感知害
車の中から見る海はとても綺麗だった。
勤めて3年になる会社には運転手がいる。リーゼントに近い髪型で、左右の目は異なる方角を向いている。昔悪さをしていたであろう事を今でも誇りに思いっているようで、口をひらけば武勇伝を語っている。そんな彼はおそらく私の事が嫌いだ。嫌いというより、とても下に見ている。私が上司に叱られているのを見て、思ったのだろう。「こいつはダメなやつなんだ」と。事あるごとに説教をしてきたり、面と向かって馬鹿にするようなことを言ってくる。その話をしている顔がまた、醜い。手入れされておらず雑草の生い茂った庭のような眉毛、像の足の裏のような肌は見るに耐えない。顔を合わせるだけで、胃がキリキリするような痛みに襲われるようになった。
ある日、会社の忘年会が開催された。予定していた時間に向かおうとしたが、上司の命令で既に完了していた仕事をやり直さなければならなくなった。職場には私ともう1人しか残っていなかった。そのもう1人の職員は、私のことをとても気に入っている。いわゆるストーカーだった。知らないふりをしていたが、私は知っていた。私の使用済みのマグカップを大事そうに眺め、時には舌で口元をなぞっていることを。また、就業後、私の事をつけ、同じスーパーで全く同じ物を買っていることを。
「早く逃げないと、おかしな事になる」私はそう思い、急いで仕事を終わらせて職場を出ようとした。早足で出口へと向かうと、もう一つの足音が聞こえ、後ろから近づいてくるようだった。だんだんと近くなり、すぐ後ろに来たと思った時肩を押さえつけられた。
「送っていくよ。」運転手の彼だった。車を走らせ忘年会の会場へと向かった。彼はいつも通り、こんな日まで残業しなければならないのは見通しを持って働いていないからだと気持ちよさそうに説教を始めた。私はいつものように動悸が激しくなり、この場からすぐに立ち去りたい気持ちで一杯だった。車が止まった。「助かった会場に着いた」かと思ったが、そこは海岸に近い狭い駐車場だった。まずい、と思った瞬間彼が手を伸ばし私の身体を掴もうとしてきたため、眉間にボールペンを突き刺した。慌てて彼が車の外に出たのを確認し、運転席に移りハンドルを握ってアクセルを全開に踏んだ。一瞬のうちに彼は、海へと投げ出され、大きな音を立てて海へと沈んでいった。
「私がやったのだ。世に蔓延る害虫を駆除したのだ。」波の音が私の勇姿を讃えているかのように聞こえた。海を眺め終わると運転席を降り、後部座席へと座り直した。横で小さくうずくまっている彼女は普段からとてもよく見ている姿では無かったが可愛らしい。一昨日買ったシャンプーの華やかな香りが私を包み込むようだった。まもなく、彼女の右肩を私の右腕が掴んだ。