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短編連載『仮面の記録者』  作者: 赤虎鉄馬
2/12

第2話 再会と仮面



香緒からのメッセージを見て、すぐに返信をした。


> 「……話したいことが、俺にもある」




待ち合わせ場所は、以前ふたりでよく通っていた喫茶店。

名前は「ノマド」。外観は古いのに、内装は妙に洒落ていて、香緒のお気に入りだった。


時間通りに店に入ったが、彼女の姿はなかった。

先に来ていたはずなのに、見回してもそれらしき女性はいない。


――いや、ひとり、こっちを見ている女がいた。


長い黒髪。くっきりした目元。

でも、俺の知る香緒とは、まるで別人。


「……ハルキ、だよね?」


その声が――間違いなく、彼女だった。


「……香緒、なのか?」


頷いた彼女は、目を伏せて言った。


「ごめん、わかりにくいよね……でも、ハルキなら……もしかして、って思って」


彼女もまた、“顔”が変わっていた。

いや、もしかすると、彼女の“今の顔”が、彼女にとっての“本来”なのかもしれない。


だが俺は、その瞳の奥に、変わらないものを見た。

笑うときの目尻、怒るときに震える鼻先、そして――罪悪感を宿した沈黙。


彼女の両手が、膝の上で強く握られていた。


「ハルキ、あのね……本当は、ずっと前に言いたかったことがあるの」


「……何だよ」


「私も……顔が変わったことがあるの。ハルキと同じ。

3ヶ月前の朝、目覚めたら、全然知らない顔になってた」


俺は言葉を失った。

まさか、同じ経験をしていたなんて。


「怖くて、誰にも言えなかった。

病院に行っても、“ストレスによる自己認識の歪み”って言われて……

でも、違うの。私の顔は、確かに変わったの。なのに……記録が、何も残ってないの」


香緒の目が潤んでいた。

それを見たとき、俺の中の確信が膨らんだ。


これは偶然じゃない。


俺たちは、何かに“上書き”されたんだ。


そのとき、香緒のスマホが震えた。


画面には、インストールした覚えのないアプリの通知。


> 《RE:CODERレコーダー》:再起動しました。




彼女の顔色が、青ざめた。


「これ……また出た……。

消したはずなのに。何度も、何度も……勝手に戻ってくるの……」


画面には、数字のカウントダウンが表示されていた。


「記録、開始まで――04:59」


胸の奥が、ぞわりと冷えた。


俺たちは、もう――誰かに“記録されている”。



---


(つづく)




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