第10話 料理開発のために一先ず無双してみた
「やる事は多い」
翌朝、食事をとった後冒険者ギルドに足を運ぶ。
道中ハクアと今後について説明していた。
「前も相談したが冒険者業でお金稼ぎ」
「はい」
「自重しない。本来ならゆっくりとランクを上げるのだろうが、全力で貰った力を振るう」
「異能を使って物を取り寄せるわけでもないのに何故そこまでお金を? 」
「確かに異能「交換」で取り寄せることができるものは安くない。比較的安い食材を手に入れるため積極的に金稼ぎをするのは不自然に見えるかもしれない。けどこの世界の物全てが安いというわけでは無い。例えばコメ」
「コメ? 」
「聞く限りだとエヴァンス商会が売っているのだろう。しかし親方ドワーフの話から高いものということがわかる。料理を改善するにもそれなりの量が必要になる。この世界の物を使って最適なオーク丼を作るのならば、まとまった金が必要になる、ということだ」
なるほど、とハクアの声が聞こえてくる。
「交換」で手に入れた調味料や食材を使ってオーク丼を作るのも良いだろう。取り寄せた調味料で作った料理はさぞ美味いだろう。
しかしそれは一時的なものにしかならない。
私とハクアで楽しむ分には良いのかもしれないが、今回は違う。
それにコメ料理全体の改善にはならない。
今回の私の目的は親方ドワーフにコメの本当の味を知ってもらい、笑顔で食べてもらうことだ。
ならば再現可能な方法を開発するために、この町で手に入る食材や調味料を使う必要がある。
よってどうしても金が必要になる、ということだ。
「さっき言ったこと関係するが、この国や皇国イルネスで何が食べられているのか知る必要がある。その為の情報収集も行う」
「イルネスもですか? 」
「親方ドワーフはイルネスで美味いと思ったからコメを輸入するようにしたんだろ? ならイルネスで「美味い」と思われる味を出す必要があるんじゃないかって」
「確かに」
「風土が変われば味も変わる。考えれば遠いイルネスとこの国で味が違うのは当然のことだ」
オーク丼の時もそうだったがこの町の食事は薄味のようだ。
レナ達が野菜炒めを食べた時の事を思い出す。
薄味ばっかり食べていたから塩胡椒の効いた野菜炒めに興奮したのだろう。
もしかしたら、この薄味がこの町の「味」なのかもしれない。
けれど、ことオーク丼に限って原産はイルネスにあると考えられる。
イルネス原産の料理をこの町の味に変貌させて美味しい訳がない。
「大体の情報や食材はトトさんに聞けばわかるとおもう。だからまとまったお金が手に入れた後はエヴァンス商会だな」
「はい! 」
「あとは……そうだな。ドワーフの協力者が欲しい」
協力者? とハクアは言葉をそのまま返して首を傾げた。
「残念ながら私は舌の肥えた日本人だ」
「……」
「この世界基準でも人族のそれ。私はドワーフ族ではない。私が美味しいと感じても、ドワーフ族全体からすれば不味いということは十分にあり得る話だろ? 」
「しかしそれは……」
「仕方がないで済ませるのならばそれは単なる味の押し付けだ。出来れば親方ドワーフ個人の舌に合わせたいが、少しドッキリも挟みたい。いきなり美味いコメ料理が出たら、驚くだろ? 」
悪戯っぽくハクアに微笑む。
ハクアは何か反論しようとしていたが、口を閉じて私に笑みを見せる。
「確かにそうですね。美味しいオーク丼。是非作りましょう! 」
ハクアが小さな拳を握ってぐっと寄せる。
それを微笑ましくみながら朝の道を歩いた。
★
決意してから数日。私達は本当に無双していた。
湧いて出て来るゴブリンの駆除。ハクアの分体を使っての町の排水路の清掃。廃館に生息する属性スライムの討伐等々。一日では絶対に終わらない量の仕事を有り余る力でこなしていった。
しかし入るお金は微々たるもの。
早々にランクを上げる必要があると思いながらも今日は大きな籠を背にして薬草採取に来ている。
「全部取りますか? 」
「必要分と、私達が使う分だけ採っていこう」
「なにに使うんですか? 」
「薬味」
群生地の薬草を根こそぎ取りかねないハクアに注意しながら薬草を採る。
町の地図も徐々にわかってきたので時々私とハクアは別れて仕事をしている。
しかし今日は二人で仕事。
群生地をなくさんばかりに採取しようとする彼女を見て、ついて来てよかったと安堵の息を吐いた。
群生地を無くすことも問題だが、指定された量以上に提出するのはギルド側の負担になる。
常時張り出されている依頼ではあるが、一気に提出して受付嬢の殺気を浴びたいとは思わない。
それに依頼を出している方も困るだろう。
薬草は生もの。
それを一気に大量の持ってこられても消費しきれないのが目に見えている。
「終わりました」
「じゃ、帰るか」
ハクアの声に私も立ち上がる。
籠を背負い直して森を出た。
薬草を採取した次は親方ドワーフのいる所へ。
今は本格的に建物を作っている所のようで、出されている依頼は前と同じ「建築資材」の運搬。
「じゃ、今回も頼む」
親方ドワーフ・ドルドの言葉に私とハクアは頷いて、大柄なドワーフ・タルドに連れていかれる。
タルドの話によると工程によって使う資材が違うらしい。よって間違わないように運ぶ資材ごとに倉庫を分けているらしく、毎回違う場所に案内される。
「今日はこれを頼む」
「分かりました。収納」
ハクアが魔法を発動させると一瞬で石材や木材が消えていく。
いつ見ても凄い。
そう言えば——。
「タルド。少し頼みたいことがあるんだが」
「ん? 俺に出来ることか? 」
「あぁ。出来ればドルドに内緒で」
笑みを浮かべながら彼にいうと、眉を顰めた。
言葉足らずだったな。
少し反省しながらも事情を話す。
するとタルドは腕を組み少し考えていた。
「……嫁さんもいねぇし構わねぇが、食事分の金は払えないぞ? 」
「試食に付き合ってもらうんだ。金はとらない」
「よし。なら付き合おう」
「交渉成立だな」
私とタルドはがっちりと握手をする。
さぁ親方ドワーフを驚かせるための料理を作ろうじゃないか。
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