第8話 初めての依頼と異常な二人
木製の依頼ボードに張られた依頼書を見て、ハクアと相談する。
「私達のランクはFだよな? どれが良い? 」
「そうですね。これとかはどうでしょう」
ハクアが軽くジャンプしてぺりっと剥がしたのは「建築資材運搬」の依頼書。
肉体労働か。
出来ないことはないとは思うが心配だな。
「思っているよりもお似合いだと思いますよ? 」
「ほぅ。ハクアには私がムキムキに見えるのか」
「ち、違います。ル・エキナ様に強化された今のヨウコさまなら適任かと考えたのです」
私が目を細めるとハクアが慌てて弁明してきた。
あ、なるほど。
確かにこの超絶肉体は力仕事に向いている。
納得して依頼を受注することに。
受付嬢が心配そうな顔をする中、私達は依頼主の所へ足を向けた。
★
冒険者ギルドを出て、ハクアの案内の元、依頼主の所へ向かう。
森を出る時も思ったがハクアはいつの間に道を覚えたのだろうか。
この世界に来たことがあるのか魔法のようなものを使っているのか。
考えてもわからない。
疑問に思いながらも彼女に色々聞くにはまだ関係性が薄すぎる。
もっとハクアの事を知って、知る必要があると思ったら聞いてみよう。
「着きました」
考えていると声がかかる。
顔を上げると、そこでは私の身長の三分の二程度の男達が石材やら木材やらを運んでいる。
「ドワーフ族ですね」
長い顎鬚を蓄えた筋骨隆々の小人はドワーフ族らしい。
姿と種族名が一致した所でその力強さに驚く。
体の何倍もある木材を悠々と運んでいるからだ。
「さて依頼主を探しましょう」
そう言いハクアが足を進め始めた。
彼女について行くと、ハクアの背丈ほどのドワーフ達が「なんだこいつ」みたいな目線を送ってくる。
服装が場違いなのはよくわかっているので気にせず進む。
右に左に依頼主を探しながら再度依頼書に目線を落とす。
今回の依頼主は土木業の親方と呼ばれている人で内容は建築用の石材や木材を運ぶ仕事。
どこにいるのか探していると一人指示を出しているドワーフを発見。
「……なんだ嬢ちゃん達」
近付くと訝しめな顔をして聞いてきた。
冒険者ギルドの依頼として受けにきたというと更に額の彫りを深めた。
「舐めてんのか? 」
「そんなことはありません」
「女子供に出来る仕事じゃねぇ! 」
「これでも私達は魔法が使えるので」
親方ドワーフが大きな声で叫ぶがハクアが怖気ずニコリと言った。
私のハイスペックな肉体を使う予定だったのでは? と思うも口を閉じる。
こういうのはハクアに任せた方が良い。
現にハクアが「魔法が使える」といったことで親方ドワーフの勢いが止まったからな。
「……っち。仕事ができるんなら何も言わねぇよ。おい」
「へい! 」
怒りから一転めんどくさそうに近くのドワーフを呼んだ。
すると周りのドワーフよりも少し背の高い人がこちらにやって来て「どうしやした? 」と聞く。
「こいつらを連れていけ」
「……いいんですかい? 」
「こいつらが大丈夫だってんだ。構いやしねぇ」
それを聞きどこか納得のいかない表情をする彼。
渋々といった感じで私達を誘導した。
「ここが材料の置き場だ」
現場から離れて町の入り口近くまで連れていかれた。
倉庫のような所に着くとそこには山積みとなった石材や木材が置いてある。
「本当に大丈夫か? 」
「任せてください」
ハクアが言う。
この世界の石材の重さがどの程度かわからないが運べない事はないだろう。
そう思っているとハクアが手をかざしていきなり魔法を唱えた。
「収納」
「「……え? 」」
魔法陣が展開されたかと思うといきなり石材と木材が消えた。
なにが……、と困惑しているとハクアが私とドワーフの方を向いて一言言う。
「では行きましょう」
「いやちょっと待て。今さっきのは何だ」
「収納魔法ですよ」
それを聞き納得する。
あぁ~、いきなり収納したから消えたように見えたのか。
額に手をやっているとドワーフの男が我に返る。
「まて。収納魔法といえば高等魔法。しかも入る量は小袋一つ分くらいだったはずだ」
「そのような常識、わたし達には通じません」
「……マジか」
「私は使えないのだが? 」
「覚えれば使えるようになりますよ。収納魔法」
「……今度教えてくれ」
本当に非常識な体だな、と思いながらも結局私は何もしていない事に気が付く。
少し気落ちしながらも「さ、行きましょう」というハクアの言葉に促されて、現場に戻った。
★
「尻尾撒いて逃げて来たか? 」
戻ると「見たことか」と言う表情をする親方ドワーフ。
だが反対に興奮した様子で案内してくれたドワーフが親方に詰め寄る。
「親方! こいつらすげぇよ! 」
「あん? 何がだ」
「魔法だ魔法! 」
「魔法がすごくても依頼を失敗してるじゃねぇか」
親方は訝しめに彼を見るが、彼は私達を指さして興奮しっぱなし。
親方ドワーフも疑っているみたいだしここはひとつ、ということでハクアを見る。
するとコクンと頷いて、誰もいない所に手をかざした。
ズドン!!!
大きな音その場に響く。
音に驚いたのか周りのドワーフ達が一気に同じ場所を見た。
「なんだこりゃ?! 」
「一体何が……」
「ま、魔法か?! 」
周りが騒然とする中、親方ドワーフは口を開けて唖然としている。
少し面白い表情になっているが笑ったら失礼だな。
我慢していると我に返ったのか親方ドワーフがこちらを向く。
そして指示を出してきた。
「……依頼を出した時は運ぶだけにしようと考えていたが変更だ。そこの冒険者」
親方ドワーフが私を見上げて、石材や木材がある方向へくいっと顎をやる。
「あれ。言った所に運べるか? 」
「もちろん」
私の役目は残っているようだ。
★
ハクアが出した石材を私が運ぶ。
今行っているのは建物の基礎作りらしい。
といっても専門的なことはわからない。
言われたところに私が運んで、専門のドワーフ達が調節していた。
彼らの仕事は早くて職人的。
じーっと石材を見て、微妙なずれを補正していく様は、流石だと思った。
「……どんな鍛え方をしたんだ」
私が石材を強化魔法を使わず運ぶ姿をみて他のドワーフ達が少し引いていたが、気にしない。
文句は神様君に言ってほしい。
「よし。お前ら一旦休憩だ」
「「「へい!!! 」」」
親方ドワーフの一声で全員手を止め荷物置き場のような所へ向かって行く。
その様子を見ながら私は腕を天高く伸ばしてストレッチ。
「ん~~~。終わった」
少し残った疲れが一気に抜けていくようだ。
「お前さん達もメシ食うか? 」
親方ドワーフが、最初のトゲトゲしい感じが抜けた声で聞いてくる。
そういえば昼食、考えてなかったな。
「良いので? 」
「……本当は出す予定はなかったが、ここまでしてもらって出さないわけにはいかないだろ」
「なら頼む」
「了解だ。おい! 定食を追加しろ! 」
「へい! 」
親方ドワーフに指示を出された人が近くの建物に駆け足で行く。
良い香りが漂う中、「ぐぅ~」とお腹を鳴らして少し赤面。
けれど、異世界の料理。楽しみだ!
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