第6話(最終回) さいたま新都心崩壊、そして
突然ですが、最終回です。
「こりゃ……!」
松間博士はビーカーを片手に、その中を見ながら、思わず絶句した。
「どうしたんですか?」
生物学者の菊池佑香はその様子をみて、同じように驚愕した。
内閣府災害担当分析官の篠原美幸もその様子を見ていたが、一目ではいまいちわからなかった。
「どうしたんですか?」
そう美幸が尋ねた。
怪獣はさいたま市に侵入した。19時37分のことだ。
すでに夜のことで、黒色系な皮膚をした怪獣は、周りの闇と溶け込んで、その姿は確認しにくい。
しかし足元で―――怪獣が電柱や家屋、自動車などを踏むたびに爆発炎上が起こり、怪獣のおおよその位置は確認できた。
怪獣はゆっくり、ゆっくりと歩行し、大宮駅の方角に向かう。
遠方から富士教導団の87式偵察警戒車がその様子を見守っていた。
「なんてこった」
二等陸曹の階級章をつけた自衛官が双眼鏡で大宮辺りを見ながら言った。
「俺たちは何もすることができないのか」
「あの建物の下や、周辺部には避難民が大勢いますからね」
三等陸曹の階級章をつけた自衛官が、やはり双眼鏡で怪獣を見ながら言った。
「怪獣の攻撃に市民を巻き込むわけにはいきませんし」
「そんなことはわかってるよ」と二曹。
「大火力をもつ俺たちはもっといろんなことができると思っていたのに、と思いあがっていたのさ」
怪獣、大宮駅に侵入します!
別の隊員の声に、二人の自衛官はお喋りはやめ、偵察活動に注視した。
怪獣は新幹線の陸橋沿いに歩き、陸橋を木っ端みじんに破壊しながら、大宮駅構内に侵入した。
怪獣に対しては背の低い、埼玉屈指のターミナル駅の駅舎は、所々で爆発や炎上を引き起こしながら、大宮駅の銃弾を許した。
怪獣はそのまま南下し、さいたま新都心を破壊させていく。
まず、新都心の北のほうにある新都心地域の冷暖房センターを大きく倒壊させた。
さいたま新都心の建物の多くの冷暖房機能は喪失した。
瓦礫が、向かいのビルになだれこむ。
そのまま怪獣はきまぐれで、向かいのビルに光線を吐き、爆発させた。
そのまま南下した怪獣は、さいたまスーパーアリーナを縦断していく。
その時だった。
怪獣の全身が溶けだしていった。
溶けた身は黒いペンキのようにべっとりとしていて、周囲の建物をなぎ倒していく。
さいたまスーパーアリーナを中心にペンキのような、怪獣の体だった液体が広がっていく。
怪獣の身体が溶けていくたび、怪獣はやせ細り、そして骨が見えて、やがて骨だけとなって、その骨も地面に落ちた。
「怪獣が溶けて、沈黙しました」
衝撃の報告に官邸地下の危機管理センターの幹部会議室では動揺の声が広がっていった。
「どういうことだ」綿貫災害担当分析官も思わず声を出した。
「怪獣は一定時間たつと、その細胞が溶けて、体全体も溶けるようになっていたんだな」
松間博士が言った。
「しかし……」
佑香がそういうと、美幸が頷いて言った。
「溶けていった体の組織は……」
そう、溶けた体の組織はまださいたま副都心に、膨大な量が残っていた。
今のところ死者は奇跡的に出ていないが、避難民の救出も最終的な課題だ。
関東怪獣災害が収束するまでには時間がかかりそうだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。