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短編連載『仮面の記録者』  作者: 赤虎鉄馬
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第9話「記録の終点」



 


俺の“かつての顔”を持つ影が、こちらに歩み寄ってくる。


病室の空気が歪み、照明がノイズのように瞬いた。

RE:CODERの画面が赤く染まる。


> 「記録同一性の崩壊を検知」

「記録者Aと観測者Bが衝突しています」

「このまま進行すると、記録空間は崩壊します」




影は、俺の声で言った。


「香緒を守るって言っただろ?なら、なぜ俺を消した?」

「お前が“香緒になった”瞬間、俺は“記録の端”に追いやられたんだよ」


俺は言い返す。


「俺は……守りたかっただけだ。香緒も、俺自身も」


「――だったら証明しろよ」


影が手を伸ばしてくる。

その掌の中には、**“RE:CODERの鍵”**があった。

記録空間の最深部、《終点》へ進むための唯一のキー。


 



俺たちは、“最後の記録”をめぐって争った。


殴り合いでも、言葉の応酬でもない。

記録同士のぶつかり合い。


互いの記憶を、人格を、観測情報を上書きし合うデジタルの決闘。


RE:CODERの画面が暴走し、現実の景色が次々と書き換えられる。


――教室

――夏の坂道

――香緒の笑った顔

――真夜中の公園

――「はじめまして、ハルキくん」


それらすべてが、過去の**“誰かの記録”**として巻き戻っていく。


 



「俺は、お前の“書きかけの物語”だったのか?」


影が問いかける。


俺は答えた。


「違う。俺たちは、互いの続きを生きていた。」


香緒の記憶が、俺を支えていた。


香緒の涙、笑い、嘘、すべてが“俺という存在”を作っていた。

そして今、俺が香緒を守ることで、彼女の記録もまた救われる。


> 「記録融合条件達成」

「選択してください」

 [1]自我の統合

 [2]記録の削除

 [3]記録の書き直し(作者:あなた)




俺は、迷わず――[3]記録の書き直しを選んだ。


 



終点。


白紙の空間に、一本のペンが落ちている。


「書け」ということだ。

“誰かの物語”ではなく、“自分の記録”を。


俺はペンを握りしめ、書き始める。


『これは、俺と香緒の、二人で記した物語だ。』


文字が浮かぶたびに、記録空間が再構築されていく。


世界が戻る。

現実が戻る。

香緒が、俺の名を呼ぶ――


 


「……ハルキくん」


その声で、目が覚めた。


ベッドの上。顔を覗き込む彼女の瞳。

そして俺は、自分の顔に触れて――笑った。


 


(第9話・了)



---


次回、最終話 第10話「名前を取り戻す」

すべての記録が統合され、ハルキと香緒が“名前”を取り戻す瞬間が描かれます。

そしてRE:CODERが生まれた本当の訳は。



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