたビルに直撃する。そのレイの威力のためかビルが崩れ始めた。すぐ隣のビルの屋上で僕は少し吐血した。先ほど打ったビルのせいでアバラの骨が少し折れたようだ。その骨が器官に当たって痛かった。
僕は背中を丸めて口元に手を当てながら咳きごんだ。その手の隙間から血が流れ始めた。
風を切る音がした。その方向を見るとクリンがまたこちらに接近してくるが僕はうまく避けられない。とりあえず億条の床を転がってレイを避けるが服を少し切り裂かれた。僕の口から血が流れる。
僕はふらつきながらその場を立った。胃からむせ上がるものがある。僕は少し咳き込むとまた血が出てきた。僕は血をぬぐってクリンを睨んだ。クリンはこちらを向いて少し微笑む。
『っ大丈夫ですか!?マスター!?』
「くっそ・・・クリン・・・!!てめぇ・・・!!」
「あっはっはっはっは!!もっと楽しませてよ。ボウヤ?」
「くそったれ!!」
僕は翼天でクリンに切りかかる。だが、クリンの移動速度は速すぎるためにそれを簡単に避けられてしまった。その速度は僕の目では追いつけない。
歯噛みした僕はクリンの居場所を探す。クリンは僕の真後ろのフェンスの上で笑いながら立っていた。それは気に食わないのだ。僕は翼天を片手で回した。翼天は円のように見えるようになった。そして構えた。
ブウォオオオという風を切る音が絶え間なく続いている。そのまま一気に駆け、クリンの位置でその翼天を振り下ろした。その攻撃の威力は大きい。
クリンはバックで避けるがそこに何かが切りかかる。クリンの服の右肩の部分が少し切れた。これが『円風槍』という技である。これは風の追撃つきなのだ。
少しうろたえたクリンに僕自身が追撃しに一気に接近するがクリンの魔法はそれを許さずに僕の足元をエクスプロージョンで爆発させる。僕はそれを寸前の所で察知してその場から離れた。クリンは目の前にもういない。
僕の右からクリンの別の魔法が襲う。炎魔法の『フレア』だ。僕の右肩が少し焼けたがすぐに消えてしまう。
右を向くとそこには少しきつめの目でこちらを見ているクリンがそこにはいた。否・・・見ているのではなく睨んでいるのだ。
とりあえず僕は体ごとクリンの方を向く。クリンは自分の服が傷ついてしまったのにかなりショックのようだった。『すみません』と先ほどから何度も謝っている。誰にかは分からないが。
僕はとりあえず翼天をまた片手で回した円風槍だ。だが、その技を出す前に僕の体は風魔法『フウ』で吹き飛ばされていた。僕は翼天から風を出して空を飛んだ。
そしてクリンと真正面からにらみ合うが、不意にクリンが口を開いた。
「あなたが本気で来ると言うなら・・・こちらもそれ相当の力でやってげるわ。」
その声は少し低くて危なさを感じさせた。僕は少し恐怖にののしりながら強気に振舞った。
「そうかい。ならこっちだって手加減はしないさ。」
僕とクリンは接近しあった。
地上に落とされた私は空中で落下し始めているレインに向かってレイを放った。全て弾かれてしまったけれどもフライとジャンプで一気に接近する。空中ではこちらのほうが強いのだ。
右手の本のページを変更して左手に炎を集めた。バスケットボールくらいの火の玉が左手の中にできる。それをレインに向かって投げた。
フライのある自分と違ってレインは空中ではうまく動けないのだ。これで完全に当たると思った。が、ドギュンと言う音と共にレインの拳銃が火を噴いた。
その弾丸の反動でレインは上空へと舞い上がった。つまり『ファイア』は避けられてしまったのだ。私は軽く舌打ちした。私も同じように上空へと舞い上がった。
真正面に並ぶと私はレインに腕を伸ばしてレイを唱える。だが、やはり拳銃を撃ってその反動で避けてしまった。何だかんだで空中戦も結構強いようだ。
私はいったん地に足をつけた。それと同時にレインも地に足をつける。私とレインはにらみ合うように見ているが、レインの表情は睨んでいるとは言えずに、笑っているとしかいえない。
「・・・強いね・・・きみ・・・。」
「ははは。きみこそ。」
レインはその拳銃を上に持ち上げる。カチャっと言う音と共に弾丸の種類が変わった。その弾丸をこちらに撃ってくる。その弾丸は普通の玉よりも少し速い球だった。
私の頬をかすめる。私はそのすぐ後にフライで空を飛んだ。その目の前にはレインも空中に上がってきた所だった。
レインはこちらに銃口を向けて引き金を引いた。先ほどと同じ少し早めの玉だったし、距離も近いのがあった為か弾丸は少し掠って行った。私はすぐに旋回して距離を稼いだ。
レインは自分とは反対の方向に二つの銃口を向けて放つ。その弾丸の反動でレインはこちらに一気に接近してくる。それを見た私も一気にレインに近づいた。
2メートル程までのとこになるとレインはこちらを撃って来た。私はそれを飛びながら綺麗に避けていく。少しかする程度で致命傷はない。
鼻先ほどの所へ来ると私は右手に『ファイア』をためてそれをレインに触れさせる。だが、それも寸前の所で避けられてしまう。
2人はそれぞれ距離をとった。その距離5メートルほど。私はにやりと笑って見せるとレインもにやりと笑った。どちらも余裕と言うことだった。2人はまた接近しあった。
接近しあった僕とクリンはそれぞれの攻撃を放ちあう。
『クラッシュ』
クリンはそういうだけでクリンの目の前に爆発が起こる。それも自分に向かって何発もやってくる。逃げ道などないに等しいその技は予想済みの攻撃だった。
『バリア』
僕はそう唱えた。僕は一応魔法と呼ばれるものが使える。ただ、補助と攻撃の弱いのだけど(ちなみにレイは結構高位)。
バリアを唱えると僕の周りに青っぽい薄い膜が三角形にできた。そのバリアはクラッシュの攻撃を完全に防いで僕のほうには通らせなかった。
さらに2人は接近しあう。次に先に動いたのは僕の方だった。
『翼天翔』
で一気に速度を上げる。これはほんの一瞬だが空中での動きを早めるものだ。僕の翼天は空中でも地上でも結構強いのが特徴だ。山城さんと違って空中も強いのだ(嫌味)。
一気に接近した僕はその持っている翼天を振るう。それは虚空を斬った。僕はその体制で固まってしまった。
すぐ左側にはクリンがいた。右手を僕のこめかみに向けている。その手も人差し指と中指だけ伸ばして親指を上に上げている。その光景は銃を持ったかのように見える。目だけを動かしてクリンを確認すると口元は笑っていたが目は本気だ。
「バン。」
その声は明るかったがその声と共に僕とクリンの間に爆発が起こる。エクスプロージョンだ。僕は吹き飛ばされてよく分からないビルの屋上に背中を打ち付ける。そのビルの破片の煙が体を取り巻いた。
数秒して煙が引いた所に僕は立っていた。服はもうぼろぼろになってしまってその残骸が僕の体を少し覆っている程度だ。僕は少し疲れてうつむき加減になっているのだろうか?とにかくもう眠りたかった。
そして僕の意識はもうろくし始めて来た。僕は少しふらついたが、体が何かにのっとられたかのようにうまく動かない。
それどころか勝手に動かされている感じだ。不意に翼天の『マスター。借りますよ。』と言う声が聞こえたような気がしたけれどもどうでも良かった。
クリンは僕から見て約45°ほどの角度の空を漂ってこちらの様子を見ていた。僕は急にその方向を向いたが、それは僕の意思ではない。僕の意識は消えかかっている。
クリンはこちらを向いていてその光景を見て少し息を呑んだような気がした。その時やっと自分のおかれている状況が分かった。
・・・簡単に言えば女になっていたのだ。見た目は全て変わっていた。無論服も・・・。顔は完全に女の人となっている。髪は長くて目に入りそうで色は綺麗な青色だった。服は白い服で物凄い簡素だ。右手には翼天を持っている。
「あんた・・・いったい何者・・・?」
クリンはその女の人に向かって喋りかけてくる。自分はその光景を少しと浮くから宙に浮いてみていた。しかもよく見たら自分半透明だし・・・・。
つまりは幽体離脱みたいなものなのか?とかへんなことを考えている僕だった。その意識は完全になくなりかけているが。
「私は翼天。これは・・・まあ、半分マスターの姿を借りてるんだけどね。」
「いや・・・似てないし・・・。借りたと言うよりも独占しているって言ったほうが正しそうだけどね・・・。」
「まぁ・・・独占でもいいかもしれないわね。」
二人は少し笑いあった。何でそこで波長が合うかは僕には理解できなかった。と言うか理解したくなかった。
不意に翼天の笑いが止まるとその持っている槍(翼天)を構えた。
「マスターの敵は私の敵だし・・・とりあえず君・・・殺すね?」
少し笑いの含んだその声が声に似合わないことを喋った。僕には最初その言葉の意味があまりよくは分からなかったがやがてその新の意味に気がつくとかなり驚いた。外見と言いたいことはかけ離れているのだ。
クリンも少し笑って構える。こちらも受けてたつと言う事なのだろうか・・・。それから少しの間時が止まったかのようだった。それは数時間かもしれないし数分かもしれない。はたまた数秒かもしれない時間だった。
動いたのはクリンだ。一気に接近しながらレイをいつもの二倍ましくらいで放ってきた。
それを翼天は目にも留まらぬ速さで避けていく。そのレイは掠りもしなかった。そして翼天は地を蹴った。一瞬にしてクリンの目の前にまで接近する。そしてその槍を振るうとそのあまりの速さにクリンは避ける間もなかった。
クリンの左肩の部分から血が飛び出た。クリンは右の手でその傷口をすぐに押さえたが、その血の量は血を押さえきるには不可能な量だった。クリンは翼天を睨んだ。
そこに翼天の一撃が走った。が、その攻撃は突然割り込んできた何者かによって防がれてしまったのだ。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
二人の息はほとんど同じくらい乱れている。私は一気にレイを唱えると一気にレイがレインに向かって飛んでいく。
レインはそのレイを特殊な弾丸を撃ってはじく。その弾丸は撃ったと同時に目の前に盾のようなものができるものだった。レイにもうち抜けないほどの強度のものだ。
二人は息を荒くして距離をとっている。私が次の攻撃に出ようとすると誰かが割り込んできた。
白い仮面をつけた金髪の少年だった。仮面は少し髪が出る程度で完全に顔を覆っているためにその表情は全く見えない。とにかく私とレインの間に立っているだけだったが、不意に口が動いたと思われる。
そのコトバの矛先は私ではなくてレインのようだった。
「君がここで死ぬわけには行かないだろ?さっさと行くんだ。」
「あ・・・ああ・・・。」
「ちょっと待って!!まだ私との戦いが・・・!!」
その言葉は最後まで続かなかった。その仮面の男が突き出したてはこちらに向いていてそこから三つほどの光が走る。それは私の目の前ではじけて私は不意に目をつぶってしまう。次に目を開けたときには誰もいなかった。
ただ一人私だけが地上に立ち尽くしている。
『そっちはどう?終わった?』
レイラさんの声が耳元のイヤホンから伝わってきた。この前とほとんど同じものだが、結構高性能で浸水も大丈夫ないい奴なのだ。私は胸元についているマイクを口元に近づけた。
『すみません。逃がしてしまいました。』
『うん。分かったよ。とりあえず帰還して。』
私は『はい』と答える。それと同時に私は移動魔法で戦艦アスカへと飛ばされた。目を開けたときにいつもとは違う場所なことに気づいた。そこはいつもの転送機の場所ではなく、司令室だった。
私はすぐ傍にいるレイラさんの表情を見る。その顔は困惑そして驚きに見舞われていた。だが、その視線の先は私ではなく一番大きな液晶だった。それを私も見てみる。
時間は少し前に戻る。
私が転送された先は森がいっそうに生い茂られた場所だった。私は歩き出そうとして少しふらついて近くにあった木に背をつける。まだ力がうまく入らない。ちょっと無理をしすぎたかもね・・・。
私はとりあえず方向がわからないので適当な方向へと歩き始めた。歩くたびにガサガサと言う草を掻き分ける音が響く。その音は痛い頭へも響いた。痛みはさらに深くなる。
私はふらつきながら前へと進む。そのせいで下にあった木の根に足を取られてしまう。私は前へと転んでしまった。その表示に鼻をぶつけてしまった少し痛い。だが、そのおかげか見難かった森が見やすくなった。
その森は少し黒くよどんでいて木からは多くのツルが垂れている。木の中には少し針のようなものが付いたものもある。とにかく見たこと無いものが多かった。
その時不意にパキンという木を踏む音が聞こえた。私はすぐに体を動かすのをやめた。起き上がる寸前まで来ていたが、こうなっては一度止まるしかないのだ。とにかく目の前を歩いていると思われるほうに聞き耳を立てた。
『あれ・・・大丈夫ですかね?』
『ばれないよ。私たちの影はよくやってくれるはず。とりあえず私たちの狙いはあの山城ギンって女の子。』
(え?私・・・?)
声は少年のように男っぽくて幼い声だった。もう一人いてその声は女の人のようだ。それよりも問題はその会話の内容だ。私が狙い・・・?何で・・・?
とにかく私は今ろくに戦える状況ではない。私は起き上がろうとしたがだが・・・
「こんにちわ。ギンさん。」
目の前にはこの前であった少年が立っていた。私は絶叫する。だがそれを許さずに少年の一撃が横の腹に決まる。私はその攻撃の痛みでその場にまた倒れた。
ゲホッと喉までむせ上がったものを吐いた。口元近くの土が私の吐いた、血で赤くなる。私は薄れ行く意識の中でそれを確認した。他に確認できたのは横っ腹の痛みだけだ。
私の意識は唐突に無くなってしまった。
僕が飛鳥に着いたときはみんな司令室で仕事をやっているところだった。適合者の中では僕が一番初めに帰還したようだ。
とにかく僕は自分の指令室用の椅子に座る。そこへ先輩が戦闘から帰ってきた。先輩は母さんのすぐ横に現れる。母さんはなぜか先輩を見ようとせず大画面の液晶を見ている。
僕もその液晶画面を見た。そこには一つの動画が送られてきている。その動画を見るようだ。
その動画の内容は一つの暗い部屋のようだ。そこにはこの前の動画と同じ青年が立っている。だが、一番気になったのはその足元にある・・・
「・・・な・・・!?」
先輩の驚きやその他のことが声に混じっていることが分かる。
その青年の足元には山城ギンがいる。そして山城さんはその青年に踏まれている。さらに山城さんは血だらけの状態で倒れている。その傷の深さは半端じゃなくて生きているかどうかすら分からない。
青年は山城さんの方を少し見るとニヤリと笑って山城さんを蹴った。蹴った場所から山城さんの血が噴出す。そのすぐ後に口から血を吐き出し、げほげほと咳き込んだ所を見るとまだ生きているようだ。
青年はまたこちらを見直して
『この女を助けたかったらお前らの持っているクリスタルを全部こちらによこすんだ。それができなければこの女は殺す。
場所はE-85.92地点近くの城の中で待っている。早く来いよな。』
その動画はそこまでで終わっている。僕はため息を一つついた。そこへたったと走り去って行く先輩が横目に見える。僕もその先輩の後を追うことにした。みんなは画面を見ているだけでこちらに気づかない。
「おい!!先輩!!」
廊下の所で僕は先輩に声をかける。先輩は少し横を向いて目だけでこちらを見た。その右手にはクリスタルがたくさん握られている。僕はそれで先輩の考えが分かった。
「・・・高野・・・。・・・いくら貴方でも・・・渡せない・・・。」
僕はため息を一つつく。そして後には『僕も行くよ』と言っていた。そのせりふは自分でも驚きだったが、言ったことに後悔はほとんど無かった。とりあえず僕は立ち止まった先輩に走って追いつく。
先輩は僕が真横にたどり着くと自分のクリスタルを解放して魔法を唱える。『ムーヴ』。その魔法を唱えると同時に僕と先輩の視界が真っ白に変わっていく。僕は目をつぶる。
次に目を開けた時に目の前に現れたのは黒い城だった。僕らは今その手前にある森の中で城の様子を覗っている。城の周辺には良く分からない機械物が漂っている。その数は40ほど。
機械は黄色いものが多い。その姿は少しごつめで攻撃に当たると痛そうだ。とにかく単身突入は危ないと言えるだろう。
僕は作戦を考える。たった一つ思いつくものがあるが、それをやるかどうかかなり迷う。突然先輩がつぶやいた。
「・・・ギン・・・。・・・今・・・行く・・・。」
僕は立ち上がりかけた先輩を制した。そして僕が奴らをひきつけると言うと先輩はかなり驚いていた。先輩が何か言おうとしていたが、僕はそれを聞かずに走り出した。
機械がいっせいにこちらを向く。僕は少し恐怖するがすぐにクリスタルを解放して先輩が入るために扉前の敵を切り裂いていく。先輩は僕の化成に入ろうとしたが、僕は目で先輩を制した。先輩はそれを見ると、僕の気持ちを知ったかのように走り出した。
先輩は一気に入り口の所まで着たその後また僕のほうを向いたが早く行けといわんばかりに僕は先輩を睨み返す。
先輩は肩をすくめて一気に扉を開いた。それに機械が群がっていくが僕がその扉と機械の間に入り込む。そして翼天を構える。この先は一歩も通さないつもりだ。
「手前等かかって来いよ!!この先は一歩も通さねぇ!!」
機械たちが僕に向かって飛び込んでくる。
私はお城の中を走っている。外とは違って中は機械が一匹もいない。だから私は止まらずには知り続けた。城の中では自分の息継ぎと靴の音が響いている。
城の内装は一直線が多かった。こういうお城ではそのほうがいいのだ。私はとりあえずその通りの道を進む。
私は途中で一つの扉を通り過ぎたことに気づく。その扉には文字が書かれている。とりあえず『管理室』と書かれていた。私はゆっくりとドアノブを回して一気に扉を開けた。そこには大きいロボットが3機ほどこちらを見てくる。
私は苦笑いしてドアを閉めようとするがロボットの一つが扉に手をかけて動かさせなかった。その力はかなり強い。
「・・あ・・・!!・・・解放!!・・・いくよ・・・サンハート!!」
クリスタルが一気に本となる。私はその本を片手に持って右手でレイを唱えた。手前にいた機械はそれが全て直撃する。それで手前の機械は爆発するが、後ろにいた機械たちは貫通したレイを軽々と避けてしまう。
二つの機械は空中へ飛びながら右腕をこちらに向けてきた。その右腕の手の甲から二つの筒が出てくる。そしてその筒が火を吹く。その筒から出たマシンガンは私の足元を少しづつ破壊する。私は驚いて足をばたつかせた。
すぐにジャンプとフライで低空で空を飛ぶ。そして機械の一体に一気に接近する。
機械は右腕の筒型マシンガンをまたしまって腰からさらに筒状のものを握った。そしてて指元にあるボタンを押したようだ。そのとたんに筒状の光が走る。長さは1m50くらいになると伸びるのが止まった。
それを機械は私に向かって振るう。部屋が暗いせいもあって振るうとその軌道がかなり見やすい。その軌道の色はピンク色で綺麗な色だったが、それに当たった近くの棚は焦げたように斬られた部分の部室が避けていく。
そういえば私は聞いたことがあった。ビームセイバーと呼ばれる剣がありその剣を使うとその高温のために斬られた所が解けていくのだ。それほど恐ろしい剣らしい。
私は機械の後ろに回る。そして機械の背中に右手の拳を合わせると『波』と言うとその手から風と炎が噴出す。機械はそのまま真っ直ぐ吹き飛ぶ。そして後ろの壁に激突した機械はそのままドガンと爆発する。
残りもう一揆の機械が背中につけたジェットで一気に接近してそのビームセイバーで斬りかかって来る。私はそれを低めにジャンプして回避する。そのピンク色の軌道が収まったと同時に右手を機械に向けた。
『レイ』と唱えるとその手の手前に光の玉ができてその玉から光の矢が機械に降り注がれる。そして機械を貫通したレイは地面に古河とを残して消え去る。
貫かれた機械はバリバリと電気をほとばせるとドガンと赤く爆発した。私はそれと同時にため息を一つついてクリスタルを元に戻す。そして奥にあった扉へと歩く。
その扉は鉄で作られて二重になっている。私はその重い扉をゆっくりと開く。暗かったその部屋から明るい部屋へと移ってしまった為に目がちかちかとしてきた。少し目をとじてゆっくりと目を開ける。
そこには三人の人型のものが居座っていた。
一人は動画に映っていた人が中央の少し豪華な椅子に座っている。その右側にはこの前戦ったレインという少年が体育すわりをしている。反対側には女の人が立っていた。
私はまたクリスタルを解放して一気にレイで三人を攻撃する。青年以外はその場からさっと避けてレイを交わすが、青年はその椅子から動こうとしないで私に聞こえない声で呟くと目の前にシールドが現れる。
レイはそのシールドに当たると消えてなくなる。
青年はその光景を嘲笑しながら見ていた。私はレイをやめると同時に何かによって右側に吹き飛ばされる。壁に背中を撃ったと同時に服に傷がついているのに気づく。魔法だ。風魔法『フウ』のせいだろう。
私は真っ直ぐ敵を見据える。そこには杖を片手に持った女の人が立っている。杖の先はこちらを向いていた。私は唇を噛んだ。
すぐに立ち上がると私も『フウ』を唱える。その瞬間に女の人と魔法の間にレインが入ってくる。そして弾丸を撃ってくる。フウによるフウの抵抗は受けずに私に向かって飛んでくる。フウを唱えた後の反動でうまく避けられずに弾丸は私の頬を掠っていく。
私は2人を睨んだ。
私は暗闇の中にいる・・・。そこでうつ伏せになっている自分がそこにはいた。
私は起きているのかどうかも分からない。ただ私はそこに倒れていた。
薄く目を開けると真っ黒な空間に赤い筋が入り始めている。
私は痛い体を起こして仰向けになる。その仰向けになった場所に光が降り注いだ。そっちの方向を見てみるとそこだけ黒い空間が割れて黄色いような白いような光がこちらに差し込んでくる。
そこに何かが降りてくるのが見えた。それが何かは私からは逆光になって見えなかったが緑色の目がこちらに向いているのだけが分かった。その姿は女性のようだ。
不意に女性の口が動く。何かを喋っている様だが音は出ていない。
「・・・それを使えと・・・?」
さらにその女性の口は動いた。私にはなんと言っているかはわかった。
「・・・分かりました。・・・やればいいんですね・・・?」
女性は頷いた。そしてまた空へと戻っていくそれを私は最後に見た。




