6. 決意
「俺は獣騎士になれるんだ」
彼は額に脂汗をにじませながら目を輝かせていた。
悩むことを一度よそにおいていそいそと片付けを始めていた司祭がその子簿に反応する。
「そのことだが・・・ダニロ。君は獣騎士になれないかもしれない」
「どうしてだよ。神様からも許しをもらえたんだぜ」
少し考えるように眉間を押さえながら司祭は還す。
「それが、君に祝福を下さった神様の祝福を持った騎士はここ数百年記録にないそうだ。と言うよりも、騎士団が意図的に省いているらしい」
聞いていた。ダニロは受け入れるのだろうか。それとも・・・。彼にとって幼い頃からの憧れ、長い間抱き続けてきた夢を彼は・・・
「それでも不可能ではないんだろう」
その瞳は輝いてみえた。
「なら俺は挑戦するよ。難しいのはあきらめる理由にはならないだろう」
知っていた。こいつはこんな奴だ。
「それに嬉しいことに相棒もいっしょに行けそうだからな」
俺も決めたよ。
「ダニロ。とりあえず今日は一旦宿舎に戻って休もう」
「・・・アレッシオ。分かった。あんがとよ」
「司祭、後ほどお話があります」
「わかったよ。では、気を付けて」
「なあ、ダニロ。お前ダメだったらどうするつもりなんだ」
「そん時はそん時だ。でも、お前、俺がダメだったからって俺に合わせんなよ」
「わかったよ。じゃ、またな」
彼の部屋を後にし、片付け中の司祭のもとへ向かう。彼は床にぶちまけられた依代を一生懸命かき集めていた。
「手伝います」
「ありがとう」
自分たちが座っていた椅子を足元を布巾で拭き上げ部屋の隅へと戻す。
「その泥はどうするんですか」
彼は裏手の林を指さし、
「いつもは焼き上げてからあちらの林に撒いているよ。神様が宿った後の土は程よく浄化されているのでね。木々を肥やしてくれるのだよ」
その後も黙々と片づけを続けていく。教会内はいまだに香の独特な香りが漂っている。そのおかげもあってかそれなりにきついであろう泥の臭いが抑えられている。ついでに部屋全体の掃除まで行っていく。もともと清掃が行き届いていた室内であったが、香りの影響でいつも以上に神聖さが上がったように感じる。その状態に至るまでに自分自身が手助けになったことを考えると少しうれしく思える。
「でだね、アレッシオ。何のお話だい」
片付け、掃除が落ち着き、教会内の小部屋で休憩し始めたところだった。
「司祭は知っていたんですか、自分が獣騎士になることが決められていたことを」
「ああ、知っていたとも。何せその契約の立ち合いをしたのは私だからね」
「では改めて、僕も獣騎士になろうかと思います」
「そうかい。・・・でも、それだけではないのだろう」
「はい、無理やりにでも条件を付けさせていただきたいのです。」
「まあ、これに関しては君にとってかなり不平等な内容だ。多少のことなら何とでもなるだろうけれど。何をするつもりだい」
「ダニロを騎士にしていただけるように助力していただきたいのです」
今日までの数日間、大したことはしていなかった。少し調べもの(司祭へのききこみ)をしていたのみだ。彼に祝福を与えた神についてを。
「もとはかなり部の悪い賭けでしたが、僕に祝福をくれた神様がわかった今は少しマシになったかと思います」
「少しはね。話してはみるよ。今はあちらも1人でも多く手が欲しいだろう。もしかしたらがあるかもしれないからね」
「ありがとうございます」
想定よりも長い時間を教会で過ごしてしまった。冬は日が落ち始めるのが早い。
外に出た時には既に空は紺色に染まり始めていた。世界には神様がたくさんいる。空に、天気に、大地に、川に、海に。神様ごとにその性質は異なる。そのなかで相反する性質を示す者同士がいたりする。飢餓と豊穣はその一例らしい。
ダニロが獣騎士になれるように誘導するには何かできることはあるだろうか。




