エピローグ「夢のつづき」
「おにぃ! 早く起きなよ! 遅刻するよ」
「う、うう……」
ぼんやりとした視界の中で上下に揺れるセリナ。
まったく俺はシュヴァル・ブランじゃないっつーの。
「もうちょっと寝かせておいてくれよ。昨日はプラバスの自力優勝を逃したせいで、涙の海だったんだからさ」
馬の立場になってみて、初めて分かる馬の気持ち。
さぞかしラファールもシュペルブも辛かったことだろう。
「はぁ? 何ソレ。おにぃの言ってるプラバスなら、クライマックスシリーズに出場だってさ。朝のニュースでやってたよ」
「ま、マジかよ!」
あれ? なんだか記憶が曖昧だな。
昨日の試合。激戦の末、制したのブラックスワンではなくプラバスだったんだっけ……?
「あーそだ。あと、ちょっと悪いんだけどー。お兄ちゃん♪」
セリナの猫なで声に寒気が走る。
「う、いきなりなんだよ。気持ち悪い……」
「ひっどーい! そんな言い方されると傷ついちゃうな、私! ぷんぷん!!」
「声に出して言うなよ……。で、なんだ?」
「今日ね。私のクラスに、転校生がくるらしいのよ。しかも外国人の! 出身は……フランスって言ってたかな」
「ん。で?」
「帰りにその子たちと遊びに行きたいんだ。こういうのって初めが肝心だと思うから」
「けっこうな話じゃないか」
「でねー。そのためのお金、ちょうだい♪」
「どうして遊びに行くぐらいでお金がかかるんだよ。金がかからないところで遊べばいいじゃん」
「ぶー。友達づきあいには何かと先立つものが必要なのよ」
「それに、貸してじゃなくていきなりちょうだいって言うショートカットも気にくわない」
「じゃあ耳寄り情報と交換ね。実はおにぃのクラスにも来るらしいのよ、転校生。ウワサではとんでもない美人だとか」
「へぇ。それは楽しみだな」
「でしょ? ほら、良い情報を貰ったと思うなら、その見返りも……ね?」
「あー、分かった。分かったよ。机の引き出しの中に千円札があるから」
「やたー♪ おにぃ、愛してるっ♥」
「それはそうとお前、昨日バイトの給料日だったんじゃないのか?」
「……」
「まさか、使っちゃったのか?」
「こく……」
「給料が出た当日に使っちゃうなんて無計画にもほどがあるぞ」
「だってー、ずっと欲しかった服とかコスメとか本とかお菓子とか、ず~っと我慢してたんだから!」
「だからって、散財するなよ……」
「ま、次の給料日にはちゃんと返すからさ。じゃああんがとね~♪」
次の給料日って、約二か月後じゃないか。
気の遠くなるような期間だな。
しかも出て行った後に引き出しを確認したら、セリナのやつ千円と言いながらちゃっかり二千円持っていきやがった――。
◇◆◇
経緯はよく分からないが、俺は無事にコー・シエンからニホンへと帰ってくることができたらしい。
日時も異世界へと飛ばされた日の翌日に戻っており、実際のところこれと言った支障もない。
イシグロ選手のホームランバット、ヒイラギ選手のホームランボール、愛用のグローブもすべて部屋の一角に戻っていた。
ただ、記憶に関しては未だ色濃く残っている。
少女騎士団プラチナバスターズの面々と過ごした日々――。
彼女たちは今も元気に野球をしているだろうか?
そんなことを考えながら、俺は一学生としての生活に戻る。
(あー、今日は数学の小テストがあったっけ。クソッ、担任のマツムラめ。プラバスのクライマックスシリーズ出場が決まったから、ますます俺への風当たりが強くなりそうだ)
ウンザリした気持ちとどこか高揚した気持ちの挟間で揺られながら、懐かしさすら感じる正門をくぐり、下駄箱で靴を履き変え、自分の教室へと入る。
中では、いつも騒がしいクラスメイト達が今日はこぞってさらにやかましかった。
話の内容は、このクラスにやってくる転校生のことばかり。
背が高くてモデルみたいだとか、髪が流れるような金髪だとか、吸い込まれるように青い瞳だとか……。
なんだかどこかで聞いたことのあるような特徴ばかりで、ふと俺の脳裏にあの凛々しい少女騎士団長の顔が浮かぶ。
(ま、他人の空似だろう。それに俺にはもう過ぎたことだ……)
頭を振り無理やり記憶を消すと、じきに担任のマツムラが教室へと足を踏み入れる。
これからまた、いつも通りの生活が始まるのだ。
そう思っていた。
思っていたのだが――。
「このクラスに新しく転校生を迎え入れることになった」
ざわざわと周りがより一層騒がしくなる。
そんな空気はよそに、俺は気だるげにあくびをし頬杖をつく。
「さ、入ってきなさい」
入室の許可とともに、ガラガラと言う扉を引く音が教室内に響いた。
じきに、静かな歓声が沸き上がる。
「自己紹介を」
「はい。我の名前は――」
(自分のことを我なんて珍しいな……)
「ニホン語は、大好きな野球を通じて覚えました。部活動は女子野球部に入ろうと思っています。皆さん、なにとぞよろしくお願いします!」
(へぇ。野球が好きなのか。セリナや皆の様子から察するに、どうやらとんでもない美人のようだし、ここはひとつ仲良くしておいて損はないかもな――)
「じゃあ席は……そうだな」
(そう言えば、俺の隣は空席だったな。でもまぁまさか美人の転校生が俺の隣にたまたま座るなんてそんなベタな展開はないよな)
「サワムラの隣だ。おい、ぼんやりしてないでしっかりしろ」
マツムラの言葉に、俺はおもむろに顔を上げる。
(あったのか……)
柔和な表情をし、金髪のロングヘアをなびかせ、制服姿の転校生は程なく俺の隣の席に納まる。
こういうのって初めが肝心なんだよな。俺もセリナを見習ってしっかり挨拶しなければ。
「あー、よろしく。俺の名前は――えっ?」
しばし、見詰め合う俺たち。
まさか知り合いだったのかと再び騒ぎ始めるクラスメイトを尻目に、転校生は満面の笑みでたった一言だけ口にした――。
「きちゃった♪」
ここまで読んで頂きありがとうございました。
※気になるおっぱいの大きさ順ですけど、大きい順に
シルビィ、ベアトリス、ドミニク、リゼット、ジゼル、ノエル、ミシェル、サラ、ロジーヌ、ミリッツァとなっております。補完お願いします。
※セリナ初登場おめでとう!
ラストは、見覚えのある金髪ロングヘアのあの子が学園まで来てしまったところで終わりです。
俺のクラスだけでなく、セリナ(妹)のクラスにも転入生が来ていると言うことは……後は分かるな?
金髪ロングヘアのあの子以外にも来ちゃってると言うことだ。ミリッツァとかリゼットとかね。
気になる学園ハーレムラブコメはまたいつか。
それではここまで付き合ってくれたすべての人へ感謝。
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