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六回裏「未来への共同戦線」②

「これは……」

「……なんて酷な」


 住居内の一室に招かれたジゼルたちに映ったのは、ベッドに仰向けとなり、包帯で上半身を巻いたレティシアとサンドラの姿である。

 白の包帯はべっとりとした血で染まり、額には脂汗が滲み、何やらうわ言を口にしていた。


「ジゼル。そしてミシェルとサラ。あなたたちも油断しましわね。やつの死んだふりに……」

「あ、ああ。一度にあれだけの血を流したんだ。即死でなければおかしい」

「このふたりも、たしかにとどめを刺した感触があったらしいですわ。でも、背を向けた瞬間に――」


 鋭い爪が、甲冑もろとも打ち砕いたと言う。


「凶暴かつ、狡猾な性格のようですね」

「さらには、皮膚が異常に硬く、わたくしの矢もそのほとんどが貫通しませんでしたわ」

「貴国があのような過剰な防衛線を張っているのも納得だな」

「しかし、まだ不安は拭え切れていませんわ」

「何故だ?」

「あの獣、異常なまでの繁殖力を持っているのです」

「なるほど……つまり、おおもとの巣を特定し、根本から排除しなければいつまで経っても状況は変わらず、被害は増える一方と言うわけか」

「そうは言ってもわたくしたちの軍事力には限界がある。いずれわたくしも……」


 ヴィヴィアンヌはベッドの方へと視線を移した。


「たしかに、イテマエ屈指の主力が倒れては気が気ではないな。だがヴィヴィアンヌ、我たちはあくまで敵同士。そんなに易く、団の現状を話しても良いのか?」

「そ、それは……」

「我も、まさか紛争をする相手を助けるなんて思ってもみなかった。しかし我が団には、敵国の人間を助けたことによって、自国に利益をもたらす可能性もあるなどと妄言を吐く大バカものがいてな」


 ジゼルは口元を緩める。


「イテマエに必要な病院も、いずれはガンバレヤにも必要。ガンバレヤに必要な田畑も、いずれはイテマエにも必要。それなら、手を取り合うべきだ……なんてな。おかしな話だろう?」

「……」

「治療に関してもそうだ。騎士として、この者らも敵国の人間に命を救われたと知ったらどう思う?」

「沽券に……かかわりますわね」

「そうだ。だから今回は獣の討伐にたまたま手を貸した……までにとどめておいて、これ以上の介入を拒むことも可能。ヴィヴィアンヌ、騎士団長であるキサマが是非を決めるのだ」


 しばし流れる静寂。

 その中に、苦しそうに呼吸をする声がこだまする。


「た……」

「た?」

「助けて、欲しい。レティシアとサンドラは、幼い頃から苦楽を共にしてきた仲間……こんなところで失いたくはないのですわ!」

「それが、キサマの答えか?」


 目尻に涙を溜めたヴィヴィアンヌは、力強く頷く。


(もし、我がヴィヴィアンヌの立場であったらどうするだろうか?)


 たとえ敵同士だとしても、同じように涙を流して懇願するであろうか。


(逆に、我が床にせていたとしたら、団の者は……)


 騎士としての自負を捨ててでも頼み、願ってくれるだろうか。

 ジゼルは無意識に、ミシェルとサラに目を配る。

 すると、その視線の意味を知ってか否か、彼女たちは小さく、されどしっかりと頷いた。


「よし、ミシェル、サラ。まず包帯を外すのを手伝ってくれ。傷口の具合が知りたい」

「はい!」

「がってんですわ」


 こうして行われる治療。

 時計の針が急くように主張し、誰かの唾を飲む音が狭い部屋の中に響く。


 ジゼルは手慣れた様子で傷口周りの血液を拭き取り、サラは丁寧に傷薬を塗り込んでいく。その際、体の平衡が乱れないように、ミシェルは慎重に支え続けた。

 戦闘と同じように、それぞれが適切な役割を持って対応にあたる……。実にプラチナバスターズらしい連携だった。


「ずいぶんと手慣れていますわね……」

「ふっ。我も小さい頃、よく妹の怪我の手当てをしていたからな」

「えっ? あなた、妹さんがいらっしゃったんですの?」

「ああ。名はマリナと言う。女の子でありながらヤンチャでな。しょっちゅう転んでは生傷をこしらえてきたものだ」

「でもわたくし、今までお顔を拝見したことがない――」

「すまない。今は病を患っていてな」

「そ、そうだったんですの……」


 ジゼルの深刻な物言いに、マリナの病状が尋常ではないものと悟ったヴィヴィアンヌは、それ以上の詮索はしてこなかった。

 その後、どことなく張り詰めた、気まずい空気が取り囲むなか、ちゃくちゃくと治療は行われていく。


「清潔な包帯に取り換えればひとまず終了だ。後は水分も摂らせた方がいい。お湯はあるか?」

「ええ。今すぐに持ってきますわ」


 すぐさま厨房の方へと駆けるヴィヴィアンヌ。そのよそで、かすかではあるがしっかりとした息吹を感じることができた。


「あ……ああ、ヴィヴィアンヌ様。逃げ、お逃げくだ……さ……」

「きれ……。斬るのだ、早く斬らねば……やられ……る。やら、れ……」

「ジゼル様。ふたりの意識がっ!」


 治療からおよそ一時間。


 おぼろげながら意識を取り戻したレティシアとサンドラ。

 お湯の入った筒を抱え戻ってきたヴィヴィアンヌは再度大粒の涙を流して喜び、彼女たちを抱きかかえるようにベッドに沈んだ。


「ヴィヴィアンヌ様? ご無事で……」

「よ、良かった」

「ごめんなさい。ごめんなさい! わたくしの不注意のせいであなたたちをこんな目に……」

「はは、良いんです。わたしは、あなたの役に立てればそれで」


 レティシアは、震える右手でヴィヴィアンヌの頬を撫で、零れ落ちる雫を掬った。


「ありがとう、ありがとう……」

「アタシも、レティシアと同感だよ。アンタの役に立つことが……アタシの……喜びさ」


 サンドラも言葉を詰まらせながら、何とか自分の主張を伝えきる。


「でも、どうしてわたしたちは助かったんですか?」

「そうだ。アタシだって騎士の端くれ。食らった傷の程度で、助かるか助からないかくらい判断できる。今回は三途の川で爺ちゃんが手招きしてるのが見えるくらいヤバかったのに……」

「実は、ここにいるプラチナバスターズの方たちが手当てをしてくれたのですわ」


 ここで、初めてレティシアとサンドラはジゼルたちの存在に気付く。


「あ、あなたはジゼル!?」

「なんでお前がココに……。さてはヴィヴィアンヌ様に危害を……く゛ぅッッ!?」


 サンドラは血気盛んな性格なのだろう。

 ボロボロの体にもかかわらず、ベッドから起き上がってジゼルの胸ぐらに掴みかかろうとする。


「落ち着け。その体で我に敵うと思っているのか。我たちが何故キサマたちを助けたかは、傷が癒えてからゆっくり考えるが良い」

「そうですわ。まずはこちらをお飲みください」

「こ、これはなんだ?」

「薬草を煎じたお茶。あなたたちの傷の治療はひとまず終わりましたわ。今度は体の内側から治していきましょう」


 サラの柔和な表情には相手の昂った気持ちさえも萎ませる、そんな効果があるのかもしれない。

 すっかり大人しくなってしまったサンドラとレティシアは素直にお茶を口に含むと、瞬く間に眠りについてしまった。

 ただその表情と呼吸は、先ほどよりもはるかに穏やかで落ち着いて見える。


「しばらく安静にしていれば、よくなりますわ」


 サラとミシェルはふたりの乱れた掛布団をかけなおし、ぽんぽんと優しく叩く。


「あの、本当にありがとう。なんてお礼を言ったら良いのか……」

「礼なら、外で待ってる大バカものに言ってくれ。そもそもの言いだしっぺはアイツだ」

「思えば、ずいぶんとサワムラさんを待たせてしまいましたね」

「そうだな。ひとまず経過を伝えに外へ出るか」

ここまで読んで頂きありがとうございました。


どうです? 続きが気になってしょうがないでSHOWタイム?

実はヴィヴィアンヌは仲間思いの女の子なのでした。金髪縦エロール、無条件でいいよね。

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