第2話 再会と仮面
香緒からのメッセージを見て、すぐに返信をした。
> 「……話したいことが、俺にもある」
待ち合わせ場所は、以前ふたりでよく通っていた喫茶店。
名前は「ノマド」。外観は古いのに、内装は妙に洒落ていて、香緒のお気に入りだった。
時間通りに店に入ったが、彼女の姿はなかった。
先に来ていたはずなのに、見回してもそれらしき女性はいない。
――いや、ひとり、こっちを見ている女がいた。
長い黒髪。くっきりした目元。
でも、俺の知る香緒とは、まるで別人。
「……ハルキ、だよね?」
その声が――間違いなく、彼女だった。
「……香緒、なのか?」
頷いた彼女は、目を伏せて言った。
「ごめん、わかりにくいよね……でも、ハルキなら……もしかして、って思って」
彼女もまた、“顔”が変わっていた。
いや、もしかすると、彼女の“今の顔”が、彼女にとっての“本来”なのかもしれない。
だが俺は、その瞳の奥に、変わらないものを見た。
笑うときの目尻、怒るときに震える鼻先、そして――罪悪感を宿した沈黙。
彼女の両手が、膝の上で強く握られていた。
「ハルキ、あのね……本当は、ずっと前に言いたかったことがあるの」
「……何だよ」
「私も……顔が変わったことがあるの。ハルキと同じ。
3ヶ月前の朝、目覚めたら、全然知らない顔になってた」
俺は言葉を失った。
まさか、同じ経験をしていたなんて。
「怖くて、誰にも言えなかった。
病院に行っても、“ストレスによる自己認識の歪み”って言われて……
でも、違うの。私の顔は、確かに変わったの。なのに……記録が、何も残ってないの」
香緒の目が潤んでいた。
それを見たとき、俺の中の確信が膨らんだ。
これは偶然じゃない。
俺たちは、何かに“上書き”されたんだ。
そのとき、香緒のスマホが震えた。
画面には、インストールした覚えのないアプリの通知。
> 《RE:CODER》:再起動しました。
彼女の顔色が、青ざめた。
「これ……また出た……。
消したはずなのに。何度も、何度も……勝手に戻ってくるの……」
画面には、数字のカウントダウンが表示されていた。
「記録、開始まで――04:59」
胸の奥が、ぞわりと冷えた。
俺たちは、もう――誰かに“記録されている”。
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(つづく)




