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短編連載『仮面の記録者』  作者: 赤虎鉄馬
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第10話「名前を取り戻す」




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『仮面の記録者』 第10話「名前を取り戻す」


 


すべてが終わったはずだった。


だが――

世界はまだ、不完全だった。


記録空間は再構築され、俺は俺として存在し、香緒もまた香緒としてそこにいた。

けれど、“何か”が欠けている。


RE:CODERは最後のログを表示する。


> 「最終記録未保存」

「あなたの“名前”がまだ確定していません」

「記録の安定には、“名前”の認証が必要です」




 



名前とは何だ。

ただの記号か? 他人に識別されるためのラベルか?


――いや、違う。


香緒は言った。


「“名前”は、心を繋ぐ言葉よ」


彼女は手帳を開き、古びたメモを見せてくれた。

小さな字でこう記されていた。


> 『あの子の名前を忘れないように、ここに書いておく。』

『あの子が、たとえ記録から消えてしまっても――』

『名前だけは、ここにある』




香緒が長い間、誰にも言えずに持っていたメモ。

そこには、かつて失われた“兄”の名前が書かれていた。


彼女がずっと記録から消されるのを恐れていた相手。

そして――彼女自身もまた、“記録の不安定者”だった。


 



RE:CODERの最深部で、俺たちは最後の選択を迫られる。


> 「記録安定化のため、どちらかの“名前”を捨てる必要があります」

「融合するなら、どちらかが“観測者”となり、記録から外れます」

「あなたは選びますか? それとも――記録を“壊しますか”?」




俺は言った。


「壊さない。書き直すでもない。“共に生きる記録”を作る。」


香緒がうなずく。


二人で、RE:CODERの記録編集領域に入る。


俺は自分の名前を書く。

「ハルキ」

彼女も、自分の名前を書く。

「香緒」


その瞬間、記録空間に“重なり”が生じる。


過去の記録、未来の予測、壊れた観測履歴――すべてが一本の時間軸へと束ねられていく。


> 「記録統合完了」

「二人の存在が確定しました」

「新たな物語が始まります」




 



あれからどれだけ時間が経ったのだろう。


俺はまた、大学の教室に戻り、ノートに文字を綴っている。

隣には香緒がいて、いつものように俺の文字を覗き込んでいる。


そこには、こう書かれていた。


『これは、記録にすら残らない小さな物語。

 でも、たしかにここに在ったという証明。

 名前がある限り――僕たちは、誰でもなかった者ではない。』


 


香緒が笑う。


「ちゃんと、書けたじゃない。あなたの名前で」


 


(最終話・了)



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✦『仮面の記録者レコーダー』完結 ✦



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