第6話 野菜炒めと稲荷「白亜」
「お待たせ」
「「「おおおーーー!!! 」」」
漂う香ばしい匂いの影響か、四人一緒にフライパンの野菜炒めを覗き込んでいる。
取り分けるから、と言い少し離れてもらい二枚のヘラで皿に盛る。
ハクアがそれぞれに渡すと、それぞれ地面に座る。
私も野菜炒めを渡され地面に座ると、彼らは目を輝かせすでに木製のフォークを手に持っていた。
「じゃ、食べよう。いただきます」
「いただきます」
「「「恵みに感謝を」」」
祈りの言葉を口にしてぱくりと野菜を口に運ぶ。
「んんん~~~!!! 美味しい! 」
「何だこれ?! 食堂の野菜炒めよりもうめぇ! 」
「このシャキシャキとした歯ごたえからは想像がつかない甘い味。これは一体......」
「戦闘だけでなく料理もこの腕前とは。もしや以前に食堂でも開いていたので? 」
「いやそんなことはない」
野菜炒めで大袈裟な、と思いながらも口に入れる。
うん。我ながら上出来だ。
キャベツの芯の甘さが良く出てる。
「きつね色の玉ねぎがこれまた甘いですね」
ハクアももぐもぐ食べて顔を綻ばせている。
食事を作った者としては、美味しく食べてくれる人がいるのは嬉しいな。
今まで作る相手がいなかった分、ハクアや彼らの反応はとても新鮮だ。
料理を始める前、トトさんが渡してくれた食材はキャベツに人参や玉ねぎなどだった。
多様な食材を見る限り、どうやら様々な所から食材を受け取った後に襲われたようだ。
不運この上ない。
渡された食材を見てすぐに思いついたのが野菜炒め。
丁度ハクアが塩胡椒を持っていたので、薄く油を敷いた後野菜に振りかけ炒めたのだ。
フライパンはハクアが持ってきたものを。
火元となる木の枝は冒険者達に集めてもらい、着火で火をつけた。
キャベツを丸々使って料理したので全部食べ切れるか心配だったのだが、杞憂だったようだ。
「うめぇ!!! この歯応え堪んねぇ!!! 」
「こらブリッツ。もっと大人しく食べろ」
「レナちゃんは大人しく、綺麗に食べていますね。全部」
「ノナ?! そんな私が大食らいみたいな言い方はよせ」
「食べないのですか? 」
「……食べる」
レナは少し恥ずかしそうにしてノナに皿を渡す。
ノナはヘラで器用にとってレナに出した。
「野営で温かい、しかもこんなに美味しい料理にありつけるとは」
レナから涙が零れている。
そこまで感動しなくてもと思いながらも食材をまた口に運ぶ。
「うん。美味い! 」
★
食器を片付けた後、私とハクアはテントへ向かう。
野営には火番がつきものと考えていたが、他の四人がやってくれることになった。
助かるのだが申し訳ない気持ちが半分を占めている。
「料理の対価、と思えばいいとおもいますよ。彼女達もそう言っていましたし」
「分かってはいるが……」
苦笑しながらも顔を上げる。
テントの中に足を踏み入れ驚いた。
「……え? ワンルーム? 」
「外のテントは偽造のようなものです。中はわたしが作った異空間と繋げています」
「いや普通に日本のワンルームじゃないか」
中を歩きながら懐かしい内装を見渡す。
死んで約一日程度なのにこの内装を懐かしく思うとは。
「わたしの個室はこの程度。ヨウコさまに与えられた異空間はもっとすごいはずですよ? 」
「え、それちょっと困るんだけど」
与えられてもどう使えと?
ソファーにベッド、シャワールームに乾燥機まであるんだけど。
快適さを重視した部屋に引きながらも観察する。
すると冷蔵庫やフライパンを見つけた。
「……ハクア。もしかしてだが、ポーチとこの異空間を繋げれたりする? 」
「はい。出来ます」
両手を前にしてにこやかに言うハクアの言葉に納得した。
ポーチの中をどう整理していたのか気になっていたがこういうことか。
ここに整然と並べて食材や調味料、刀を取り出していたのか。
本当に豪華な置き場である。
「ハクアはすごいんだな」
「ふぇ?! 」
「人が普通に住める空間を作れるなんて。流石我が家のお稲荷さまだ」
「あ、ありがとうございます。そ、それでは今後の事を話したいので、こ、こちらへどうぞ」
ハクアが少し慌てながらソファーに座るように合図する。
机を挟んで彼女が正座し白く大きな尻尾を前に持ってきた。
流石に私だけソファーに座るのは可哀そう。なので隣に来るようにハクアに言う。
断られたが何度も挑戦している内に、ついに折れてハクアが私の隣に座った。
「ではヨウコさま。明日からのご予定なのですが」
「モフりたい」
「え? 」
「……続けてください」
恥ずかしいっ!
けれどあの大きなもふもふ尻尾を思いっきりモフりたい!
我慢だ我慢。
「……コホン。では明日からなのですが、まずはお金を稼ごうと思います」
「それは必要だな。地球の料理を広めるにしてもお金がないと私の異能「交換」は使えない」
「この世界の料理をアレンジしても良いのですが、ベースとなる料理を覚える必要がありますので。やはり最初は「交換」頼みになりますね」
だな、と頷いていると大きな尻尾が私とハクアの間に潜り込んできた。
え。モフってもいいの?
真面目な顔をしつつも、ちらちらとハクアを見る。
ハクアも真面目な顔をして話を続ける。
しかし仄かに顔が赤い。
「やるのならば冒険者業が良いでしょう」
「……夢や希望を無くした所なのだが」
「お金を稼ぐには一番かと。実力さえあれば稼げる職業ですし、商人との人脈が出来れば直接売買もできるでしょう」
「例えばさっきのトトさんみたいに? 」
尋ねるとハクアは大きく頷いた。
「トトさまがどの程度の御仁かはわかりません。しかし今回の様に縁を繋いでいくことは、悪い事ではないでしょう」
白い尻尾を眺めながら「んんん~~~」と唸る。
ちょん、ちょん、と尻尾を触りながらハクアに聞く。
「それなら「交換」で調味料を売ればいいんじゃないのか? 」
「ひゃぁっ……。コホン。短期的に見れば良いかもしれませんが、長期的に見れば悪手と思います」
「何故? 」
「突き詰めると「どこから仕入れたのか」という問題に発展するからです」
あぁ~なるほど。
今の所、別大陸産としているけれど将来的に言い訳が難しくなるということか。食材や調味料には量の問題もあるし。
ということはこちらで同じ食材か代わりとなるものを見つける必要があるな。
これも課題の一つか、と考えていると目線が尻尾に吸い込まれていく。
そしてついに大きな尻尾に抱き着いた。
癒される……。
なにこれ柔らかい。そして温かい。このまま寝そう。
「く、加えひぇ、ル・エキナ様はこの世界全体の成長を望んでいます。出来ればこちらで採れる食材を使った食文化の発展を……。寝てしまいましたね」
ハクアの言葉を聞いていると視界がブラックアウトした。
「ヨウコさまは頑張り過ぎなのですよ。前世は上手くいきませんでしたが、今世こそはわたしがお傍に」
何やら声が聞こえてくる。暗闇の中どんどんと意識が沈んでいく。
優しい感触が体を覆う中、私はついに意識を手放した。
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