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短編連載『仮面の記録者』  作者: 赤虎鉄馬
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第5話「記録を覗く者」



 


目を閉じたはずの視界に、別の風景が滲み始めた。


  ざらついた黒い画面に、ノイズ混じりの映像が浮かぶ。


「――香緒、……その顔は……誰の?」


自分の声。だが、あれは昨日ではない。否、それよりもっと前?

いや、**“もっと誰かの記憶”**だ――。


 



 


朝。

また“顔”が違っていた。


洗面台に映る自分。確かに昨日の“俺”とは輪郭が違う。

鼻筋、まぶた、唇。違和感。なのに、自分だと認識してしまうこの感覚。


身体が、脳が、記録の更新を受け入れはじめている。


RE:CODERが通知を吐く。


> 「記録ファイル No.23:カオの記憶(断片)を同期しました。」

※過去24時間の感情ログを取得

※視覚ログ同期:ON

※同一人格判定:未確認




「ふざけんな……」


その瞬間、耳の奥で“誰かの声”が囁く。


> 「覗くな、これは私の記録だ」




声が……香緒の声だった。


 



大学の構内。香緒に再び会った。


今日の彼女は笑っていた。あの微笑み。

けれど、その顔は――昨日のものではない。少しずつ、ずれている。


「ねえ、ハルキくん、最近……変な夢、見たりしない?」


唐突に彼女がそう言った。まるで何かを探るように。


「夢……?」


「あのね、私……私、自分が何者か分からない気がするの。時々、自分の顔が他人のものみたいに感じて……」


彼女の瞳に、怯えが浮かんでいた。作られた不安じゃない。“経験者の目”だ。


「香緒……お前、何を――」


「ねえ、ハルキくん……私、あなたと“いつ”付き合ったんだっけ?」


時間が凍った。


分かっていた。言えなかった。その記録は、どこにもない。


彼女は笑った。


「――やっぱり。“私たち”の記録は、誰かに書かれたものなのね」


 



夜。

香緒がいなくなった。


スマホに再び通知が届く。


> 【RE:CODERより重要通知】

「記録対象:カオ」

ステータス:破損中

記憶ログ:回収不能

理由:観測者による“消去操作”の痕跡あり




「観測者……?」


背後で、何かが軋む音がした。

振り返ると、そこに“人の形”をしたモノが立っていた。


顔がない。


のっぺらの“仮面のない”それは、俺を見つめていた。


そして、スマホが震える。


> 「次の記録対象:ハルキ」

「記録開始まで、00:10」




カウントダウンが始まった。


――俺の顔が、次に奪われる。


 


(第5話了)






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