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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真守 葉摘が微笑む時

このユーザーは退会しました

作者: モモル24号

 

 ────突然のさようなら。


 せめてメッセージが欲しいと思った。そんな余裕はなかったのかな。


 親しく楽しくやっていたと思ってたのに、相談すらされないまま消えてしまった。私は信じたくなかった。


 私が悲嘆しているのは、とある物語の投稿サイトで起きた事についてだ。


 ……残ったのは悲しい「退会」の二文字。あの人から連絡が来ない限り、こちらには探す術がなかった。


「果たして本当にそうかね」


 あぁ……悲嘆に暮れるあまり、面倒そうな人に目をつけられた。


 ────声をかけて来たのは、同学年の優等生、真守 葉摘。校内一の美人。もの凄くお金持ちのお嬢様らしく、頭も良い。


 なのに彼女にこっそりとつけられているあだ名は「後輩殺し」 だ。


 何故かというと、容姿、成績、家庭環境と非の打ち所のない完全に雲の上の存在なのに、極度のオカルト好きなのだった。


 「後輩殺し」 は、「初見殺し」 とも言える。彼女に惹かれて話した男子はみんなおかしくなる。オカルト話に合わせた時点で人生が終わる、そう表現した子もいた。


 そんな彼女に私はいま目をつけられてしまった。それ所ではないのに。


「それで……どっちのメッセージが大事なのかね」


「えっ?」


 言われて初めて私はもう一つ、人数が欠けている事に気がついた。


 あぁ、駄目だ。全く印象になく……記憶に残っていない。


 奇しくも同じ日、同じ時間帯にアカウントが消えた事で、私は気づいてなかった。


 自分の思い入れの強い相手ばかりに目を向けていた。親友のように思っていた相手と違って、もう一つのアカウントには誰だったのかすら思い出せない。


 親友とまで思っていた相手が消えた時は悲しんだのに、もう一つのアカウントには何故か怒りを感じてしまった。


 誰だかわからないのが申し訳ないのもあるし、私の大切な方と同じ日に退会した事に、意図を感じて悔しかったのかもしれない。


 そして真守 葉摘が声をかけて来た。何となく嫌な予感がした。


「真守さん、両方…探れるのかしら。でもどうやって」


()()()は仲が良かったのだろう」


 引っかかる言い方にカチンと来た。何でも持っていて、何でも出来る彼女に、軽く見られただけで腹が立つ。


 一方的な嫉妬なのも分かっている。相談する相手が現実(リアル)にいない私は、彼女を頼るしかなかった。


「先に言っておくが、どんな結末を迎えても君は責任を感じる必要はない。その事を忘れないでくれたまえ」


 また真守 葉摘は、嫌な言い方をした。もう会えないみたいに言わないでよ、そう叫びたかった。


「会えないのは、退会前も同じだったのではないかね」


「ぐっ……」


 痛い所を突く。彼女に人が寄り付かない理由は、この物言いのせいだ。痛い本音をサラッと告げる。


 悪気はないので、みじめになるのかもしれない。


「君の気持ちなど、推理の足しにもならないぞ。そんな事よりも、投稿サイトで読んでいた作品をあげてみたまえ」


 やっぱ嫌いだよ、真守 葉摘は。心を落ち着かせて、私は覚えている限りの作品名をあげていく。


「これで、何かわかるの?」


「君が利用していた投稿サイトは、会話するには向いてなかったのだろう。そうなると、仲良く話すにはどうしていたのかね」


「あっ……そうか」


 私は使っていなかったからわからなかった。短い会話のやり取りなら、別に向いているサイトは他にいくつもある。


 真守 葉摘は私が覚えていた中の人気のあった作品を使い、会話サイトを調べて、あの人らしき人物のログを見つけてくれた。


 そして同時にもう一つの消えたアカウントの人物の名を思い出す事になった。


 二人は会話サイトでメッセージを送り合い、大盛りあがりをみせていた。


「これが消えたアカウントの二人の会話だと、君にはわかるのかね」


 チャット式の会話サイト。不特定多数の匿名の人間が利用するため、ここでその二人を断定するのは難しいはずだった。


「彼の作品が好きだったからわかるのよ。彼の文章の入りには癖があって、曜日事に最初の『、』の位置がズレていくの」


「この『おっは、』と『おはよう、』とでは確かに利用している曜日が違うね。これは水曜日と木曜日だね」


 月曜日なら「お、おはよ」 火曜日なら「こん、ちわ」など、最初の挨拶でわかるようにしていた。


「あと、自作キャラの真似ね。語尾を揃えるからわかるでしょ」


 そんな法則よりも私がショックなのは、好意を感じていた彼と、記憶になかった彼女との会話の中身だ。


「おっは、今日も元気にしてるかにょん」

「ちっす、今日は気分最悪にょん」


 そんなバカバカしい、でも親しそうで羨ましい会話がいくつも発見出来て、私は苛々してしまった。


 疎外感に打ちひしがれる。私は彼らに取って、蚊帳の外の人物だった。仲良いつもりでも、彼の事も、彼女の事も作品を通してしか見てなかった。


 そもそもそういう場ではないのだなら、私は間違ってない。サイトの仕様上、彼らが退会するまで気づけなかったのは仕方ない事だと思った。


「本当にそうなのかね」


 最初に声をかけて来た時と同じように真守 葉摘が指摘する。本当に容赦なくて嫌な人だ。


 記憶になかったアカウントの子に対して、私は共感を装おって適当に感想を書いていた。


 彼女に対して私の取っていたスタンスは、機械のように決まっていた。


・とにかく凄い凄いと何でも褒める。

・きっと上手く行くよ、と根拠もなく持ち上げる。

・恋愛話には応援してるから、の一点張り。


 だいたいそんな感じ。流し読んでワードを拾って、いかにも読んだ感じに触れるだけ。


 感想なのに、感情のない作業のような言葉ばかり。だから他にも沢山いる仲間の中で、彼女の記憶だけが抜けていた。


 そして彼女が投稿作品を通して彼に恋する気持ちをあげていたのを、私は適当に感想を書いて、応援のメッセージを送っていた。


 まさに自業自得。ヒントはいくらでもあったのに、私は親身になっていい人ぶって、敵に塩を贈って、出し抜かれているのにも気づかなかった。


「さて、手間がかかったが君が残っていてくれて助かったよ」


「なんのこと?」


「おや、わからないかい。私の噂を聞いているのなら、君に声をかけた理由を察したまえよ」


「なによそれ。でも、待ってオカルトに関係あるの?」


「残念ながらなかったが、事件にはなるようだ」


「……はぁ?!」


 思わず馬鹿みたいな声を上げてしまった。どこに事件性があったって言うのだろう。


「君は良識的で誘いに乗っからずに済んだまでの話だ。考えてもみたまえ。物語の投稿サイトがきっかけだとして、会話サイトにまで移行した。それで満足するのかね」


 真守 葉摘が何が言いたいのかは分かった。きっとメッセージで満足出来なくなれば、リアルが待っている。


 でも、それだけだと事件性にならないよね。事件になる意味だって分からない。


「君は理由なく消えてゆくアカウントについて、詳しく追った事はないのかね。退会理由を深く考えた事もないようだね」 


 私は確かに今まで退会した人がいなかったので、気にも止めてなかった。何より薄っぺらい関係性でも良くて続けているのだと、思い知らされた。


 求めているものが違う、ただそれだけ。淡い恋心も、結局はそうした気分に浸りたいだけ。嫉妬したり苛々したりするのは、本気じゃない自分を飾りたかっただけだ。


「退会の理由は色々あることだろう。だが一つ一つの退会者について調べた所、いくつかおかしな共通点があったのさ。それが君のお気に入りの彼だ」


「彼が退会者の原因を作っているって事?」


「そうだ。記憶に残らないと言いながら、君は彼女の作品上で彼の感想メッセージに気がついたのだろう?」


 そうか、きっかけはきっとそれだ。好意を持つ相手の興味を探っていた私は、彼女の存在に気がついた。希薄な人間性を好みながら、やはりほんの少しだけ心が揺れていた。


「君がどういう気持ちでメッセージを送り続けたのかわからない。ただ顔が見えない相手の真意がわからぬままに、彼女は危険な一歩踏み出す勇気を君から貰ってしまった」


「貰ってしまった……?」


 まただ。引っかかる言い方。


「君が指摘したように両者の作品には強い特徴がある」 


「……」


 何だろう、凄く胸がざわつく。


「彼女の作品を記憶したくないのはいわゆる負のイメージが強かったからではないかね。いつも褒めそやし、励まさないと消えそうで」


 言われてみればそうだ。機械的に、定型的なメッセージになったのも毎回そればかりで疲れるからだ。


 でも心の闇を抱えた人に、心無い言葉やぶった切る言葉を送る真似は出来ない。激励だって、毎度毎度続けば、厳しく叱咤したくもなる。


「君は親切で本当に優しいのだろう。だから毎度同じで変化がないなら、強く出て変えてやりたくなる」


 初めて真守 葉摘の言葉に救われた。そうだ、だから私はその思いを物語という場で表現する。


 直接伝えられたなら、どんなに楽な事か。言いたい、でも言えない。


「話を戻そう。彼の方も一見するとまともなようで、危険な兆候を文字で表している」


 真守 葉摘はそう言うと、自分の使うタブレットから彼の文字を見せた。


「彼は名前……ユーザー名やハンドルネームを呼ぶ時も、わざわざ『、』 で切っている」


 『、』 は曜日を表すのではなく、彼の中では言葉のナイフそのものだった……?


 名は本当の名ではない。でも『、』 で区切られるのは、なんとなく気持ち悪い。


「病んでいるもの達同士が惹かれあって、出掛ける決意をしたとしよう。その後彼らはどうなるのだろうね」


 マイナス同士の出会いを掛け合わせるとプラスに転じると言うのならば、二人はサイトなど必要せずとも幸せなはずだ。


 今なら私も素直に祝福するよ。ほんの少しでも彼らの幸せに貢献したものとして。


 しかし彼の方が名を斬るようなヤバい人物ならば、退会のメッセージは痕跡を消すものと化す危険な印となるのかもしれない。


 言葉巧みに出会いを促して文字通りバラバラにしてしまうのか。マイナスとマイナスが足されてさらに深みへ沈むように消えて行くのか……。


「このユーザーは退会しました」このメッセージが示すのは果たしてどれなのだろうか。


 ────本当に危ないのは、退会したのではなく、何も更新されず放置されたままの状態の中にあるのかもしれない。


 いつでも見る事が出来るからと言う安心は、裏を返せば見ないままで済まされている事でもある。


 サイトが開いて残る限り、誰にも気づかれないまま放置されたユーザーページに魂が宿っているのか、私は調べるのが怖かった。



 そんな私を気遣っているのか、真守 葉摘は微笑むばかりでそれ以上は何も教えてはくれなかった。

 お読みいただきありがとうございます。公式企画 春の推理2024 メッセージ、第九作品目となりました。


 退会に関して色々な理由があるかと思います。メッセージを残して活躍の場を移したのなら、寂しいだけで会えない事はありません。規約違反をしてしまい、退会となる事もなくはないでしょう。


 良くも悪くも何らかのアクションがあった後に退会に至る分には、少なくともユーザー自身の行動の結果が見て取れます。


 悲しくとも、生きてさえいれば何処かでまた会えるかもしれない。


 しかし、作中にもありますが一番心配なのは、作品を放置したまま止まっている事でしょう。


 言葉もなく活躍の場を移したのか、忙しいだけなのか、筆を置いたのか、それとも……。

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