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深窓のご霊嬢!?〜心霊スポットで幽霊より厄介なモノを拾いました〜  作者: 暁月


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7/9

接近 1

 マーカスこと、リンと命名された彼の予想を裏切って上機嫌で馬車に揺れること小一時間。止まった瞬間、フェリアは扉が開く前に馬車から降り、目の前に広がる光景に大興奮した。

「美味しそうな物がいっぱい!!」

 降りた瞬間に鼻腔を刺激する匂いにたまらず鼻から胸に大きく息を吸い、匂いを堪能する。そして駆け出そうとするフェリアの腕を1人の青年が掴んだ。

「いけません!お嬢様!!」

「……ダン?」

 フェリアは少しだけムッとした表情で自分の腕を掴むダンを見上げた。ダンと呼ばれた青年は先程、執事の爺から預かっておいたチラシを懐から取り出しフェリアの顔に突きつける。

「何よ、これはさっき見たわ」

 そう、ダンの持つそのチラシはさっき爺がフェリアに見せたものだ。そのチラシには大きな文字で『大食い大会』と書かれている。しかも『果物限定』だ。優勝賞品はもちろん果物盛り合わせ。大の果物好きのフェリアは厨房にていつものフルーツ盛り合わせを頼もうとしたのだが、食材が足りず断念。その代わりにと爺の差し出したチラシを見て現在(いま)に至るのだが。

「下です。下」

「下?下が何だって言うのよ……ん?参加費10,000ゴールド?」

 そのチラシの下には応募要項が書かれていた。その内容は簡単だ、今回の大食い大会は『果物限定』・『未婚女性限定』・『飛び込み参加歓迎』参加費10,000ゴールド。

 至って問題のない文面に見えるが何か問題でも?

「あっ!!参加費?大丈夫よちゃんと持って来ているから!あら?もうこんな時間?参加受付が終わると困るから行って来るわね」

 肩にかけた鞄からチラリと自前の財布を出しドヤ顔で言うフェリア。気になるのはそこでは無かったのだけど、ダンは大きなため息を吐き懐にチラシを入れた後、走っていくフェリアを追いかけた。

「あっ、ちょっと!お待ち下さいお嬢様〜」




 数時間後。

 フェリアは大満足な顔で優勝賞品である大量の果物を馬車に積んでいた。なんなら馬車の上にも乗せて帰りたい所だが、それは却下され代わりに荷車を一台借りる事になった。先程参加した『大食い大会』は見ての通りフェリアの圧倒的勝利で幕を閉じた。大食い大会なだけあって参加者はそれなりに良く食べそうな女性達、その中に1人ヒョロヒョロとしたフェリアが飛び入り参加した型となったが、序盤の冷やかしの様な声援はいつの間にか恐ろしい物でも見るかの様な悲鳴が聞こえた気がするがたらふく好きな物を食べていたフェリアの耳には聞こえなかった。

 それに、こんな大会がある時は大体どこかで賭けをやっているもので、観客席から見ていたダンは大穴のフェリア一択全賭けで現在の懐事情は随分と潤っているのか、機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら馬車に乗り切らない分を後程屋敷に届けてもらう様に手配したダンは、いつの間にか人相の悪そうな男達に囲まれていた。

「おう!兄ちゃん。さっき優勝した嬢ちゃんと知り合いなんか?」

「俺たち、さっきの大負けで懐が寂しくてよ〜少し貸してくんね〜か?まぁ、いつ返せるかは分かんねぇけどな」

 ゴロつき特有の下品な笑いで男達はダンを人気のない路地裏まで連れて行こうとする、が。

「……ハァ、ありきたり過ぎて反吐が出る」

 ぼそりと呟いたダンの言葉に反応したのはもちろん男達だ。

「おう!兄ちゃん今何っか言ったかー?俺様の耳が今が調子悪いみたいでさ〜今」

 男が良く聞こえない、とジェスチャーの様な動きでダンに耳を向けるがその耳は『ブチリ』とした音と共にその場に落ちた。

「……耳?」

 男は目の前に落ちている耳を拾いあげる。

「何か、この耳。今落ちて来たような……」

「おい、お前……お前の耳…」

 別の男が真っ青な顔で自分を見ていた。何かに驚いた様に目を見開き自分の顔、特に耳の辺りを指している。

「ん?どうした?こっちに何かあるのか?」

 そう言えば、先程から左側が何か冷たい何かがポタポタと肩に当たる。一体何かと手で払うがその感触は滑っていた。男はその手に付いた物を見て理解した。そして絡んだ相手を見てゾッとした。

「ゴミはゴミ箱に」

 そう笑ったダンの笑顔を男達はきっと忘れないだろう。


 ダンが急いで馬車に戻るとフェリアが馬車の周りをウロウロとしているのが見えた。

「お待たせしましたお嬢様〜」

「遅いわ!一体何してたのよ」

「すみません、途中ゴミが溜まっていたので掃除してました」

「……掃除?まぁ、良いわ。私はこれから少し街を見てくるからダンはこの果物の乗った馬車の見張りをお願いね」

 フェリアはそう言うと連れてきていたメイドの1人と街の方へと歩き出しはじめる。けど、何かを思い出したのか見送るダンの方に振り返り。

「ダン、襟元に血が付いているわ。掃除するのは良い事だけれど程々にね」

 屋敷で着ているいつもと違う街娘風の可愛らしいワンピースを翻し、今度は振り返らずに歩いていった。

「………心得ておきます」

 ダンは御者席に横になりながらフェリアが帰って来るまで寝る事にした。

 馬車は……まぁ、果物だけだし大丈夫でしょ。丁度良い太陽の温かさで、ダンはすぐに眠りに落ちる。


「お嬢様、お嬢様、フェリアお嬢様」

 メイドが真剣な目をしたフェリアに話かける。

「ん?何かしら?今ちょっと良いところなのだけど」

「良いところなのは申し訳ありませんが、こちらも準備が出来ているそうですのでお支払いの代金をと待っていますよ」

 フェリアは新聞から視線をあげ、メイドの後ろでニコニコと営業スマイルを浮かべる店員を見た。

「そう、ありがとう。どんな物があるのか私も拝見して良いかしら?」

 読みかけの新聞をテーブルに置き、店員の背後に積まれた箱の中を覗きこみその中の1つを手に取った。

「これは何かしら?」

 フェリアが手にしたのは同じ長さの木の棒が組まれた何か。同じ型の指の長さくらいの棒が3つずつ並び、交互に組まれ縦長に伸びている。透明なラップに包まれたそれをフェリアはグルグルと回して見ていた。

「そちらは『ジェンガ』と言う木を順番に抜いていき、最後に崩してしまった方が負けとなる遊びです」

 木を順番に抜いていく?手元のジェンガとやらを見れば3つずつ並んだ棒は指で突けばぬけそうだ。

「ではこれは?何やら色々と入っているようだが」

 次に取り出したのは『人生ゲーム』と言うボードゲーム。結婚、出産、転職等が楽しめて更に借金地獄やらも経験出来るゲームらしい。

「う、う〜む。これを考えた者は凄いな。遊びながら人生の辛酸さを子供に教えこもうとは……制作者に一体何があったのだろう?」

 フェリアは唸りながらも次々と箱に入った子供向けのおもちゃを手に取り、店員から遊び方を一通り教えてもらった後、自分も興味のある玩具を幾つか見積り店を後にした。

「お買い上げありがとうございます。こちらの商品はそのままお持ち帰りですか?」

「ええ、このまま頂いていくわ」

「でしたらお包みしましょうか?」

「いえ、結構よ。自分用で買った物だからそのまま紙袋にでも入れてちょうだい」

「かしこまりました。それではこちらの箱に入っている商品は後日、孤児院に寄付させて頂きます」

 店員の背後に積まれた子供向け玩具の入った箱はフェリアから孤児院へと寄付する物だ。前回は食料、その前は服。勉強をする為の物でも良いけれど今回は変わった玩具を取り扱っている店があると、噂で知っていたので敢えて玩具にしてみたのだが……喜んでくれるだろうか?

 少々、斬新な玩具がありすぎて心配だ。

「ええ、宜しくお願いします」

 見送る店員が頭を下げている。このままだと私達が見えなくなるまで下げていそうだったので、フェリアは大通りからスッと脇道にそれた。その瞬間、道が続いていると思った矢先に壁にぶつかった。

「きゃっ!!?」

 思わず持っていた紙袋を落としてしまった。

「ん?」

「おっ、お嬢様大丈夫ですか?」

 メイドの心配そうな声とは別の声が重なる。脇道にそれた瞬間、硬い壁にでもぶつかったと思ったのは一瞬ですぐに壁だと思った物が人だと分かったのは、大きな手が後ろにふらついた私を支えてくれたからだ。

「……ごめんなさい、人がいるとは思わなくて」

「いや、こちらこそ。こんな薄暗い細道で突っ立っていた俺が悪かった……すまん、荷物は助けてやれなかった」

 そう言って男は足元に転がる紙袋を指差した。落ちた時、凄い音がしたので皿や何かだと思ったのかもしれない。けれどフェリアは首を振って落ちた紙袋を拾いあげた。

「大丈夫よ、そんなすぐに壊れる様な物は入っていないから。……それより、助けてくれた事には感謝はするけれどそろそろその手を離してくれないかしら?」

 フェリアは自分の手首を掴んだままの男の手を指差す。

「おっと、これは失礼した……荷物が無事なら何よりだ。あまりこんな薄暗い道なんか通るなよお嬢さん」

 目深に被ったマントでは口元しか見えないが、随分と爽やかに笑った様にフェリアにはみえた。

「お嬢様、大丈夫でしたか?」

「……ええ、大丈夫よ」

 違和感のある手首は気にせずに、物陰からさっきの店を見れば頭を下げていた店員はもういない。

「さっ、ダンが心配するわ行きましょ」

「はい、お嬢様」

 フェリア達が元の大通りに出る途中、脇道を強い風が吹き抜けた。思わず顔を背けた視線の先には先程のフードを被った男が反対の通りに抜け出る所だった。吹き抜けた風が時間差で男の元に届く。目深に被っていたフードが一瞬だけ捲りあがりフェリアは男の顔を目撃してしまった。

「えっ?」




 風で捲り上がったフードを目深に被り直し、男は脇道を抜け1人の男に近づき並んで歩き出した。

「どうだ?何か情報はあったか?」

 小声でそう聞くが首を微かに横に振る。

「あの日の夜、雨が降ったせいであの屋敷から何処に行ったのかが追えませんでした」

「……そうか、ならば俺は少し他を当たってみよう」

「そんなっ……皇子自らが動かなくとも私達が集めて参りますので宿でお待ち下さいませ」

 驚きで声が大きくなるのを抑え、男は皇子にそう訴えた。しかも、今はまだ状況が悪い。ここに皇子がいるとバレたらせっかく彼が囮になったのに意味がない。

「情報は多い方が良いだろ?」

 皇子と呼ばれた男はニッと笑い、1人静かに人混みへと消えていった。

「……ああっ〜もう!あのお方は自由過ぎる!ミル様の苦労が分かるよ全く」

 男は愚痴りながらも次の収集場所へと足を向け歩き出す。早く、見つけて差し上げなければ。そう男は心に誓い奔走した。


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