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第2話 怪獣、初戦



 10時34分

 佑香と美幸は自衛隊のトラックに便乗してもらうことに成功した。

 車を貸してもらおうとしたが、それにはかなわず、他の物資とともに荷台に便乗するという形になった。

 

「菊池さん」


 美幸が佑香に声をかけた。


「あの怪獣、どう思います?」


 佑香はしばらく考えたのち「わからない!」


「あんな馬鹿でかい生き物、私の知る限り、有史以来存在しなかったと思う。画像やテレビ越しで見ていても、わからないことだらけ」


 菊池さんは? そう美幸がきくと、わからない、と佑香。


「でもわかっていることがある」と美幸。


「何?」佑香が尋ねた。


「あれは日本社会にとって大きな脅威よ」


 




 同時刻


「だから排除すべきじゃないですか」


 内閣地下危機管理センターでは、広い部屋の隅から、高田防災担当政策統括官と綿貫防災担当分析官がメインモニターを見つめていた。


「君の意見はもっともだ。今、センターの幹部会議室でもどう排除すべきかという議論が進んでいる」


 センターの幹部会議室では総理はじめ閣僚と、各中央官庁の次官クラスの幹部が詰めている。


「まず自衛隊の災害派遣がすでに出されている。そこに武器使用を付与するか話し合っている」


「何に悩んでいるのですか? 自衛隊の災害派遣による武器使用は前例があります」


 自衛隊は過去、災害派遣を名目に、東京湾で炎上し、漂流しているタンカーを湾外で実弾攻撃、これを沈めようとしたり、新潟の三八豪雪では豪雪を火炎放射器で溶かした過去がある。


「何せ関東平野にいきなり現れたんだ。世界一の人口密集地帯だ。付与したら即戦闘に世論が傾く。世界で一番戦闘がしにくい場所だ。人間同士の市街戦ならともかく、仮に一発でも流れ弾が当たったら、大問題だ」


「しかし、市街戦覚悟でやらないと……」


「そうだ、排除方法は自衛隊による火力。今のところそれしかない。しかしそれが一番向かないところに排除目標はいる。でもやらねばならん。要は閣僚が腹を決めるかどうかだ」


 綿貫はそのまま黙ってしまった。高田は続ける。


「……気持ちはわかるよ。でも、市街戦で避難誘導しきれていない民間人に被害が被るのもまずい。急に現れて、どこに向かっているかもわからない怪獣に、避難誘導も右往左往している。俺たちは待つしかないんだ」


 ちょっと幹部会議室までいってくる。高田はそう言った。


「朝もろくに食べてないんじゃないか。何か食え」


 高田が去ると、綿貫は別の部屋の隅に行った。

 食事や飲料が机の上に置かれているコーナーだ。

 なかには「官房長官からの差し入れです」と栄養ドリンクが置かれていた。


 彼は大皿に並べられたおにぎりを2,3個親の仇のように胃の中に入れた。


 最後に、栄養ドリンクを一本とると、ふたをあけ、一気に流し込んだ。






 11時19分

 内閣は怪獣の制圧命令を下した。これには内閣府防災担当政策統括官の強い意見具申があったという。

 これに先立ち、官房長官は緊急の記者会見を開き、詳細な説明を行い、国民の理解を得ようとした。


 同時刻に市ヶ谷防衛省に怪獣制圧命令が下令され、このための統合任務部隊を編成した。

 すでに災害救助、避難誘導、支援のために東部方面総監を中心とする統合任務部隊が設立されてはいた。

 しかし、怪獣制圧となってはまた任務が別だ。座間の陸上総隊司令官をトップとする統合任務部隊が編成された。


 陸上総隊司令官は対戦車ヘリコプターによる制圧を作戦立案。


 千葉県木更津の第4対戦車ヘリコプター隊からOH1偵察ヘリコプター1機とAH1S対戦車ヘリコプター8機が群馬県に向け、離陸した。





 同時刻、群馬県庁舎跡地


 群馬県庁舎及びその周辺の建物は倒壊や半壊、あるいは屋内にほこりや破片が飛び散っていた。

 佑香と美幸は自衛隊のトラックから降りた直後、その光景に呆然としていた。


 しかし、二人は気持ちを取り直して、元県庁舎があったところに向かっていく。


「ひゃ~」


 佑香が思わず声を上げたのは、大きな足跡だった。深く地面にめり込んでいる。


「さすがに100メートルある生き物ね。この分なら、自重は1万トンを超えるわ」


 美幸は深い足跡をみて、うーん、と唸った。

 ふと足の先端部分、足跡の外に、何か黒い物体を確認した。


「菊池さん、なんかあります……足の先端部分、足跡の外に……」


 佑香は目を凝らし、あっ、と歩き始めた。


「何ですか? ちょっと、ゆっくり……」


 そう言いながら、佑香はズカズカ進む美幸の後に続いた。




 近づくと、辞書くらい大きさの黒々とした物体があった。


 佑香は白い手袋をして、その物体に触れた。


「これはなんでしょうか?」美幸は思わずつぶやくと、佑香はすかさず

「たぶん、皮膚」と即答した。


「例の怪獣の皮膚が何らかのうちに剝がれたんでしょう」


 佑香はそういうと、近くの自衛官を呼んだ。


「すぐ車を手配してくれない? 桐生市の松間生物学研究所まで車を出してほしいの。これは怪獣撃退の弱点発見の手掛かりになるかもしれないものよ」







 怪獣は徐々に速度を上げて歩行し、南下。北関東自動車道を寸断し、利根川を越えようとしていた。

 利根川を越えたら埼玉県に侵入してしまう。


 北上してきた9機の自衛隊ヘリコプターが埼玉県本庄市に達したところで、ホバリング状態に移る。


「こちらカラス01、全機ロケットによる攻撃を開始する。一斉同時射撃だ。外すなよ」


 コールサイン、カラス01のパイロットである島田隊長はじっと前を見る。

 7キロ先には怪獣がいる。


 パイロットの前、前部座席に座った射手がハイドラ70ロケット弾の安全装置を解除、照準器で目標に合わす。


 各機より了解の返答。


 全機から了解の返答を聞いた島田隊長は号令を発す。


「撃てッ!」


 8機の対戦車ヘリコプターからロケットが連続して放たれる。

 利根川の上空に白く細い白煙が現れ、次々とロケット弾が怪獣に命中していく。


 全ロケット弾が怪獣に命中。怪獣は煙に巻かれている。


(やったか?)


 島田隊長がそう思ったとき、怪獣は口から赤い光線を放った。カラス05、カラス06が光線に当たり、爆発炎上していく。


 2機の対戦車ヘリは空き地に墜落して、爆発する。


「退避! 距離をとれ!」


 島田隊長は全機に退避を命じ、対戦車ヘリコプターは全力で南下した。


 怪獣はそれだけでは収まらず、もう一度赤い光線を対戦車ヘリに向けて放ち、1機の対戦車ヘリを落とした。

 さらに、紫色の光線を放ち、すでに遠距離にいた対戦車ヘリのうち、2機のヘリを撃墜した。


 怪獣は一連の攻撃が終わると、その場に少し停止し、また前進を開始した。




 11時35分、怪獣は利根川を渡河。

 埼玉県に侵入した。

 この前に行われた第4対戦車ヘリコプター隊8機の攻撃で、全弾ロケット弾が命中するも怪獣は無傷。

 反撃で5機の対戦車ヘリコプターが撃ち落された。




 この報告をきいた防衛省地下の中央指揮所では、作戦案の立て直しが協議されていた。


「40ミリロケットの攻撃が効かない生物がいるなんてな……」


 陸上幕僚長が深いため息をつく。


「しかし、怪獣は攻撃した後、少し停止したという報告は見逃すことはできません。より大規模な攻撃を実施すれば、長時間の足止めは期待できます」

 

 陸上幕僚副長がそう言った。

 しかし、どうせ足止めで、決定的な打撃にはならんのだろう。協議に参加していた半分以上がそう思った。

 陸上幕僚副長もその一人である。


「もっと確実性のある攻撃方法はないものか」


 海上幕僚長がぼやいた。


「F2戦闘支援機による空爆、護衛艦による巡航ミサイル攻撃……」


 航空幕僚長が上げられる攻撃を口にしてみた。


「とりあえずやれることは何でもやるべきだ」

 

 統幕長が周囲をみながら言った。


「陸自は機甲部隊を首都圏に集中させ、一斉攻撃できそうなポイントなど探ってくれ。空自は三沢からF2を爆装してあげられるように。海自も首都圏近海に巡航ミサイルを搭載した護衛艦を待機だ」


 統幕長の言葉に、全員が返礼。

 しかし、統幕長も内心で不安ではあった。

 この怪獣を倒せるかどうか……。





「対戦車ヘリの攻撃も効果なしなんて……」


 自衛官からの報告に、美幸は思わず口に出した。

 自衛隊の73式小型トラックに乗った佑香と美幸は絶望した。

 運転する自衛官も真っ青な顔をして、ショックを隠しきれていない。


「あの怪獣は、生物としては人知を超えた防御力をもっているみたいね……」


 もともとあんなでかいのがのしのし歩いているのが不思議なんだろうけど……

 そういって、佑香は黙ってしまった。


「もうすぐ着きます」


 運転役の自衛官がそういってハンドルを切る。

 体育館ほどある大きさの建築物は、木々に覆われて全容が見えない。

 しかし、正門に入ると、佑香には懐かしい人物がいた。


 ありがとうございます、佑香は車が止まるなり、自衛官にそう言って早速車を降りた。


「お久しぶりです、松間先生!」


 老人の域に達したと思われるしわと髪の白さ、人懐っこい表情の松間に、佑香は少しほっとした。


「やあ、菊池くん。久しぶりだな。どうも世紀の大発見をしたそうじゃないか」


「世紀の大発見かどうか、先生に確かめてもらいたくて来ましたんですよ」


 佑香は手に持っていたものを、松間に見せた。


「これが怪獣の皮膚か、いや、これでも大発見だぞ」


 あとから、美幸がやってきた。


「この女性は?」


「内閣府の防災担当分析官の篠原さんです」


「篠原です」


 そういって彼女は名刺を差し出す。


「篠原さんか、私はこういうものだ」


 そういって松間も名刺を出した。


『松間生物学研究所 所長 松間健治』


「元々大学で生物学を研究し、教鞭をとっていた身だ。今では自前の研究所をもっている――早速だが、皮膚サンプルを分析してみよう。何かわかるかもしれない」


 そういって3人は研究所の中に入っていく。

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