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獣は慙愧に吠える  作者: 蛇丸


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4. 道を進む

あの出来事から一晩明け、一人で釣りをしていた。空は少し曇り気味であるが稀に太陽が雲の間から顔を出す。結局父が自分に伝えようとしていたことはまだ教えてもらっていない。父が

「・・・洗礼の後のことだが。明日にしよう。今日はいろいろ驚いただろうし、お前にも落ち着いてから聞いてほしいからな」

と後回しにしたためだ。

とは言ってもだ。結局昨日のダニロの姿が頭から離れない。それだけではない。あれから体全体が熱を持ったような感覚がある。麦酒を飲んだ際のあの感覚に似ている。普段はいろいろと話しかけてくるダニロもいないため余計に気になる。

そんなこんなで一人さみしく釣りをしていたところ、

「アレッシオ」

父の声が後ろからかかる。

「昨日話そうとしていたこと?」

首肯で返答がくる。

「こっちへ来てくれ」

父はそう言って川向こうの森へと足を向ける。基本的に子供たちは森へと入ることはない。洗礼を終えた大人が狩りや採集を行う。浅いところなら大人同伴で向かうことはあるが奥まではいかない。父の背と腰には普段彼がつけているところ見たことがないものが身に着けられている。

剣と槍。


父は黙って森の奥へとずんずんと進んでいく。道は細く暗い。ところどころ木に目印のようなものはあれど、目立つようものではない。そんな道をしばらく進んでいく。四半刻進んだところだろうか、小屋があった。薄暗い中にひっそりと人一人が短期間生活できる程度の大きさであり、おそらく狩猟に際して使われているものだろう。

「目的地はここだ」

道中こちらの安否を確認する程度だった父は口を開いた。

「中で彼らが待っている」

そう言われ小屋の中へと入る

「お待ちしておりました。お二方」

先に小屋の中で待っていた人物がこちらへと向き直る。

そこにいたのはあの二人の獣騎士であった。


部屋の中で彼らと向き合う形で椅子へと座る。

「此度はご子息の無事な御成長おめでとうございます。」

「周囲の助けもあり何とか。妻にも、村の皆にも世話になりっぱなしですよ」

そうして大人同士の挨拶を含めた世間話が始まる。どうやら父は以前から彼らと親交があったようだ。この村に来る前の何かだろうか。基本的に話しているのはピエトロと名乗っていた壮年の男性だ。その横の若い女性マルティナは時々話を振られたときに簡単な返答をするのみだ。

「すまないな。アレッシオ君、我々ばかり話して・・・ここに来た理由は聞いているのかい」

「いいえ、何も聞いてません」

隣の父を見やると少し俯き気味の姿勢になっていた。やはり何か後ろめたいことがあるのだろうか。

「そうか。・・・もしも、君が獣騎士になれるとしたら、どうするかね」

自分が獣騎士になれる。可能性はあったでもなりたいと思ったことはなかった。ただあいつとともになるかも、程度のことは考えたことはあったかもしれない。

「えっと、ダニロは今・・・どうなんですか」

「彼は難しいかもしれんな。不可能ではないのだ、不可能では。ただ・・・」

「彼は少々気性の難しい神に愛されているようでな」

父が口をひらく。

「アレ、教会で勉強したことは覚えているかい。神様の話だ」

ところどころ朧気ではあるがなんとなく頷く。

「そうか。おそらくダニロは山の神に好かれている。」

山の神、恐ろしい神の一人だったはずだ。飢えと燃えるような怒りを示す山そのものが神様だとされるもの。そして、自分たちの土地に現れる魔物の多くはその神様の眷属だとされている。

「山の神に好かれるものは少ない。今後どうなるかはあの子次第もそうだが、騎士団のほうが受け入れるかどうかといったところだろう。」

「そうですな。前例がないこともないですが・・・まぁこちらとしても彼を正しく導けるものがおりませんからなぁ」

ピエトロは考えるようにして口ひげをいじる。

「・・・この質問をしてくるってことはさ。」

「うむ。それもそうなのだが・・・」

ひげをいじる手を止め、ちらりと父を見たのちに彼は姿勢を正した。

「アレッシオ君、君が我々の元に来ること、獣騎士になるであろうことは君の生まれたその時には決まっていた」

父は黙っている。

「我々は君の父上と約定を交わしている。彼をこの土地に匿い、関与しない代わりに子に素養があるのであれば獣騎士に召し上げると。そして君にはその素養が見えた。故に君は成人をもって我らとともに来ることとなる。春だ。我々が城へと戻る春、君たちはこの村を去ることになる。それまでに悔いのないようにしなさい」


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