第3話 我が家のお稲荷さま
「え、うちのお稲荷さまってロリっ子だったの?! 」
聞くと少し苦い顔をしながらも、無理やり作った笑みを浮かべる。
――それどんな感情?
心の中で疑問に思いながらも、もしかしたら姿にコンプレックスがあるのかもしれない、と軽く反省。
彼女に謝りながらも何で日本の神様がここにいるのかと聞く。
「ル・エキナ様も日本に住んでいるので」
これまた衝撃の事実だ。日本、多神にもほどがあるだろ。
驚いていると彼女が更に説明する。
どうやら彼女は我が家の神社から派遣されて来たらしい。
実家大丈夫か? と少し心配していると彼女が近寄り、見上げ、聞いてきた。
「色々と疑問はあると思いますが一先ず陽子さまが授かった力を説明しても? 」
「あ、あぁ。頼む」
言うと一歩引き軽く咳払いをして説明を始めた。
彼女の話を要約すると私の基本的な力は強化された体に膨大な魔力、そして「交換」や「料理」、「模倣」のようだ。
それに加えて他にもあるみたいだが、ずっとここにいるわけにはいけないので今回は割愛。
「交換」の力は神様と物品を交換する力。
現実世界の物品をこの世界のお金と交換する力のことらしい。
「日本にいるル・エキナ様がそのお金を円に換えて買ってきて、こちらに渡してくれる仕様となっています」
「無駄にアナログ。だが……それ一人三役すれば、全部できるんじゃ? 」
「この方法は仲介役の人間がいないと無理ですね。例えできたとしても、料理をしようとしたら「完璧な」料理が出来上がってしまうので駄神には向いていないのです」
時々辛辣だな。このお稲荷さま。
尚も説明は続く。
「料理」はその名の通り料理すること。しかもこれはやったことのある料理だけでなく、やったことのない料理もできるようになるらしい。また食事を口にすることでそのレシピを手に入れることができるみたい。
最後に「模倣」は一度見たものを模倣する力。
料理との違いは口にしたことのないものでも料理を模倣することができるようだ。
なにこれすごいと思うも、どうやらこれは万能ではないらしい。
どんな能力か聞くも、実際に使ってみるとわかるということなので一先ず話を続けた。
そして神様的には交換で受け取った料理を模倣して文化を広げていってほしいらしい。
「実際に使ってみるのが一番でしょう」
そう言いながらキツネポーチをまた探る。
中からがま口の財布を出したかと思うとコインを一つ渡してきた。
「ウィンドウを開いてみてください」
「ウィンドウ? どうやって? 」
「イメージです」
言い切りやがった。
いや言いたいことは分かるがこの非現実的なシステムを受け入れろと言われても困る訳で。
が指摘しても進まない。
頭の中で「ウィンドウ」と唱えると宙に四角い半透明のパネルが出て来た。
「はは。本当に出て来た」
から笑いを上げながらも彼女の指示通りに操作する。
「この世界に素材がある食品や食材は比較的安めになります。しかしこの世界にない物に関しては高めに設定されています」
なるほど。これを目安に広めてほしい、ということか。
あ、漫画あった。けど……食材と桁が幾つか違う。
漫画はまただなと思いながらも続ける。
「これにしましょう」
「プリン? 」
「値段もピッタリですし」
ケモっ娘は銀色の貨幣をこちらにみせて少し近付いてくる。
彼女の赤い瞳を覗くと、少しキラキラ輝いているように見える。
ん~?
「プリン食べたかったのか? 」
「そ、そんなことありません」
「なら違うものにするが」
彼女が手に持つ銀貨から銀貨一枚の値段が大体わかった。
ならば違うものも選ぶことができる。
無理してプリンを選ぶ必要もない。
「ご、ごめんなさい。見栄を張りました。プリン、食べたいです」
「素直でよろしい」
どんどんと言葉を小さくする彼女に少し微笑みながらポチッと押して注文する。
何気に神様をパシリに使っている事に気が付くも、「まぁいいか」と割り切る。
本当はいけないのだろうが、等価交換。
神様君にはこれからも私の労働に見合った働きをしてほしい。
「こちらへどうぞ」
手で案内するとそこには丸太で出来たベンチが一つあった。
いつの間にと思うも、「この子も神様だしな」と切り替え、促されるままに座る。
私が座ると彼女もちょこんと座る。
プリンの事が気になったので尻尾を前に丸める彼女に聞いてみた。
「しかし何でまたプリンが食べたいんだ? 銀貨一枚なら他にも美味しそうな食べ物はあったはずだけど」
「……その昔神社で陽子さまが美味しそうに食べていたので」
「なら仕方ないな。私も久しぶりに食べたいし」
しゅんとした表情から一転、プリンを食べることができると聞くと笑顔を浮かべて耳をピクピクさせた。
思えばこの先プリンが食べることができる保証はない。
材料があるものは安めだが、ない物は高い。
ということはこのプリンに関しては「材料はあるが作れない」という可能性もあるわけだ。
ならばここで一つプリンを実食し、料理と模倣で作れるようになっておくのもありだろう。
「あ。届きました」
「……いつの間に」
「これが初めて世界を渡ったプリン、ということですね」
「そう聞くと特別感がすごいな」
思いながらもつけられた木のスプーンを手に取る。
よく見ると、コンビニにあるプリンだ。
さては近くのコンビニで買ったな、と思いながらもぺりっと蓋を開けて狐っ娘を見る。
準備は万端なようだ。
「では」
「「いただきます」」
大きな口を開けて、ぱくりと食べる。
「「んんん~~~! 甘い!!! 」」
二人足を伸ばしてプリンを堪能。
「柔らかくておいしいです」
「このカラメルのほろ苦さも最高」
「頬がとろけるような美味しさとはまさにこのことですね。陽子さまがよく食べていたのもわかります」
一口食べると止まらない。次から次へと口に入れる。
運ぶごとに甘さが漂う。
食べて、味わって、匂いを嗅いでしているうちにその作り方が頭の中に流れて来る。
少し戸惑い彼女の方を見る。
聞くと私の予想通り与えられた力のようだ。
「スキル、のようなものか? 」
「スキルとはまた違います。通常この世界の人達が持っていない力になりますので」
「……魔法がある世界だよな? 」
「ありますが魔法や武技とはまた違う力になります。強いて名付けるのならば……異能、が一番妥当だと思います。陽子さま」
「ならば異能ということにしておこう」
そう位置付けて食べ終わったカップをどうしようかと悩む。
こちらへ、と手を出してきたので彼女に渡す。
すると彼女は真っ黒い空間に放り投げる。
空間から「ガチガチ! メキメキ! 」という音が響くと何もなかったかのようにそれを閉じた。
なにこれ怖い。
軽く恐怖しながらも今後について聞かされる。
一先ずの食料は心配しなくても良さそうだ。
彼女が調味料や食材、フライパンなどを幾つか渡されてきているらしい。
「ではそろそろ移動しましょうか」
「そうだな。……あ」
「どうかなさいましたか? 」
丸太のベンチを仕舞い終えたケモっ娘が小首を傾げながら「何でしょうか」と聞いてくる。
今更感が物凄いが、やらないとダメだな。
うん。頑張れ私。
「知っているみたいだが一応自己紹介を」
コホンと軽く咳払いをして狐っ娘に向く。
「私の名前は神守陽子だ。これからよろしく」
言うと瞳を大きく開けて、少しあわわとなる。
落ち着くと黒いスカートを軽く摘まんで上品に自己紹介をしてくれた。
「これは失礼しました。では改めまして。わたしの名前は白亜と言います。これからもよろしくお願いします」
お互いに自己紹介をし手を握り、そして私達は足を進めた。
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