第7話 冒険者ギルドに登録してみた
温かいものに包まれている。
意識が昇ると落ち着く匂いがしてくる。
「ん」
意識と共に光を感じる。
朝か、と思いながらも瞳を開ける。
するとそこには、水色と白色の横縞ブラジャーを着けた――四足獣がいた。
「またかよ! 」
起き上がり、横たわる大きなお稲荷さまにツッコミを入れる。
すぅー、と寝息を立てながら前足をこちらに向けている。
可愛らしいのだができれば人型であってほしかった。
状況から察するに私は彼女を抱き枕にして寝てしまっていたようだ。
温かいはずだ。
何せこのもふもふ感。素晴らしい。
「起きましたか? ヨウコさま」
「え?! ハクア?! 」
声がする方に目をやると、入り口からハクアが入ってきていた。
どういうことだ?! ハクアが二人?!
「あ、そっちは幻影のような、影分身のような……ものです」
「オーケー、つまりハクアは分身か分体のようなものを作れるということだな」
「理解が早くて助かります」
ニコリと笑みを浮かべると横たわるハクア二号が瞳を開ける。
大きく長い口を開けて「コン」と鳴くとハクア一号の方へと吸い込まれていった。
――どういう原理だってばよ。
「皆さんがお待ちです。さぁ行きましょう」
ツッコミどころ満載な朝だが、一先ず私は再度非現実へ足を踏み入れた。
★
朝一で町に入った私とハクアはレナ達とトトさんのやり取りを見ている。
現地での本格的な冒険者のやり取り。
とても新鮮だ。
トトさんがシュッシュッと紙にサインしたかと思うとレナ達がそれを確認している。
顔を上げるとレナの表情が歪んでいる。
何か問題でもあったのだろうか?
「少々金額が多いように読めるのだが」
「賊に襲われましたので。それから護っていただいた、せめてもの謝礼となります」
「しかし護ることも含めての依頼のはず。受け取る訳には」
「特別報酬としてお渡しできる範囲です。ギルドの規約に触れないのでご安心を」
多めに金額を貰って戸惑っていたのか。
契約金以上の金額を出されて警戒するのはとてもわかる。
トトさんが説明するもレナはまだ困ったような顔をしている。
戸惑う気持ちがわかるので「うんうん」と頷いていると、レナの黒い瞳がこちらを向いた。
何だろうか、と首をかしげると彼女は口を開いた。
「ならばこの報酬を受け取るべきはヨウコ殿ではないだろうか」
「え? 」
「むろんヨウコ殿にも別途お渡しする予定ですのでご安心を」
言いながらトトさんは一歩前に進んだ。
腰にしているポーチに手を当てたと思うと何やらカードのような物を二枚こちらに差し出した。
「これはワタクシの商会傘下宿の、会員証のようなものになります」
「「会員証? 」」
「エヴァンスホテルという宿なのですが、こちらでの宿泊が無料となりますので是非ご活用いただけたらと」
うっすらと銀色に光るそれを受け取ると「マジか」とブリッツの声が聞こえてくる。
振り向くとレナとノナも驚いたような表情をしている。
「エヴァンスホテルといったら高級ホテルじゃないか」
「そ、そこが無料ですか」
「……すげぇ」
高級ホテル?!
驚いてトトさんを見ると苦笑いを浮かべていた。
本当なのか。
しかしそこまですごい人だったとは。
「ともあれ皆様この度はありがとうございました。またご縁がございましたら是非よろしくお願いします」
トトさんが礼を言いながら頭を下げる。
私達も再会の約束をして、冒険者ギルドへ足を向けた。
「昨日は乗り気じゃなかったみたいだったが、何故今日急に冒険者になると決めたんだ? 」
レナ達にギルドへ案内してもらっていると、レナが私に聞いてきた。
確かに乗り気ではなかった。
夢潰え、気分はダダ下がりだった。
しかし身元不明の旅人がお金を稼ぐにはこれ以上ない職なのは事実だ。
がそれをそのまま言うわけにもいかず、少しぼかしながら説明する。
「昨日ハクアと話し合った結果、冒険者になることにしたんだ」
「わたし達もそろそろお金に困りそうになってきたので」
すかさずハクアが付け加える。
レナが「なるほど」と頷くと次はノナがこちらに向いた。
「今まではどのようにお金の工面を? 」
「魔物を討伐して素材を売ったり、ですね」
痛い所を突かれたと思ったがハクアが対処。
流石だ。
「ならもったいなかったな。ギルドに登録していればランクも上がっただろうに」
「ですね。なのでこれを機に登録を、ということです」
ハクアが返し三人は納得。
少しの談笑を挟んでいるといつの間にか冒険者ギルドに着いた。
「ここが冒険者ギルドか」
煉瓦状の建物の中に入ると武器を持った人達がちらほら見られた。
思ったよりも空気は清浄で埃っぽくない。
土足で、しかも毎日人が出入りするからもっと汚れているのかと思ったが、これはいい意味で予想外。
職員が何かしらの魔法を使って清掃しているのだろうか。
「あそこが受付になる。そこで手続きをしよう」
「それと俺達の達成報告も」
レナの長い腕の先を見ると受付嬢がそこにいた。
私が向くとニコリとするので、思わずペコリと頭を下げてしまった。
まだ日本にいた感覚が抜けていないらしい。
足を進めながらもぐるりと周りを見る。
もっと賑やかなイメージだったが閑散としているな。
ちらっと聞くと「朝皆仕事に行っている」とのこと。
答えに納得している受付に着く。レナが「二人の登録手続きを」と彼女に頼むと、別の受付に行ってしまった。
「ではこちらにご記入ください」
一通り説明を受けた後私とハクアは羽ペンをとる。
必要事項にチェックを入れると受付嬢にそれを出した。
「確認致しました。では少々お待ちください」
そう言い受付嬢は、四角い――機械のようなものに紙を通す。
「なんだこれ」
思わず言葉が漏れてしまった。
私の言葉を受けてか苦笑気味で受付嬢が答えてくれる。
「これはギルドカードを作るための魔道具になります」
「へぇ。そんなものが」
「ランクアップの時にも使います。といってもこれは一般的なものになりますので、付与できるランクに上限がありますが」
すごいものだな、と異世界の技術に少しワクワクしながら待っていると魔道具からカードが出て来た。
それをもう一回繰り返して、長方形のカードをこちらに渡してくる。
「こちらが冒険者ギルドのギルドカードになります。紛失・破損した場合、再発行は可能ですがお金がかかりますのでご注意を」
「わかりました」
「ありがとうございます」
説明を終えてお礼を言う。
受付から離れ光に照らすとブロンド色のカードが光り輝いていた。
「綺麗だな」
「そうですね」
「終わっただろうか? 」
光沢を放つカードを見ているとレナの声が聞こえてくる。
振り返り頷くと安心したのか顔が緩んだ。
「ならよかった。めぼしい依頼はもうないから私達はこれから一休みするが、ヨウコ殿とハクア殿の予定は? 」
聞かれてハクアと顔を見合わせる。
「どうする? 」
「幾つか依頼を見て休憩に入りますか? 低ランクの依頼ならまだ残っているかもしれませんし」
ハクアの言葉に「そうだな」と答えてレナに向く。
言うと「確かに」と答えて、彼女達とここで別れることに。
「また会える日を楽しみにしている」
「お前が楽しみにしているのは料理じゃないのか? 」
「う、うるさいブリッツ」
「ではまた会う日まで」
ノナが一礼して締めくくった。
三人はそのままギルドを出たのだが、ブリッツがボコボコにされていた。
彼は果たして大丈夫なのだろうか。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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