第三話 ギンの三日間の決断
私は重い足取りで家へと帰る。時間はすでに7時を回っていて空は真っ暗だった。
私の気はかなり重かった。今私は重大な問題を抱え込んでいるのだ。それは家を少しの間出るか否かだった。
だが、出るといった場合一番問題なのはレモンだ。彼女がいったい何を言い出すか分かったものじゃなかった。
とか何だかんだ言って現在地私の家の目の前。ポストの近くに立っております。とりあえず私は今日あった出来事を思い出す。
私はある場所へとつれられてきた。ソファにすわり人物を確認する。
右側には高野が座っていた。目の前には高野のお母さんらしい人が座っている。
女の人は手を組んでテーブルにひじを両方ともつける。その手の上に額を乗せた。その状態では子たらから彼女の目を見ることはできない。かなり真剣な態度のようだった。
「とりあえず自己紹介をしておきます。私の名前は高野 レイラ(たかの れいら)。一応外国人よ。」
「知ってのとおり僕は高野宗次。」
「私は山城ギン。」
「ギンちゃん・・・あなたは確か宗次と一緒で適合者だったわね・・・?」
「はい・・・。」
「う~ん・・・じゃあ、悪いんだけどもクリスタル集めを手伝って欲しいんだよね。」
私はいきなり思いがけないことを言われてしまった。
「知っての通りこの世界にはクリスタルというものがあるの。あなたも使っているからよく分かるわよね?クリスタルの数はよくは分かっていないけれども15前後あると分かったの。
とりあえず私たちは8つ手に入れて3人の適合者を見つけたのだけれども、その数はまだ半分だけだった。
私たちがクリスタルを使うのは世界中がティガイスで埋め尽くされるのを抑えるため。つまり世界を救うためってことかな・・・?それを成し遂げるためにはクリスタルを使う必要があったの。
だけれどもクリスタルは自分を使う人を選んだ。それが適合者。クリスタルは昔一つだったといわれているんだけれども昔に砕け散ってあらゆる方向に飛び散ってしまったらしいんだ。そのかけらの一つがあなたのクリスタルってこと。
でも、最近ティガイスの繁殖量が増え始めてきたの・・・前は一週間に1匹くらいの割合が今では2日に1匹は出るようになってしまったの・・・。さすがにこの先を考えると2人ではきついかなぁ・・・?と思って適合者を探し始めたのが2ヶ月ほど前。やっと三人目を見つけられてほっとしてたりするんだけれどもね・・・。」
そこでいったん話を区切ると女の人・・・レイラさんは目の前にあったお茶に手を出す。
ズズズっとお茶をすすってお茶をテーブルに置くとまた話し始める。その間高野はどこから取り出したか全く分からないみかんを頬張っていた。レイラさんは高野のほうを羨ましそうに見ていたが、こちらの視線に気がつくと咳払いをして話を再開する。
「ううん。今までは8個集まったからいいと思っていたけれども、最近はそうも言ってられなくなったの。
ティガイスの中には魔力を多く持つ者がいて、クリスタルを改造することに成功したの。そうすることで適合者を自分たちの好きなように変えていった。それはもちろんティガイスだったのだけれども・・・。
クリスタルには大きな力が宿っているの。解放をしなくとも持っているだけでもティガイスの危険度を2か3くらい上げることもできる代物・・・。そんなものは早く始末する必要があるの。」
それを聞いたときに赤竜が息を呑んだのが私は分かった。新しいマスターが見つかったのに封印されるなんて嫌だったのだろうと私は思う。
『ま・・・マスター・・・私は・・・』
「分かってる・・・。」
私は軽くうなずいた。それは周りから見れば心細いが赤竜から見ればかなり心強かった。
「で?気づいてた?この場所・・・実は戦艦とかそういう類なのよね~。」
私は急にレイラさんがしゃべり方を変えたのを聞いてかなり驚いた。先ほどから少し下を向いていたのでレイラさんのほうを見ていなかった。すぐに顔を上げてみると、そこには顔のとろけたレイラさんが座っていた。
急に高野の目が鋭くなる。その眼光の先にはレイラさんがいた。
「窓の外見てごらん~外は宇宙なんだよ~」
私は言われるがままに窓の方を向いた。そこは確かに宇宙だった。星がきらめいているあの宇宙だ。ちょっと左のほうには青い地球がある。確かに地球は青かった。(笑)
レイラさんが説明不可能だと高野が感じると、次に高野がいろいろと話を進める。
気がついたときには高野の手にはミカンの皮すらもなかった。
「基本的に僕らの機関に入ってくれるなら衣食住はもちろんでちゃんとお給料みたいなものも出すよ。ただ・・・どうしても済むところが機関の中になっちゃうから・・・。」
高野の言いたいことは分かった。だから私はその問いかけにNOといってやった。
高野はやっぱりという感じでかくっと肩を落とした。だが、すぐに顔を上げるとまた話し始めた。
「でも、できればこのクリスタルのことには手伝って欲しい。
クリスタルの反応が出れば転送機で飛んで行き、ティガイスと戦い、適合者を見つける・・・」
それならいいよと私はOKを示した。だが・・・
「これに手伝ってくれるならばこれから任務中この戦艦・・・アスカに住んでもらう事になるのだが・・・。」
それは私の判断を狂わせた。NOと答えたかったが地球を守るためとか言われるとYESとも答えたかった。
だが、それは自分勝手なことと分かっていながらも家族と一緒にいたいとか考えてしまうので、どうしてもその場で答えることが私には全然できなかった。
「まあ、こんな重大なことすぐには決められないよな・・・3日ほど答えを待つよ。その間友達や家族に話すといい・・・。」
それだけ高野は言った。その後のことはよく覚えていないが確か転送機に乗ったような気がした。
私はそこまでの事を頭の中で思い出すと家のドアを開けて中に入った。
家ではちょうど晩御飯が出来上がった所だったようで晩御飯のにおいが立ち込めていた。今日はカレー・・・それだけで分かる。
私がただいま~と言うと一目散に駆けて来る音が聞こえる。このパターンはもうだいぶ飽きたのだが・・・
「おかえり~!!」
黄色いツインテールが宙を舞う。それと同時に私の体も中に舞った。
ゴツンと嫌な音と共に私は後頭部に物凄い痛みを感じた。真正面からレモンに抱きつかれたために後ろに倒れる結果となってしまったのだ。かなり痛かった。
「おかえり~遅かったね。」
レモンに引き続いてゆっくりと歩いて出てきたのは父さんだった。糸目なのでエプロンと三角巾が案外似合っていたことは内緒だ。
私は左手でレモンをどかすとその場で立った。右手はまだ少し痛かった。
私はとりあえず二人に自分の部屋に行く。といって自分の部屋へと急いだ。否・・・急ごうとした。だが、私は足が重かった。
いや、足ではない。体だ・・・。いつもと二倍ぐらいに重い。私はとりあえず後ろを振り返ってみる。そこにはレモンが私に抱きついていて、頬擦りをしていた。
私はレモンを振り切って自分の部屋へと駆け込んだ。
ダン!!と扉を強く閉める音が家の中に響いた。
お姉ちゃんの様子がおかしいことは家に入ってきた時の声で大体分かっていた。
だから私が元気が出るように抱きついてみたのだが、どうやら逆効果だったようだ。怒らせてしまっている。
それはあのドアの閉め方を見れば一目瞭然・・・お姉ちゃんは怒れば怖い。それはお姉ちゃんが中学校の時喧嘩屋さんだったということもあるのだろうけれども何か別のものに見下されているような気がしてならなかった。
それはお化けかもしれないし、よく言われる守護霊かもしれないのだ。だが、それは絶対に人には見えないものだ。私にももちろん見えるわけがないのだか、そういう予感というものは誰にでもあるものだと思っている。
とにかくお姉ちゃんは怒ると怖いのだが、今日は何かが違っていた。何か思いつめているような・・・その星で怒りがうまく伝わっていないということに本人はあまり気づいていないのかもしれない。
とにかく私はお姉ちゃんの部屋の扉の前まで行く。謝りはしないものの、晩御飯がいるかどうかだけはきっちりと聞いておかなければならないのだ。
私はおねえちゃんの部屋の前まで来てお姉ちゃんに聞いてみる。
「お姉ちゃん~晩御飯いる~?」
・・・
数秒間何も反応がなかった。ドアに耳を付けて音を拾ってみるとスースーと寝息が聞こえてきた。私はずいぶんと疲れたんだなぁと思い、お姉ちゃんの部屋を後にした。
時間は数十秒前に戻る。
ドアを閉めた後の私は物凄い眠気に誘われた。立っているのがギリギリで気を抜いたらそのまま崩れ落ちてしまうのではないかと思えるほどだった。
私は机に近づき、首にかけていたアクセサリーをはずす。その先っぽにはもちろん赤いクリスタルがついていた。それを確認した後に私はベットに飛びついた。
『ずいぶんとお疲れのようですね。マスター。』
赤竜の声が聞こえてきたがそんなことはもうどうでもよかった。今は襲ってくる眠気の波に乗りたかったのだ。数十秒もしない後に私の意識は布団の中で消えて行った。赤竜はその後黙ってしまったようだ。
残り後二日
目覚ましの音がぴぴっとなる。だが、私はその前にすでに起きていた。目覚ましの音を止めた後に私は大きな伸びを一つやった。今日は日曜日。学校は休みだった。そして明日は祝日。同じく休みだった。
最後の日まで休みが続くということだが、私はそんな事をとりあえず思考の外へと追い出した。休みの日にあまりこういうことを考えていいことがあるとは思えなかったのだ。
時間は現在7時35分。休みの日にしては早く起きたほうだが、昨日寝たのが早すぎた。その為に空腹のあまり3時ごろに目を覚ましてしまった(無論夜の)。とりあえず冷蔵庫で寝ていたカレーを少し暖めてご飯と一緒に食べた。やはりカレーは一日置いたほうがおいしかった。
私は寝巻きを脱ぎ捨てて私服を着た。今日の私服は至って普通の私服。そんな背中に『獄』とカかかれた黒い服など着ない。人生野中北ことがないと言い張れるかと言われればそうでもないが・・・。
私はとりあえず居間に行って朝食のパンを焼いた。朝はパンに限る。てか、二人はまだ寝ていたしパンの方が楽だからパンにした。
とりあえず二人を起こさずに朝食を食べると玄関からそーっと家を出た。
この時期の空は澄んでいた。この日の世界は広かった。
私は玄関に出ると思いっきり伸びをしてそのままの状態で少しの間止まる。そして体制を整えて良しと頷くと一目散に駆け出した。目的地は特に決まってはいなかったが、とりあえず走り出した。どこか遠くの世界に行きたかったのだ。
私は楽しくって笑っていたと思う。
それを見つめる一つの影に彼女は気づいていたのかもしれないし、気づいていなかったかもしれない。
僕は今一人の女性を見つめている。名前は分からない。年も分からない。たぶん自分と同じくらいかもしれない。
僕はとりあえず誰の家かもわからない屋根から下りた。彼女を見るには高い所が一番よかったので最初に目に泊まった家の屋根に座ってみていたのだが・・・。
「彼女が適合者か・・・。何だ・・・弱そうじゃないか・・・。」
彼はほかの人が聞いてもほとんど分からないようなことを言っていた。彼は黒い髪をしていたが金色の瞳をしている。人前に出れば目立つこと間違いなしだが、それは困るので人目を避けて歩いている。
彼女が人目が多い所に行くようであれば家などの上を通って追うつもりだった。だが、彼女が通るのは人目のあまりいないところばかりだったのでその心配はほとんどなかった。変装用にとハンチング帽を被ってきたがそれもいらなかったのかもしれないと思い直してきた。
だから僕はかなり暇だった。暇で暇でしょうがなかった。そこにある人物の顔が浮かんだ。それは彼女の妹だった。金色の髪をしていてツインテールな子だったが・・・確か名前はレモンだったな・・・。
彼女をちょっと苛めてやろう・・・。そう思った。だが、僕の苛めと言うのはそこらへんの中学生のやることとは一味も二味も違う。刃物を本当に突き刺すのだ。
僕は口元だけ笑いに変えた。そしてハンチング帽を目が見えないぐらい深く被ってその場から消えた。否・・・物凄いスピードで上に跳んだのだ。その高さ約10m。彼にはまだ軽い高さだ。そしてそのまま宙をけって彼女の家へと急いだ。
私は目覚ましの音と共に朝起きた。時間は現在7時50分・・・。決して早くもないが遅いともいえないあいまいな時間だった。私はとりあえず布団から出て今へと移った。
居間ではカレーを食べた後のお皿とパンを食べた後のお皿の二枚が残っていた。私はうれしくなった。あのお姉ちゃんがこんなに早く機嫌を直すのはすごかった。それにお父さんのカレーを食べてくれたことがうれしかった。
私は上機嫌になりながらお姉ちゃんがどこにいるかを確認した。はじめに玄関の靴を確認した所無かった為たぶん外出していると断定した。たぶん朝の散歩だろう。
私は焼いてもいないパンを口に咥えながら着替えた。着替え終わるころにはパンを食べ終わっていて私はすぐに家を出る。
私も朝の散歩は好きだった。お姉ちゃんと歩くともっとよかった。だから私はおねえちゃんのいつもの散歩コースを走ってお姉ちゃんを追った。食べた後に走ると横っ腹が痛くなるものだが、朝飯が少なかったために逆にお腹が減ってお腹が痛かった。
私は人通りが余りよくない住宅街に出る。ここは裏住宅街などがあって面白いということでおねえちゃんがコースに選んだ場所だった。私も結構気に入ってたりする。
私は走りながらお姉ちゃんを探すためにまっすぐ前を見ていた。だからなのか横から近づいてくる気配に気づけなかった。
不意に私の左肩に誰か触ったかと思うと裏路地のほうに引きずり込まれた。そこはすぐ後ろが行き止まりで、私の体は速度が乗ったまま背中がその行き止まりの壁と激突した。
結構痛いために目を閉じたがその後また別の痛みが襲った。
私は目を開けて驚きと恐怖に掻き立てられた。右肩の少し首よりの所に刃渡り10cm位のナイフが突き刺さっていた。そこには手が続いていたので私は前を向く。
裏路地のため顔はよく見えないが黄色い目と少し笑った口元だけは見えた。
ナイフの刺さった位置が余りよくないせいか右腕が思うように動かせれない。それに少しでも動かそうとすると痛みが走った。とりあえず壁から離れようとするが、相手の反対の手で左肩を押さえられていたのでうまく動けない。
私は恐怖に耐えながらも左手で左肩につかまっている腕を握った。相手の力はずいぶんと強くてビクともしなかった。不意にその相手の口が動いた。
「君は悪くないんだ。悪いのは全部君のお姉さん・・・。君のお姉さんが適合者だったからいけないんだ・・・。」
その相手の声は男の子のようだった。だが、適合者だとかよく分からないことを口にしている。それに私は恐怖のあまり思考がパニクっていた。だが、最後にこれだけは言えた。
「あんたなんかお姉ちゃんがやっつけるんだ!!あんたなんか怖くないんだ!!!」
それだけ言うと相手は沈黙した。何か考え込んでいるような感じだった。そして不意に相手の声が冷たくなる。
「そうか・・・なら仕方が無いけれども・・・死んでもらうよ。」
私は大声を出して助けを求めようとした。だが、相手の方を押さえていた手が急に私の口を押さえてくる。その力は強くて、今にもつぶされてしまいそうなほどだった。それと同時にナイフのほうにも力が入ってきた。
「大丈夫さ。君には痛みなんか無い。あるのは絶望と悲しみだけだ。」
その最後の言葉は物凄く優しい響きだった。私はその時恐怖と絶望と悲しみで目から涙を流した。その様子を見て相手は微笑していたように見えた。
ナイフの方に力が加わると私は不意に目をつぶってしまった。そして体を切られる痛みが走る。その時相手の腕の押さえつけはもうどこにも無くてナイフも姿を消している。私はそのままうつぶせの状態に倒れた。
薄れる意識の中ハンチング帽の少年が裏路地から出て行くのが見えた。その出て行く途中でこちらを一度振り返ったが、こちらに来ることは無い。
嘘のように流れる血を見ながら私は眠るように目を閉じていく・・・不思議と痛みは無かった。
私が家に帰ったとき父さんはもう起きていた。父さんはこちらに気づくと笑顔で聞いてくる。
「カレーうまかったか?」
とりあえず私は「寝言は寝て言え」といいながら父さんの前を通り過ぎていった。その後「あちゃ~」と言う父さんの声が聞こえてきた。本当は結構おいしかったんだけどなぁ・・・とか思いながら冷蔵庫を開けた。
中にはいろんな食事が入っている。だが、私はそこには目を向けずに開いたほうを見る。そこにはたくさんの飲み物がある。私は中から牛乳を選ぶと冷蔵庫を閉めた。棚からコップを出して牛乳を注ぎ込む。牛乳はコップの半分の所まで行くと出なくなった。空になってしまったのだろう。
私は牛乳パックをキッチンにおいてコップを持ちながら父さんのいる居間へとやってきた。ソファに座って牛乳を一口飲む。
「はぁ~おいしい。」
私はコップ半分の牛乳を飲んだ後コップをテーブルの上に置いた。そして父さんに問いかける。
「レモンは起きたのかな?」
「あれ?お前と一緒じゃなかったのか?もう朝飯食べていったみたいだぞ?」
父さんは新聞を広げながら言う。私は全く覚えが無かった。ただ、レモンも朝の散歩が好きだったので自分を追いかけたと言うことはたまにある。たぶん行き違いになったのだろうと私は思った。
「30分もしたらかえってくるでしょう。」
「そうだな。」
その後私はコップを片付けて自分の部屋へと戻る。テーブルの上には赤流がおいてあるがどうやらまだ寝ているようだ。クリスタルにも眠ると言う行為があるらしい。
とりあえず私はベットで寝転ぶと漫画を開いた。
2時間ほど経過したときに私は物凄い不安になった。まだレモンが帰ってきていないのだ。携帯に電話をかけても出ないし、向こうから電話やメールが来ることも無いのだ。
私は父さんと相談した。
「う~ん・・・お前がいつも通る散歩コースぞいにいるかもしれないなぁ・・・」
私たちはとりあえず家を出て私の散歩コースを走り始めた。はじめは少し自然な感じから始まって、その後人通りの多い道へと出る。その後また人通りの少ない所へと出るのだ。
最後の折り返し地点裏住宅街を通っているときにその異変に気がついた。何か変なにおいがするのだ。この裏住宅街にはもう住んでいる人はいないと言っても過言ではないほどだ。においに気づく人はまずい無いと思う。
私はそのにおいのする方向へと行ってみた。このにおいは血の臭いだと途中で気がつく。その後走ってソレを確認した。ソレがあったのは裏路地のほうだった。私の目の瞳孔が思いっきり開かれる。完全に口は半開きだった。
私はソレに近づいた。間違いなかった。黄色い髪にツインテール・・・ソレにツインテールを縛るために買ってあげたリボン・・・ソレは間違いなくレモンだった・・・。
「うわああああ!!!」
裏路地に泣き叫ぶ声とも笑い声とも分からない大きな声が響いた。
レモンが手術室に入ってから6時間が経とうとしていた・・・。その間私はずっと手術室近くの椅子に座ってレモンが出てくるのを待った。
私の首にはクリスタルがかけられている。先ほど来た高野に渡されたのだ。もしレモンを襲ったのがティガイスだとしたら私にも来る恐れがある。だそうだ。
私は知らず知らずのうちに爪を噛む。今の私にはレモンを守れなかった後悔や悔しさが入り混じっていた。
やがて数分すると外科医の先生が出てくる。父さんはそれを見ると『レモンは?』と聞き始める。先生は少し渋った顔をして
「手術は成功しました・・・傷が浅かったんです。ただ・・・今夜が峠でしょうね・・・。」
「今夜が・・・。」
父さんは先生の言ったことを復唱するかのようにつぶやいた。私は手術室から別の部屋へと送られるレモンを見た。私はそれを見るだけで心が痛かった。
その後のことはいまいち覚えていなかったが気づいた時にはレモンのそばにいて、レモンの手を握って座っていた。
私はレモンの手を両手で握って祈るような形にした。このときに私が心に決めたことは『もう誰も傷付けさせない』だった。私はティガイスを倒すための指名を受けたのだ。私の腹は決まった。
私は窓の外へと目をやる。外はもう真っ暗だった。手術でかなり時間が経ってしまっていたようだ。それを確認した後にもう一度レモンの方向を見る。その顔は普通に眠っていると言ってもいいほど綺麗だった。
私はその顔をまじまじと見つめていると、物凄い睡魔に襲われるのだ・・・。私はその睡魔に対抗しないでそのまま眠ってしまった。
その世界は物凄く明るかった。でも真っ白と言うにはちょっと無理がある。どちらかと言えば明るい灰色と言うのが妥当だと思う。とにかく私は前へと歩き出す。
この場所では方向の感覚が全く無い。風も吹いていないし太陽なども無い。寒暖は存在しない。まるで自分の感覚が抜けてしまうような思いだった。
私はハっとするとツインテールを触った。そこにはちゃんと黒いリボンがついている。これはお姉ちゃんが私のために買ってくれた大事なリボンなのだ。なくすことがあってはならない。
とりあえずリボンのことは安心したがここで一つ疑問がわく。
「ここ・・・どこ・・・?」
一番もっともな質問だ。だが、ここには私以外誰もいない。もちろん返事が帰ってくるわけが無い。私はもう一度周りを見回す。
一人の女の人がいた。短い綺麗な青い色の髪をした女の人だ。いや、年は自分と同じくらいでなんか・・・友達みたいな感じがした。とにかく私は彼女の所まで歩いていった。
先ほどからこちらを背にしていたが、近づいてくることに気づくとこちらを振り返ってきた。瞳は綺麗な青色でこちらを微笑むように見つめてくる。私はそれを見ると立ち止まった。
それを見た彼女は私のほうに近づいてきた。走ってきたのではなく、飛んできたのだ。
私はそれを見るとなぜか微笑んだ。そして彼女も微笑んだ。
残り後一日
気づいたとき私はレモンのベットの足元で寝ていた。ちょうど小百合と同じ状態になってしまっているわけだ。
とりあえず時計を見ると時刻は既に10時を回っている。寝ていてよく看護婦さんに怒られなかったものだと思う。私はとりあえず立って背伸びをした。
高野親子には今日返事をするといってある。私はもうどうするかを決めていた。とりあえず私は手元にあったパンを食べる。昨日の晩飯にと父さんが買ってきてくれたのだが、食べる前に私が眠ってしまったために食べる人がいなかった。
パンはメロンパンで結構おいしかった。そういえばレモンもメロンパン好きだったなぁ・・・そのわりにレモンが嫌いとか・・・。と私はどうでもいいことを思い出す。
とりあえずパンを食べ終わって、私はレモンの表情を伺う。その顔はかわいかった。ただ黙々と眠り続ける白雪姫か何かかと私は思ってしまう。それは少し美化しすぎか・・・。
とりあえず私は近くにあった自分の上着を着て部屋を後にした。否、しようとした。だが、足が途中で止まってしまう。今夜の峠を越えても何かが起こると思ってしまう。もう会えなくなると考えてしまう。
『きっとまた会えるよ。』
レモンの笑顔と共にその声が聞こえてきたと思った。振り返ってレモンの表情を伺うが先ほどと変わりは無かった。笑ってもいなかったし、しゃべれる状態とも思えない。
ただ・・・先ほどの一言は私に大きな力を与えてくれるようだった。私は迷わずに一歩を踏み出す。そして病院を出るのだった。
私は家へと向かう最中だった。
病院の位置は家から公園を抜けた先の所だった。つまり、公園を抜けるのが家へと変えるもっともな道と言うことになるのだ。
この公園はいろんな曰く付だった。私はここで3度も痛い目を見ている。(アフロ不良とデスデビルドックとブラックキャット)そのほかにも子供たちの間でも噂にされていた。
夜12時にこの公園に来るとお化けが出るだとか、かえるを踏み潰すと体長10mを超える親のかえるに踏み殺されるとか、わけの分からないものも多かった。
私はとりあえず近くにあった赤い自動販売機で飲み物を買うことにした。その時
『妹さん・・・死んだ・・・?』
その一言が聞こえた。私はえっと驚いて後ろを振り向くが誰もいなかった。確かに聞こえたはずだ。まだ幼い少年の声が。
私はとりあえず360°全ての方向を見た。
子供連れの母親二組が目に留まったが、この公園の陰険さを見たとたんに帰ってしまった。
他には後姿になってよく見えないがベンチに帽子を被った人が一人座っていた。そこまで確認すると同時に言葉が聞こえてくる。
『妹さん・・・まだ生きてるよね?・・・傷を浅めにしたんだから死んだら意味無いよね?』
「お前がレモンを傷つけたのか!?」
私は特に誰と言うわけでもないが怒鳴りつけた。向こうからこちらに声が聞こえるならば、こちらから向こうに声が聞こえると思ったからだ。
周りを見回しても不振人物など存在しない。
『僕は人間じゃないよ。簡単に言う』
「ティガイスさ。」
その言葉はすぐ右から聞こえてきた。私は右を向こうとしたが思いっきり蹴られて少しの間目をつぶったために相手の姿が見えなかった。かなりの早さだった。
私が次に目を開けたときに入ってきたのは自動販売機。敵の姿はどこにも無かった。
ふと後ろのほうでチャラという音が聞こえてきた。私は後ろを振り返る。そこにはトイレがあってその屋根の部分にはハンチング帽を被った一人の少年が経っていた。髪は黒で目は金色だった。
その少年の両手には黄色のクリスタルが握られていた。二つとも同じものだ。私は『ダブルタイプ』をはじめてみた。
『解放』
少年のそのそっけないせりふと共に金色にクリスタルが輝く。私は思わず目をつぶってしまった。目を開けたときに少年の手には二つの拳銃があった。両方とも本体に金色のクリスタルがついていた。
「君は・・・!?」
「僕はティガイスさ。ただ、クリスタルに選ばれ、手に入れてしまったために大きな意志が生まれ、僕を作った。僕は人間ではないのだよ。そしてこれが相棒の蓮草。」
『全てを破壊しましょう。』
蓮草と呼ばれたクリスタルがしゃべる。私もクリスタルを解放する。
「いくよ!!赤竜!!!」
『はい!!マスター!!!』
私は赤竜で敵に切りかかる。少年を攻撃するのにためらいなど無かった。妹を傷付けられた仇なのだから。
私の攻撃はあたたった様に見えた。だが、寸前で少年は姿を消した。私の攻撃は空を切る。怒りに任せて思いっきり赤竜を振るったので体制を崩してこけそうになる。
そこで初めて少年が真後ろ2m先にいたことに気がついた。少年は二つの拳銃をこちらに向けて弾丸を放った。赤い弾丸二発がこちらへと突き進んでくる。私は赤竜を横にして弾丸を防いだ。だがその時前は見えなかった。赤竜をどかして敵のほうを向くと敵はどこにもいなかった。
「こっちこっち。」
先ほどのトイレの上から声が聞こえてくる。私はそちらの方を見て唖然とした。少年がこちらに拳銃を向けたままトイレの上に立っていたのだ。先ほどの場所からトイレの上まで10mくらいあった。それにトイレの高さは3メートルくらいあって飛べる分けない。
「君遅すぎ~それとも本気出してないのかな~?」
少年は拳銃を上へと上げた。カチッと言う音と共に拳銃から丸いものが出てきた。少年は片方の拳銃を片方の手に移すと丸いものを二つ片手に乗せた。それをポケットに入れて別の色の丸い玉を取り出した。それをまた拳銃の中へと入れた。
少年は両方の拳銃をこちらに向けてまず右手の弾丸を放つ。ドシャ―という音と共に玉が出てくる。だが、今度の弾丸は先ほどのように丸ではなかった。レーザーやビームのように長細かった。それの速度も倍以上だ。
私はとっさに赤竜を構えて相殺しようとしたが弾丸のほうが早すぎた。私は避けると言う選択肢しか残っていない。とっさに変更したために私は体制を崩した。
そこに左手の拳銃から放たれた第二波が来る。私は避けることも相殺することもできずにただその弾丸を見ていた。その弾丸はギリギリで私の横をかすめると変な角度から地面に当たる。そこは柔らかい土の場所だった。
ドバァンという音と共に土が爆発した。すぐ傍にいた私もその爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。背中をトイレの壁に打ち付ける。一瞬息が止まって痛かった。私はうめき声を上げながら立ち上がろうとした。だが、
「弱いなぁ・・・つまんないよ君・・・。」
少年はすぐ目の前にいた。拳銃は右手だけだったが鼻先数センチと言う所で微動だにしていなかった。私はとっさに撃たれると思ったので目をつぶった。そこに何か変な音・・・シュワンという瞬間移動魔法の音が聞こえた。
恐る恐る目を開けると少年の右手を握った女の人がいた。彼女は少年を見ながらつぶやく。
「作戦は半分成功した。帰るよ。」
「ふ~ん・・・結構早かったんだね姉さん。」
私が呆然としていると少年がこちらを向いて微笑んだ。その笑顔はティガイスだということを忘れさせるとさえ思ってしまった。
「君。次合う時までに強くなっていてね。」
それだけ言うと転移魔法でどこかえと移動してしまった。そこへ一人の少年がやってくる。片腕を抑えていたがそこまで症状が悪そうに見えない。彼はこちらに気がつくと近寄ってきて大丈夫と声をかけてきた。
「ええ・・・私は大丈夫だけれども、あいつらはいったい何なの・・・?」
その問いかけに彼・・・高野は重く口を開いた。
「クリスタルを持ったティガイスが現れたんだ・・・二人ともたぶん危険度はトリプルAを超えるだろう。」
最後にその場に残ったのは唖然とする私と少し落ち込んだ高野だけだった。
沈黙だけが―過ぎていった―――




