7. 火は消えず
「と言うわけで僕は彼とともにではないと騎士にはなれません。」
髭を弄りながら考え込むピエトロ、額に手を当てながら前傾になる父、いつも通り無言、無表情を貫くマルティナ、予想外かのように目を見開く司祭、驚愕の表情を表すダニロ親子が自分の目の前にいた。
「貴方、どう言うことですか」
静かな怒りに満ちた声が聞こえた。母だ。母は優しい。何時だって自分の親身な味方でいてくれた。この反応を見て彼女は自分が騎士になることが決められていたことを知らなかったのだろう。
「ま、待ってくれ。少し話をだね。マリー」
「私はどれだけ待たされましたか。その上、貴方自身の口からついぞ聞けませんでしたよ」
怒り心頭なのがよく伝わってきた。困惑から怒りへ空気が塗り変わりつつある。
「奥方、御待ち下され。彼が話せなかったのは我々との」
「待てもなにもありません。どちらが言い出したにせよ夫が承諾し、私に隠していた事実に変わりはありません」
父は額に当てていた手を少し下にずらしていた。
「すまない。」
ただ一言の謝罪のみ、それ以上の何かはなかった。
「そんな、ただ謝ってすむ――」
「マリーさん、貴女の気持ちもわかります。ですが、お二人の喧嘩は家に帰ってからいいですね。ここは彼の話の場です。今聞くべき、話すべきは彼の言葉と彼らのこれからのことでは」
司祭の言葉で母は少し落ち着きを取り戻したようだった。流石は年長者にして、人をまとめられる人物だ。
「ありがとうございます。それでどうなんでしょうかピエトロ様」
「うむ、難しいことを簡単には言うものですな」
「難しいと言うことは無理ではないと言うことですか」
「そうですな。彼を獣騎士にする上で渋る理由は二つ。一つは単純であり、魔物にたいして十分な戦いができる見込みがあるところまで我々が育て上げられるか未知数なこと。二つ目はかの女神の祝福、それ即ちその力は我々の敵である魔物の力と同質であり、何が起きるか分からぬと言うことですな。故に我輩たち騎士団はその祝福を持つものたちの入団を拒み、逆に最重要な監視対象として視てきたのだ」
中々壁は高そうに思える。ダニロは今、危険人物と考えられていると言われたのだ。
どうにかするには素直に話すしかないそう思って必要な人を集め、話してみた。結果、予想より根本的な部分で駄目そうなことがわかる。
気になり、ダニロをちらりと見遣る。流石に彼の顔にも曇りが見える。
「どうしても無理なんでしょうか」
「我輩に案はありますが・・・」
と彼が父へと目線を向ける。
「貴方の技術でもって戦えることを証明し、その命の全権を我輩に託すのであればどうにかといったところですかな、元英雄殿」
それでも父の手は顔の前で全てを遮っていた。これが彼の最大の譲歩らしい。
「父さん、どう言うこと」
「後で話す」
「承諾ですかな」
「まだ考えさせてくれ」
父は何かを決めかねているようだった。こちらがそれぞれ話を勝手している中。
「待っておくれ。勝手に話を進めて、勝手にあれこれ決めないでおくれよ。わたしたちのことなんだろ。何で私にも、夫にも、この子にも話を聞かないんだい」
何かを堪えられなくなったダニロの母が割って入る。まったく持ってその通りだろう。あれやこれやが寝耳に水、勝手に進められて勝手に決まりそうになっている。普通なら怒る。怒って当然だ。しかし、ダニロはどうか。彼の曇りはまだ晴れない。それでも確かな光が戻っていた。その父ブルーノはどうか彼に驚きの表情は既になくただ息子の肩をしっかりと掴み、ただその後ろに立っていた。
「アレックスさん、お願いします」
ダニロは父アレックスをじっと見つめる。この男は逃さない。どんな状況だろうと自分の夢を。ああ、やってよかった。間違いではなかった。彼はこんなことでは傷つかない。彼はこんなことでは折れない。だから眩しい。僕の友達は眩しいのだ。




