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短編連載『仮面の記録者』  作者: 赤虎鉄馬
8/12

第7話「記録の境界」



 


> 「対応選択肢を提示します」


[1]自己記録の削除

[2]観測者に上書き

[3]全記録のリセット




 


俺の指が震える。

どれを選んでも、元には戻らない――そんな予感がした。


香緒の声が、頭の中でこだまする。


「思い出して……“自分”を。でないと、私たち、全て消える」


 



俺は、選択肢の外――**「記録の外側」**を探した。


RE:CODERの裏メニューに潜り込み、あるコードを入力する。


> 「認証コード:K-A-O//77X」

「裏記録管理領域にアクセス中……」

「観測境界を突破します」




空間が揺れた。


部屋が反転し、壁に貼られていた“顔写真”が焼け落ちる。

その奥に、巨大な鏡のような扉が現れた。

扉には文字が刻まれている。


境界リミットを越えた者よ、記録に溺れるな』


 



俺は扉を開いた。


そこにいたのは――香緒だった。

だが、彼女の顔は静かに崩れていく最中だった。

笑顔のまま、誰かの“仮面”に浸食されていた。


「……ハルキくん?」


彼女の声が、確かにそこにあった。


「やっと来てくれたんだね……でも、もう遅いかもしれない……」


 



鏡のような境界の中には、無数の“記録の残骸”が浮遊していた。

「過去に消された顔」「上書きされた人格」「名もなき観測者たち」

香緒も、俺も、その一部になろうとしていた。


俺はスマホを構え、記録ツールRE:CODERを初期化操作にかける。


> 「強制記録書き換え開始」

「観測対象:香緒」

「記録統合コードを挿入してください」




そのとき、画面にひとつの記録断片が浮かんだ。


> 「初対面:香緒と出会った日」

「記録者:ハルキ(元)」

「※この記録のみ、改ざんされていない」




唯一、改変されていない“始まりの記録”――。


俺はそれを選んだ。


 



記録が反転した。


香緒の輪郭が、徐々に戻っていく。

だが、俺の身体は逆に薄れていく。

“記録”が彼女を救う代わりに、“俺”を喰らっていく。


香緒が泣いていた。

「だめ……そんなことしたら……君の顔が……君が――」


「いいよ、俺の記録で君が戻るなら……俺は、観測者になればいい」


最後の瞬間、彼女の顔が笑った。


「ありがとう、ハルキくん」


光に包まれる――


 



次の瞬間。


目が覚めた俺は、病院のベッドにいた。


看護師が言った。


「目が覚めたのね……香緒さん」


……え?


鏡を見る。そこに映るのは――香緒の顔だった。


 


(第7話・了)








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