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深窓のご霊嬢!?〜心霊スポットで幽霊より厄介なモノを拾いました〜  作者: 暁月


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出会い 4

 フェリアは部屋でモアスを見送った後、昨日の怪我人の部屋へと向かった。昨晩、目を覚ましたと言うその男から『助けてくれた礼がしたい』と面会の旨を執事長である爺から連絡を受け、了承した。

 朝、モアスがグレイス家に訪ねて来る少し前。頭が痛いと言うフェリアの為に爺が部屋に朝食を運んだ際『お客様が起きられました、如何しますか?』と聞かれた。

 確か昨日、その客人から面会の申し込みがあった事を思い出した。けれど、怪我人である彼を歩かせるわけにはいかないので『直ぐにいくわ』と、爺に事付けを頼んだのが約1時間程前。

「………少し、遅くなってしまったわ」

 すぐに部屋に向かう予定だったはずが大幅に遅れてしまい、廊下を歩く速さが少々女性らしからないと言われてしまいそうだが駆け足よりはマシだろう。目的地に着き軽く身だしなみを整えた後、フェリアは扉をノックし返事を待つ。だが待てども返事が返ってこない。

「聞こえなかったのかしら?」

 もう一度、扉をノックする。さっきより強めにノックをしたが物音一つもしない部屋にフェリアは首を傾げた。

「起きているって言っていたけど……失礼するわ」

 静かに扉を開け、中の様子を覗き込んだフェリアはベッドに倒れている人影を見つけ驚いた。

「やだ!ちょっと貴方!大丈夫?!」

 驚いて近づいたフェリアは拍子抜けした。何故ならベッドの端でうずくまって倒れていると思った人物はすやすやと寝息を立てて眠っていたのだから。

「何だ、眠っているだけだったのね。少し待たせ過ぎてしまったし、それに昨日の今日では無理もないわね。あんなに血が出ていたんだもの……少しは良くなったかしら?」

 すやすやと眠る男の顔は昨日よりかは幾分か血色が良い様に見える。それでもまだ青白い顔の男を見てフェリアは昨夜、彼を見つけた時を思い出した。



 ***



 新月の晩。フェリアの宣言通り2人は街から少し離れた山に佇む廃屋敷へと向かった。フェリアの情報によるとそのお屋敷はある伯爵夫人が住んでいたらしい。その伯爵夫人はまだ年若い頃、政略結婚にて伯爵家に嫁いだ。彼女は小柄で大人しく物静かでいつでもどこでも一歩引いて旦那様を立てる評判の良い奥様だった。だが、結婚して数年。その伯爵は屋敷のまだ若いメイドに手を出した。1度目、2度目と頻繁に自分達の寝室に連れ込む旦那様を見ても夫人は何も言わなかった。屋敷の主人がメイドに手を出すなんて良くある話だ、月日が流れ2人の間にも子供ができたが不慮な事故により亡くなり夫人は悲しみにくれた。鬱々とした日々を送る夫人、そんな彼女に最初こそ献身的に支えていた伯爵はだんだんと嫌気が差したのかまた若いメイドに手を出しはじめた。

 後は時間の問題だろう、幾人かのメイドの1人に子供が出来てしまった。自分の子は亡くなりそのメイドとの間に出来た子を愛する夫の姿を見た夫人はカッとなり、伯爵を殺してしまった。

「………良くある話だけど……それが今から行く屋敷の話?」

 ガタガタと揺れる馬車の中、爛々と瞳を輝かせているのはいつもの真っ白な服を着たフェリアだ。その正面に胡散臭そうな瞳を向け座っているのは勿論モアス。

「そうよ!良くある話だわ!良いモアス?ここからが重要なの!」

 ビシッと突き出した指は相変わらずモアスの鼻に突き付けられる。昔から何故かやられるのだが未だに避ける事が出来ない。

「ブッ!!もうっ!だからそれ辞めてってば!!」

 モアスはフェリアの押し付けられたその指から逃げる。いつもの事だがその酷い仕打ちにため息をつき、椅子に深く座り込み背中を柔らかいクッションに預けた。

「……で?重要って何?どうせその後、夫人が自分の旦那様と関係を持ったメイド達を殺し回ったとかって話?それも良くある話でしょ?復讐や嫉妬で……」

「NOよ!」

「ノー?……何それ?」

 チッチッチッと顔の正面で人差し指を振る仕草は何故かモヤッとするが、フェリアは情報を得る為に色々な物を読み漁るのが趣味だ、興味が沸けば国内外どれでも読むものだから時々良く分からない言葉を使う事がある。

「確かに最終的には夫人が屋敷の者達に手をかけるのだけどそこに辿り着くまでの過程が問題よ」

「過程が問題?」

「そう、その前に夫人がしたことは自分の旦那様を調理し、関係のあったメイド達にその料理を振る舞ったの」

 少々ドヤり顔でフェリアはそう話す。今のは問題のある過程だっただろうか?今のも猟奇的な話ではあるとは思うけど?とは言葉に出さないのがモアスだ。

「……振る舞った?って事は皆で食べたってこと?」

「YES!そう、皆で食べたの。モアス、外を見て多分あの屋敷がそうよ」

 フェリアは馬車の窓から山の中にある屋敷らしき影を指した。月明かりも、生活の為の明かりも灯ってないその屋敷は闇夜の中ただそこにあった。

「……その話、いつ頃の話?」

「確か……百年くらい?だったかしら?」

「百年……」

 その月日に納得したモアスは、ゴクリと喉を鳴らして徐々に近づいてくる屋敷を見上げた。その屋敷が近づくにつれ闇夜に紛れて見えなかった物が次第に見てくる。その屋敷が百年近く放置されているのなら納得だ。窓は所々割れ、剥げた外壁、目を凝らして見れば屋敷までの道のりは草が随分と生い茂りこのまま行けば辿り着くはずの玄関扉は半分無くなっている。

 途中、長い雑草が馬車の車輪に巻きつき進行を妨げる事数度。やっと屋敷の敷地らしき場所まで来る事が出来た。馬車を降り短くなった雑草から覗く石畳に足を下ろした。

「はい、モアスの分のランタンよ」

 渡されたランタンをいつものように受け取ったモアス。ランタンの中央に嵌め込んである魔石をスッと触ればオレンジ色の炎がポッと灯る。少し先には同じオレンジ色の炎の明かりを持ったフェリアが、壊れた扉から中に入ろうとしているのが見えた。

「早いってば!僕まだ準備してるのにっ!」

 フェリアの背を追いかけ、モアスも壊れた扉から中に入る。中は廃屋敷独特の湿ったカビ臭い空気に包まれていた。

「ウッ!ゴホッ……」

 モアスはハンカチを鼻と口に当ててランタンを掲げた。中も外同様、床の板は腐り所々に穴が空いてそこから草まで生えている。壁や天井には蜘蛛の巣がかかり、時々何かが走る音に怯えながらモアスはフェリアの背に声をかけた。

「念の為に一応聞いておくけど……出るの?」

 そう声をかけたとたん、フェリアの足が止まりニタリとした顔で振り返る。

「出るわ。旦那の肉を食べその後メイド達を食べた夫人の幽霊と餌になったメイド達の幽霊が」

 仄暗く揺れるランタンの光がフェリアの顔を不気味に照らし出していた。

「ひぃっ!!」

 その恐ろしい顔にモアスは悲鳴をあげる。

「ふふふ♪楽しくなってきたわね」

 ルンルンとスキップしそうな足取りのフェリアとは対象にモアスの心臓は今にも飛び出しそうな程脈を打っている。それを服の上から押さえた。

「……僕は全然楽しくないけどねハハハっ…」

 渇いた笑いを浮かべ、先を行くフェリアを追いかけた。窓の外ではいつの間にか空模様が変わり、暗い闇夜に浮かぶ星は見えなくなり遠くの山の上には稲光が見え始めていた。


 ギシッ…ギシッ…

 腐りかけの階段を慎重に降りながら、フェリアはガッカリした表情で辺りを見回し階段を降りていく。

(今日も不発ね……百年物のお屋敷だから何かあると思ったんだけど、古いだけで何も無さすぎだったわ)

 フェリアの不発とは怪奇現象の事だ。心スポ巡りをしていれば何かしらの怪奇現象に出会う事がある。今回は心スポになってしまった経緯や年代で選んだのだが全くと言って良い程なにもなく拍子抜けをしていた。階段を降りきったフェリアは後ろを振り返り、まだ子鹿の様に震えて擦りに捕まりながら降りて来るモアスを見上げた。

「ねぇ、モアス。前回行ったスポットだけれ……!!」

 フェリアが言い終わる前、屋敷内を真っ白な閃光が一瞬照らし出し次いでゴロゴロと地響きの様な音が響き渡った。

「うわあああっ!!」

「雷……雨が降る前に帰った方が良さそうね。モアスは大丈夫?」

 視線の先には見事に階段の一部を踏み抜いたモアスの姿。さっきの雷に驚いたのだろう。

「足が!足が抜けないぃぃ〜!!」

 おっちょこちょいなモアスはいつもの事なので、フェリアはもう一度辺りを見回した。

 雷の閃光で辺りが照らされた瞬間、違和感を感じたのだ。

(何かしら……今、この辺に違和感のある空間が見えた気が……あった!)

 今、降りてきた階段裏を覗くと細い通路がありその先に扉が1つ。

(この扉、怪しい匂いしかしないわね!)

 フェリアは一度階段側に戻り、まだ抜けない足と奮闘中のモアスに声をかけた。

「モアス〜、階段の裏に扉があったわ。ちょっと見て来るわね」

「えっ!!?階段裏?ちょっ!!1人で行くのは……ああ!もう!待っててば〜」

 そんなモアスの声を背に、フェリアは階段裏の細い通路の先にある扉に手をかけた。

(!?……開いてる?)

 他の部屋の扉とは違い少し頑丈そうな秘密の部屋の入り口みたいな扉はフェリアの経験上、鍵がかかっている事が多い。が、この扉は錆つきもなくあっさりと開いた。

 扉の先は案の定、地下に続く石階段。石壁には魔石つきの松明。壁際をランタンで照らせば赤い石が(はま)っている。ランタンと同じ様にそれにほんの少しの魔力を流せば壁の松明に明かりが灯る。

 明るくなった地下は螺旋状になっているのか先が見えない。だが、フェリアはお構いなしに足を踏み出し地下へと降り立った。

「ここは……倉庫?」

 長くはない階段を降りたフェリアは、薄暗いその場所を見回した。ただ、フェリアがそう思うのも仕方がない。窓のない地下には木の箱や衣装ケース。中には豪華な装飾の小箱なども置かれている。

「……倉庫と言うか物置き部屋なのかしら?置いている物が随分とバラバラだわ………あら?ワインまであるのね」

 更に奥まで進んで行くと壁際に棚があり、その棚にワインがズラリと並んでいた。その一本を手に取るが瓶に貼られたラベルの文字は積もった埃を払ったところで掠れて読めなかった。

「それにしても随分な量があるわね……ん?」

 並んだワインを眺めながら歩いていたら、カツンと足元に何か硬い物が当たる感触に持っていたランタンで足元を照らす。そこには割れた瓶が数本落ち、割れた硝子が中身と共に散らばって床に落ちていた。

「何かの拍子で落ちて割れたのね。この作りじゃ落ちても不思議じゃないもの……ん?待って」

 フェリアは落ちた瓶から流れ出たワインを見た。そしてそれを踏んでみる。赤黒い液体を踏んだ靴で何もない石の床へそのまま押し付ける。するとフェリアの足跡が赤黒くくっきりと残った。

「渇いてない……このワイン、最近落ちたってことかしら?」

 古い屋敷なので何かの拍子で落ちることもあるかもしれないけど、これは妙だ。だったらもう少し他の物も落ちていて良いはずでは?何せ百年もののお屋敷なのだから劣化していて当たり前。なのに不自然にここにだけ落ちている。しかもまだ真新しい状態で。

「…………」

 フェリアは更に奥に続くワイン棚の先をランタンで照らす。すると、数歩先の方でも赤黒い液体が床に広がっていた。だが、落ちていたのは割れた瓶でも他の荷物でもなかった。

「………裸、の男の人?」

 フェリアの目の前には冷たい床に横たわる裸の男性。有難い事にうつ伏せに倒れていて、赤黒い液体の正体に気づいた。その背には真新しい傷があり、そこからドクドクと流れる血にフェリアはハッとした。

「生きてるの!!?」

 男の背が微かに上下に動いていたからだ。男に近づき呼吸音を確認したフェリアは急いで部屋の外にいるであろうモアスに声をかけたのだ。

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