第5話 商人トト・エヴァンスとの出会い
森を出ると広い道が広がっていた。思っていたよりも整地がされている。
流石にコンクリートではなく土だが凹凸が少ない。
「頻繁に商人でも通るのか? 」
かもしれませんね、と頷くハクアと共に道を行く。
培った知識を生かしながらも道を観察。
隠しきれていない車輪や足跡から察するに交通手段は馬車かそれに似たようなものだろう。
顔を上げて隣を歩くハクアの奥側を見る。するとさっきまでいた森が目に入った。
どうやらこの森は広いようで、更に向こうに見える白い壁のようなものに迫っている。
「……馬車が襲われているな」
強化された視覚で視線をずらすと武装した人達が戦っている。
一方は馬車を守る形で、一方は馬車を襲う形で。
「どうされますか? 」
「助けるに決まっている」
「揉め事に巻き込まれるかもしれませんよ? 」
「それでもだ」
ハクアが心配そうに赤い瞳で見上げてくる。
彼女の懸念はもっともだが、助けられる人を助けないと後で後悔するだろう。
ハクアの頭を軽く撫でて前を向く。
そして強化された体で、走った。
★
体の周りに丸い防壁を張りながら走る。
敵は見えるがまだつかない。
唇を噛みしめながらも敵の数を確認した。
「五人か」
それほど大きな集団ではなさそうだ。
けれど油断は禁物。
何せ対人戦はこれが初めてなんだから。
気を引き締めていると金属音が聞こえてきた。遅れて怒声や拒絶するような声が聞こえてくる。
「へへへ。手こずらせやがって」
「くそっ! 」
「……いやぁ」
さらに加速する。
視覚強化なしでも見える所までつくと防壁を解除し刀に手をやり軽く、抜く。
――刀を持つのは久しぶりだ。
一帯に殺気のようなものが飛び散っている。
けれどそれを無視してさらに走る。
軽装の男が膝をつき、赤髪の騎士風の女性が戦っている。
後衛まで接近を許したのだろう。白い服を着た女性に悪漢が迫っていた。
――させない!!!
「神守流: 紫電一閃」
「がぁっ?! 」
刀の峰で吹き飛ばす。
ドッドッ! と音を立てながらも遠くまで吹き飛び、賊は沈黙。
ドン! という音を立てて急停止し、次の獲物に目を移す。
けど――。
「何だ?! 」
「わたしもいますよ。土槍」
私の方を向いていた人達が声の方を見る。
瞬間に、悪漢達は串刺しになっていた。
私よりもえげつないな。
「わたしはあちらを回収してきます」
「よろしく」
ハクアに私が吹き飛ばした賊の回収を頼むと爆速で向かった。
あの賊がこのあとどうなるかはわからないが、見ない方が良いだろう。
くるりと回って襲われていた人達の方を見る。
ポカーンと口を開けて状況を読み込めないという雰囲気だ。
「あぁ~。ピンチそうだったから突然割り込んだんだが大丈夫だったか? 」
尋ねると現実に戻って来たのか三人は「はっ」となる。
コホンと軽く咳払いをすると赤髪の騎士風の女性が前に出た。
「おかげさまで大丈夫だ。助力感謝する。私はこの冒険者パーティーのリーダーをしているレナという」
「私は旅人のヨウコだ」
「わたしはハクアと申します」
いつの間にか隣に来ていたハクアが自己紹介をした。
そしてそれぞれ自己紹介をして状況を説明してくれた。
「私達はこちらの方の護衛をしている所だ」
「もう少しで町に入るという所で賊に襲われてしまいまして」
レナが言うと白い服の神官ノナが付け加えてくれた。
あとちょっとだったのか。
狙っていた賊の目が良かったのか、それとも彼女達の運が悪かったのか。
考えながら話していると男性の声が聞こえて来た。
すると軽戦士風の男ブリッツが馬車の方へ足を向けた。
その様子を全員で見るが特に指摘しない。
恐らく依頼人と話しているのだろう。
彼をおいて、冒険者について聞いてみる。
彼らは本業。どんな仕事か気になる所だ。
「今回のように護衛依頼を受けたり、討伐依頼を受けたりだな」
「ランクの低い間は薬草採取や町の手伝いが殆どですけど」
「冒険者をする予定があるのだろうか? 」
「まぁ、気が向いたら? 」
曖昧に返事をする。
やはりというべきか冒険者ギルドは職業斡旋業のようなものだった。
ほんの少し「未知を探究する」という職業かもしれないと期待したのだが、想像通り。
テンションを落とす私を訝しめに見てくる二人に「なんでもない」と答え雑談を続けていると、ブリッツがこっちにやってきた。
「トトさんが是非お礼をしたいって」
「「トトさん? 」」
私とハクアが首を傾げると彼は「依頼主だ」と答えてくれた。
彼はその人に、私達と会ってくれるか聞いてほしい、と頼まれたそうだ。
押し付けるように出てきてもいいのに律義だな、と思いながらもそれを承諾。
すると大きな荷馬車の後ろから恰幅の良い人がやって来た。
「この度は助けていただきありがとうございました。ワタクシ、エヴァンス商会のトト・エヴァンスと申します。以後お見知りおきを」
トト・エヴァンスと名乗った男性はどこか気品あふれる仕草で一礼する。
ゆらりと頭を上げると切りそろえられた茶色い髪と髭が目に入る。
慌てて私とハクアも自己紹介をして旅人であることを告げた。
「なるほど。あと少しで町に着きますがご一緒しませんか? 」
その申し出にハクアと顔を見合わせた。
「どうする? 」
「……わたしはヨウコさまについて行くだけなので」
そう言われると非常に困る。
あと少しで町につくのは本当だ。
旅人と名乗っているから、もしかしたらこのトトという人は私達から旅の話でも聞きたいのかもしれない。
けれど話せるはずもない。
何せ私はこの異世界に来たばかりなのだから。
メッキがはがれるくらいなら共に行かない方が良いだろう。
しかし相手は商人。
縁を作っておくと今後何かしら力になってくれるかもしれない。
主に食材で。
「なぁハクア。即興で旅の話を作る事は出来るか? 」
「任せてください! 」
ポンと可愛らしく胸を叩く。
それに安堵して決心する。
ハクアからトトさんに目を移して一緒に行くと答えた。
★
「門限~~~」
「ま、こんなこともありますよ」
「こればっかりは仕方ねぇ」
「この辺は魔物が活発だからな。町に入れないためのものなんだが」
「き、気落ちしないでくださいお二人共」
四人が私達に声をかけてくれる。
この周辺は魔物が活発なのか。
情報を整理しつつ頭を上げると、トトさんが野営道具を広げていた。
それに負けじとハクアが簡易テントを張った。
「! それは?! 」
「テントです! 」
「見たことのないテント! これも旅で? 」
道中ハクアは、私も引くほどの作り話で会話を盛り上げた。
いつの間にか私達は別の大陸出身となったのだが、その時色々な道具を持ってきたことになっている。
よって一点物が多く、渡すことができないと説明しているのだが、その間にもトトさんが別大陸に思いを馳せているのを見て、未知の道具に未知の大陸はロマンあるよな、と心の中で同意した。
目を輝かせるトトさんから目を移し冒険者達に向ける。
何か齧っていると思い聞いたら携帯食との事。
「これ味がないんですよね」
「食べれるだけマシだろ? 」
「なら何か作ろうか? 」
言うと三人とも驚いたような目をした。
「異なる大陸の料理。気になりますね。食材は出すので私の分も作ってくれはしませんか? 」
話が聞こえたのかニコニコ顔でやって来るトトさん。
「そんな珍しい物を作る予定じゃないんだが」
「構いませぬとも。同じ料理でも風土や作り手が変われば味が変わるのが常ですから」
なら断る理由なんてないな。
では早速作ろうじゃないか。
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