第4話 試しに魔法を使ってみた
「わたしのことはハクアとお呼びください」
森を出るため歩いていると、白亜様と言っていたらそう言われた。
しかし自分の実家が祀っている神様を呼び捨てに出来ないだろう。
説明したのだが彼女は自分を呼び捨てするように迫ってくる。
何でそこまで頑ななのかと聞くと答えてくれた。
「あの駄神……、いえル・エキナ様の方がわたしよりも神としての格が遙かに上なのです。よってル・エキナ様の使徒である陽子さまに「様」付けされるわけにはいきません」
「……神様君のこと、おもっきり侮蔑を込めて名前を呼んでいる気がするが」
「気のせいです」
ニコリと言われると「はい」としか答えられない。
ということで私は彼女の事を「ハクア」と呼び捨てにして、ハクアは私の事を「ヨウコさま」と呼ぶことになった。
因みに名前はこれを機にこの世界に合わせ、そして旅をするにあたっての設定も作った。
私は単なる旅人の「ヨウコ」。そしてハクアは道中助けた狐獣人の女の子、という設定である。
しかし——。
「この巫女服どうにかならないのか? 」
一度足を止めて独り言ちた。
巫女服が嫌いなわけでは無い。この姿で異世界を歩き回るのが恥ずかしいだけだ。
加えるのなら歩き辛い。
「念じれば服や靴は変えることができますよ? 」
「これも変形するタイプかぁ。因みにこの世界にも似たような服はあるのか? 」
「ありますが、かなり稀少な物になりますね。それこそ国に一つあるかないかというレベルです」
「……人前で服の話をするのはやめておく方がい良さそうだ」
「それがよろしいかと。あとこの服でやりくりした方が良いと思いますよ? 」
「何で? 」
「この服は対刃、対魔、防腐、防汚などの魔法が込められているので」
「無駄なスペックよな」
あまりのスペックの良さに若干引きながらもハクアに教えられたように念じてみることに。
服は何が良いか。やはりラフな格好がいいだろう。
思い浮かべると体が光り始めた。
驚いているとハクアの声が聞こえてくる。
「いきなりですね」
突然光って驚いたのか一瞬目を瞑るハクア。
耳がぴくぴくとして少し可愛らしいな、と見惚れている間に光が収束していった。
「青いパーカーと黒色のジーパンですか」
「これが一番楽だからな」
「ヨウコさまらしい選択です」
「それは褒めているのか? 」
「もちろんです」
ハクアが笑みを浮かべると私は歩き出す。
私が選んだのは白いシャツに長袖・フード付きのパーカーと動きやすいジーパン。
大学の時よく着ていた服だ。
けど服の色も変えることができるんだな。
色を変えて楽しんでみるのも良いのかもしれない。
「と刀は……」
腰にしていた刀を探す。
差していたからそこら辺に落ちているだろう。
そう考え周りを見たのだが見つからない。
あれ? と思いハクアに聞こうかと体を捻ると、肘に何か当たった。
「……何で刀が腰についてんの! 」
「仕様です」
「いやいやいや。ジーパンにくっつくはずないだろ?! 」
「仕様です」
「無理があるって」
「仕様です」
「……はい」
張り付けた笑顔でハクアが復唱する。
気にしたらダメらしい。
私は嘆息しながらも切り替えて前を向く。
するとハクアが足を進め始めた。
私は彼女についていき、ハクアのナビゲーションの元、森の出口へ向かった。
★
「ん、なんかピリッとした」
「何か来ましたね」
森の出口まで後半分程度の所で肌がピリつく感じを受けた。
ピリつく感じは日本でも感じたことはあるが、それとは別種の何かだ。
「魔物でしょう」
ハクアが言うとすぐに私は腰の刀に手をやる。
警戒しながら周りを見るが、どこにいるのかわからない。
「どこにいるんだ? 」
「あちらのようです」
ハクアが指さす方を見るが木しかなく、その向こうは闇に包まれている。
よく見えるなと感心していると、私の隣から声が聞こえてきた。
「ゴブリンの群れのようですね」
「定番だな」
「ええ。しかし放置できる数ではありません。近くに村や町があると被害が出るでしょう」
「マジか」
「ということで、これを機に魔法を覚えましょう! 」
「なにが「ということで」なんだ?! 」
「普通の人にとってゴブリンの集団は脅威です。しかし、極限まで強化された今のヨウコさまの敵ではありません」
ハクアは拳を握り力説した。
あの駄神め。本当にレベル上げの楽しさを知らないな。
心の中で毒づきながらもやり方を教えてもらう。
自分の事情はともかくとして、町や村に被害が出るのなら殲滅するに限るだろう。
「手順は様々ですが基本はイメージです」
「詠唱は? 」
「詠唱はイメージを固めるもの。ヨウコさまは魔法現象に関するイメージは得意ですよね? 」
反論したいが、反論できない。
これでも高校から大学卒業まで染まっていた。
厨二病くさいセリフから魔法のイメージまでアニメと漫画で予習済みだ。
こんなところで役に立つとは。
複雑な気分になりながらも刀から手を放し、ハクアの説明を続けて聞く。
一先ず感覚強化を発動させてハクアが見ていた場所を見た。
「うげぇ。これが本物のゴブリン。顔が醜悪すぎるだろ」
「全く吐き気を催す醜さですね」
「本当だ。まるで部長を思い出す」
一刻も早く殲滅した方が精神の為になるだろう。
思い、発動させる魔法を考える。
火属性は......だめだ。燃やし尽くしたい気持ちはあるがここは森。火事を起こしたら洒落にならない。
ならば氷、か。
「いけそうですか? 」
ハクアの言葉に大きく頷き手をかざす。
強化された視覚の先で青く大きな魔法陣が展開さる。
今回が異世界初めての魔法だ。少し抑えて使ってみよう。
「凍り付くせ! 氷結領域」
放つと、いきなりの事で戸惑っていたゴブリン達が氷漬けになる。
そして――。
「粉砕」
ゴブリンの体が砕け散った。
「……流石ですね」
「……引かないでくれ。地味に傷つく」
「いえ初めて百以上のゴブリンの軍勢を瞬殺するとは。余程適正があったのでしょう」
褒められているのだろうが、褒められた気がしない。
ハクアの反応から私の氷結領域が非常識な威力なのはわかった。
最初ということで凶悪な名前の魔法を使わなくて良かったと思っておこう。
そしてよほどのことがない限り封印しておこうとも考えた。
「力加減は今後の課題ですが、先に進みましょうか」
ゆさゆさと白く大きな尻尾を揺らしながらハクアは出口に向かう。
私は揺れる尻尾を掴みたくなる衝動を抑えながらも彼女について行く。
さぁもう少しで森を出るぞ。
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