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伝承怪異譚  作者: 夜渡
始まりと蜘蛛と探偵と
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逃走

 音楽が村中に響き渡ること数分、月の光に晒され徐々にその姿が露わになる。


 改めてみるその姿は醜悪なものには変わりないが、月の光に当てられた白き体毛は神の如き神々しさを感じられる。


 その姿に気圧されながらも、覚悟を決め言葉を発する。


「かかって来いよ、蜘蛛女。」


 その一言を引き金に命を賭けた鬼ごっこが始まった。


 まずは、全力で後ろに逃げる。化け物がその後ろを追ってくるのでその速度を見極める。俺よりは早いようだが、すぐに追いつくほどではなく障害物を使えばどうにか撒けそうな早さだった。


 次にそこらにあるうちの一つの家に入る。あの蜘蛛の体格ならば引っかかるはずだがお構いなしに扉を突き破って入ってくる。それならばと俺は箪笥や鏡などを倒し、床にばら撒くこうすればある程度は足を取られるはずだ。

 少しもったいない気がするが扉を突き破られ扉の破片が散らばっている時点でもうこの家は使えないため最大限活用することにしよう。


 そして、ある程度ばら撒いたら、窓を越えまた別の家に移る。これを繰り返し時間を稼ぐ。二~三軒ほど繰り返し家具を床にばら撒く瞬間、違和感に気づく蜘蛛がいない居間から玄関までは一直線で扉も閉めていないため化け物の姿が見えるはずだが、その瞬間上からあの化け物が降ってくる。


「...やられた!あいつこっちを逃がさないために上に登りやがった!」


 確かに上ならば窓から逃げようが入り口に戻って逃げようがどちらも見える位置にある。それに出てこないならばその体格と体重を生かして天井を突き破る方法もとれる。


 俺はそのことにまんまと嵌まったわけだ。何より一番厄介なのはあの化け物に考える頭があるということだ。俺の嫌なことを相手が考えて実践してくる。


 これ以上に厄介なことはない。それに相手は蜘蛛の力も持っているそれが示すことといえば相手は俺より格上だということだ。

 そのことに絶望感を覚えながら目の前にいる化け物の女の部分を手に持った鏡で殴る。鏡が割れ、女の顔に鏡の破片が飛び散り血が噴き出すが信じられないことに傷がついた場所が逆再生でもするように治っていく。殺すことができないと悟る。俺はこの時相手は本当の怪物だと思い知る。


 心のどこかでは生き物と同じように死ぬのではないかと思っていたがこの光景を見た瞬間相手はこの世のものではないと悟った。


 だが、一つ光明が見えた。先ほどあの化け物を殴打したときすぐさま反撃に移ってこないことから衝撃を与えれば怯ませることできることが分かった。そのことを頭に置き窓から逃げ出す。


 逃走を始めて十五分連絡はまだ来ない。

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