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第3話 怪獣誘導作戦


 自衛隊の攻撃に対して、怪獣が無傷だったことにより、世論は大きな衝撃を受けた。

 しかもその怪獣が現在もなお移動中ということになると、隣都県の―――特に埼玉県と東京都の人々は、怪獣を身近にいる脅威と受け取った。

 

 その結果として都外・県外への自主避難が起こった。


 自主避難の動きは早かった。

 午後、怪獣が自衛隊の攻撃を受けてから、東京を発車する東海道新幹線は指定席全席満員、さらにそこへ乗り込む乗客が次々と現れて、乗車率が180パーセントを超えた。

 南か、西へ行く在来線の特急もすでに150パーセントに達していた。

 中央自動車道では120キロの渋滞ができていた。高速バスも満席が相次いだ。


 冷静な行動を、と政府は呼びかけたが、これを聞き入れるものはほとんどいなかった。






 15時。

 座間の陸上総隊司令部では、怪獣撃滅作戦に頭を抱えていた。

 対戦車ヘリが攻撃の末、無傷で、しかも口からの光線攻撃で5機が撃墜されて以降、正直どう対応していいかわからなかった。

 

 とりあえず富士にいた機甲兵力、富士教導団と第1偵察戦闘大隊が練馬駐屯地まで移動するよう命令した。

 また海自の輸送艦を使って北海道にいる第7師団を南下させていた。

 第7師団は機甲師団として有名だ。これは朝霞駐屯地と入間基地まで移動させる。


「第7師団輸送に関しては、今後フェリーの徴用により、より効果的な輸送が期待できます」


 情報幕僚がそう報告するも。司令官、幕僚たちは悩みに苦しむ表情を禁じえなかった。


 あの怪獣が自衛隊の対戦車ヘリのロケット攻撃に耐えた。ということは砲爆撃が効かないかもしれないのだ。

 その前に、この人口密集地で自衛隊が戦闘する前提でどこへ展開すればいいかもわからなかった。

 いや、今ならまだやれることがあるはずだ……


 陸上総隊司令官は決意した。


「三沢のF2に出動命令。洋上の巡航ミサイル搭載護衛艦にも戦闘準備の命令を出してくれ」





 15時6分。

 青森県三沢基地ではF2戦闘機4機が爆装していた。

 このうち2機が滑走路に誘導されている。


 飛行隊長の沢田二佐はF2のパイロット席にのって、操縦桿を握りながら、なるべく平常心を保とうしていた。


 果たして怪獣に爆撃が効くのだろうか。


 そういう考えは浮かんでは消えていく。


 俺たちは訓練通りやればいいだけだ。離陸して、飛んで、攻撃して、すぐ離脱する。


 沢田はそんなことを何度も思った


 F2戦闘機2機が轟音を立てて離陸した。そのあともう2機が離陸。

 けたたましい轟音を鳴らして離陸したが、そのあとはいつも通り静かなものであった。





 同時刻 茨城県南方沖 海上自衛隊 第1護衛隊群 第1護衛隊 イージス護衛艦『まや』

 4隻の護衛艦が航行していた。

 旗艦はイージス艦『まや』である。


「まさかはじめての実戦が、巡航ミサイルによる陸上攻撃とはな」


 副長がそうぼやいた。


 1年ほど前に巡航ミサイルが配備され、海上自衛隊の護衛艦にも搭載されるようになった。

 島嶼防衛用として配備が進み、遠距離地上への攻撃ができることから反対運動もあった。

 しかし、いざ配備してみると世論の風は別の問題に風向きが変わり、何事もなく配備が行われた。


「空自さんが爆撃した直後に俺たちが積んでいる全巡航ミサイルを怪獣にぶつけるらしい」


 艦長がそういうと、副長は少し笑みを浮かべた。


「それなら怪獣も一網打尽ですね。護衛艦4隻分の全巡航ミサイルをくらえば生きられませんよ」


 しかし、と艦長。


「対戦車ヘリのロケットも効かなかった相手だからな」


「しかし、対戦車ヘリのロケットの火力と、巡航ミサイルの火力ではまた全然ケタが違います」


 副長はそういったものの、艦長の不安そうな顔は消えなかった。






 同時刻 東京 千代田 首相官邸 地下 危機管理センター

 まず空自のF2爆撃機が爆撃を行う。

 その後、護衛艦の巡航ミサイル同時多発的攻撃。

 これが怪獣撃退作戦だ。


「問題はどこで行うかだ」


 綿貫はメインモニターの地図を見た。

 

 怪獣は埼玉県深谷市にいた。さいたま市の方向に向かっている。


「どこで行うかは怪獣次第ですからね…」


 綿貫の近くにいた防災担当の職員が言った。


「でもうちは避難誘導を先導する役割がある。しかし、ほとんど人口密集地だ。大火力の市街戦なんてきいたことないぞ」

 

 そう話しているうちに、自衛隊のリエゾン(連絡要員)がやってきた。


「防災統括分析官、作戦実行地点が決まりました。熊谷市内の荒川河川敷です」


 綿貫はうーん、と唸った。


「何か問題でも?」


「いや。この地区はすでに避難完了との報告が出ている。現状攻撃できるのならここだな」


「しかし……」


「このあたりは避難は完了しているが、郊外はまだだ。それに、どうやって怪獣を誘導する?」


「戦車などによる火力攻撃によって誘導を行います」







 群馬県相馬が原駐屯地から出発した第12偵察戦闘大隊が熊谷市に到達した。

 16式機動戦闘車や87式偵察警戒車などで構成されたこの大隊は、第12旅団の隷下にある。

 

 普段ならば偵察などを主な任務として行う部隊だが、怪獣の現在地からはもっとも近くに配備されている機甲科部隊であったため、急遽投入された。

 彼らの任務は火力などをもって怪獣を作戦実行地点である熊谷市内の荒川河川敷に誘導するにあった。


 怪獣は国道17号沿いに熊谷市に侵入する。


 市境に近いホームセンター目掛けて口から光線を発した。

 広い面積を持ったホームセンターの建物は一気に爆散する。


 恐らく気ままにホームセンターを破壊した怪獣は、そのまま東南の方向へ向かう。


 と、国道16号線の道路上に2台の16式機動戦闘車が現れる。


「こちら麒麟03、麒麟04へ。射撃後、一気に16号線に沿って退却する」


「こちら麒麟04。了解」






「麒麟03、撃て」


 麒麟03、04の16式機動戦闘車の砲から2発砲撃があった。


 弾は怪獣の胸板に着弾する。


2台の16式機動戦闘車は全力で後退。


 怪獣は光線を吐こうとした。しかし、もう二発、砲撃をくらう。


 怪獣からみて、やや左側、玉井インターチェンジ方向からの砲撃だった、同じように2台の16式機動戦闘車が配置についていた。


 怪獣は前進し、今度は玉井インターチェンジを狙おうとする。すると、国道17号を後退していた16式機動戦闘車2台が再度射撃を行う。


 こうして攻撃が繰り返され、怪獣も砲撃する16式機動戦闘車を追って前進を行う。








「これが例の怪獣の細胞らしきものか…」


 白い防護服をきて、顕微鏡を見ながら、生物学の松間博士がぼやいた。


「群馬県庁に落ちていたものです。おそらく怪獣のものである可能性が高いと…」


 横にいた、同じ格好の汎用生物学者の菊池佑香がそこに付け足す。


 さらに佑香の隣にいた、これもまた同じ格好の内閣府災害担当分析官の篠原美幸は、二人の様子をじっとみていた。




 内心で美幸は疑問に思う。

 ロケット弾の攻撃を受けながら、口から光線を吐く怪獣……全く信じられない怪獣だ。


 いや、もう現実にいるのだから、個人の心情はどうあれ現実を受け止めるしかない。


 しかし、この怪獣をどうやって倒せばよいのだ。ロケット弾の攻撃を受けながら生き長らえる存在など……。



「うーむ」

 松間博士は顕微鏡から目を離して、唸った。


「何かわかりましたか!」


 思わず美幸は尋ねた、

 松間は美幸をみて言った。


「申し訳ないが今すぐ倒せる、という話ではない。だが興味深いことがわかったね」


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