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第4話 怪獣、攻撃


「この怪獣は異様に回復能力が早い」


 防護服を脱いだ三人は教室のような部屋にやってきていた。

 松間博士は黒板に歪な四角を描いている。


 美幸はスマホを使って、この講義の様子を東京の綿貫分析官のもとへ映像として送っていた。


「例えば、この怪獣の細胞は何かで切ったとしても……」


 松間は黒板の歪な四角を真ん中から黒板で切ってしまった。

 しかし、その切れ目から両端に触手のような線を伸ばしていく。


「このように切れた面を回復させてしまう、しかも驚異的な早さでだ」


 黒板の切断された歪な四角も、最終的に切れた両面が修復され、元に戻ってしまった。


「恐らくヘリのロケット攻撃もすぐに回復してしまったのだろう。これに打ち勝つには、細胞の回復を上回る損害を与えるか、細胞そのものの動きを停止するしかない」


『今、自衛隊では』


 と、綿貫は、美幸の携帯越しに話した。


『―――怪獣を、熊谷市内の河川敷に追い込み、空爆と巡航ミサイルによる攻撃を実施しようとしています』


「こちらとしても、対応策を考える。他の大学や研究所にも情報共有する」


『政府機関や理化学研究所などにもお願いします。理研でも皮膚の欠け落ちた部分などを回収しようとしていますが、なかなか見つからないのです』


 松間は、佑香の方に顔を向いて、二人はうんと頷く。


「菊池くんとも話をしていたが、うちの研究所には皮膚組織らしきものの一部が保管されている。その一部を他の研究機関にも提供したい」


『本当ですか、それは助かる!』


 綿貫は素直に喜びの声を上げた。


「しかし元の大きさ故それほど大きいものが提供できるわけではないが……」


『大きさなどはわかりませんが、とにかく解決の一助となるものは多ければ多いほどいいのです。怪獣は人の多い地帯に侵攻しつつある。急いで対処しなければならないのです』


「人の多い地帯?」と松間。綿貫が続けた。


『このまま怪獣が進路を変えなければ、さいたま新都心、そして東京中枢に向かうのです』







 怪獣が熊谷市内の荒川河川敷にある作戦地点に到達した。


第12偵察戦闘大隊がすぐさま怪獣から距離をとる。


 代わりに航空機の爆音がとどろきはじめた。





 青森県三沢基地から発進し、周辺空域で待機していたF2戦闘機4機が熊谷市上空に姿を見せた。


 隊長の沢田二佐以下4人のパイロットは、搭乗機が摩天楼のように高い怪獣の直上に到達すると、操縦桿のスイッチをおして、爆弾を投下した。


 精密誘導装置が付けられた2000ポンド爆弾4発は次々と機体を離れていく。


 怪獣は上を向いて、口を開く。怪獣、口から光線を発射。投下された爆弾は光線に焼かれていく。


 怪獣上空から退避しようとしていたF2戦闘機に光線を当てていく。戦闘機は次々と爆発し、4機のF2戦闘機は熊谷市上空で爆散した。







 航空自衛隊による攻撃、命中なし。

 光線による攻撃で全機撃墜。


 しかし、飽和攻撃による怪獣への損害を期待す。よって、攻撃は予定通り実行せよ。


 怪獣駆除の統合任務部隊の指揮を任されていた陸上自衛隊陸上総隊司令部からの通信を得た、海上自衛隊のイージス艦『まや』以下4隻は攻撃を開始した。


 使用兵器は巡航ミサイル十数発、目標は怪獣。


『まや』の上部甲板にあったVLS―――垂直発射装置が数十個碁盤の目状に並んでいるうちのいくつかの扉が開き、そのなかの1発、巡航ミサイルが格納されていたものが、まず白煙を巻き上げて空に上がった。

 続いて2発目発射。他の艦も同様に巡航ミサイルを発射していく。

 1発目は上空で進路を変え、熊谷市の方角に向かい、他の巡航ミサイルがこれに続いた。



 



 熊谷市―――。

 怪獣は東の方向を向き、口を開いた。


 怪獣による口からの光線攻撃。ミサイルは太平洋から発射され、茨城県を通過。すでに埼玉県上空に達していた。


 光線が1発目の巡航ミサイルにあたる。怪獣は頭を少し動かして、2発目の巡航ミサイルにも命中させていく。

 この要領で、怪獣は巡航ミサイルに光線を当てていく。


 巡航ミサイルは次々と爆発していく。

 ミサイルは断続的に爆発し、爆発は段々と怪獣に近づいて行った。


 最後のミサイルがついに迎撃、爆発する。


 怪獣は光線を吐くのをやめて、顔を正面に向けた。


 こうして巡航ミサイルは全弾迎撃された。





 怪獣はふたたび歩き始めた。南東の方角に、である。その先にはさいたま新都心がある。

 この時、時間は15時12分である。





「爆弾投下も効果なし、戦闘機4機撃墜。巡航ミサイルに至っては全弾迎撃か…」


 美幸は松間生物学研究所の一室で、血を吐くように現状を言った。


 それを横目に佑香は呟く。


「はじめの攻撃は全弾命中なるもそのあと攻撃、2回目の攻撃はそもそも全弾迎撃…あれだけの広範囲を攻撃できるのであればなぜはじめから、戦闘機も……その前のヘリコプターも遠距離から迎撃しなかったのでしょうか」


「怪獣も学習しとるんだろう」


 松間博士は答えた。


「低空で接近し、攻撃してくるヘリも、高度から爆弾を落とす戦闘機も、最初は自分を狙う敵だと思っていなかった。しかし、攻撃を仕掛けてきた。その後の巡航ミサイル群は敵だと即座に察知して、迎撃したに違いない」


「しかし、それでは……」


 美幸は思った。攻撃の手段はまだあるはずだ。しかし、もうさいたま市到達までは時間はない……。


 





 大宮駅、新幹線改札前。

 昼前から多くの客が殺到していたが、15時になると最早殺人的な混みようになっていた。


「ただいま、入場制限を実施しております……」


 落ち着いた、しかし興奮した様子の駅員の声色が響いた。


「JRでは、臨時列車を増便しています。お客様におかれましては、どうか、冷静な対応を―――」


 駅員がそういうと、何十分も待った、ガラの悪い男性客が思わずどなる。


「こっちはいつでも冷静だぞ! 早く乗せないと怪獣がきちまうだろうが!」


 周囲の客が、その声により一層反応してしまう。


「うるせぇぞ!」


 ガラの悪い客がまたそこに反応し、声の主らしい中年客に食って掛かる。

 JRの駅員と、雑踏警備に入った警官らがそこに割って入った。



 北陸新幹線の線路が怪獣にすでに破壊されたなか、東北新幹線の乗車率はついに200パーセントを超えた。駅員が対応し、警察官が派遣されても能力はすでに限界を超えていた。

 




 新宿駅南口改札。

 すでに甲州街道まであふれた人々が、南口改札に集まっていた。

 今日はすでに怪獣で仕事にならないと言った上司の一言で、新宿駅から中央線沿線の自宅に帰ろうとしていた若いサラリーマンが驚愕してその様子を見る。


「東京に行く電車や南に向かう電車に乗るまでは1時間くらいかかりますよ」


 横にいた中年男性がふと声をかけてくれる。


「湘南新宿ラインはこの混雑で運航中止らしいです。山手線も新幹線に乗りたいやつらでいっぱいらしいです。あと神奈川に向かう路線はぎゅうぎゅうずめだとかききました」


「中央線は?」若いサラリーマンが言うと中年男性は答えた。


「東京に向かう列車はパンパンらしいですよ。反対側も、帰宅の人で凄い混雑だとか……」


 そこで浅黒い肌の、旅行鞄をもった家族連れがやってきた。母親らしい女性が寝ていた幼い子供を抱いて、その子より一回り大きい少年の手を引いている。父親らしい男性が、必死になって日本語を言う。


「ワタシタチ…ナリタ…… ワカラナイ……ドウ……ミ、ミチ……ロセン……」


 どうやら成田空港までの道順を知りたがっているようだった。いや、知っていたのかもしれないが、この混雑で多くの路線がまともに機能していないことがわかったのだろう。

 中年男性と若いサラリーマンは顔を見合わせたが、中年男性が係員窓口まで引率した。


 若いサラリーマンは周りを見た。不安げな日本人たちのなかに少なくない外国人たちがいるのに気が付いた。

 若いサラリーマンは先ほどの外国人家族に再び視線をあわせる。

 彼ら彼女らを自分の家族を重ね、若いサラリーマンは不安にかられた。





 東京都民及び埼玉県民の自主避難は昼の時点で記録に残るものであったが、さらに増えて、15時時点で現行の警察力などでは対処不能に陥りつつあった。


 鉄道は中央線、東海道線などの在来線でも軒並み乗車率200パーセントを超えた。JRは駅の入場制限をかけていたが、警察の手をかりても、対処能力を超えつつあった。

 大宮でも、怪獣接近に伴って、大宮駅を通る全ての路線を運転見合わせとしたかったが、この殺人的混雑と、異様に殺気立った群衆のなかで運転見合わせを発表するのは至難の業であった。

 高速道路も、東名道沼津インターチェンジから100キロ、中央道大月インターチェンジからやはり100キロを超える渋滞が起きていた。


 都内やさいたま市内でも交通渋滞が各所で発生。警察は対応に追われたが、ただでさえ相当の渋滞で車が動かず、警察も移動が困難になっていたため、事故処理が遅れていた。

 最早動かなくなった道路交通に業を煮やし、車を置き去りにして、最寄りの駅に駆け込む事案も続発。道路は完全にマヒ状態に陥っていた。





 そんななかで、政府中枢で自衛隊の治安出動が検討されていた。


「自衛隊の治安出動!?」

 官邸地下、危機管理センターの幹部会議室で総理大臣が驚きの声をあげた。

「自衛隊は災害出動だけで十分対処可能ではなかったのか」


「怪獣にはな……」肥満体型の、初老の総務大臣が苦虫を嚙み潰したように言った。

「今は都民と埼玉県民に必要なんだ」


「駅での乗客対応、交通渋滞や事故の対処……すでに警察の手を大きく超えて限界を超えています」

 と閣僚のなかでは比較的若い、50代の総務大臣が言った。


 その次に口を開いたのは、頭の禿げた、60代の防衛大臣だった。

「すでに自衛隊も被災地支援、怪獣駆除に回っていますが、都内、及び、さいたま市を中心とした混乱に対処するため、治安出動にあたることが先決だと考えます」


「しかし、今まで出たことのない命令だ…自衛隊は国民に銃を向けろというのか……」総理は愕然とした。


 治安出動は自衛隊に記載されている、自衛隊の行動のひとつだ。

 一般の警察力では対処しきれないと判断されたときに命令、もしくは要請される。


 出動した自衛官には警察官職務執行法が準用され、必要とあらば現地指揮官の判断で武器の使用も許可される。

 

 元々は大規模暴動を想定したものだったが、近年では大規模暴動よりも日本に潜入した武装ゲリラやテロリストによる使用が想定されている。


 戦争状態の際に出される防衛出動とともに、これまで命令を出した前例のない出動命令だ。


 総理はかつての60年代安保闘争で自衛隊が治安出動しかけたことを思い出した。

 あのとき、時の総理は自衛隊を治安出動させるつもりだったが、当時の防衛庁長官がこれを拒否したと聞いている。


 総理は思った。


 もし、あの時、実際に自衛隊が安保闘争で国会に集結していた多くの国民を制圧するため、自衛隊が出動していたら、どうなっていただろう。

 解散を命じる自衛隊を無視して、暴徒になりかけたり、なったりしていた国民たち。

 自衛隊にも危害を及ぼすかもしれない。そのとき、自衛官らは銃を……


「総理」

 無意識のうちに想像をしていた総理を現実にひき戻としたのは、官房長官の発言だった。白髪で、背の高い老人だった。


「自衛隊は必ず国民に銃を向けるものではありません。都内を中心に治安が崩壊しつつあります。その秩序の維持に自衛隊が必要ということです」


 総理は幹部会議室を一瞥し、ふと呟く。


「防衛出動は出さなくていいと思ったのに……まさか治安出動を出すとは……」





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